トアラセットとトラムセットの違いと成分・効果・副作用

トアラセットとトラムセットの違い

トアラセット vs トラムセット 3つのポイント
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先発品と後発品

トラムセットが先発医薬品、トアラセットがその後発医薬品(ジェネリック)です。有効成分・効果は同等です。

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二刀流の作用機序

オピオイド系作用とモノアミン再取り込み阻害作用の2つの経路で強力な鎮痛効果を発揮します。

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注意すべき副作用

特に悪心・嘔吐、便秘、眠気などの消化器・中枢神経系症状が高頻度で現れるため対策が必要です。

トアラセットとトラムセットの基本的な違い:先発品と後発品

医療現場で頻繁に使用される鎮痛薬、トアラセットとトラムセットですが、これらの最も基本的な違いは、一方が先発医薬品であり、もう一方がその後発医薬品(ジェネリック医薬品)であるという点です 。具体的には、「トラムセット配合錠」がヤンセンファーマ株式会社によって開発・販売された先発医薬品であり、「トアラセット配合錠」はその後に他の製薬会社から販売されている後発医薬品の統一ブランド名です 。

後発医薬品は、先発医薬品の特許が切れた後に、同じ有効成分、同じ含有量、同じ用法・用量、同じ効果・効能を持つ医薬品として製造・販売されます 。厚生労働省の厳格な審査を経て、先発医薬品と生物学的に同等であることが証明されているため、品質、有効性、安全性に違いはないとされています 。実際に、トアラセットとトラムセットを比較した生物学的同等性試験では、血中濃度の推移を示すCmax(最高血中濃度)やAUC(薬物血中濃度時間曲線下面積)といったパラメータが同等であることが示されています 。

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参考)医療用医薬品 : トアラセット (トアラセット配合錠「DSE…

では、何が違うのでしょうか? 主な違いは以下の2点です。

  • 価格:後発医薬品であるトアラセットの方が、薬価が安く設定されています 。これにより、患者さんの経済的負担や国の医療費を軽減するメリットがあります。
  • 添加物:有効成分は同一ですが、錠剤の成形、安定化、味の調整などのために使用される添加物(賦形剤、結合剤、崩壊剤など)が異なる場合があります 。しかし、これらの添加物の違いが治療効果や副作用の発生率に重大な影響を及ぼすことは極めて稀です。

以下に簡単な比較表を示します。

項目 トアラセット配合錠 トラムセット配合錠
分類 後発医薬品(ジェネリック) 先発医薬品
有効成分 トラマドール塩酸塩 37.5mgアセトアミノフェン 325mg トラマドール塩酸塩 37.5mgアセトアミノフェン 325mg
薬価 (2025年11月時点の例) 安価 (例: 1錠あたり約13.4円) 比較的高価 (例: 1錠あたり26.9円)

参考)商品一覧 : トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン

製造販売元 多数の製薬会社 (例: 大原薬品工業、第一三共エスファなど) ヤンセンファーマ
生物学的同等性 同等 ​

結論として、トアラセットとトラムセットの有効性や安全性に本質的な違いはなく、医療従事者や患者さんは、経済的な側面や供給の安定性などを考慮して選択することが可能です。

トアラセットの有効成分トラマドールとアセトアミノフェンの作用機序

トアラセット配合錠(およびトラムセット配合錠)の最大の特徴は、作用機序の異なる2つの有効成分を組み合わせることで、単剤では得られない強力かつ多面的な鎮痛効果を発揮する点にあります 。1錠中に「トラマドール塩酸塩 37.5mg」と「アセトアミノフェン 325mg」を含有しています 。

参考)NSAIDsで効かない痛みにも?トラムセットが処方されるケー…

それぞれの成分の作用機序は以下の通りです。

  1. トラマドール塩酸塩の二重作用 🌀

    トラマドールは、非定型オピオイド鎮痛薬に分類され、2つの異なるメカニズムで鎮痛効果を発揮します。

    • μ-オピオイド受容体への作用:トラマドールとその活性代謝物であるM1(O-脱メチルトラマドール)が、脳や脊髄に存在するμ-オピオイド受容体に弱いアゴニストとして結合します 。これにより、痛みの伝達を抑制します。モルヒネなどの強オピオイドと比較するとその結合力は弱いものの、鎮痛作用の重要な一翼を担っています。
    • モノアミン再取り込み阻害作用:神経終末におけるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します 。これにより、脳幹から脊髄後角へと投射される「下行性疼痛抑制系」と呼ばれる神経系が賦活化(活性化)されます。この神経系は、痛みの信号が脊髄から脳へ上行するのをブロックする役割を持っており、特に神経障害性疼痛に対して有効であると考えられています 。
  2. アセトアミノフェンの作用 🧠

    アセトアミノフェンは、非オピオイド性の解熱鎮痛薬です。その正確な作用機序は完全には解明されていませんが、主に中枢神経系(脳や脊髄)に作用すると考えられています 。末梢でのシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用が弱いため、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に特徴的な胃腸障害のリスクが低いとされています。トラマドールと組み合わせることで、即効性を補い、相加・相乗的な鎮痛効果をもたらします 。

    参考)トラムセット(トアラセット) 広島県福山市の整形外科・リハビ…

この2成分の配合により、トラマドール単剤の「効果発現が遅い」という欠点をアセトアミノフェンが補い、迅速で強力な鎮痛効果を実現しています 。まさに「二刀流」の鎮痛薬と言えるでしょう。

参考)【痛み止め】トラムセット配合錠の強さは?他の薬との違い、副作…

トアラセットの鎮痛効果と注意すべき副作用(特に悪心・嘔吐)

トアラセットは、そのユニークな作用機序により、非オピオイド鎮痛薬では効果不十分な中等度から高度の慢性疼痛や抜歯後などの急性疼痛に対して、優れた鎮痛効果を発揮します 。臨床試験では、本剤がトラマドール単剤やアセトアミノフェン単剤よりも有意に高い鎮痛効果を示したことが報告されています 。

しかし、その強力な効果と引き換えに、特に注意すべき副作用がいくつか存在します。国内の臨床試験では、投与された患者の81.5%に何らかの副作用が認められたとの報告もあり、適切な副作用マネジメントが不可欠です 。

参考)トラムセット®︎の効果と副作用!

特に頻度の高い副作用 🤢

臨床試験で報告されている主な副作用とその発現率は以下の通りです 。

参考)医療用医薬品 : トアラセット (トアラセット配合錠「Me」…

  • 悪心(吐き気): 41.4%
  • 嘔吐: 26.2%
  • 便秘: 21.2%
  • 傾眠(眠気): 28.5% (添付文書より)
  • 浮動性めまい: 19.5% (添付文書より)

特に悪心・嘔吐は投与初期に多く見られる副作用であり、患者のQOLを著しく低下させ、服薬アドヒアランスの低下につながる可能性があります。このため、ドンペリドン(ナウゼリン®)やメトクロプラミド(プリンペラン®)などの制吐剤を予防的に併用することが推奨されています 。

重大な副作用 ⚠️

頻度は稀ですが、以下のような重篤な副作用が発現する可能性があり、初期症状に注意が必要です 。

  • 痙攣(けいれん):オピオイドの共通の副作用であり、てんかんの既往がある患者や、推奨用量を超えて投与した場合にリスクが高まります。
  • 意識消失:眠気やめまいが強く現れ、意識を失うことがあります。このため、本剤服用中の患者には自動車の運転など危険を伴う機械の操作をさせないよう、厳重に指導する必要があります 。
  • 依存性:長期使用により精神的・身体的依存を生じることがあります 。連用中の急な中止は、不安、振戦、不眠、悪心、発汗などの退薬症候を引き起こす可能性があるため、減量・中止は医師の監督のもとで徐々に行う必要があります。
  • 呼吸抑制:特に他の呼吸抑制作用を持つ薬剤(ベンゾジアゼピン系など)との併用や過量投与でリスクが増大します。
  • その他:アナフィラキシー、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、肝機能障害、喘息発作の誘発なども報告されています 。

これらの副作用プロファイルを十分に理解し、患者の状態を注意深く観察しながら使用することが、トアラセットを安全かつ有効に活用する鍵となります。

トアラセットの代謝と薬物相互作用:CYP2D6と肝機能への影響

トアラセットの有効性と安全性は、その体内での代謝経路、特に肝臓における代謝酵素の働きに大きく影響されます。これは検索上位にはあまり出てこない、臨床的に非常に重要な視点です。特に「CYP2D6」という酵素の遺伝子多型と、アセトアミノフェンによる肝毒性のリスクは、処方時に考慮すべき意外な情報と言えるでしょう。

トラマドールとCYP2D6遺伝子多型 🧬

トラマドール自体はプロドラッグであり、体内で主要な鎮痛作用を発揮するのは、肝臓の代謝酵素「CYP2D6」によって代謝されて生成される活性代謝物「O-脱メチルトラマドール(M1)」です 。このM1は、親化合物であるトラマドールよりもμ-オピオイド受容体への親和性が数百倍高いとされています。

参考)作用機序

ここで重要なのが、CYP2D6の活性には大きな個人差(遺伝子多型)が存在する点です。

  • Poor Metabolizer (PM):日本人のおよそ1%存在すると言われ、CYP2D6の活性が著しく低い、または欠損している人々です。これらの患者では、トラマドールが活性代謝物M1にほとんど変換されないため、期待される鎮痛効果が得られない可能性があります。
  • Ultra-rapid Metabolizer (UM):日本人のおよそ1.5-2%存在すると言われ、CYP2D6の活性が非常に高い人々です。これらの患者では、通常量でもトラマドールがM1へ急速かつ大量に変換され、血中濃度が想定以上に上昇します。その結果、呼吸抑制や過度の鎮静といったオピオイド中毒のリスクが著しく高まる危険性があります。

つまり、同じ量のトアラセットを服用しても、「全く効かない」患者から「副作用が強く出すぎる」患者まで、効果や安全性が大きく異なる可能性があるのです。

アセトアミノフェンと肝毒性 🍺

もう一つの有効成分であるアセトアミノフェンは、過量摂取により重篤な肝障害を引き起こすことで知られています。通常用量では、アセトアミノフェンの大部分は肝臓でグルクロン酸抱合や硫酸抱合を受けて無毒化されますが、一部がCYP2E1などの酵素によって代謝され、有毒な代謝物「N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)」を生成します 。NAPQIは通常、肝臓のグルタチオンによって速やかに解毒されますが、アセトアミノフェンを過量に摂取したり、アルコールを常習的に摂取していたりすると、グルタチオンが枯渇し、NAPQIが肝細胞を障害して肝壊死に至ります。

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=67703

トアラセット1錠にはアセトアミノフェンが325mg含まれており、1日の最大投与量である8錠を服用すると、アセトアミノフェンの総量は2600mgに達します。これは市販の多くの解熱鎮痛薬と併用すると、アセトアミノフェンの1日最大量である4000mgを超えるリスクがあり、注意が必要です。

医薬品医療機器総合機構(PMDA) – トラムセット配合錠 添付文書

このリンクは、トアラセットの先発品であるトラムセットの公式な添付文書です。薬物動態や相互作用に関する詳細な情報が記載されています。

トアラセットとNSAIDsの使い分け:非オピオイド鎮痛薬との比較

鎮痛薬の選択において、トアラセット(トラマドール/アセトアミノフェン配合錠)とNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)のどちらを選択するかは、痛みの種類、重症度、そして患者背景によって決まります。これらは作用機序が全く異なるため、適切に使い分けることが重要です。

以下に、トアラセットと代表的なNSAIDsであるロキソプロフェンを比較した表を示します。

特徴 トアラセット(トラマドール/アセトアミノフェン) NSAIDs(例:ロキソプロフェン)
作用機序 中枢性:μ-オピオイド受容体作動+モノアミン再取り込み阻害 ​ 末梢性:シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害によるプロスタグランジン産生抑制
抗炎症作用 ほとんどない ​ 強い
得意な痛み 中等度〜重度の疼痛侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛の両方 軽度〜中等度の疼痛特に炎症を伴う痛み(関節痛、歯痛、外傷痛など)
主な副作用 悪心、嘔吐、便秘、眠気、めまいなど中枢神経・消化器系 胃腸障害(胃潰瘍、出血)、腎障害、心血管系リスク
使用上の注意 依存性、痙攣、呼吸抑制のリスク。運転禁止。 ​ 消化性潰瘍の既往、腎機能障害、心機能障害、アスピリン喘息の患者には禁忌・慎重投与。
臨床での位置付け NSAIDsで効果不十分な場合、またはNSAIDsが使用禁忌の場合の次の選択肢 ​ 炎症を伴う急性・慢性の疼痛に対する第一選択薬の一つ

使い分けのポイント

  • 炎症の有無:関節リウマチや強直性脊椎炎のような明確な炎症性疾患には、抗炎症作用を持つNSAIDsが第一選択となります。一方、変形性関節症や線維筋痛症のように、炎症の関与が少ないか、中枢感作が関与する痛みにはトアラセットが有効な場合があります。
  • 痛みの種類:トアラセットは、その二重の作用機序により、神経障害性疼痛(例:帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害)に対しても効果が期待できます。NSAIDsは神経障害性疼痛への効果は限定的です。
  • 消化管リスク:消化性潰瘍の既往がある患者や、高齢でNSAIDsによる消化管出血のリスクが高い患者では、トアラセットが安全な選択肢となることがあります。ただし、トアラセットも悪心・便秘などの消化器症状が高頻度である点には注意が必要です。

このように、トアラセットとNSAIDsは互いに補完しあう関係にあります。痛みの病態を正確にアセスメントし、それぞれの薬剤の特性を理解した上で処方することが、最適な疼痛管理につながります。

日本疼痛学会 – 痛みの参照領域

このリンクは、日本の疼痛医療における権威ある学会の一つです。各種ガイドラインや疼痛管理に関する有用な情報を提供しており、薬剤選択の参考になります。