抗凝固薬一覧表:DOAC・ワルファリンの特徴と使い分け

抗凝固薬一覧表と分類

抗凝固薬の基本分類
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従来型抗凝固薬

ワルファリンが代表的で、ビタミンK拮抗薬として長年使用されている

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DOAC(新規抗凝固薬)

ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの4種類

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抗血小板薬

アスピリン、クロピドグレルなど、血小板凝集を阻害する薬剤群

抗凝固薬の分類とメカニズム

抗凝固薬は血液凝固カスケードの異なる段階に作用することで、血栓形成を予防します。主要な分類として、従来からのワルファリンと、近年登場したDOAC(Direct Oral Anticoagulants:直接経口抗凝固薬)があります。

ワルファリン(ワーファリン)

  • 作用機序:ビタミンK拮抗薬として、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)の合成を阻害
  • 特徴:腎排泄が1%未満のため、腎機能低下例でも使用可能
  • モニタリング:PT-INRによる定期的な監視が必要
  • 薬価:1mg 9.6円と安価

DOAC(新規抗凝固薬)4種類の特徴

薬剤名 一般名 作用機序 服薬回数 腎排泄率
プラザキサ ダビガトラン 直接トロンビン阻害 1日2回 85%
イグザレルト リバーロキサバン Xa因子阻害 1日1回 33%
エリキュース アピキサバン Xa因子阻害 1日2回 27%
リクシアナ エドキサバン Xa因子阻害 1日1回

DOACの最大の利点は、定期的なモニタリングが不要であることです。しかし、腎機能に応じた禁忌基準があり、プラザキサはCcr<30ml/min、イグザレルトとエリキュースはCcr<15ml/minで使用禁忌となります。

DOAC(新規抗凝固薬)の特徴と比較一覧表

DOACは2011年のプラザキサ発売を皮切りに、段階的に導入されました。各薬剤には独特の特徴があり、患者の状態に応じた選択が重要です。

プラザキサ(ダビガトラン)

  • 発売年:2011年
  • 薬価:75mg 132.6円、110mg 232.7円
  • 特徴:唯一の直接トロンビン阻害薬
  • 注意点:腎排泄率85%と最も高く、腎機能低下例では慎重投与

イグザレルト(リバーロキサバン)

  • 発売年:2012年
  • 薬価:10mg 372.4円、15mg 530.4円
  • 特徴:1日1回投与で服薬コンプライアンス良好
  • 併用禁忌:イトラコナゾールなどアゾール系抗真菌薬

エリキュース(アピキサバン)

  • 発売年:2013年
  • 薬価:2.5mg 144.9円、5mg 265.2円
  • 特徴:腎排泄率27%と最も低く、腎機能低下例でも比較的安全
  • 利点:出血リスクが他のDOACより低いとされる

リクシアナ(エドキサバン)

  • 発売年:2011年(心房細動適応は後発)
  • 特徴:整形外科領域のDVT予防にも適応
  • 適応:非弁膜症性心房細動、静脈血栓塞栓症

DOAC(直接経口抗凝固薬)の詳細な作用機序と比較表

抗凝固薬と抗血小板薬の併用注意点

抗凝固薬と抗血小板薬の併用は出血リスクを著しく増大させるため、慎重な管理が必要です。特に内視鏡検査においては、厳格な制限が設けられています。

内視鏡検査時の制限事項

  • 抗凝固薬・抗血小板薬を2種類以上服用している場合:胃内視鏡検査は実施不可
  • 1剤服用の場合:休薬せずに検査実施、ただし組織検査は不可
  • 組織検査が必要な場合:他医療機関での再検査が必要

主要な抗血小板薬一覧

分類 一般名 商品名 特徴
アスピリン系 アスピリン バイアスピリン、バファリン 最も汎用的な抗血小板薬
ADP受容体拮抗薬 クロピドグレル プラビックス アスピリンとの併用療法で使用
チクロピジン パナルジン 副作用のため使用頻度減少
プラスグレル エフィエント 強力な抗血小板作用
チカグレロル ブリリンタ 可逆的P2Y12阻害薬
PDE阻害薬 シロスタゾール プレタール 血管拡張作用も併せ持つ

配合剤の注意点

コンプラビン配合錠(クロピドグレル+アスピリン)のような配合剤では、2成分が含まれているため、実質的に2剤併用と同等の出血リスクがあります。

抗凝固薬の内視鏡検査・手術時休薬指針一覧表

手術や侵襲的処置における休薬期間は、薬剤の半減期と出血リスクを考慮して決定されます。出血リスクの高い処置では、より長期間の休薬が必要となります。

抗血小板薬の休薬期間

  • アスピリン系:7-14日(出血リスクが高くない場合は5日前まで)
  • クロピドグレル:7-14日
  • チクロピジン:7-14日
  • プラスグレル:14日(出血リスクが高くない場合は7日前まで)
  • チカグレロル:5日以上(出血リスクが高くない場合は3日前まで)

DOAC(抗凝固薬)の休薬期間

  • ダビガトラン(プラザキサ):腎機能に応じて1-4日
  • エドキサバン(リクシアナ):ガイドライン記載なし、個別判断

出血高危険度処置での対応

出血リスクが特に高い処置では、単純な休薬では血栓リスクが高まるため、以下の代替療法が検討されます。

  • ヘパリン置換療法
  • 一時的なDOAC変更
  • アスピリン置換またはシロスタゾール置換

血流改善薬の扱い

以下の薬剤は抗凝固薬・抗血小板薬として扱わず、検査当日のみの休薬で対応可能です。

  • 塩酸ジラゼブ(コメリアン)
  • トラピジル(ロコルナール)
  • イブジラスト(ケタス)
  • ニセルゴリン(サアミオン)

抗凝固薬選択の臨床判断基準と個別化医療

現代の抗凝固療法では、患者個別の特徴に基づいた薬剤選択が重要となっています。単純な一覧表での比較だけでなく、臨床的な判断要素を総合的に評価する必要があります。

腎機能による選択基準

腎機能は抗凝固薬選択の最重要因子の一つです。各DOACの腎排泄率の違いを理解し、患者のクレアチニンクリアランス値に応じた適切な選択が必要です。特に高齢者では加齢に伴う腎機能低下を考慮し、長期的な安全性を重視した選択が求められます。

併用薬剤との相互作用

DOACは従来のワルファリンと比べて薬物相互作用が少ないとされていますが、完全にないわけではありません。特にCYP3A4やP糖蛋白の基質となる薬剤との併用では、血中濃度の変動が起こる可能性があります。イトラコナゾールやHIVプロテアーゼ阻害薬などは併用禁忌とされており、処方前の薬歴確認が不可欠です。

患者のライフスタイルと服薬コンプライアンス

1日1回投与のイグザレルトやリクシアナは、服薬忘れのリスクが低く、社会復帰を目指す働き盛りの患者には有利です。一方、1日2回投与のプラザキサやエリキュースは、より安定した血中濃度を維持できる利点があります。

出血既往と出血リスク評価

HAS-BLEDスコアやORBITスコアなどの出血リスク評価ツールを用いて、患者の出血リスクを定量化することが重要です。消化管出血の既往がある患者では、エリキュースのように消化管出血リスクが相対的に低いとされる薬剤の選択を考慮します。

経済的負担と薬剤選択

薬価の差は患者の経済的負担に直結し、長期投与では特に重要な要素となります。ワルファリンの薬価は1mg 9.6円と極めて安価である一方、DOACは75mg換算で100円を超える薬価となっており、患者の経済状況を考慮した選択が必要です。

将来的な治療戦略と薬剤選択

抗凝固療法は多くの場合、長期間継続される治療です。将来的な手術予定、妊娠希望、他疾患の発症可能性なども考慮した薬剤選択が重要となります。特に若年者では、生涯にわたる治療を見据えた慎重な薬剤選択が求められます。

抗凝固薬の選択は単純な一覧表の比較を超えて、患者個々の病態と背景を総合的に評価した個別化医療の実践が重要です。定期的な効果・安全性の評価と、必要に応じた薬剤変更も含めた動的な治療戦略が求められる分野といえるでしょう。