胃炎治療薬の選び方と症状別効果

胃炎治療薬の選び方と効果

PPIの2週間以上継続処方で骨折リスクが1.4倍に上昇します

この記事の3つのポイント
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症状別の薬剤選択が治療の鍵

急性胃痛にはH2ブロッカー、慢性胃炎にはPPI、胃粘膜障害にはレバミピドなど、症状や病態に応じた適切な薬剤選択が治療成功の決め手となります

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長期服用リスクの正確な理解

PPIの長期服用は骨折リスク増加、鉄欠乏性貧血、腎障害などの副作用が報告されており、定期的な評価と減量・中止の検討が必須です

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ピロリ菌除菌との関連性

慢性胃炎の根本原因であるピロリ菌の除菌治療が保険適用され、除菌成功により胃がんリスクを大幅に低減できることが明らかになっています

胃炎治療薬における酸分泌抑制薬の種類と特徴

 

胃炎治療の中心となる酸分泌抑制薬には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の3つの主要カテゴリーが存在します。これらは胃酸の分泌を抑制するという共通の目的を持ちながらも、作用機序や効果発現時間、持続時間において明確な違いがあり、患者の症状や病態に応じて使い分ける必要があります。

PPIは胃酸を分泌する細胞のプロトンポンプという酵素を阻害することで、強力かつ持続的な胃酸抑制効果を発揮します。代表的な薬剤にはランソプラゾールタケプロン)、オメプラゾールラベプラゾールパリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)などがあります。効果が安定するまでに3~5日を要しますが、一度効果が発現すれば24時間にわたり安定した胃酸抑制が得られます。慢性的な逆流性食道炎胃潰瘍の治療において一選択薬となっています。

一方、H2ブロッカーは胃酸分泌を促すヒスタミンの受容体を遮断することで胃酸を抑えます。ファモチジン(ガスター)、ラニチジンシメチジンなどが代表的です。服用後数時間で効果が現れるため、急性の胃痛や胸やけに対して即効性が期待できます。特に夜間の胃酸分泌亢進を抑えるのに有効です。PPIよりも効果は穏やかですが、短期的な症状緩和には適しています。

P-CABは最も新しいタイプの酸分泌抑制薬で、ボノプラザンタケキャブ)が代表的な薬剤です。PPIと異なり、服用初日から強力な胃酸抑制効果を発揮し、個人差が少ないという特徴があります。

つまり、効果が安定するということですね。

高齢者や多剤併用患者でも安定した治療効果が期待でき、逆流性食道炎やピロリ菌除菌において高い成功率を示しています。

これら3種類の薬剤を使い分ける際の基本原則は、症状の重症度と治療期間です。軽度から中等度の急性症状にはH2ブロッカー、重症例や慢性疾患にはPPIまたはP-CAB、特に治療抵抗性の症例や確実な効果を早期に得たい場合にはP-CABが推奨されます。効果の速さと強さのバランスを考慮した選択が治療成功の鍵となります。

PPIとH2ブロッカーの使い分けについて詳しく解説した横浜消化器内科クリニックの記事

胃炎治療における胃粘膜保護薬の役割と効果

胃粘膜保護薬は酸分泌抑制薬とは異なるアプローチで胃を守る重要な薬剤群です。胃酸を抑えるのではなく、胃粘膜そのものを保護し修復する作用を持つため、薬剤性胃炎やNSAIDs潰瘍の予防、慢性胃炎の治療において欠かせない役割を果たしています。

レバミピド(ムコスタ)は胃粘膜保護薬の代表格であり、日本の胃炎治療において最も頻繁に処方される薬剤の一つです。胃粘膜のプロスタグランジンE2を増加させることで粘液の分泌を促進し、胃粘膜の血流を改善します。さらに傷ついた粘膜の修復作用も持つため、急性胃炎や慢性胃炎の急性増悪期において、胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善に効果を発揮します。服用後30分程度で効果が発現し、約8時間持続します。

レバミピドの大きな特徴は副作用が少なく長期服用が可能なことです。慢性胃炎や胃潰瘍の治療では、通常1回100mgを1日3回、朝・昼・夕食後に服用します。NSAIDsなど胃粘膜障害を起こしやすい薬剤を継続する必要がある患者では、レバミピドの併用により胃粘膜障害の発生リスクを大幅に低減できます。痛み止めとセットで処方されることが多いのはこのためです。

スクラルファートは胃の酸性環境下で粘着性のゲル状物質となり、傷ついた胃粘膜にピタリと張り付いて保護します。胃潰瘍部位に選択的に付着する性質があり、胃酸から潰瘍面を守りながら治癒を促進します。ただし、他の薬剤の吸収を妨げる可能性があるため、服用タイミングに注意が必要です。他の薬との間隔を2時間以上空けることが推奨されます。

テプレノン(セルベックス)やソファルコンは胃粘膜の新陳代謝を活発にし、粘膜の修復を促進する薬剤です。これらは特に慢性的な胃の不調や薬物性胃炎に対して効果的であり、胃粘膜の防御因子を強化することで攻撃因子とのバランスを改善します。セルベールという市販薬の主成分もこのタイプです。

胃粘膜保護薬は単独で使用するよりも、酸分泌抑制薬と併用することでより高い治療効果が得られます。PPIで胃酸を抑えながら、レバミピドで粘膜を保護・修復するという組み合わせは、胃潰瘍や慢性胃炎の標準的な治療アプローチとなっています。特にNSAIDsを継続使用する必要がある患者では、この併用療法が胃粘膜障害の予防に不可欠です。

胃粘膜保護薬の詳細な解説があるひとみるクリニックの記事

胃炎治療薬の長期服用に伴うリスクと対策

PPIの長期服用は多くの副作用リスクを伴うことが近年の研究で明らかになっており、医療従事者はこれらのリスクを正確に理解し、適切なモニタリングと投薬管理を行う必要があります。

最も重要なリスクの一つが骨折リスクの増加です。PPIの長期服用、特に1年以上の高用量投与により、股関節や脊椎の骨折リスクが約1.4倍に上昇することが報告されています。強力な胃酸抑制によりカルシウムの吸収が減少し、骨密度が低下することが原因です。高齢者や骨粗鬆症のリスクが高い患者では特に注意が必要です。骨密度検査の定期的な実施や、カルシウムとビタミンDのサプリメント併用を検討すべきです。

鉄欠乏性貧血も長期PPI投与の重要な副作用です。鉄の吸収には胃酸が必要であり、胃酸が抑制されると食事からの鉄吸収が障害されます。特に女性や高齢者では注意が必要で、定期的な血液検査でヘモグロビン値やフェリチン値をモニタリングすることが推奨されます。

腎機能障害のリスクも指摘されています。PPIの長期使用と慢性腎臓病の発症に関連があるとの報告があり、特に高齢者や既存の腎機能低下がある患者では慎重な投与が求められます。定期的な腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR)の実施が必要です。

ビタミンB12欠乏も長期PPI投与で生じる可能性があります。ビタミンB12の吸収にも胃酸が関与しており、長期的な胃酸抑制により欠乏症が引き起こされることがあります。神経障害や認知機能低下のリスクがあるため、特に高齢者では注意深いモニタリングが必要です。

最近の研究で注目されているのが、胃がん発生リスクとの関連です。東京大学の研究では、ピロリ菌除菌後にPPIを長期投与すると胃がん発症リスクが上昇する可能性が報告されました。ただし、2026年2月に発表されたスウェーデンの大規模研究では、PPI長期使用と胃がんリスクに関連は見られないとの結果も示されており、現在も議論が続いています。いずれにせよ、定期的な胃カメラ検査が重要です。

これらのリスクを回避するための対策として、最も重要なのは漫然とした長期投与を避けることです。PPIは本来、一定期間(例えば8週間程度)服用したら症状の改善に応じて減量・中止を検討する薬剤です。症状が安定している患者では、定期的に減量や休薬を試み、必要最小限の用量・期間での使用を心がけるべきです。

市販薬のガスター(ファモチジン)の添付文書に「2週間を超えて続けて服用しないこと」という注意書きがあるのは、まさにこのためです。長期服用が必要と判断される場合でも、少なくとも年に1回は胃カメラ検査を実施し、胃の状態を確認することが推奨されます。症状が軽快している場合は、H2ブロッカーへの切り替えや、オンデマンド療法(症状が出たときだけ服用)への移行も検討すべきです。

PPI長期服用のリスクと中止のタイミングについて詳しく解説した記事

胃炎とピロリ菌除菌治療の関係性

慢性胃炎の原因のほとんどはピロリ菌感染によるものであり、日本では50代で約40~50%、60代で60%、70代では70%以上の感染率が報告されています。ピロリ菌は胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、長期間放置すると胃粘膜の萎縮、腸上皮化生を経て胃がんの発生リスクを高めます。実際、胃がんの原因の約99%がピロリ菌感染に関連しているとされており、除菌治療は胃がん予防において極めて重要な位置づけにあります。

2013年に慢性胃炎に対するピロリ菌除菌治療が保険適用となったことは、胃炎治療における大きなパラダイムシフトでした。それまでは胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみが保険適用の対象でしたが、慢性胃炎の段階で除菌することにより、将来的な胃がん発症を予防できることが明確になったのです。これにより、より早期からの介入が可能となり、胃がん死亡率の低下が期待されています。

ピロリ菌の除菌療法は、1種類の胃酸分泌抑制薬と2種類の抗菌薬の合計3剤を1日2回、7日間服用する治療法です。一次除菌では、P-CAB(ボノプラザン)またはPPI、クラリスロマイシン、アモキシシリンの組み合わせが使用されます。一次除菌の成功率は約80%で、除菌に失敗した場合は二次除菌としてメトロニダゾールを用いた別の組み合わせで再挑戦します。二次除菌まで含めると成功率は約95%以上に達します。

除菌治療における胃酸分泌抑制薬の役割は非常に重要です。抗生剤で胃を荒らさないためと思われがちですが、主な理由は胃酸があると抗生剤が効かないからです。胃酸が抑えられて胃内のpHが上昇すると、ピロリ菌に対して抗生剤が効きやすくなります。近年、P-CABの登場により除菌成功率がさらに向上しており、P-CABを用いた一次除菌の成功率は90%以上との報告もあります。

除菌治療には副作用も存在します。最も多いのは下痢で、約10~30%の患者に見られます。これは抗生剤により腸内細菌叢が乱れることが原因です。通常は除菌終了後に自然に改善しますが、症状が強い場合は整腸剤の併用が有効です。その他、軟便、味覚異常、口内炎などが報告されていますが、多くは軽度で一過性です。

除菌成功後も注意が必要です。除菌により胃酸分泌が正常化し、以前より胃酸が増加するため、一時的に逆流性食道炎の症状が出現することがあります。また、除菌に成功しても胃がんリスクがゼロになるわけではありません。特に除菌前に既に胃粘膜萎縮が進行している場合、除菌後も定期的な胃カメラ検査が推奨されます。除菌後も年1回程度の内視鏡フォローアップが重要です。

除菌治療の判定は、内服終了から少なくとも4週間、できれば8週間以上経過してから行います。尿素呼気試験または便中ヘリコバクター抗原検査が用いられます。判定前にPPIやP-CABを服用していると偽陰性となる可能性があるため、検査前2週間は胃酸分泌抑制薬の服用を中止する必要があります。この点を患者に十分説明しておくことが重要です。

ピロリ菌除菌治療の詳細について解説したおおかど胃腸科クリニックの記事

胃炎治療における機能性ディスペプシアへの対応

機能性ディスペプシア(FD)は、胃痛や胃もたれなどのつらい症状が持続しているにもかかわらず、内視鏡検査や画像検査で明らかな異常が見つからない疾患です。以前は神経性胃炎や慢性胃炎と診断されていた患者の多くが、実際にはこの機能性ディスペプシアであることが判明しています。日本人の約10~15%が罹患しているとされ、消化器疾患の中で最も頻度の高い疾患の一つとなっています。

機能性ディスペプシアの病態は複雑で、胃の運動機能障害、内臓知覚過敏、胃酸分泌異常、心理的ストレス、胃内細菌叢の異常など、複数の要因が関与しています。そのため、単一の薬剤では症状が改善しないことが多く、患者の症状や病態に応じた個別化治療が必要となります。

機能性ディスペプシアに対して正式に保険適用がある薬剤は、実はアコチアミドアコファイド)のみです。アコチアミドは胃の運動機能を改善し、特に食後の膨満感や早期飽満感に効果を発揮します。副交感神経を刺激して消化管の運動を促進する作用があり、胃の排出を促すことで症状を緩和します。1日3回食前に服用し、効果が現れるまでに数週間を要することもあるため、継続的な服用が重要です。

PPIやP-CABも機能性ディスペプシアの治療に使用されます。特に心窩部痛や心窩部灼熱感が主症状の患者では、胃酸分泌抑制薬が有効です。ただし、機能性ディスペプシアに対するPPIの使用は、正式な保険病名上は制約がありますが、実臨床では広く用いられています。効果が不十分な場合は、アコチアミドとの併用も検討されます。

漢方薬も機能性ディスペプシアの治療選択肢として重要です。特に六君子湯は、胃の運動機能改善とストレス軽減の両方の作用を持ち、食欲不振や胃もたれに効果的です。グレリン分泌を促進することで胃の運動を活性化させ、抗不安作用も持つため、ストレス性の症状にも対応できます。漢方薬は西洋薬と併用可能で、相乗効果が期待できます。

消化管運動機能改善薬としては、モサプリドガスモチン)も使用されます。これもアコチアミドと同様に胃の運動を促進しますが、作用機序が異なるため、アコチアミドで効果不十分な場合の選択肢となります。ただし、機能性ディスペプシアに対する保険適用はアコチアミドのみである点に注意が必要です。

最近の研究では、機能性ディスペプシアの発症に胃内細菌叢の異常が関与している可能性が指摘されています。特定の乳酸菌製剤の摂取により症状が改善したとの報告もあり、プロバイオティクスの併用も選択肢として考慮できます。整腸剤の併用は、特に抗菌薬を使用した後や腸内環境の乱れが疑われる場合に有用です。

機能性ディスペプシアが治りにくい理由の一つは、薬物療法だけでは不十分なケースが多いことです。生活習慣の改善、ストレスマネジメント、食事療法などの非薬物療法も並行して行うことが重要です。特に心理社会的要因が強い患者では、必要に応じて抗不安薬抗うつ薬の少量投与、心理療法の導入も検討すべきです。これらの多角的なアプローチにより、難治性の機能性ディスペプシアでも症状の改善が期待できます。

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