脳梗塞薬一覧:急性期治療から二次予防まで薬物療法

脳梗塞薬一覧

脳梗塞治療薬の全体像
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急性期治療薬

血栓溶解療法、抗血小板療法、抗凝固療法、脳保護療法

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二次予防薬

抗血小板薬と抗凝固薬による長期管理

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症状改善薬

脳循環・代謝改善薬による後遺症治療

脳梗塞急性期治療薬の種類と適応

脳梗塞急性期治療は時間との勝負であり、適切な薬剤選択が患者の予後を大きく左右します。急性期治療薬は主に以下の5つのカテゴリーに分類されます。

血栓溶解療法

  • t-PA(アルテプラーゼ):発症4.5時間以内の超急性期に使用
  • ウロキナーゼ:発症6時間以内、主に心原性脳塞栓症に適応

抗血小板療法

  • オザグレルナトリウム(カタクロット):急性期脳血栓症の運動障害改善
  • アスピリン(バイアスピリン):48時間以内開始、ラクナ梗塞・アテローム血栓性梗塞に適応

抗凝固療法

  • アルガトロバン:発症48時間以内、選択的トロンビン阻害薬
  • ヘパリン:心原性脳塞栓症、アテローム血栓性梗塞に使用
  • 低分子ヘパリン:第Xa因子とトロンビンを1:1で抑制

脳保護療法

  • エダラボン(ラジカット):発症24時間以内、フリーラジカル除去による神経保護

抗脳浮腫療法

  • グリセロール(グリセオール):脳浮腫による正常脳細胞の圧迫予防
  • マンニトール:浸透圧利尿による脳圧降下作用

これらの治療薬は脳梗塞の病型(ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓症)や発症時間、重症度に応じて選択されます。

脳梗塞予防薬の抗血小板薬と抗凝固薬

脳梗塞の二次予防は再発リスクを大幅に減少させる重要な治療戦略です。予防薬は血栓形成機序に基づいて抗血小板薬と抗凝固薬に大別されます。

抗血小板薬一覧

COX阻害系

  • アスピリン(バイアスピリン)100mg:狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管障害の血栓予防

P2Y12阻害系

  • クロピドグレル(プラビックス)75mg:虚血性脳血管障害後の再発抑制
  • チクロピジン(パナルジン)100mg:虚血性脳血管障害、血管手術後の血栓予防
  • プラスグレル(エフィエント)3.75mg:PCIが適用される虚血性心疾患
  • チカグレロル(ブリリンタ)90mg:急性冠症候群における抗血小板2剤併用療法

PDE阻害系

  • シロスタゾール(プレタール)100mg:脳梗塞発症後の再発抑制、慢性動脈閉塞症

その他

  • ジピリダモール(ペルサンチン)25mg:狭心症、心筋梗塞の長期管理
  • サルポグレラート(アンプラーグ)100mg:慢性動脈閉塞症の症状改善
  • ベラプロスト(ドルナー)20μg:慢性動脈閉塞症、原発性肺高血圧症

抗凝固薬一覧

ビタミンK阻害薬

  • ワルファリン(ワーファリン):凝固第VII、IX、X、II因子産生抑制

直接型経口抗凝固薬(DOAC)

  • ダビガトラン(プラザキサ):直接トロンビン阻害薬
  • リバーロキサバン(イグザレルト):第Xa因子阻害薬
  • アピキサバン(エリキュース):第Xa因子阻害薬
  • エドキサバン(リクシアナ):第Xa因子阻害薬

心房細動に伴う心原性脳塞栓症の予防では、患者プロファイルに応じてDOACまたはワルファリンを選択します。

脳梗塞薬の作用機序と選択基準

脳梗塞治療薬の選択は、血栓形成の病態生理学的メカニズムに基づいて行われます。

血小板凝集阻害メカニズム

抗血小板薬は異なる作用点で血小板機能を阻害します。

  • COX-1阻害:アスピリンはトロンボキサンA2合成を不可逆的に阻害
  • P2Y12受容体阻害:クロピドグレル、プラスグレルはADP受容体を阻害
  • PDE阻害:シロスタゾールはcAMP分解を阻害し血小板凝集を抑制
  • セロトニン受容体阻害:サルポグレラートは5-HT2A受容体を阻害

抗凝固薬の作用点

  • ビタミンK依存性因子阻害:ワルファリンは肝臓での凝固因子合成を阻害
  • 直接トロンビン阻害:ダビガトランは活性化凝固因子IIaを直接阻害
  • 第Xa因子阻害:リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンは凝固カスケードを上流で阻害

病型別選択基準

非心原性脳梗塞

  • 第一選択:アスピリン75-150mg/日またはクロピドグレル75mg/日
  • 代替選択:シロスタゾール200mg/日(グレードA推奨)

心原性脳塞栓症

  • CHA2DS2-VAScスコアに基づく抗凝固療法
  • DOAC優先、ワルファリン(PT-INR 2.0-3.0)が代替選択

症候性頭蓋内動脈狭窄

  • アスピリン+クロピドグレル併用療法(初期90日間)
  • その後アスピリン単独療法に移行

脳梗塞薬の副作用と注意点

抗血栓薬の主要な副作用は出血リスクの増加です。適切なリスク評価と患者教育が重要になります。

出血リスク評価

主要出血リスク因子

  • 高齢(65歳以上)
  • 既往の出血歴
  • 肝・腎機能障害
  • 併用薬(抗凝固薬、NSAIDs)
  • アルコール多飲

出血部位別症状

  • 消化管出血:黒色便、吐血、貧血進行
  • 脳出血:急激な頭痛、意識障害、神経症状
  • その他:鼻出血、歯肉出血、皮下出血

薬剤別注意点

ワルファリン

  • 食事制限:納豆、青汁、クロレラ(ビタミンK含有食品)
  • 定期的PT-INR測定(目標値2.0-3.0)
  • 多数の薬物相互作用

DOAC

  • 腎機能に応じた用量調整
  • 薬物相互作用は比較的少ない
  • 特異的中和薬の存在(イダルシズマブ、アンデキサネット)

シロスタゾール

  • グレープフルーツジュースとの相互作用
  • 心不全患者では禁忌
  • 頭痛、動悸の副作用頻度が高い

患者教育のポイント

  • 出血時の対処法(圧迫止血の重要性)
  • 薬物中断の危険性
  • 外科処置前の医療従事者への申告
  • お薬手帳の携帯

脳梗塞薬の術前休薬期間と管理

外科手術や侵襲的処置における抗血栓薬の管理は、血栓リスクと出血リスクのバランスを考慮した個別化医療が求められます。

術前休薬期間一覧

薬剤名 休薬開始時期 作用持続時間 低リスク手技
アスピリン 7日前 7-10日 3日前
クロピドグレル 14日前 10-14日 7日前
プラスグレル 14日以上前 10-14日 7日前
チクロピジン 10-14日前 10-14日 5日前
チカグレロル 5日以上前 3-5日 3日前
シロスタゾール 3日前 48時間 1日前

出血リスク分類

高出血リスク手技

  • 開頭術、脊椎手術
  • 大血管手術
  • 前立腺手術
  • 大腸ポリープ切除

中等度出血リスク手技

  • 腹腔鏡手術
  • 関節鏡手術
  • 冠動脈造影

低出血リスク手技

  • 白内障手術
  • 上部消化管内視鏡
  • 皮膚生検

ブリッジング療法の適応

抗凝固薬中断時の血栓リスクが高い場合、ヘパリンによるブリッジング療法を考慮します。

高リスク群(ブリッジング推奨)

  • 機械弁置換術後
  • 心房細動+CHADS2スコア≥5
  • 3か月以内の血栓塞栓症既往

中等度リスク群(個別判断)

  • 心房細動+CHADS2スコア3-4
  • 生体弁置換術後3か月以内

低リスク群(ブリッジング不要)

  • 心房細動+CHADS2スコア≤2
  • 生体弁置換術後3か月以降

術後再開タイミング

  • 止血確認後12-24時間で抗血小板薬再開
  • 抗凝固薬は術後48-72時間で再開
  • 出血合併症のリスクと血栓リスクを総合的に判断

緊急手術時の対応

  • 新鮮凍結血漿、プロトロンビン複合体製剤の使用
  • 血小板輸血(抗血小板薬服用時)
  • 特異的中和薬の投与(DOAC服用時)

この術前管理は、各科との連携と薬剤師による薬歴管理が重要であり、患者安全の観点から標準化されたプロトコールの整備が必要です。

日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドラインでは、これらの薬剤選択と管理について詳細な推奨事項が示されています。

脳卒中治療ガイドライン2021における抗血栓療法の推奨事項