JADERの副作用情報とデータベース検索方法と医薬品リスク評価

JADERの副作用情報とデータベースの活用

この記事のポイント
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JADERの基本と検索

医薬品医療機器総合機構(PMDA)が提供する日本最大の副作用報告データベース。基本的な使い方と効果的な情報検索のコツを解説します。

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データ解釈の注意点

自発報告データの特性に起因するバイアスや限界を理解し、報告オッズ比(ROR)などのシグナル指標を正しく解釈する方法を学びます。

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発展的な活用と未来

FAERSとの比較、リスク管理への応用、そしてAIを活用した最新のデータ解析アプローチまで、JADERを使いこなすための応用知識を紹介します。

JADERの基本的な使い方と副作用情報の検索方法

 

JADER(Japanese Adverse Drug Event Report database)は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が管理・公開している日本国内の医薬品副作用報告データベースです 。医療従事者や製薬企業から自発的に報告された「副作用が疑われる症例」に関する情報が集積されており、市販後の医薬品安全性監視(ファーマコビジランス)において極めて重要な役割を担っています 。
JADERは主に以下の3つのテーブルから構成されています。

  • DEMOテーブル:患者の性別、年齢、体重などの患者背景情報
  • DRUGテーブル:被疑薬、併用薬などの医薬品情報
  • REACテーブル:副作用の具体的な内容(有害事象)や転帰(回復、死亡など)に関する情報

これらのテーブルを症例識別番号をキーとして連結することで、特定の薬剤がどのような患者背景で、いつ頃、どのような副作用を引き起こしたかを多角的に分析できます 。
基本的な使い方としては、PMDAのウェブサイトからCSV形式でデータをダウンロードし、データベースソフトや統計解析ソフトに取り込んで使用します 。例えば、特定の医薬品名でDRUGテーブルを検索し、「被疑薬」として報告されている症例を抽出します 。次に、その症例識別番号を使ってREACテーブルとDEMOテーブルから関連情報を引き出すことで、副作用の傾向を把握することができます 。

参考)医薬品副作用データベース 利用規約


検索の際には、薬剤名は一般名で検索することが推奨されます。また、副作用名はMedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)という国際的な医学用語辞書に基づいてコード化されているため、MedDRAの階層構造を理解しておくと、より精度の高い分析が可能です 。例えば、「肝機能障害」に関連する副作用を調べる際に、個別の事象名(ALT上昇、AST上昇など)だけでなく、より上位の階層(System Organ Class: SOC)である「肝胆道系障害」で絞り込むといった使い方が考えられます。

参考)「JADERを用いたデータマイニング(主に不均衡分析によるシ…


PMDA公式サイトでは、JADER利用時の注意点や利用規約が公開されています。研究や論文で利用する際は、PMDAのデータベースを利用した旨を明記する必要があります 。

JADERの利用規約とダウンロードはこちらで確認できます。
医薬品副作用データベース 利用規約 – PMDA

JADERデータ解釈の注意点と報告データの限界

JADERは非常に有用な情報源ですが、そのデータを解釈・利用する際には、自発報告データベース(Spontaneous Reporting System: SRS)特有の限界とバイアスを十分に理解しておく必要があります 。これらの注意点を無視して結論を導くと、誤った判断につながる可能性があります 。
第一に、報告バイアスの存在が挙げられます 。

参考)https://www.msi.co.jp/solution/stuaward/2022/Alkano_2.pdf

  • 過少報告(Under-reporting):すべての副作用が報告されるわけではなく、特に軽微なものや既知の副作用は報告されにくい傾向があります 。
  • 過剰報告(Over-reporting):新しい医薬品、メディアで話題になった副作用、重篤な副作用などは、注目度が高いために報告が集まりやすい傾向があります 。

第二に、分母情報の欠如という本質的な限界があります 。JADERには副作用が「報告された数」はありますが、その医薬品が「投与された総患者数」の情報がないため、副作用の発生率そのものを計算することはできません 。したがって、「報告数が多い=リスクが高い」と短絡的に結論づけることはできません。
この限界を補うために、ファーマコビジランスでは「シグナル検出」という手法が用いられます。これは、特定の医薬品と有害事象の組み合わせが、データベース全体で期待される以上に多く報告されていないかを統計的に評価するものです。代表的な指標に報告オッズ比(Reporting Odds Ratio: ROR)比例報告比(Proportional Reporting Ratio: PRR)があります 。しかし、これらの指標もあくまで「報告の多さの偏り」を示すものであり、因果関係やリスクの大きさを直接示すものではないことに注意が必要です 。RORの値の大小を単純比較してリスクの序列をつけることは、誤った解釈につながるため避けるべきです 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5937044/


さらに、原疾患の影響や併用薬による相互作用の可能性も考慮しなければなりません 。ある有害事象が報告されても、それが本当に被疑薬によるものか、元々の病状の悪化なのか、あるいは他の薬剤の影響なのかをJADERのデータだけで判断するのは困難です 。これらの限界を理解した上で、JADERはあくまで「仮説生成」や「リスクの種の発見」のためのツールとして位置づけ、得られたシグナルについては、より厳密な疫学研究などで検証していく姿勢が求められます 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rsmp/6/3/6_335/_pdf


JADERを用いた研究の留意点について、チェックリスト形式でまとめられた有用な資料があります。
JADER を用いた研究発表の際に留意すべき チェックリストの提案

JADERとFAERSなど他の副作用データベースとの比較

医薬品の副作用情報を収集するデータベースはJADERだけではありません。国際的に最も広く利用されているものの一つに、米国食品医薬品局(FDA)が管理するFAERS(FDA Adverse Event Reporting System)があります 。JADERとFAERSは、どちらも自発報告データベースですが、その規模、報告制度、データ構造にはいくつかの違いがあり、両者を比較・理解することで、よりグローバルな視点での安全性評価が可能になります。

比較項目 JADER (日本) FAERS (米国)
管轄機関 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) 食品医薬品局 (FDA)
データ規模 FAERSと比較して報告症例数は少ない傾向にあります 。 世界最大級のデータベースであり、日本からの報告(FAERS_J)も含まれます 。
報告者 主に医療従事者、製薬企業からの報告が中心です。 医療従事者、製薬企業に加え、患者や消費者からの直接報告も多く含まれます。
言語・用語 日本語。副作用名はMedDRA-Jで管理されています。 英語。副作用名はMedDRAで管理されています。
シグナル検出傾向 報告数が少ないため、統計的シグナルの検出感度がFAERSより低い場合があります 。95%信頼区間が広くなりやすく、シグナルとして検出しにくいことがあります 。 膨大なデータ量により、稀な副作用のシグナルも検出しやすい可能性があります 。

研究によると、同じ医薬品でもJADERとFAERSでは検出される副作用シグナルのプロファイルが異なることが報告されています 。これは、人種差(遺伝的背景)、医療制度、承認されている用法・用量、併用薬の違いなどが影響していると考えられます 。例えば、ある研究では、直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血性有害事象の報告プロファイルが、日米のデータベースで異なることが示唆されています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11254796/


したがって、JADERとFAERSは単に優劣を競うものではなく、相互に補完し合うべき情報源として捉えることが重要です 。日本の医療環境に特有の事象を深く分析するにはJADERが不可欠ですが、国際的な安全性プロファイルを把握したり、稀な副作用の初期シグナルを探索したりする際には、FAERSを併用することで、より頑健な安全性評価につながります 。両方のデータベースを解析することで、特定の有害事象が特定の国や地域に偏っているのか、それとも国際的に共通の課題なのかを明らかにすることができます 。

参考)https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2024.1485190/pdf


JADERとFAERSのデータを比較分析した論文です。両データベースの特性の違いがよくわかります。
FAERSデータとJADERデータの比較

医薬品の安全性評価とリスク管理におけるJADERの応用

JADERは、個別の症例を検討するだけでなく、医薬品全体の安全性プロファイルを評価し、適切なリスク管理策を講じる上で不可欠なツールです 。製薬企業や規制当局は、JADERのデータを活用して市販後医薬品の安全性監視(ファーマコビジランス)活動を行っています。
JADERの応用における中核的な概念が「シグナル検出(Signal Detection)」です 。シグナルとは、医薬品と有害事象との間の未知の因果関係の可能性を示唆する、報告された情報のことです 。JADERのようなデータベースをマイニングし、ROR(報告オッズ比)などの統計指標を用いて、予期せぬ副作用の組み合わせが突出して報告されていないかを探索します 。

参考)https://cbi-society.org/home/documents/seminar/2017to20/CBI389_Sawada.pdf


シグナルが検出された場合、それは直ちに因果関係を意味するわけではありません 。それはあくまで「さらなる調査が必要な仮説」の提示です 。シグナル検出後のプロセスは以下のように進みます。

  1. シグナルの検証:報告された症例の詳細な医学的評価、類似症例の集積状況の確認、薬理学的な機序の考察などを行います。
  2. シグナルの評価:その有害事象の重篤度、社会的インパクト、代替薬の有無などを考慮し、シグナルが持つ意味合いを総合的に評価します。
  3. リスク最小化活動の立案:評価の結果、対応が必要と判断された場合、添付文書の改訂(「重大な副作用」への追記など)、医療従事者への注意喚起(安全性速報など)、患者向け資材の作成といったリスク最小化計画(RMP: Risk Management Plan)を策定・実施します。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による未知の免疫関連有害事象(irAE)のシグナルがJADERから検出されれば、それが添付文書改訂のきっかけとなる可能性があります 。また、高齢者における非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の特定の副作用プロファイルを分析し、適正使用を促すための情報提供につながった例もあります 。
このように、JADERは市販後の「リアルワールドデータ」に基づいて医薬品のリスクを継続的に監視・評価し、より安全な薬物治療を実現するための重要な基盤となっているのです 。

参考)https://libir.josai.ac.jp/il/user_contents/02/G0000284repository/pdf/JOS-PhDZ86.pdf

JADERのデータ解析を効率化するAI技術の活用と今後の展望

JADERに代表される自発報告データベースは、その膨大なデータ量とノイズの多さから、人手による解析には限界があります 。近年、この課題を克服し、より迅速かつ精密な副作用シグナルを検出するために、AI(人工知能)技術、特に機械学習(Machine Learning)を活用する研究が世界的に進んでいます 。
従来のリスク指標(RORなど)は2つの変数(薬剤と副作用)の関連を見るものが主でしたが、AIを用いることで、患者背景(年齢、性別、基礎疾患)、併用薬、投与期間といった多数の要因を同時に考慮した多次元的な解析が可能になります 。これにより、「どのような患者で」「どの薬剤を併用したときに」「特定の副作用のリスクが高まるか」といった、より臨床現場で役立つ詳細な知見を得ることが期待されています。

具体的な応用例としては、以下のような研究が進められています。

  • 未知の副作用候補の探索:機械学習モデルにJADERのデータを学習させ、これまで認識されていなかった潜在的な副作用の組み合わせを探索的に抽出する試みが行われています 。
  • リスク因子の特定:特定の副作用(例:転倒、せん妄)が報告された症例群に共通する患者背景や併用薬のパターンをAIが学習し、リスク因子を特定する研究が進んでいます 。
  • SNSデータの活用:X(旧Twitter)などのSNS上の投稿から副作用に関する言及をAIが自動で抽出し、JADERの公式報告を補完する情報源として活用する研究も始まっています 。これにより、公式には報告されにくい軽微な副作用や、患者が実際に感じているQOLの低下などを早期に検知できる可能性があります 。

さらに、創薬の分野では、AIが細胞レベルの膨大なデータを学習し、新薬候補の「薬効」と「副作用」を高精度で予測する基盤モデルの開発も進んでいます 。将来的には、JADERのようなリアルワールドデータと、こうしたAIによる予測モデルを組み合わせることで、開発段階から市販後に至るまで、一貫した高精度な安全性評価が実現するかもしれません。
AIによる副作用解析はまだ発展途上であり、モデルの解釈性や予測精度など課題は残されています 。しかし、AI技術がJADERのポテンシャルを最大限に引き出し、医薬品の安全性を新たな次元へと引き上げる強力なツールとなることは間違いないでしょう。

参考)臨床薬学領域におけるAIアナリティクスを活用した医療ビッグデ…


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