ビリルビン代謝異常症の種類と黄疸の病態

ビリルビン代謝異常症の種類と特徴

ビリルビン代謝異常症の基本情報
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定義

ビリルビンの生成、代謝、排泄過程のいずれかに障害が生じ、体内にビリルビンが蓄積する遺伝性疾患群

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分類

主に非抱合型(間接型)高ビリルビン血症と抱合型(直接型)高ビリルビン血症の2つに大別される

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主な症状

黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)、重症例では核黄疸(ビリルビン脳症)のリスクあり

ビリルビンは、主に老化した赤血球のヘモグロビンから生成される物質で、血液中ではアルブミンと結合して肝臓へ運ばれます。肝臓でグルクロン酸抱合を受けて水溶性に変わり、胆汁中に排泄されるという代謝経路をたどります。このビリルビン代謝過程のどこかに障害が生じると、体内にビリルビンが蓄積し、様々な症状を引き起こします。

ビリルビン代謝異常症は、大きく分けて非抱合型(間接型)高ビリルビン血症と抱合型(直接型)高ビリルビン血症の2つに分類されます。それぞれの疾患には特徴的な症状や遺伝形式、治療法があります。

ビリルビン代謝異常症の非抱合型高ビリルビン血症

非抱合型高ビリルビン血症は、ビリルビンのグルクロン酸抱合過程に障害がある状態です。主な疾患としては以下のものがあります。

  1. クリグラー・ナジャール症候群I型
    • UGT1A1酵素の完全欠損による最重症型
    • 血清間接ビリルビン値が20mg/dL以上に上昇
    • 新生児期から重度の黄疸が持続
    • 核黄疸(ビリルビン脳症)のリスクが非常に高い
    • フェノバルビタールに反応しない
    • 治療:光線療法、最終的には肝移植が必要
  2. クリグラー・ナジャール症候群II型
    • UGT1A1酵素活性が正常の約10%に低下
    • 血清間接ビリルビン値は6〜20mg/dLの範囲
    • I型より軽症だが、依然として重度の黄疸を呈する
    • フェノバルビタールに反応して血清ビリルビン値が低下
    • 治療:フェノバルビタール投与が有効
  3. ジルベール症候群
    • 最も頻度が高く、人口の2〜7%に存在
    • UGT1A1遺伝子のプロモーター領域のTATAAボックスに変異
    • UGT1A1酵素活性が正常の25〜30%に低下
    • 血清間接ビリルビン値は通常2〜6mg/dL程度
    • 無症状であることが多く、ストレスや空腹時に黄疸が悪化
    • 治療:通常不要、生活指導のみ

クリグラー・ナジャール症候群は常染色体劣性遺伝形式をとり、両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継ぐことで発症します。一方、ジルベール症候群は、日本人では主にUGT1A16やUGT1A128などの遺伝子多型が関与しています。

ビリルビン代謝異常症の抱合型高ビリルビン血症

抱合型高ビリルビン血症は、肝細胞でグルクロン酸抱合を受けたビリルビンの排泄過程に障害がある状態です。主な疾患には以下のものがあります。

  1. デュビン・ジョンソン症候群
    • ABCC2遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝疾患
    • 毛細胆管膜に存在するMRP2(多剤耐性関連蛋白2)の欠損
    • 抱合型ビリルビンの胆汁中への排泄障害
    • 肝臓に特徴的な黒色色素沈着
    • 尿中コプロポルフィリンI分画が80%以上
    • 臨床症状は軽度で、主に黄疸のみ
    • 治療:通常不要
  2. ローター症候群
    • SLCO1B1およびSLCO1B3遺伝子の両方の変異による常染色体劣性遺伝疾患
    • 肝細胞の有機アニオン輸送ポリペプチドOATP1B1とOATP1B3の欠損
    • デュビン・ジョンソン症候群と類似した臨床像
    • 肝臓に色素沈着はない
    • 尿中総コプロポルフィリン排泄量が増加し、I分画が約65%
    • 治療:通常不要

これらの疾患は、抱合型ビリルビンが血中に逆流することで黄疸を呈しますが、胆汁うっ滞の所見はなく、肝機能検査も正常であることが特徴です。

ビリルビン代謝異常症の診断と検査方法

ビリルビン代謝異常症の診断には、以下の検査が重要です。

  1. 血液検査
    • 総ビリルビン値
    • 直接(抱合型)ビリルビン値と間接(非抱合型)ビリルビン値の比率
    • 肝機能検査(AST、ALT、ALP、γ-GTPなど)
    • 溶血の有無を確認する検査(網状赤血球数、ハプトグロビンなど)
  2. 尿検査
    • 尿中ビリルビンの有無(抱合型高ビリルビン血症では陽性)
    • 尿中ウロビリノーゲンの測定
    • コプロポルフィリン分画分析(デュビン・ジョンソン症候群とローター症候群の鑑別)
  3. 遺伝子検査
    • UGT1A1遺伝子解析(クリグラー・ナジャール症候群、ジルベール症候群)
    • ABCC2遺伝子解析(デュビン・ジョンソン症候群)
    • SLCO1B1およびSLCO1B3遺伝子解析(ローター症候群)
  4. 特殊検査
    • フェノバルビタール負荷試験(クリグラー・ナジャール症候群I型とII型の鑑別)
    • 色素排泄試験(ICG試験、BSP試験など)
    • 肝生検(デュビン・ジョンソン症候群の特徴的な色素沈着の確認)

診断においては、まず非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症かを鑑別し、次に各疾患に特徴的な所見を確認していくアプローチが取られます。

ビリルビン代謝異常症の治療法と管理方法

ビリルビン代謝異常症の治療は、疾患の種類と重症度によって異なります。

  1. クリグラー・ナジャール症候群I型
    • 光線療法(青色光によるビリルビンの異性化を促進)
    • 血漿交換療法(重症例)
    • 肝細胞移植や肝幹細胞移植(研究段階)
    • 肝移植(根治的治療)
    • 遺伝子治療(将来的な治療法として研究中)
  2. クリグラー・ナジャール症候群II型
    • フェノバルビタール(1.5〜2mg/kg/日、UGT1A1酵素誘導)
    • 必要に応じて光線療法
  3. ジルベール症候群
    • 通常治療は不要
    • 患者教育(空腹や疲労時に黄疸が悪化することの説明)
    • 肝疾患ではないことの説明と安心の提供
  4. デュビン・ジョンソン症候群とローター症候群
    • 通常治療は不要
    • 定期的な経過観察
    • 薬物代謝に影響する可能性があるため、薬剤使用時の注意

特に重要なのは、クリグラー・ナジャール症候群I型の患者では、核黄疸(ビリルビン脳症)を予防するための厳格な管理が必要です。一方、ジルベール症候群やデュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群は良性の経過をたどることが多く、患者の不安を軽減するための適切な説明が重要です。

ビリルビン代謝異常症と薬物相互作用の重要性

ビリルビン代謝異常症を持つ患者では、薬物代謝にも影響が及ぶことがあり、薬物相互作用に注意が必要です。これは臨床現場ではあまり強調されていない重要な側面です。

  1. ジルベール症候群と薬物代謝
    • イリノテカン(抗がん剤):UGT1A1によって代謝されるため、重篤な副作用のリスクが増加
    • アタザナビル、インジナビル(抗HIV薬):高ビリルビン血症を悪化させる可能性
    • スタチン系薬剤:筋肉障害のリスクが増加する可能性
  2. デュビン・ジョンソン症候群と薬物排泄
    • MRP2は多くの薬物の胆汁排泄に関与するため、以下の薬剤の代謝に影響。
    • ローター症候群とOATP基質薬物
      • OATP1B1/1B3は多くの薬物の肝取り込みに関与するため、以下の薬剤の代謝に影響。
        • スタチン系薬剤(特にロスバスタチン、ピタバスタチン)
        • サルタン系薬剤(高血圧治療薬)
        • 一部の抗生物質

これらの薬物相互作用は、治療の安全性に大きく影響する可能性があります。特に、ジルベール症候群は人口の2〜7%と頻度が高いため、臨床医はこれらの相互作用に注意を払う必要があります。

ビリルビン代謝と薬物相互作用に関する詳細な研究

ビリルビン代謝異常症の患者に薬物療法を行う際は、事前に遺伝子多型の検査を行うことで、薬物有害反応のリスクを軽減できる可能性があります。特にがん化学療法や抗HIV療法など、治療域の狭い薬剤を使用する場合は注意が必要です。

最近の研究では、ビリルビンの肝臓内循環(肝臓-血液循環)の重要性が明らかになっています。MRP3とOATP1Bタンパク質が形成する類洞側の肝臓-血液循環は、ビリルビンやその他の基質を門脈周囲肝細胞から中心静脈周囲肝細胞へとシフト(ホッピング)させる役割を果たしています。この知見は、ローター症候群の分子メカニズムの解明に貢献しました。

ビリルビン代謝異常症の患者では、これらの相互作用を考慮した薬物選択と用量調整が重要です。また、患者自身も自分の体質について理解し、新たな薬剤を使用する際には医師や薬剤師に伝えることが大切です。

以上のように、ビリルビン代謝異常症は単なる黄疸の原因疾患としてだけでなく、薬物療法の安全性にも関わる重要な疾患群です。特にジルベール症候群は頻度が高いため、臨床現場での認識を高めることが重要です。