シリンジポンプ 薬剤一覧と投与方法
シリンジポンプで使用される主な薬剤一覧と特徴
シリンジポンプは微量の薬液を高精度で持続投与するために欠かせない医療機器です。特に効果が強く、厳密な投与管理が必要な薬剤に使用されます。以下に、シリンジポンプで一般的に使用される主な薬剤を分類別にまとめました。
循環器系薬剤
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昇圧薬:ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、ドパミン塩酸塩、ドブタミン塩酸塩
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血管拡張薬:ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニカルジピン(ペルジピン®)
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強心薬:ミルリノン、オルプリノン
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抗不整脈薬:塩酸リドカイン、塩酸アミオダロン
抗凝固薬・血栓溶解薬
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ヘパリンナトリウム
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アルガトロバン
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t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)
ホルモン製剤
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インスリン製剤
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バソプレシン(抗利尿ホルモン)
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オキシトシン(分娩誘発・促進)
鎮痛・鎮静薬
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フェンタニルクエン酸塩
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塩酸モルヒネ
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デクスメデトミジン(プレセデックス®)
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ミダゾラム
その他
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カルペリチド(ハンプ®):心不全治療薬
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フロセミド:利尿薬
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抗癌剤:シスプラチンなど
これらの薬剤は、効果発現が速く、半減期が短いものが多いため、持続投与による血中濃度の維持が重要です。また、体重あたりの投与量計算が必要な薬剤も多く、正確な投与速度の設定が患者の治療効果と安全性を左右します[1]。
シリンジポンプ 薬剤投与時の安全管理と注意点
シリンジポンプを用いた薬剤投与では、その特性から様々な安全管理と注意点があります。医療事故防止のために以下のポイントを押さえておくことが重要です。
薬剤準備時の注意点
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薬剤の濃度計算は必ず複数人でダブルチェックする
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薬剤名、濃度、流量を明記したラベルをシリンジに貼付する
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同一患者に複数の薬剤を投与する場合は、薬剤ごとにラインの色分けを行う
投与設定時の注意点
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シリンジサイズの正確な選択(機種によって自動認識できないものもある)
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流量単位(ml/h、μg/kg/min など)の確認
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予定量の設定と残量アラームの活用
投与中のモニタリング
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開始後10〜15分以内に一度確認し、その後1時間ごとに定期的な確認
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薬液の残量、接続部の緩み、留置針刺入部の状態チェック
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患者の状態変化(バイタルサイン、副作用症状)の観察
特に注意が必要な状況
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シリンジ交換時:一時的な薬剤投与中断による急激な効果減弱を防ぐため、可能な限り2台のポンプを使用した切り替えが望ましい
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輸液ルートの屈曲や閉塞:高圧アラームが作動した場合は原因を特定し適切に対応する
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停電時や機器トラブル:バッテリー駆動時間の把握と代替手段の準備
薬剤別の特殊な注意点
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カテコラミン系薬剤(ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン):急激な中断は血圧低下を招くため厳重な管理が必要
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インスリン:吸着現象があるため専用のシリンジを使用し、使用前に少量を廃棄する
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光感受性のある薬剤(ニトログリセリン等):遮光カバーの使用
医療機関では、これらの注意点を含めた標準化されたプロトコルを整備し、定期的な教育・訓練を行うことで、シリンジポンプを用いた薬剤投与の安全性を高めています[2]。
日本集中治療医学会「集中治療における薬剤投与の安全管理に関するガイドライン」で詳細な安全管理方法が解説されています
シリンジポンプと輸液ポンプの違いと薬剤選択基準
医療現場では、薬剤の特性や投与量に応じて、シリンジポンプと輸液ポンプを使い分けることが重要です。両者の違いを理解し、適切な機器を選択することで、より安全で効果的な薬物療法が可能になります。
機器の基本的な違い
項目 | シリンジポンプ | 輸液ポンプ |
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送液機能 | 計算された一定の圧を押し子にかけて送液 | 数枚の圧力板でチューブに圧力をかけ送液(ミッドプレス方式) |
流量精度 | ±3%以下(高精度) | ±10%以下 |
容量 | 10〜50ml(シリンジサイズによる) | 50〜500ml以上(輸液バッグによる) |
薬液交換頻度 | 比較的高頻度 | 低頻度 |
適した用途 | 微量・高濃度薬剤の正確な投与 | 大量輸液や長時間の持続投与 |
薬剤選択の基準
シリンジポンプが適している薬剤:
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少量で強い薬理作用を持つ薬剤(カテコラミン系など)
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厳密な血中濃度管理が必要な薬剤(抗不整脈薬など)
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短時間作用型の薬剤(ニカルジピンなど)
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体重換算で投与量を調整する薬剤(小児用量など)
輸液ポンプが適している薬剤:
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大量投与が必要な輸液(維持輸液など)
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長時間にわたる投与が必要な薬剤
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比較的安全域の広い薬剤
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希釈濃度が低い薬剤
併用する場合の注意点
同一患者に両方のポンプを使用する場合は、以下の点に注意が必要です:
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ラインの識別(薬剤名・濃度の明記、ライン色分け)
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三方活栓での接続時の逆流防止
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相互作用のある薬剤の混合防止
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輸液ルートの管理(屈曲・閉塞の防止)
医療機関によっては、薬剤ごとに使用するポンプの種類を標準化し、マニュアル化している場合もあります。これにより、医療従事者間での認識の統一と安全性の向上が図られています[3]。
シリンジポンプ 薬剤投与の実践テクニック
シリンジポンプを用いた薬剤投与を安全かつ効果的に行うためには、基本的な操作方法に加えて、実践的なテクニックを身につけることが重要です。ここでは、臨床現場で役立つ具体的なノウハウをご紹介します。
正確な薬液調製のコツ
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薬剤の希釈計算式:必要濃度(μg/ml)= 薬剤量(mg)× 1000 ÷ 溶解液量(ml)
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微量薬剤の場合は、「2段階希釈法」を活用する(まず高濃度で溶解し、その一部を取って再希釈)
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計算ミスを防ぐために、施設で標準化された希釈濃度表を活用する
効率的なシリンジ交換テクニック
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新しいシリンジを準備し、プライミング(気泡抜き)を完了させておく
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可能であれば2台目のシリンジポンプを用意し、並行して設定
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1台目の投与終了直前に2台目を開始する「オーバーラップ法」を用いる
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交換時は患者のバイタルサインを必ずモニタリングする
トラブルシューティング
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閉塞アラーム発生時:
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患者側から順に閉塞原因を確認(血管確保部位、三方活栓、ルート屈曲など)
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必要に応じて新しいルートに交換
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閉塞解除後は急激な薬液投与(ボーラス投与)に注意
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気泡混入時:
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一時停止し、気泡の位置を確認
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患者に到達する前に三方活栓から気泡を除去
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気泡除去後は設定流量を確認して再開
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設定ミス防止策:
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「6つのRight」の確認(正しい患者、薬剤、用量、経路、時間、記録)
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特に高リスク薬剤は必ず複数人でクロスチェック
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体重換算が必要な薬剤は計算式を明示
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臨床現場での実践的アドバイス
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複数のシリンジポンプ使用時は、優先度の高い薬剤(昇圧剤など)を患者に近い側に接続
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輸送時(検査移動など)はバッテリー残量と固定状態を必ず確認
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長期使用の場合、定期的に刺入部の観察と必要に応じた留置針の交換を行う
これらのテクニックは、日々の臨床経験から培われたものであり、マニュアルには記載されていない実践知識も含まれています。施設ごとの方針や使用機器の特性に合わせて、適宜アレンジしながら活用することが大切です[1][2]。
日本集中治療医学会「集中治療における急性血液浄化療法に関する指針」でシリンジポンプを用いた抗凝固薬投与の実践テクニックが解説されています
シリンジポンプ 薬剤別の配合変化と単独ライン使用の必要性
シリンジポンプで投与する薬剤の中には、他剤との配合変化を起こすものや、効果の安定性を保つために単独ラインでの投与が推奨されるものがあります。ここでは、配合変化の基本知識と単独ライン使用が必要な薬剤について解説します。
配合変化の種類と発生メカニズム
配合変化とは、複数の薬剤を混合した際に生じる物理的・化学的な変化のことで、主に以下のような現象があります:
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沈殿形成:pH変化や化学反応による不溶性物質の生成
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白濁・混濁:エマルション形成や微細な沈殿による透明度の低下
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結晶形成:溶解度の変化による結晶の析出
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変色:酸化還元反応などによる色調変化
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効力低下:有効成分の分解や不活性化
単独ライン使用が必要な主な薬剤と理由
以下の薬剤は、配合変化や薬効の観点から単独ラインでの使用が推奨されます:
薬剤名 | 単独使用の理由 | 配合禁忌薬剤 |
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カテコラミン系薬剤(ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン) | pH変化による分解、効力低下 | アルカリ性薬剤、重炭酸ナトリウム |
インスリン | タンパク質吸着、効力低下 | 多くの薬剤と配合変化あり |
ニカルジピン(ペルジピン®) | pH依存性の沈殿形成 | 酸性薬剤、カルシウム含有輸液 |
フロセミド | アルカリ性による他剤との配合変化 | 酸性薬剤、カテコラミン系 |
麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニル) | 麻薬管理上の理由、効力の正確な評価 | 管理上の理由で単独使用 |
脂肪乳剤(プロポフォールなど) | エマルション安定性の維持 | 電解質濃度の高い輸液 |
配合変化を防ぐための実践的対策
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Y字管や三方活栓での混合を避け、可能な限り単独ルートを確保する
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複数のアクセスポート(中心静脈カテーテルの複数ルーメンなど)を活用する
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薬剤部や添付文書で配合変化情報を事前に確認する
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配合変化データベースや配合変化表を活用する
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混合が避けられない場合は、フラッシュ(生理食塩水での洗浄)を行ってから別の薬剤を投与する
配合変化の見逃しやすい事例
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輸液ラインの途中での薬剤注入(側管からの投与)
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三方活栓内での微量残存薬剤との反応
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長時間の混合による緩徐な変化(24時間以上経過後に発生する変化)
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光や温度による影