神経障害性疼痛の症状と治療方法を詳しく解説

神経障害性疼痛の症状と治療方法

神経障害性疼痛の全体像

特徴的な症状

灼熱痛、電撃痛、アロディニアなど従来の疼痛とは異なる感覚異常を呈する

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薬物療法

抗うつ薬や抗てんかん薬などの鎮痛補助薬が第一選択となる

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集学的アプローチ

薬物療法、神経ブロック、理学療法、心理療法を組み合わせた治療が重要

神経障害性疼痛の症状の特徴とアロディニア

神経障害性疼痛は、末梢または中枢神経系の損傷や機能障害により生じる疼痛で、侵害受容性疼痛とは明確に異なる症状を呈します。最も特徴的な症状として以下が挙げられます。

主要な症状の特徴:

  • 🔥 灼熱痛:「焼けるような」「ヒリヒリする」と表現される持続的な痛み
  • ⚡ 電撃痛:「ビーンと走るような」「電気が走る」鋭い発作性の痛み
  • 🗡️ 刺痛:「針で刺されるような」「突き刺すような」痛み
  • 🧊 冷感異常:「凍るような」「冷たい」異常な温度感覚

特に重要なのがアロディニア(異痛症)で、通常では痛みを生じない軽微な刺激(衣類の接触、風、軽い触覚)によって強い痛みが誘発される現象です。これは神経の感作により、非侵害性刺激が痛覚として認識されるメカニズムによるものです。

その他の感覚異常:

  • 痛覚過敏:わずかな痛み刺激でも極度に強い痛みとして感じる
  • ヒペルパチー:過度に増強された不快な痛み反応
  • 知覚鈍麻:患部の感覚が鈍くなる現象

これらの症状は、損傷された神経支配領域に一致して出現し、中枢神経系の感作やリモデリングにより長期間持続するのが特徴です。

神経障害性疼痛の薬物療法と第一選択薬

神経障害性疼痛の治療では、従来の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は効果が限定的で、鎮痛補助薬が第一選択となります。日本神経障害性疼痛ガイドライン(2021年改訂)に基づく治療戦略を以下に示します。

第一選択薬:

薬剤名 機序 特徴 主な副作用
プレガバリン(リリカ) カルシウムチャネル阻害 糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛に特に有効 眠気、めまい、体重増加
デュロキセチン(サインバルタ) SNRI 糖尿病性神経障害の第一選択 悪心、便秘、眠気

第二選択薬:

第三選択薬:

外用薬:

  • リドカインパッチ:局所麻酔効果により限局性の痛みに有効
  • カプサイシンクリーム:TRPV1受容体を介した脱感作効果

薬物療法の目標は完全な除痛ではなく、50%以上の疼痛軽減とQOL改善に設定すべきです。効果判定は4-8週間で行い、無効な場合は別の薬剤への変更を検討します。

神経障害性疼痛の神経ブロック療法

薬物療法で十分な効果が得られない場合、神経ブロック療法が有効な選択肢となります。神経ブロックは痛みの伝達経路を一時的または長期的に遮断することで症状緩和を図る治療法です。

主要な神経ブロック手技:

🎯 硬膜外ブロック

  • 適応:帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、腰下肢痛
  • 方法:硬膜外腔に局所麻酔薬とステロイドを注入
  • 効果:炎症抑制と痛み伝達の遮断

星状神経節ブロック

  • 適応:上肢の複合性局所疼痛症候群、顔面痛
  • 方法:交感神経節への局所麻酔薬注入
  • 効果:交感神経機能抑制による血流改善

🔗 神経根ブロック

  • 適応:神経根性疼痛、椎間板ヘルニア
  • 方法:特定の神経根周囲への薬剤注入
  • 効果:選択的な除痛効果

使用薬剤:

  • 局所麻酔薬:リドカイン、ブピバカインなど
  • 副腎皮質ステロイド:炎症抑制目的で併用
  • 神経破壊薬:長期効果を期待する場合(フェノール、エタノール)

神経ブロックの効果は一時的な場合が多く、通常は複数回の施行が必要です。また、診断的ブロックとしても有用で、痛みの責任神経を同定する目的でも使用されます。

神経障害性疼痛の脊髄刺激療法とQOL改善

薬物療法や神経ブロックで効果不十分な難治性神経障害性疼痛に対して、脊髄刺激療法(Spinal Cord Stimulation: SCS)が有効な治療選択肢となります。

脊髄刺激療法の原理:

脊髄後角のゲートコントロール理論に基づき、微弱な電気刺激により痛みの伝達を抑制します。痛みの感覚を心地よいしびれ感に置き換えることで症状を軽減させる治療法です。

適応疾患:

  • 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
  • 末梢神経損傷による神経因性疼痛
  • 腰部手術後症候群(FBSS)
  • その他の難治性疼痛

治療プロセス:

1️⃣ トライアル期間(約1週間)

  • 硬膜外腔への電極留置
  • 外部刺激装置による効果判定
  • 50%以上の疼痛軽減で本植込みを検討

2️⃣ 本植込み手術

  • 全身麻酔下での刺激装置埋込み
  • 腹部皮下への刺激装置留置
  • 電極と刺激装置を延長リードで接続

期待される効果:

  • 疼痛の50-70%軽減
  • 睡眠の質改善
  • 日常生活動作(ADL)の向上
  • 薬物使用量の減少

脊髄刺激療法は神経を破壊しない可逆的治療であり、効果不十分な場合は除去可能です。電池寿命は数年のため、定期的な交換が必要となります。

神経障害性疼痛の集学的治療アプローチ

神経障害性疼痛の治療成功には、生物心理社会的モデルに基づく集学的アプローチが不可欠です。単一の治療法では限界があるため、多角的な治療戦略を組み合わせることが重要です。

包括的治療戦略:

🔬 生物学的側面

  • 薬物療法の最適化
  • 神経ブロック療法
  • 物理療法(理学療法、作業療法)
  • ニューロモジュレーション(脊髄刺激、DBS)

🧠 心理学的側面

  • 認知行動療法(CBT)
  • リラクゼーション技法
  • バイオフィードバック
  • マインドフルネス瞑想

🤝 社会的側面

  • 患者教育とセルフマネジメント
  • 家族・職場での理解促進
  • 社会復帰支援
  • ピアサポートグループ

治療の優先順位付け:

段階的アプローチにより、侵襲度の低い治療から開始し、効果不十分な場合に段階的に治療を強化していきます。

第1段階:薬物療法 + 患者教育 + 基本的リハビリテーション

第2段階:神経ブロック + 認知行動療法 + 集中的リハビリ

第3段階:ニューロモジュレーション + 集学的疼痛管理

予後因子の評価:

  • 痛みの持続期間と強度
  • 心理社会的要因(不安、抑うつ、破局的思考)
  • 併存疾患の有無
  • 治療に対するアドヒアランス

特に心理社会的要因は治療成績に大きく影響するため、治療開始時からの評価と介入が必要です。また、患者のQOLとADL改善を主要目標とし、現実的な治療目標設定を行うことが治療成功の鍵となります。

神経障害性疼痛の治療では、医師、薬剤師、理学療法士、心理士、看護師などによる多職種チームでの連携が不可欠です。患者中心の個別化治療により、最適な治療成果を得ることが可能となります。

参考:日本神経障害性疼痛ガイドライン改訂第2版の詳細な治療指針

https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline06.html

参考:脊髄刺激療法の適応と効果に関する専門情報

https://www.m.chiba-u.ac.jp/dept/neurosurgery/disease/scs/