急性出血性胃炎と原因と症状と治療

急性出血性胃炎と原因と治療

急性出血性胃炎:臨床で押さえる要点
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まず「出血」を見逃さない

吐血・黒色便が初発になり得る。循環動態と貧血評価を優先し、緊急内視鏡につなぐ。

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原因は薬剤とストレスが多い

NSAIDs/抗血栓薬、アルコール、重症ストレス(術後・敗血症・ショック)を必ず確認する。

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内視鏡で鑑別と重症度

びらん・点状出血などの所見を把握し、潰瘍性出血や他疾患(腫瘍、静脈瘤等)を除外する。

急性出血性胃炎の原因:NSAIDsとストレスとアルコール

急性出血性胃炎は、急性胃粘膜病変(AGML)やびらん性胃炎として臨床上まとめて扱われることが多く、「粘膜防御の破綻」と「粘膜血流低下」が同時に起きる状況で出血に至りやすい。

現場で最初に押さえる原因は、NSAIDsロキソプロフェン等)や低用量アスピリンを含む抗血栓薬、そして大量飲酒、強い身体的ストレス(手術後、重症感染症、ショックなど)である。これらは単独でも誘因になるが、実際には「NSAIDs+飲酒」「抗血栓薬+高齢」「ストレス+併用薬」など複合要因で増悪しやすい。

原因聴取の実務ポイント(問診・薬歴)

・NSAIDs:頓用でも連日化していないか、複数NSAIDsの重複がないか

・抗血小板/抗凝固薬:適応疾患、休薬可否の判断材料(ステント留置や心房細動など)

・ステロイド:NSAIDs併用で胃粘膜障害が増強し得るため「併用の有無」が重要

・アルコール:短期大量摂取(いわゆる一気飲み)だけでなく、連日の多量飲酒も確認

・“ストレス”の中身:心理的ストレスだけでなく、ICU入室、外傷、術後、敗血症などを含めて評価

ここでの落とし穴は、「精神的ストレス=原因」と短絡しすぎる点である。強い精神的ストレスだけで重篤なAGMLを起こすのは稀で、薬剤やアルコールなど他の要因と複合的に関与することが多い、という整理で考えると臨床判断が安定する。

急性出血性胃炎の症状:吐血と黒色便と腹痛

症状は心窩部痛、悪心・嘔吐、胃もたれなど非特異的なものから始まり、吐血や黒色便が「最初の徴候」になることもある。びらん性胃炎では、誘因となった事象の後、比較的短い期間で消化管出血が表面化することがあるため、発症時期(いつからNSAIDsを飲んだか、いつ飲酒したか、いつ手術/侵襲があったか)を必ず時系列で揃える。

医療従事者向けに実践的な観察項目を挙げる。

・バイタル:頻脈、血圧低下、ショックインデックスの上昇

・出血のサイン:吐血、コーヒー残渣様嘔吐、黒色便(タール便)

・貧血関連:ふらつき、失神、冷汗

・脱水:嘔吐が続く、経口摂取不良

注意したいのは、急性出血では検査のHbが「すぐには下がらない」ことがある点で、バイタルと出血エピソードが強ければ、採血の数値だけで安心しない姿勢が必要になる。特に救急外来や当直帯では、「黒色便+頻脈+起立性症状」だけでも上部消化管出血として動き、内視鏡に接続する判断が安全側に働く。

急性出血性胃炎の内視鏡:びらんと出血と鑑別

診断は上部消化管内視鏡が中心であり、急性出血性胃炎(AGML/びらん性胃炎を含む)では、出血性のびらん、発赤、点状出血などが観察されることが多い。

ただし「急性出血性胃炎」と思っていても、実際には出血性胃潰瘍十二指腸潰瘍、Mallory-Weiss、腫瘍出血、血管異常などが混ざるため、内視鏡の目的は“胃炎の確認”ではなく「出血源の同定とリスク評価」である。

医療側の意思決定に役立つ考え方として、潰瘍性病変が疑われる場合は、出血リスク(再出血や介入必要性)を点数化して扱う流れがある。たとえば上部消化管出血ではGlasgow-Blatchford Score(GBS)が介入の必要性予測に有用とされ、低スコアで外来管理が可能な層を選別し得る(入院資源の最適化に効く)。

急性出血性胃炎は“浅いびらん”の集合で出血していることも多い一方で、深い潰瘍が混ざると大出血のリスクが上がるため、内視鏡所見の粒度(びらんのみか、潰瘍性か、露出血管があるか)を記録してチーム共有することが再出血対策になる。

急性出血性胃炎の治療:PPIと止血と輸液

治療の基本は、①循環管理(輸液・輸血判断)②原因除去(NSAIDs中止、飲酒中止、併用薬調整)③酸分泌抑制(PPI等)④必要なら内視鏡的止血、の組み合わせである。

出血性病変では、内視鏡的止血が有用なケースがあり、出血性消化性潰瘍に対しては内視鏡的止血が薬物治療単独より初回止血や再出血予防に有利で、手術移行率や死亡率も減らす、という整理がガイドライン内で示されている。急性出血性胃炎でも、出血が持続し局所治療が必要なときは同様の考え方で対応する(ただしびらん面からのびまん性出血では「局所をつまむ」発想が効きにくいので、全身管理の比重が上がる)。

当直・救急での実務フロー(例)

  1. 初期評価:意識、バイタル、ショックの有無、吐血/黒色便の確認
  2. ルート確保:太い静脈路、採血(Hb、凝固、腎機能、血液型など)
  3. 薬剤調整:NSAIDs中止、抗血栓薬は原疾患リスクと出血リスクを天秤に(循環器等と連携)
  4. PPI投与:上部消化管出血の標準的対応として酸分泌抑制を開始
  5. 内視鏡:循環動態が許せば早期に施行し、出血源同定+必要時止血
  6. 再出血監視:バイタル、便性状、Hbの推移、再吐血の有無

セカンド・ルック(再度の内視鏡確認)は、出血リスクが高い所見を持つ患者に選択的に行い、一律実施は推奨されない、という考え方が出血性潰瘍領域では示されている。急性出血性胃炎でも、再出血リスクが高い背景(血行動態不安定、併用薬が多い、高齢、広範囲病変など)があれば、同様に“選択的”に再評価を組むと運用が破綻しにくい。

急性出血性胃炎の独自視点:看護と薬剤の再発予防

検索上位の記事では「原因・症状・治療」で終わりがちだが、現場で再発を減らす鍵は“薬剤の再設計”と“看護観察の標準化”にある。特にNSAIDsや抗血栓薬が関与している患者では、再発予防を「退院時の一言」で終わらせず、処方構造そのものを変える必要がある。

再発予防の実装例(チームでやる)

鎮痛薬の見直し:NSAIDsが必要な適応か再確認し、必要なら最小用量・最短期間へ。代替(アセトアミノフェン等)も検討する。

・併用薬の棚卸し:ステロイド、SSRIビスホスホネートなど、出血リスクに影響し得る併用がないか確認し、必要性と代替を検討する。

・胃粘膜保護の一貫性:PPI/酸分泌抑制の継続期間、減量・中止の基準を、外来担当と共有して“いつまで飲むか”を曖昧にしない。

・看護観察の型:黒色便の再燃、めまい、失神、尿量低下などをチェック項目化し、申し送りで落ちないようにする。

患者教育:飲酒・市販鎮痛薬(OTC)の使い方、空腹時服用のリスクなど「再発しやすい行動」を具体例で伝える。

意外と見落とされるのが、患者が「処方NSAIDsは中止したのに、市販の鎮痛薬を再開していた」というケースである。医療者側は“薬剤中止を説明した”つもりでも、患者側は“病院でもらった薬だけ”と解釈していることがあるため、退院指導や薬剤指導でOTCまで言語化する価値が高い。

【参考リンク:出血性潰瘍の止血・再出血予防、NSAIDs/LDA関連の予防フローチャート(PPIやP-CABの位置づけ)】

日本消化器病学会:消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)PDF