循環器薬一覧
循環器疾患の治療において、適切な薬物療法の選択は患者の予後を大きく左右します。現在使用されている循環器薬は作用機序によって大きく10の分類に分けられ、それぞれが異なる病態に対して特異的な効果を発揮します。
医療従事者にとって重要なのは、各薬剤の特性を理解し、患者の病態に応じた最適な薬物選択を行うことです。本記事では、循環器薬の主要分類とその特徴について詳しく解説していきます。
循環器薬カルシウム拮抗薬の特徴と分類
カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)は、血管平滑筋や心筋のカルシウムチャネルを遮断することで治療効果を発揮する重要な循環器薬です。この薬剤群は化学構造により大きく2つに分類されます。
ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
- ニフェジピン(アダラート®)
- ニカルジピン(ペルジピン®)
- アムロジピン(ノルバスク®)
- シルニジピン(アテレック®)
これらの薬剤は主に血管拡張作用が強く、降圧効果に優れています。特にアムロジピンは長時間作用型で1日1回投与が可能なため、患者のアドヒアランス向上に寄与します。
非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
- ベラパミル(ワソラン®)
- ジルチアゼム(ヘルベッサー®)
非ジヒドロピリジン系は心筋への作用が強く、抗不整脈作用を有するのが特徴です。上室性頻脈性不整脈の治療に使用され、心収縮力を抑制する作用もあります。
重要な相互作用
Ca拮抗薬服用患者では、グレープフルーツジュースの摂取に注意が必要です。グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類がCYP3A4を阻害し、Ca拮抗薬の血中濃度が上昇することで降圧効果が増強される可能性があります。
臨床現場では、患者の年齢、腎機能、併用薬を考慮した薬剤選択が重要です。高齢者では代謝能力が低下しているため、長時間作用型の薬剤から少量開始することが推奨されます。
循環器薬ACE阻害薬とARBの違いと使い分け
レニン・アンジオテンシン系に作用する薬剤として、ACE阻害薬とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)があります。両薬剤は類似した降圧効果を示しますが、作用機序と副作用プロファイルに重要な違いがあります。
ACE阻害薬の特徴
ACE阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することでアンジオテンシンIIの生成を抑制します。代表的な薬剤には以下があります。
- エナラプリル
- リシノプリル
- ペリンドプリル
ACE阻害薬の重要な副作用として空咳があります。これはブラジキニンの分解が阻害されることが原因で、約10-15%の患者に発現します。空咳が問題となる場合は、ARBへの変更が検討されます。
ARBの特徴
ARBは、アンジオテンシンII受容体を直接遮断することで降圧効果を発揮します。主な薬剤には。
- ロサルタン
- バルサルタン
- テルミサルタン
- オルメサルタン
ARBはACE阻害薬と比較して空咳の発現頻度が低く、忍容性に優れています。また、糖尿病性腎症の進行抑制効果も確認されており、糖尿病合併高血圧患者での第一選択薬として位置づけられています。
臨床での使い分け
心不全患者では、ACE阻害薬が第一選択とされています。大規模臨床試験により心血管イベント抑制効果が確立されているためです。一方、ACE阻害薬が使用できない場合(空咳など)には、ARBが代替薬として使用されます。
腎機能障害患者では、両薬剤ともに腎保護効果が期待できますが、急性腎不全のリスクもあるため、定期的な腎機能モニタリングが必要です。
循環器薬β遮断薬の作用機序と適応
β遮断薬は、交感神経系のβ受容体を遮断することで心血管系に多面的な効果をもたらす重要な循環器薬です。心拍数減少、心収縮力抑制、血圧低下などの作用により、様々な循環器疾患の治療に使用されています。
β受容体の分類と作用
β受容体は主にβ1とβ2に分類され、それぞれ異なる生理作用を担います。
- β1受容体:主に心臓に分布し、心拍数と心収縮力を調節
- β2受容体:血管平滑筋、気管支平滑筋に分布し、血管拡張と気管支拡張を調節
β遮断薬の分類
選択性により以下のように分類されます。
選択的β1遮断薬
- メトプロロール
- アテノロール
- ビソプロロール
これらは心臓のβ1受容体を選択的に遮断するため、気管支喘息患者でも比較的安全に使用できます。
非選択的β遮断薬
- プロプラノロール
- ナドロール
β1とβ2の両方を遮断するため、気管支収縮作用があり、喘息患者では禁忌とされます。
α・β遮断薬
- カルベジロール
- ラベタロール
α受容体遮断作用も有するため、血管拡張効果が加わり、より強力な降圧効果を示します。
臨床適応と使い分け
心不全治療では、カルベジロール、メトプロロール、ビソプロロールが生命予後改善効果を示しており、標準治療として推奨されています。これらの薬剤は、心筋リモデリングを抑制し、突然死リスクを減少させます。
不整脈治療においては、β遮断薬は上室性および心室性不整脈の両方に有効です。特に、カテコラミン誘発性の不整脈に対して優れた効果を示します。
高血圧治療では、単独療法よりも他の降圧薬との併用療法が推奨されます。特に若年者や運動時高血圧を呈する患者では有効性が高いとされています。
循環器薬抗血小板薬と抗凝固薬の使い分け
血栓塞栓症の予防・治療において、抗血小板薬と抗凝固薬は重要な役割を果たします。両薬剤群は作用機序が異なるため、病態に応じた適切な選択が必要です。
抗血小板薬の分類と特徴
アスピリン
最も広く使用される抗血小板薬で、シクロオキシゲナーゼ(COX)を不可逆的に阻害することで血小板凝集を抑制します。低用量(75-100mg/日)で抗血小板効果を発揮し、心筋梗塞や脳梗塞の二次予防に使用されます。
クロピドグレル(プラビックス®)
P2Y12受容体拮抗薬として、ADP誘導性血小板凝集を阻害します。アスピリンとは異なる機序で作用するため、併用療法(DAPT:Dual Anti-Platelet Therapy)にも使用されます。
プラスグレル(エフィエント®)
クロピドグレルより強力で迅速な抗血小板効果を示します。急性冠症候群でのPCI後の血栓予防に優れた効果を発揮しますが、出血リスクも高くなります。
抗凝固薬の分類と特徴
ワルファリン(ワーファリン®)
ビタミンK拮抗薬として、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)の合成を阻害します。心房細動患者の脳卒中予防や人工弁置換術後の血栓予防に使用されます。
直接経口抗凝固薬(DOAC)
- ダビガトラン(プラザキサ®):直接トロンビン阻害薬
- リバーロキサバン(イグザレルト®):直接Xa阻害薬
- アピキサバン(エリキュース®):直接Xa阻害薬
- エドキサバン(リクシアナ®):直接Xa阻害薬
DOACはワルファリンと比較して、薬物相互作用が少なく、定期的なモニタリングが不要という利点があります。
使い分けの原則
動脈血栓症(心筋梗塞、脳梗塞)の予防には抗血小板薬が、静脈血栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)や心房細動の予防には抗凝固薬が選択されます。
急性冠症候群患者では、アスピリンとP2Y12阻害薬の併用療法が標準治療とされていますが、出血リスクと血栓リスクのバランスを考慮した投与期間の決定が重要です。
循環器薬選択における副作用管理と薬物相互作用
循環器薬の選択において、有効性とともに安全性の確保は極めて重要です。特に高齢者や多疾患併存患者では、副作用や薬物相互作用のリスク評価が治療成功の鍵となります。
主要な副作用と対策
カルシウム拮抗薬の副作用
- 末梢浮腫:ジヒドロピリジン系で頻度が高く、利尿薬の併用や薬剤変更を検討
- 歯肉増殖:長期使用で発現する可能性があり、口腔ケアの重要性を指導
- 反射性頻脈:急激な血圧低下により生じるため、緩徐に降圧することが重要
ACE阻害薬・ARBの副作用
- 高カリウム血症:腎機能低下患者で注意が必要、定期的な電解質モニタリング
- 急性腎不全:脱水時や腎血管性高血圧患者でリスクが高い
- 血管浮腫:まれだが重篤な副作用、特にACE阻害薬で注意
β遮断薬の副作用
- 徐脈:過度の心拍数減少は心不全悪化のリスク
- 気管支収縮:喘息・COPD患者では慎重投与
- 血糖値への影響:糖尿病患者では血糖モニタリングが必要
薬物相互作用の管理
CYP酵素系を介する相互作用
多くの循環器薬がCYP酵素系で代謝されるため、併用薬による相互作用に注意が必要です。
- CYP3A4阻害薬(マクロライド系抗菌薬等)とCa拮抗薬の併用
- CYP2D6阻害薬とβ遮断薬の併用
薬力学的相互作用
高齢者での特別な配慮
高齢者では生理機能の低下により、薬物動態・薬力学が変化します。
- 腎機能低下による薬物蓄積のリスク
- 起立性低血圧のリスク増加
- 転倒リスクと血管内脱水の評価
ポリファーマシーへの対応
多剤併用患者では、薬剤の優先順位付けと定期的な見直しが重要です。Evidence-based medicineに基づいた必須薬剤の継続と、リスク・ベネフィット比を考慮した薬剤の減量・中止を検討します。
循環器疾患治療薬の詳細な薬理作用と副作用について詳しく解説された兵庫県病院薬剤師会の資料
心不全治療薬の分類と使い分けについて患者向けにもわかりやすく説明されたサイト
循環器薬の適切な選択と管理には、個々の患者の病態、併存疾患、生活環境を総合的に評価することが不可欠です。薬物療法の最適化により、患者のQOL向上と予後改善を実現することができます。