胃出口部閉塞と治療
胃出口部閉塞の原因と悪性と良性
胃出口部閉塞(gastric outlet obstruction;GOO)は、幽門部〜十二指腸にかけての通過障害により、摂食が進まず嘔気・嘔吐、胃内容停滞を来す病態として整理すると理解しやすいです。
原因は大きく悪性(胃癌・膵癌など腫瘍による狭窄)と良性(消化性潰瘍の瘢痕狭窄、炎症性浮腫など)に分けて考えるのが実臨床で有用です。
悪性GOOでは経口摂取困難が悪液質やQOL低下に直結し、低栄養・電解質異常が長引くと致死的になり得るため、症状緩和だけでなく「全身治療を回すための通過路確保」という意味合いも持ちます。
原因鑑別で重要なのは「時間軸」です。数週〜数か月で進行する体重減少や貧血、腹水の併存は悪性を疑う材料になりますが、良性でもNSAIDs関連潰瘍や反復潰瘍の既往があると幽門狭窄へ進展します。
また、良性でも“炎症性浮腫で一時的に狭く見える”ことがあり、内視鏡での観察と経過での再評価が治療方針(拡張か手術か)を左右します。
医療従事者向けに押さえたい点として、GOOは「病名」ではなく「症候群」で、原因疾患の同定が治療の本体である、という立て付けを最初に共有しておくとチーム内の意思決定が揃いやすくなります。
胃出口部閉塞の症状と嘔吐と電解質異常
典型症状は食後の膨満感、胃もたれ、遷延する嘔気・嘔吐、経口摂取困難で、重症化すると脱水と腎前性腎不全を伴います。
嘔吐が数日にわたり持続すると、胃酸(H+とCl-)の喪失により低クロール性代謝性アルカローシスを来しやすい点は、GOOの“病態生理の芯”として重要です。
さらに低K血症は、単純な胃液喪失だけでなく、アルカローシスに伴う腎でのK排泄増加などが関与し得るため、「補液=生食」「K補正」をセットで考えると実装しやすいです。
ここで意外に見落とされやすいのが、「嘔吐量が減った=改善」とは限らない点です。閉塞が高度になると、摂取そのものができず嘔吐回数が一時的に減る一方、胃内には内容物が貯留し続け、誤嚥や穿孔リスクは上がり得ます。
また、悪性GOOでは栄養障害が強く、補液のみでは循環は保てても治療の土台(化学療法導入、緩和の目標設定)が整いません。
病棟では、バイタルや尿量に加え、Cl・K・HCO3-(あるいは血ガス)を「閉塞が続いているサイン」として追うと、胃管管理や輸液調整の説明責任を果たしやすくなります。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_21481
胃出口部閉塞の検査とCTと内視鏡
検査の軸は、腹部CTで閉塞部位を同定し、多発閉塞がないことを確認したうえで、造影検査や内視鏡で狭窄の詳細を評価する流れが実務的です。
特に悪性が疑われる場合、CTは局所の狭窄だけでなく、腹膜播種や腹水、遠隔転移など“治療選択に直結する背景”をまとめて把握できる点で価値があります。
内視鏡は原因診断(腫瘍、潰瘍瘢痕、炎症)と治療の可能性(ステント留置、拡張、出血源評価)を同時に担うため、初期対応で全身を整えた後に速やかに段取りするとよいです。
上部消化管造影は、狭窄の長さ・形態や通過状況を視覚化しやすく、内視鏡治療の事前評価としても役立ちます。
健診領域でも「狭窄=通過障害」を示す所見として説明され、悪性腫瘍や潰瘍のサインになり得ると整理されています。
参考)https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/health-checkup/assets/files/mdl.pdf
現場の工夫としては、CTで胃の著明拡張があれば先に胃管で減圧してから内視鏡に臨むと、誤嚥リスク低減や視野確保につながりやすく、鎮静の安全性にも寄与します。
胃出口部閉塞の治療と胃管と補液
内科初期対応は、原則として絶飲食と補液が基本で、重症例では経鼻胃管などで減圧を行う、という考え方がベースになります。
悪性GOOでも良性GOOでも、最初に「吐けない状況(胃内貯留)」を解除しないと、輸液をしても症状が前に進まず、誤嚥・電解質異常・腎機能悪化の連鎖が止まりません。
代謝性アルカローシスを伴う嘔吐では、尿中Clが低い“Cl反応性”のパターンが多く、治療の中心が生理食塩液になる、という整理は教育的にも有用です。
実装上のポイントを箇条書きでまとめます。
- 🧪 採血はNa/K/Cl、腎機能、血ガス(可能なら)を初期と補正後で追い、補液が「効いているか」を電解質で確認します。
- 🚰 補液は循環血液量とCl補充を意識し、生食を軸にKを安全域で補正します。
- 🧯 胃管は症状緩和だけでなく、内視鏡・麻酔(鎮静)の安全性を上げる“前処置”として位置づけるとチームで共有しやすいです。
良性狭窄が疑われるときは、原因治療(潰瘍治療、NSAIDs中止、H. pylori対応など)を並走させつつ、狭窄が固定化しているか(瘢痕)を見極めます。
一方、悪性が強いときは「いつ経口摂取を再開させたいか」「抗腫瘍治療を入れるのか」「緩和のゴールは何か」を、減圧で落ち着いたタイミングで早めに共有すると、ステントかバイパスかの議論が前に進みます。
胃出口部閉塞の内視鏡とステントと独自視点
悪性GOOに対しては、近年、内視鏡的な胃十二指腸ステント留置(自己拡張型金属ステント:SEMS)が標準治療の選択肢の一つとして位置づけられ、低侵襲に通過障害を改善できる点が強みです。
内視鏡的ステントは外科的胃空腸バイパスと比べ、経口摂取再開までの期間や入院期間が短く、短期偶発症が少ない傾向が示され、特に予後が限られた症例で第一選択と考えられる場面があります。
一方でステントは再閉塞や逸脱などの機能不全が一定割合で起こり得て、腫瘍増殖(ingrowth)と逸脱のトレードオフ(uncoveredとcoveredの差)が治療戦略に影響します。
独自視点として強調したいのは、「ステントかバイパスか」を“手技の優劣”で語るより、「この患者の残り時間の中で、食べること・治療を受けること・家に帰ることのどれを最優先するか」というアウトカム設計で話すほうが、現場の合意形成が速い点です。
文献では、予後が長く見込まれる症例ではバイパスが有利となり得る可能性や、全身状態(PS)による層別化の考え方が提示されており、「短期の速さ」を取るのか「長期の開存」を取るのかを患者背景で決める発想が現実的です。
さらに、抗腫瘍療法(化学療法)を前提とする場合、ステントが早期導入を助ける一方で、治療薬(例:血管新生阻害薬)と穿孔リスクの議論など“腫瘍内科と内視鏡の接点”が出てくるため、施設内での運用ルール(相談タイミング、禁忌整理)を作ると事故が減ります。
- 🧠 ちょっと意外な盲点:GOOでは「乳頭部をまたぐ狭窄」の場合、胆道ドレナージの選択肢が制限され得るため、ステント留置前から胆道側の出口戦略(経乳頭か、経皮か、EUSか)を一緒に考える必要があります。
- 🧷 現場のコツ:狭窄長が長くステント複数本が想定されるときは、臨床的不成功のリスク因子になり得るため、早い段階で外科・緩和・腫瘍内科を交えた方針決定が有用です。
- 📌 チェック項目:腹水や全身状態不良は臨床的成功率が下がる報告があり、適応判断の“赤信号”として共有しておくと安全です。
参考:悪性GOOに対する内視鏡的ステント留置の位置づけ、成功率、バイパスとの比較、ステントの種類(covered/uncovered)と課題がまとまっています。
J-STAGE:悪性十二指腸閉塞に対する内視鏡的ステント留置術の現状と展望
参考:消化管閉塞に対するステント治療の概要、CTや造影・内視鏡での評価の流れが簡潔に整理されています。