オランザピン代替薬の選択
オランザピン代替薬としてのクエチアピンの特徴
クエチアピンは、オランザピンの代替薬として最も頻繁に選択される非定型抗精神病薬の一つです。オランザピン同様、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)に分類され、副作用としての錐体外路症状が少なく、血中のプロラクチン値も上がりにくいという長所を持ちます。
クエチアピンの主な特徴。
双極性障害では不安を有する割合が高く、不安障害の併存が生涯有病率は約45%であるとされています。クエチアピンは双極性障害に伴う不安、不安障害、不眠に有効であり、不安、不眠が伴う場合、不安障害の併存がある場合はクエチアピン、クエチアピン除法錠の選択が検討されます。
ただし、糖尿病の既往歴のある患者さんには禁忌であり、血糖値の上昇、体重増加などに注意が必要です。不眠に効果がある一方、眠気が残ることがあり慎重な用量調整が必要となります。
オランザピン代替薬としてのアリピプラゾールの位置づけ
アリピプラゾールは、オランザピンの代替薬として特に副作用プロファイルの改善を目的とした場合に選択される薬剤です。副作用が少なく鎮静効果が弱いことが特徴で、単剤使用がとくに望ましいとされています。
アリピプラゾールの特徴的な作用機序。
糖尿病を発症している患者に処方ができる薬剤として、リスペリドン、ペロスピロン、アリピプラゾール、ブロナンセリンが挙げられており、オランザピンで代謝系の副作用が問題となった場合の重要な選択肢となります。
飲み始め早期の不安、焦燥、アカシジアに注意が必要ですが、これらの症状は適切な用量調整により管理可能です。レキサルティ(ブレクスピプラゾール)は、アリピプラゾールよりもアカシジアやパーキンソン症状が出にくい改良された選択肢として位置づけられています。
オランザピン代替薬としてのルラシドンの臨床的意義
ルラシドン(商品名:ラツーダ)は、オランザピンの代替薬として比較的新しく導入された選択肢で、特に代謝系副作用の軽減を目的とした場合に重要な位置を占めています。
ルラシドンの臨床的特徴。
日本では承認順にオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン徐放錠(ビプレッソ)、ルラシドン(ラツーダ)が双極性障害のうつ状態に対して承認されています。ルラシドンは抗幻覚妄想作用および抗不安、抗うつ、認知の改善に優れているとされていますが、人によっては合わないことも多いという特徴があります。
アカシジア(手足がムズムズしたり、じっとしていられない感覚)が生じやすく、増量とともに生じるため増量時には慎重に経過をみる必要があります。この点で、オランザピンからの切り替え時には特に注意深い観察が必要となります。
オランザピン代替薬選択における患者背景の考慮
オランザピンの代替薬選択において、患者の個別の背景や併存疾患を考慮することは極めて重要です。実際の治療場面では、クエチアピン、クエチアピン除法錠(ビプレッソ)、オランザピン、ラツーダを併存している症状や治療経過などを考慮し、選択することになります。
代替薬選択の主要な考慮点。
- 糖尿病の既往歴の有無
- 体重増加の許容度
- 不安・不眠症状の程度
- 食欲低下の有無
- 認知機能への影響の重要性
食欲低下の悪化を認める場合や嘔気を伴う際は、食欲低下の改善や嘔気を改善する効果を持つオランザピンの特徴を代替薬で補完する必要があります。この場合、クエチアピンが選択されることが多く、同じく不眠に有効で深い睡眠がとれる効果があり、不眠が強い場合にも有効です。
ブロナンセリンは、抗幻覚・妄想作用は強く、血糖値の上昇、体重増加がほとんどなく、プロラクチンの上昇がおこりにくく鎮静が弱いという特徴を持ち、代謝系副作用を避けたい場合の選択肢となります。
オランザピン代替薬への切り替え方法と注意点
オランザピンから代替薬への切り替えは、単純な薬剤変更ではなく、慎重な計画と実施が必要な医療行為です。切り替えには三通りの方法があり、患者一人ひとりの病状や治療環境にあわせて最適な方法を選択します。
切り替え方法の種類。
- 単純置換法:前薬から非定型薬に一回で全変更する方法
- 漸減漸増法:前薬を徐々に減らしながら同時に非定型薬を開始し徐々に増やす方法
- 上乗せ漸減法:前薬はそのままで非定型薬を徐々に増やし、様子を観て前薬を減らす方法
切り替えに伴う注意すべき症状として、症状の再燃・増悪と離脱症状があります。精神病症状の悪化・易興奮性の出現では、不眠、不安、怒りっぽさ、独語・空笑、思考障害などが処方変更より少し経ってから生じることがあります。
離脱症状には「抗コリン性離脱」や「抗ドーパミン性離脱(スーパーセンスィティヴィティ・サイコーシス)」があり、薬剤変更の二日以内といった急性の症状出現が多いとされています。これらの不安定化を極力避けるため、漸減漸増法がもっともよく用いられ、数週間から数か月かけてゆっくり行います。
抗精神病薬の等価換算(CP換算)では、オランザピンは2.5の換算値を持ち、他の薬剤への切り替え時の用量設定の参考となります。家族にできることとして、どのような状態がいつから出現したかを観察し、メモをとって担当医に伝えることが重要です。
オランザピンの口腔内崩壊錠(ザイディス錠)から代替薬への切り替えでは、服薬しやすさも考慮する必要があり、液剤や口腔内崩壊錠などの「飲みやすい」バリエーションを持つ代替薬の選択も重要な要素となります。