胃内容停滞と原因と診断と治療と経腸栄養

胃内容停滞と原因と診断

胃内容停滞:現場で迷わない要点
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まず「機能」と「器質」を分ける

胃排出能低下(運動機能異常)か、閉塞・狭窄などの器質疾患かで初動が変わります。

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症状は「食後」を軸に整理

胃もたれ、早期飽満感、嘔気などは胃排出遅延と整合しやすく、問診で再現性を確認します。

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検査は「除外」と「定量」を使い分け

内視鏡で器質疾患を除外し、必要時は胃排出シンチや13C呼気試験などで排出能を評価します。

胃内容停滞の症状と機能性ディスペプシア

 

胃内容停滞は「胃の運動機能低下」によって胃から十二指腸への内容移動が遅れ、食後の胃もたれ・食後膨満感・嘔気、早期飽満感などとして表面化しやすい状態です。特に機能性ディスペプシア(FD)では、胃排出能低下や胃の適応性弛緩障害(食事時に胃が拡張して貯留する能力の低下)が関与するとされ、症状の出方が「食後」に偏ることが臨床上の手掛かりになります。胃もたれを「胃酸」だけの問題に寄せすぎると、運動機能異常(=胃内容停滞)への介入が遅れ、患者の訴えと説明のズレが生じやすい点に注意が必要です。

医療従事者向けの実務ポイントとしては、症状を「量(どれくらい食べると出るか)」「時間(食後何分〜何時間で出るか)」「再現性(毎回か、特定の食品で悪化か)」で切ると、胃排出能低下の輪郭がはっきりします。FDでは器質的異常がない前提で診断されるため、患者側は「検査で異常がない=気のせい」と受け取ることがありますが、胃運動の異常という“機能”の問題であることを丁寧に言語化すると治療継続につながります。

  • 典型的に問題になりやすい訴え:胃もたれ、早期飽満感、嘔気、食後の不快感
  • 「胃内容停滞」を疑う補助所見:食後の症状優位、少量摂取での増悪、経口摂取や経腸栄養で胃残が増えやすい
  • まず除外したい赤旗:体重減少、吐血・黒色便、進行する嚥下困難、強い貧血など(施設プロトコルに従い対応)

参考リンク(FDでの胃排出能低下・症状の整理に有用)。

機能性ディスペプシアの病態(胃運動機能異常・胃排出能低下)と診断の考え方

胃内容停滞の原因と糖尿病と自律神経

胃内容停滞の原因は多因子ですが、臨床で見落とされやすいのが糖尿病に伴う胃排出遅延(いわゆる糖尿病性胃不全麻痺の文脈)です。糖尿病では胃排出遅延がしばしば見られるとされ、胃排出シンチグラフィを用いた検討では、胃排出時間(T1/2)の遅延群で自律神経障害を有する者が多かった、とする報告もあります。また同研究では、HbA1cの改善と胃排出時間短縮が関連したという観察が示され、血糖コントロールが排出能に影響しうる点が示唆されています。

ここで重要なのは、「胃内容停滞 → 食事が進まない → 低栄養」だけでなく、「胃内容停滞 → 食後血糖のピークが読めない → 血糖管理が乱れる」という逆方向の臨床問題も起きうることです。糖尿病患者で“食後高血糖が遅れて出る”“食後すぐの低血糖がある”など、時間軸のズレが目立つ場合、胃排出遅延が背景にある可能性があります。

参考リンク(糖尿病と胃排出遅延、シンチ評価の概要が確認できるPDF要約)。

胃排出シンチグラフィを用いた糖尿病患者の胃排出遅延と合併症の関連(論文要約PDF)

胃内容停滞の診断と内視鏡と胃排出能検査

胃内容停滞の診断は、①症状・経過(食後症状、嘔気、胃もたれ、胃残など)で疑い、②器質疾患を除外し、③必要なら胃排出能を“定量”する、の3段階で考えると整理しやすいです。FDの診断では内視鏡や必要な検査で器質的疾患がないことを確認する流れが一般的で、胃排出能低下は病態の一部として位置づけられます。

胃排出能検査としては、胃排出シンチグラフィが代表例で、施設や適応によっては13C-acetate呼気試験のような非侵襲的評価も選択肢になります。13C-acetate呼気試験は「採血さえも不要な無侵襲検査」とされ、臨床的に有用とする記載があり、患者負担の観点で利点があります。嚥下が不安定な患者や、検査準備が難しい患者では、何をもって“定量”とするかをチームで合意しておくと、診療と看護の足並みが揃います。

  • 診断で押さえるべき「除外」
  • 内視鏡:腫瘍、潰瘍、狭窄、出血など器質疾患の評価
  • 画像:腸閉塞が疑わしい場合などは適応に応じて
  • 血液:炎症、貧血、電解質異常、甲状腺機能など状況に応じて

参考リンク(13C-acetate呼気試験の非侵襲性と評価の考え方が読めるPDF)。

13C-acetate呼気試験による胃排出能評価(日本核医学領域のPDF)

胃内容停滞の治療とメトクロプラミドとドンペリドン

胃内容停滞が「消化管運動の低下」に由来する場合、消化管運動改善薬(いわゆるプロキネティクス)の位置づけが検討されます。日本の緩和医療領域の資料では、ドパミンD2受容体拮抗作用をもつ消化管運動改善薬としてメトクロプラミド、ドンペリドンが挙げられ、上部消化管運動を亢進し、制吐作用も示す旨が整理されています。また同資料では、ドンペリドンは血液脳関門を通過しにくく末梢作用が主体と考えられる、という薬理学的特徴にも言及されています。

実務上は「胃内容停滞=とりあえず制吐薬」ではなく、(1)原因の方向性(運動低下か、閉塞か、薬剤性か)、(2)症状の中核(嘔気が主か、胃もたれが主か、逆流・誤嚥が問題か)、(3)副作用プロファイル(錐体外路症状リスク、QT延長リスクなど施設の安全管理)、を揃えてから選択するほうが安全です。さらに、経腸栄養中の患者では「胃内容停滞→逆流→誤嚥」という連鎖が起きやすく、薬剤だけでなく投与設計(速度、濃度、投与形態)を同時に触るのが現実的です。

  • チェックリスト(処方前の確認)
  • 器質的閉塞・腸閉塞の疑い:画像や診察で先に評価
  • 併用薬:抗コリン薬、オピオイドなど運動低下を悪化させる薬の確認
  • 高齢者・腎機能低下:副作用と用量調整を施設基準

参考リンク(メトクロプラミド/ドンペリドンの位置づけと薬理がまとまったPDF)。

消化管運動改善薬(メトクロプラミド、ドンペリドン等)の薬理と注意点(緩和医療領域PDF)

胃内容停滞の独自視点と麻酔と誤嚥リスク

検索上位では「胃もたれ」や「FD」中心の説明が多い一方で、医療安全の観点からは“胃内容停滞は麻酔・鎮静のリスク因子になりうる”という整理が現場で効きます。日本麻酔科学会の術前絶飲食ガイドラインは、待機的手術患者を対象に絶飲食の考え方を示しつつ、消化管狭窄患者や消化管機能障害患者などは適応外(慎重対応が必要)である旨を明記しています。つまり「絶食時間を守ったから安全」と単純化せず、胃内容停滞が疑われる患者は“別枠”としてリスク評価を上げる発想が重要です。

さらに近年はGLP-1受容体作動薬が胃排出を遅らせ得る点が話題で、絶食していても固形胃内容物が残り、麻酔導入時の誤嚥が懸念される症例報告が取り上げられています。これは「胃内容停滞=消化器症状」だけでなく、「胃内容停滞=周術期の気道リスク」という横断的な視点でチーム連携(外科・麻酔・病棟・内視鏡室)を促す材料になります。

  • 周術期・検査鎮静前に共有したい情報
  • 直近の摂食状況(固形/液体、最終摂取時刻)
  • 胃内容停滞を疑う背景(糖尿病、自律神経障害、GLP-1作動薬、オピオイドなど)
  • 嘔気・嘔吐の既往、逆流症状、誤嚥リスク(嚥下機能、体位保持困難)

参考リンク(術前絶飲食の基本と、消化管機能障害など適応外条件が書かれているPDF)。

日本麻酔科学会 術前絶飲食ガイドライン(適応・注意点)

参考リンク(GLP-1作動薬と麻酔時の胃内容残留・誤嚥懸念の文脈がつかめる日本語記事)。

GLP-1受容体作動薬と麻酔リスク(絶食でも胃内容が残る症例の話題)

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