アキネトン 販売中止 なぜ 抗パーキンソン薬 治療薬

アキネトン 販売中止 なぜ

 

アキネトン販売中止の概要
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販売中止時期

2023年に販売中止となり、現在は入手困難な状況となっています

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主な用途

パーキンソン病治療や向精神薬の副作用対策として長年使用されてきた薬剤

中止の理由

原薬製造の問題や需給バランスの変化が主な要因と考えられています

 

アキネトンとは パーキンソン病 治療薬としての歴史

アキネトンは一般名をビペリデン塩酸塩といい、1955年にドイツのクノール社で開発された合成抗コリン性の抗パーキンソン剤です。日本では1964年から発売され、約60年もの長い歴史を持つ医薬品でした。「アキネトン」という商品名は、英語の「Akinetic(運動不能の)」と「tone(身体・精神の正常な状態)」を組み合わせたもので、「運動不能の状態を正常にする」という意味が込められています。

この薬剤は、パーキンソン病やパーキンソン症候群における筋強剛、無動、振戦などの症状改善に効果を発揮します。また、向精神薬投与によって生じる薬剤性パーキンソニズムやアカシジア、ジスキネジアなどの錐体外路症状の治療にも広く使用されてきました。特に精神科領域では、抗精神病薬の副作用対策として欠かせない薬剤として位置づけられていました。

アキネトンは錠剤(1mg)と細粒(1%)の2つの剤形があり、患者さんの状態や年齢に応じて使い分けられてきました。2007年には医療事故防止対策の一環として、「アキネトン錠」から「アキネトン錠1mg」、「アキネトン細粒」から「アキネトン細粒1%」へと名称変更が行われました。

アキネトン 販売中止の経緯と具体的な時期

アキネトンの販売中止は突然のことではなく、段階的に進行していきました。まず、ビペリデン塩酸塩のジェネリック医薬品において供給問題が発生しました。2022年頃から、「ビペリデン塩酸塩錠1mg「ヨシトミ」」などのジェネリック製品が出荷停止や限定出荷となりました。

田辺三菱製薬株式会社が製造販売していた「ビペリデン塩酸塩錠1mg「ヨシトミ」」は、2023年2月上旬頃に在庫が消尽する見込みとなり、出荷停止となりました。この背景には、原薬を製造している海外の製造所において、コロナ禍に関連して当該国当局から別製品供給優先の要請があり、原薬を製造できなくなったという事情がありました。

そして先発品であるアキネトンにも影響が波及し、2023年に住友ファーマ(旧大日本住友製薬)からの販売が中止されることとなりました。ジェネリック医薬品の供給問題により、先発品であるアキネトンへの処方が集中したことで、在庫確保が困難になったことも一因と考えられています。

現在、KEGGの医薬品データベースによれば、2025年2月時点でもアキネトン錠1mgとアキネトン細粒1%は薬価収載されていますが、実際には入手困難な状況が続いています。

アキネトン 販売中止の理由 製薬会社の説明

アキネトンの販売中止について、製薬会社からの公式な説明は限定的ですが、いくつかの要因が考えられます。

第一に、原薬調達の問題があります。ジェネリック医薬品メーカーの田辺三菱製薬は、ビペリデン塩酸塩製剤の出荷停止について、「原薬を製造している海外の製造所にて、コロナ禍に関連して当該国当局から別製品供給優先の要請があったため、原薬を製造できなくなった」と説明しています。このような原薬調達の問題は、先発品であるアキネトンにも影響を与えた可能性があります。

第二に、需要と供給のバランスの変化が挙げられます。抗コリン薬は、その副作用プロファイルから近年では使用が限定的になってきていました。特に高齢者では認知機能低下のリスクがあり、また緑内障患者では眼圧上昇による失明リスクもあるため、使用が制限されていました。そのため、「比較的若い振戦が目立つパーキンソン病の患者さん以外、最近ではあまり使われなくなって」いたという背景があります。

第三に、代替薬の存在も影響しているでしょう。アキネトン以外にも、トリヘキシフェニジル塩酸塩(アーテン)などの抗コリン薬や、他の作用機序を持つパーキンソン病治療薬が存在します。ただし、アーテンについても武田薬品が出荷を停止するなど、抗コリン薬全体の選択肢が減少している状況です。

製薬会社としては「製薬会社としての重要な使命であります医薬品の安定供給が確保できず、貴学会会員の皆様、患者様に多大なご迷惑をおかけすることとなり、心よりお詫び申し上げます」と表明しており、安定供給の難しさを認めています。

アキネトン 販売中止の影響 患者さんと医療現場への影響

アキネトンの販売中止は、長年この薬を使用してきた患者さんや医療現場に大きな影響を与えています。

まず、パーキンソン病患者への影響が挙げられます。アキネトンは特に振戦(ふるえ)に効果があるとされており、この症状に悩む患者さんにとっては重要な治療選択肢でした。販売中止により、治療方針の変更を余儀なくされるケースが出ています。

また、精神科領域での影響も大きいと考えられます。アキネトンは抗精神病薬による錐体外路症状(アカシジアなど)の対処薬として広く使用されてきました。ある患者さんは「20年来双極性障害を患っています。アカシジアが起きた時のために頓服で1日1mgを処方してもらっています」と述べており、長期間にわたって症状管理に役立ってきた薬剤です。

医療現場では、代替薬への切り替えが必要となり、その過程で以下のような課題が生じています:

  1. 代替薬の選定:個々の患者さんに合った代替薬を選ぶ必要があります
  2. 用量調整:新しい薬剤への切り替え時には、効果と副作用のバランスを見ながら慎重に用量を調整する必要があります
  3. 患者教育:新しい薬剤の服用方法や注意点について、患者さんへの説明が必要です
  4. モニタリング:切り替え後の症状変化や副作用の出現に注意深く対応する必要があります

特に注意すべき点として、アキネトンを含む抗コリン薬を急に中止すると離脱症状が出る可能性があるため、「急激な減量や中止は避け」るよう注意喚起されています。

アキネトン 販売中止後の代替薬と今後の展望

アキネトンの販売中止を受けて、医療現場では代替薬の検討が進められています。現時点で考えられる主な代替薬には以下のようなものがあります:

【抗コリン薬】

  • トリヘキシフェニジル塩酸塩(アーテン):アキネトンと同様の抗コリン作用を持つ薬剤ですが、こちらも武田薬品が出荷を停止するなど供給に課題があります
  • プロフェナミン(パーキン):別の抗コリン薬ですが、使用頻度は多くありません

【他の作用機序を持つパーキンソン病治療薬】

  • レボドパ製剤:パーキンソン病の標準治療薬
  • ドパミンアゴニスト:プラミペキソール(ビ・シフロール)、ロピニロール(レキップ)など
  • MAO-B阻害薬:セレギリン(エフピー)、ラサギリン(アジレクト)など
  • COMT阻害薬:エンタカポン(コムタン)など
  • ゾニサミド(トレリーフ):てんかん治療薬として開発されましたが、パーキンソン病にも効果があります

【精神科領域での代替薬】

  • アマンタジン(シンメトレル):抗パーキンソン作用に加え、抗精神病薬による錐体外路症状にも効果があります
  • ベンゾジアゼピン系薬剤:アカシジアなどに対して短期的に使用されることがあります

今後の展望としては、まず供給再開の可能性が考えられます。原薬調達の問題が解決すれば、再び製造・販売が再開される可能性もあります。住友ファーマの公式サイトでは、アキネトン錠1mg/細粒1%の「新発売/販売中止のお知らせ」欄に「現在お知らせは掲載しておりません」とあり、状況が変化する可能性も残されています。

また、医薬品の安定供給という観点から、国内での原薬製造体制の強化や、複数の供給源の確保など、医薬品サプライチェーンの強靭化が求められています。特に長期間使用されてきた基礎的な医薬品については、突然の供給停止が患者さんに与える影響が大きいため、安定供給のための仕組み作りが重要です。

医療現場では、アキネトンの販売中止を機に、改めて抗コリン薬の位置づけや使用方法について再検討する動きも見られます。抗コリン薬は効果がある一方で、口渇、便秘、認知機能低下などの副作用もあるため、特に高齢者では慎重な使用が求められてきました。今後は、より副作用の少ない新規治療薬の開発や、既存薬の適正使用に関する研究が進むことが期待されます。

アキネトン 販売中止と医薬品供給問題の構造的課題

アキネトンの販売中止は、単に一つの医薬品の問題ではなく、医薬品供給体制における構造的な課題を浮き彫りにしています。この問題を多角的に考察してみましょう。

まず、医薬品の原薬調達におけるグローバルサプライチェーンの脆弱性が挙げられます。多くの医薬品は原薬を海外から輸入しており、パンデミックや国際情勢の変化、自然災害などの影響を受けやすい構造になっています。アキネトンの場合も、「原薬を製造している海外の製造所にて、コロナ禍に関連して当該国当局から別製品供給優先の要請があった」ことが出荷停止の原因となりました。

次に、長期収載品(特許切れの先発医薬品)の経済的持続可能性の問題があります。薬価改定による継続的な価格引き下げにより、製造コストに見合わない状況が生じ、製薬企業が製造を中止するケースが増えています。アキネトンの薬価は錠剤で5.7円/錠、細粒で22.7円/gと低価格であり、採算性の観点から継続的な製造・販売が難しくなっていた可能性があります。

さらに、需要予測の難しさも課題です。医療現場での処方傾向は徐々に変化していきますが、突然の供給問題が生じると、代替薬への切り替えや先発品への処方集中が起こり、需給バランスが崩れることがあります。アキネトンの場合も、ジェネリック医薬品の供給問題により先発品への処方が集中し、在庫確保が困難になったという側面があります。

これらの問題に対する対策としては、以下のような取り組みが考えられます:

  1. 国内製造体制の強化:重要医薬品については国内での原薬製造能力を確保する
  2. 複数供給源の確保:一つの製造所に依存しない調達体制の構築
  3. 安定供給のための経済的インセンティブ:基礎的医薬品の安定供給を支援する仕組み
  4. 早期の情報共有と代替薬への移行計画:供給問題が予想される場合の早期警戒システム
  5. 医療機関・薬局での在庫管理の最適化:急な供給停止に備えた適切な在庫確保

医薬品は単なる商品ではなく、患者さんの健康や生命に直結する重要な社会インフラです。特に長年使用されてきた基礎的医薬品については、市場原理だけでなく、公衆衛生の観点からの政策的アプローチも必要でしょう。

アキネトンの販売中止は、医薬品の安定供給という課題に対して、製薬企業、医療機関、規制当局、そして患者団体を含めた多様なステークホルダーによる協力の重要性を改めて示す出来事となりました。今後、同様の問題を防ぐための体制整備が進むことが期待されます。

日本製薬工業協会による医薬品の安定供給に関する取り組みについての詳細情報