偏頭痛の治療薬選択と適応
偏頭痛急性期治療薬の選択基準
偏頭痛の急性期治療では、患者の年齢、妊娠・授乳の有無、頭痛の重症度に応じて適切な治療薬を選択することが重要です。
小児や妊娠・授乳期の患者では、まずアセトアミノフェンを第一選択薬として検討します。アセトアミノフェンは比較的副作用が少なく、肝障害のリスクを除けば安全性が高い薬剤です。血中半減期は約2.4時間で、作用時間は約6時間程度継続します。
成人患者では、頭痛の重症度に応じた段階的な治療アプローチが推奨されています。
- 軽度~中等度の頭痛:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使用
- 中等度~重度の頭痛:トリプタン製剤を使用
NSAIDsには、イブプロフェン(ブルフェン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)などがあり、多くは30分~3時間で最高血漿中濃度に到達し、約6~10時間の作用時間を示します。ただし、消化性潰瘍、アスピリン喘息、妊娠末期では禁忌となるため注意が必要です。
軽度~中等度の頭痛でもNSAIDsの効果が不十分な場合は、MRI検査などで二次性頭痛の可能性を除外した上で、トリプタン製剤への変更を検討します。
トリプタン製剤の効果的使用法
トリプタン製剤は、セロトニン受容体5-HT1B/1Dに選択的に作用する片頭痛特異的治療薬であり、急性期治療の主役として位置づけられています。
作用機序の特徴。
- 血管収縮作用:5-HT1B受容体を介して拡張した血管を収縮させる
- 神経炎症抑制作用:5-HT1D受容体を介して硬膜三叉神経血管系の炎症を抑制
- 随伴症状の改善:痛みだけでなく、悪心・嘔吐、光過敏、音過敏も改善
国内で使用可能なトリプタン製剤は5種類あり、それぞれ薬物動態が異なります。
薬剤名 | 最高血漿中濃度到達時間 | 血中半減期 | 作用時間の目安 |
---|---|---|---|
スマトリプタン | 注射薬:12分、錠剤:1.8時間 | 1.5-2.2時間 | 約4-6時間 |
ゾルミトリプタン | 2.0-3.0時間 | 2.4-3.0時間 | 約12-24時間 |
リザトリプタン | 1.0-1.3時間 | 1.6-1.7時間 | 約8-12時間 |
エレトリプタン | 1.0時間 | 3.2時間 | – |
ナラトリプタン | 2.7時間 | 5.1時間 | – |
適切な使用タイミングが治療効果を左右します。頭痛が始まったらなるべく早急に、遅くとも1時間以内に内服することが推奨されています。約半数の患者で服薬タイミングが遅れているという報告があり、以下の理由が挙げられています。
- 本当に片頭痛発作かわかるまで待つため
- 重度の発作の時だけ服薬したいから
- 副作用や薬剤依存への懸念
ただし、片頭痛の予兆(肩こり、疲労感、あくび、抑うつ感、感覚過敏など)の段階では使用せず、頭痛が始まったことを確認してから内服することが重要です。
禁忌と注意事項。
虚血性心疾患、末梢血管障害、脳血管障害、コントロールされていない高血圧症では禁忌です。高齢者や低用量ピルとの併用は慎重投与が必要で、エルゴタミン製剤との併用は禁忌とされています。
偏頭痛予防薬の適応と効果
偏頭痛予防薬は、頭痛の程度や頻度を徐々に軽減させる目的で使用され、以下の適応で検討されます。
- 頭痛の頻度が多い(鎮痛薬の使用が月10回以上)
- トリプタン製剤は効くが効果が弱い
- 発作回数や頭痛の程度の軽減を目指す場合
主要な予防薬の分類。
1. 抗うつ薬
アミトリプチリン(トリプタノール)は、三環系抗うつ薬として最も確立された片頭痛予防薬の一つです。プラセボ対照無作為化比較試験(RCT)が3件実施され、50~150mg/日を8週間、50~100mg/日を4週間、30~60mg/日を27週間の投与で一貫して片頭痛の予防効果が報告されています。
メタアナリシスでも有用性が示されており、プロプラノロールとの比較試験では8週間の治療で両者の予防効果はほぼ同等でした。特に緊張型頭痛を伴う片頭痛患者において、アミトリプチリンがより高い有効率を示している点が注目されます。
脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の再取り込みを阻害することで、下行性疼痛抑制系を活性化し、鎮痛効果を発揮します。抗片頭痛作用が抗うつ効果に起因するかは明確ではありませんが、臨床的には抑うつ状態の有無にかかわらず、慢性頭痛の予防に有効です。
2. カルシウム拮抗薬
- ロメリジン(ミグシス)
- ベラパミル(ワソラン)
3. 抗てんかん薬
- バルプロ酸(デパケン、セレニカ)
- トピラマート(トピナ)
- レベチラセタム(イーケプラ)
- ガバペンチン(ガバペン)
4. β遮断薬
プロプラノロール(インデラル)
5. CGRP関連抗体薬
- エムガルティ
- アジョビ
- アイモビーグ
これらの予防薬は即効性がないため、原則として毎日服用します。頭痛が起きた時に服用しても鎮痛効果は期待できません。
ラスミジタンによる新治療戦略
2022年1月にセロトニン1F受容体作動薬のラスミジタン(レイボー)が国内で製造承認され、片頭痛治療に新たな選択肢が加わりました。
ラスミジタンの特徴。
ラスミジタンは低分子の選択的セロトニン1F受容体作動薬として開発され、従来のトリプタン製剤とは異なる作用機序を持ちます。セロトニン1F受容体に結合することにより、CGRP(頭痛の原因となる物質)等の頭痛発作を誘発する物質の放出を抑制する効果があります。
従来のトリプタン製剤との違い。
POINT 1:頭痛が始まってからでも効果が強い
従来のトリプタン製剤では早期投与が重要でしたが、ラスミジタンは頭痛が進行した後でも高い効果を示すとされています。
POINT 2:頭痛のぶり返しが少ない
トリプタン製剤で時々見られる頭痛の再発(リバウンド)が少ないという特徴があります。
治療効果の特徴。
臨床現場では、トリプタン不応性やCGRP製剤抵抗性の頭痛患者でも、その他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と比較して鎮痛効果が得られる傾向が報告されています。これは、従来の治療に反応しにくい患者群に対する新たな治療選択肢として期待されています。
米国では2019年10月に「成人に対する前兆を伴う又は伴わない片頭痛の急性期治療」を適応として承認されており、日本でも同様の適応で使用可能です。
適応患者の選択。
ラスミジタンは特に以下の患者群で有用性が期待されます。
- 従来のトリプタン製剤で十分な効果が得られない患者
- トリプタン製剤の禁忌がある患者(心血管疾患など)
- 頭痛の進行後に治療を開始することが多い患者
偏頭痛治療薬の副作用管理と患者指導
偏頭痛治療薬の安全で効果的な使用には、適切な副作用管理と患者指導が不可欠です。
トリプタン製剤の副作用管理。
トリプタン製剤の主な副作用には、中枢副作用(めまい、眠気、倦怠感)、悪心・嘔吐、胸部圧迫感、息苦しさ、体の痛みなどがあります。各薬剤の副作用発現率は以下の通りです。
- ゾルミトリプタン:12.6%
- スマトリプタン:5.5%
- リザトリプタン:4.2%
- エレトリプタン:7.1%(中枢副作用は比較的少ない)
- ナラトリプタン:比較的少ない
薬剤選択の個別化。
年齢や性別、過去の使用歴を参考にして5種類のトリプタン製剤から選択しますが、薬効や副作用には大きな個人差があります。最初に処方した薬剤で効果が不十分な場合や副作用が出現した場合は、少量から開始して慎重に効果と副作用を確認しながら、患者に最適な薬剤と用法を探索することが重要です。
嘔気・嘔吐への対応。
片頭痛では頭痛とともにひどい嘔気・嘔吐を伴うことがしばしばあります。我慢せずに早期の制吐剤使用を推奨し、毎回嘔気・嘔吐がある場合は制吐剤の予防的投与や内服薬から点鼻薬への変更も検討します。
主な制吐剤。
- メトクロプラミド(プリンペラン)
- ドンペリドン(ナウゼリン)
薬物乱用頭痛の予防。
鎮痛薬の過度な使用は薬物乱用頭痛を引き起こす可能性があります。月10回以上の鎮痛薬使用がある場合は予防薬の導入を検討し、急性期治療薬の適切な使用方法について患者教育を行うことが重要です。
患者への服薬指導ポイント。
- 頭痛開始後1時間以内の早期投与の重要性
- 予兆期での服薬は避ける
- 副作用出現時の対応方法
- 薬剤依存への不安に対する適切な説明
- 頭痛ダイアリーの記録による治療効果の評価
これらの包括的なアプローチにより、患者個々の病態に応じた最適な偏頭痛治療を提供することが可能となります。