制吐剤一覧と種類別効果や薬価比較

制吐剤一覧と種類別効果

制吐剤の主要分類
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ドーパミン受容体拮抗薬

ナウゼリン、プリンペランなど一般的な吐き気止め

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5-HT3受容体拮抗薬

がん化学療法の制吐療法で中心的役割

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NK1受容体拮抗薬

遅発性悪心・嘔吐に対する新しい選択肢

制吐剤の種類と作用機序別分類

制吐剤は作用機序によって複数のカテゴリーに分類されます。最も基本的な分類として、ドーパミン受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、副腎皮質ステロイドがあります。

ドーパミン受容体拮抗薬

  • ドンペリドン(ナウゼリン):薬価6.1-8.9円/錠
  • メトクロプラミドプリンペラン):消化管運動促進作用も併せ持つ
  • イトプリド(ガナトン):慢性胃炎に伴う消化器症状に使用

5-HT3受容体拮抗薬

  • グラニセトロン(カイトリル):薬価297.1-632.5円/錠
  • オンダンセトロン:注射液として使用
  • パロノセトロン(アロキシ):半減期が長く遅発性嘔吐にも効果的
  • ラモセトロン:悪性腫瘍薬に伴う悪心嘔吐に特化

NK1受容体拮抗薬

  • アプレピタント(イメンド):内服薬
  • ホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド):注射薬
  • ホスネツピタント:新しいNK1受容体拮抗薬

これらの薬剤は脳の化学受容体引金帯(CTZ)や嘔吐中枢に作用し、異なる受容体を標的とすることで制吐効果を発揮します。

制吐剤の薬価一覧と経済性評価

制吐剤の薬価は薬剤によって大きく異なります。経済性を考慮した薬剤選択は、医療費削減の観点からも重要な要素となります。

低価格帯の制吐剤

  • ドンペリドン各社後発品:6.1円/錠
  • ナウゼリン錠5mg:6.1円/錠
  • ナウゼリン錠10mg:8.8円/錠

中価格帯の制吐剤

  • グラニセトロン静注液1mg:594-1220円/管
  • グラニセトロン静注液3mg:664-1311円/管
  • オンダンセトロンODフィルム2mg:286.5円/錠

高価格帯の制吐剤

  • カイトリル錠1mg:297.1円/錠
  • カイトリル錠2mg:632.5円/錠
  • オンダンセトロンODフィルム4mg:341.3円/錠

坐剤の価格設定も特徴的で、ナウゼリン坐剤は10mg(33.4円)、30mg(52.8円)、60mg(76.5円)と用量に応じて価格が設定されています。後発品では同等の効果で約30-40%の薬価削減が期待できます。

制吐剤の副作用プロファイルと注意点

制吐剤の使用において、副作用の理解と適切な管理は患者安全の観点から極めて重要です。

デキサメタゾン(ステロイド系)

最も古くから使用されている制吐薬ですが、血糖上昇、不眠、消化性潰瘍などのリスクが無視できません。長期使用では免疫抑制作用も懸念されるため、使用期間と投与量の慎重な検討が必要です。

5-HT3受容体拮抗薬

一般的に忍容性は良好ですが、便秘、頭痛、めまいなどの副作用が報告されています。パロノセトロンは他の5-HT3受容体拮抗薬と比較して、5-HT3受容体との親和性が高く半減期が長いという特徴があります。

NK1受容体拮抗薬

比較的新しい薬剤群で、5-HT3受容体拮抗薬との併用が原則とされています。アプレピタント、ホスアプレピタント、ホスネツピタントの3種類がありますが、効果や副作用に種類による大きな差はないとされています。

ドーパミン受容体拮抗薬

錐体外路症状のリスクがあり、特に高齢者や長期使用時には注意が必要です。ドンペリドンは血液脳関門を通過しにくいため、中枢性副作用が比較的少ないとされています。

制吐剤の適応疾患と投与方法

制吐剤の適応は原因疾患や症状の重篤度によって大きく異なります。

がん化学療法関連

がん化学療法による悪心・嘔吐は催吐性リスクに応じて分類され、高度催吐性リスク(90%以上)、中等度催吐性リスク(30-90%)、軽度催吐性リスク(10-30%)、最小催吐性リスク(10%未満)に区分されます。

  • 高度催吐性リスク:5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用
  • 中等度催吐性リスク:5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの2剤併用
  • カルボプラチン(AUC≧4):中等度催吐性リスクだが、NK1受容体拮抗薬の追加を考慮

一般的な悪心・嘔吐

消化器疾患、薬剤性、感染症などによる悪心・嘔吐には、ドンペリドンやメトクロプラミドが汎用されています。症状の程度や原因に応じて単剤または併用療法を選択します。

特殊な適応

  • 放射線治療による悪心・嘔吐
  • 術後悪心・嘔吐(PONV)
  • 妊娠悪阻(使用可能な薬剤が限定される)
  • 小児における悪心・嘔吐(年齢・体重に応じた用量調整が必要)

投与ルートとしては、経口薬、注射薬、坐薬、ODフィルムなど多様な選択肢があり、患者の状態に応じて最適な投与方法を選択できます。

制吐剤選択の実践的アプローチと将来展望

臨床現場での制吐剤選択は、単に薬理学的特性だけでなく、患者個別の要因を総合的に考慮する必要があります。

個別化医療の視点

患者の年齢、腎機能、肝機能、併用薬、アレルギー歴などを考慮した薬剤選択が重要です。特に高齢者では薬物動態や感受性の変化により、標準的な投与量では過量となる可能性があります。

薬剤経済学的考慮

医療費抑制の観点から、同等の効果が期待できる場合は後発品の使用が推奨されます。しかし、剤形の違いや患者の服薬アドヒアランスも考慮する必要があります。坐薬は経口摂取困難な患者に有用ですが、薬価は錠剤より高く設定されています。

新規薬剤の動向

オランザピンが2017年に「抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状」に対して保険適用となり、急性期・遅発期ともに有効な新たな選択肢として注目されています。定型抗精神病薬としての既存薬を制吐目的で適応拡大した例として、今後も類似の開発が期待されます。

予防的制吐療法の進歩

遅発期のデキサメタゾン投与省略のエビデンスが示されるなど、制吐療法の最適化が進んでいます。患者のQOL向上と副作用軽減の両立を目指した治療戦略の構築が重要です。

多職種連携の重要性

制吐療法の成功には、医師、薬剤師、看護師の連携が不可欠です。特に薬剤師による服薬指導や副作用モニタリング、看護師による症状観察と患者教育が、治療効果の最大化に寄与します。

制吐剤の適切な選択と使用は、患者の治療継続性とQOL維持に直結する重要な要素です。最新のガイドラインに基づいた標準的治療を基本としつつ、個々の患者の状況に応じた柔軟な対応が求められます。

日本癌治療学会 制吐療法ガイドライン