呼吸器疾患の種類と症状から診断まで

呼吸器疾患の種類と分類

呼吸器疾患の基本情報
🫁

疾患の多様性

呼吸器疾患は腫瘍、感染症、アレルギー、自己免疫性疾患など多岐にわたります

📊

患者数の増加

高齢化社会により呼吸器疾患患者は増加傾向にあります

🔍

早期発見の重要性

多くの呼吸器疾患は早期発見・治療が予後改善に繋がります

呼吸器疾患は、上気道から肺、胸膜に至るまでの呼吸器系に発生する様々な病気の総称です。日本では高齢化に伴い呼吸器疾患の患者数は増加傾向にあり、WHOの統計によると2020年の世界における死因の3位から5位をCOPD、呼吸器感染症、肺がんが占めています。

呼吸器疾患は非常に多岐にわたりますが、大きく分けると病巣による分類と病態による分類があります。病巣による分類では、上気道疾患、気管・気管支疾患、肺疾患、胸膜疾患に分けられます。一方、病態による分類では、感染性疾患、閉塞性肺疾患、拘束性肺疾患、肺腫瘍、アレルギー性疾患、肺循環障害、機能的呼吸障害などに分類されます。

医療従事者として患者さんの症状を正確に把握し、適切な診断・治療を行うためには、これらの分類を理解し、各疾患の特徴を把握することが重要です。

呼吸器疾患の閉塞性肺疾患の特徴と種類

閉塞性肺疾患は、気道が狭くなることで空気の流れが妨げられる疾患群です。代表的な疾患としては、慢性閉塞性肺疾患COPD)、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎などがあります。

COPDは、タバコ煙を主とする有害物質の長期吸入により生じる肺の炎症性疾患です。40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されていますが、大多数が未診断、未治療の状態であると考えられています。COPDの主な症状は、労作時呼吸困難や慢性のせき、たんです。診断にはスパイロメトリーという呼吸機能検査が必要で、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であれば、COPDと診断されます。

気管支喘息は、気管支(気道)の粘膜にアレルギー性の炎症が起こり、気管支平滑筋が収縮することにより気道が狭窄し、発作性の呼吸困難が生じる疾患です。主な症状は、喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイ)を伴う呼吸苦で、咳嗽や喀痰も伴うことが多いです。治療の中心は、非発作期における治療で、副腎皮質ホルモンを含む吸入薬を継続することが重要です。

閉塞性細気管支炎は、特発性もしくは様々な原因により末梢気道である細気管支の不可逆的閉塞を来すことにより呼吸不全を呈する疾患です。マイコプラズマやウイルス感染、自己免疫疾患、移植医療などの誘因により発症することがありますが、原因が全く推測できない特発性症例もあります。臨床症状は乾性咳嗽や労作時呼吸困難で、呼吸機能検査では閉塞性換気障害を示します。

呼吸器疾患の感染性疾患と治療アプローチ

呼吸器感染症は、細菌、ウイルス、真菌などの病原体によって引き起こされる疾患群です。主な疾患としては、肺炎、気管支炎、結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症などがあります。

肺炎は、肺実質の炎症を特徴とする疾患で、市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎、誤嚥性肺炎などに分類されます。市中肺炎は、市中で発症した肺炎で、肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマなどが主な原因菌です。院内肺炎は、入院後48時間以降に発症した肺炎で、緑膿菌、MRSA、クレブシエラなどが主な原因菌です。医療・介護関連肺炎は、医療施設や介護施設に関連して発症した肺炎で、院内肺炎と同様の耐性菌が原因となることが多いです。

結核は、結核菌による感染症で、主に肺に病変を形成しますが、全身のさまざまな臓器にも影響を及ぼすことがあります。現在も毎年1万人以上の方が肺結核の診断を受けており、決して過去の病気ではありません。主な症状には、発熱、倦怠感、2週間以上続く咳、痰や血液が混じった血痰、寝汗などがあります。診断は、胸部X線検査やCT検査、喀痰検査などで行います。治療は、抗結核薬を数種類使った治療を半年以上行うことが必要です。

非結核性抗酸菌症は、結核菌以外の抗酸菌による感染症で、マイコバクテリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラーレによって発症するケースが多いです。結核菌と異なり、ヒトからヒトへの感染はありません。

呼吸器感染症の治療アプローチは、原因病原体の特定と適切な抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬の選択が重要です。また、重症例では酸素療法や人工呼吸管理が必要となることもあります。

呼吸器疾患の間質性肺疾患と診断基準

間質性肺疾患は、肺の間質(肺胞と血管の間の組織)に炎症や線維化が生じる疾患群です。特発性間質性肺炎膠原病関連間質性肺炎、薬剤性肺障害、過敏性肺炎などが含まれます。

特発性間質性肺炎は、原因不明の間質性肺炎で、特発性肺線維症(IPF)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)などに分類されます。特に特発性肺線維症は、進行性で予後不良な疾患であり、早期診断と適切な治療が重要です。

膠原病関連間質性肺炎は、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎・多発性筋炎、シェーグレン症候群などの膠原病に伴って発症する間質性肺炎です。膠原病の活動性とともに肺病変も悪化することが多いため、基礎疾患のコントロールが重要です。

薬剤性肺障害は、薬剤の副作用として発症する肺障害で、抗がん剤、抗リウマチ薬、抗生物質など様々な薬剤が原因となります。原因薬剤の中止と、重症例ではステロイド治療が行われます。

間質性肺疾患の診断には、高分解能CT検査、肺機能検査、気管支肺胞洗浄液検査、肺生検などが用いられます。特に高分解能CT検査は、間質性肺疾患の診断において非常に重要な役割を果たします。治療は、原因の除去、ステロイド薬や免疫抑制薬の投与、抗線維化薬の使用などが行われますが、疾患によって治療法が異なります。

呼吸器疾患の肺循環障害と最新治療

肺循環障害は、肺血管系の異常により肺循環に障害が生じる疾患群です。肺高血圧症、肺塞栓症、肺動静脈奇形などが含まれます。

肺高血圧症は、肺動脈圧が異常に上昇する状態で、肺動脈性肺高血圧症、左心疾患に伴う肺高血圧症、肺疾患や低酸素血症に伴う肺高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、分類不明の肺高血圧症に分類されます。特に肺動脈性肺高血圧症は、特発性または遺伝性のものが多く、進行性で予後不良な疾患です。

肺塞栓症は、血栓などにより肺動脈が閉塞する疾患で、深部静脈血栓症からの血栓が肺動脈に流れ込むことが主な原因です。急性発症の場合は、突然の呼吸困難、胸痛、失神などの症状を呈し、重症例では循環不全を伴うこともあります。診断には、造影CT検査、肺血流シンチグラフィ、肺動脈造影などが用いられます。

肺循環障害の治療は、原因疾患の治療と肺高血圧に対する治療が行われます。肺動脈性肺高血圧症に対しては、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン誘導体などの肺血管拡張薬が使用されます。慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対しては、バルーン肺動脈形成術や肺動脈血栓内膜摘除術などの手術療法も考慮されます。

最近では、肺高血圧症に対する新規治療薬の開発や、バルーン肺動脈形成術の技術向上など、治療の進歩が著しい分野です。特に、リオシグアトやセレキシパグなどの新規薬剤の登場により、治療の選択肢が広がっています。

呼吸器疾患の難病指定と障害認定基準

呼吸器疾患の中には、厚生労働省の難病対策事業で指定されている難病があります。2025年現在、呼吸器系疾患に分類される指定難病は13疾病あり、α1-アンチトリプシン欠乏症、サルコイドーシス、特発性間質性肺炎、肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症、肺動脈性肺高血圧症、肺胞蛋白症、閉塞性細気管支炎などが含まれます。

これらの難病に罹患し、重症度を満たす場合は、医療費の助成を受けることができます。例えば、閉塞性細気管支炎の場合、BOS(閉塞性細気管支炎症候群)の病期分類でBOS1以上(%FEV1が80%未満)が対象となります。

また、呼吸器疾患による障害は、障害年金の対象となることがあります。呼吸器疾患の障害認定は、肺結核、じん肺、呼吸不全、慢性気管支喘息の4つに区分されています。特に、在宅酸素療法を施行中で、かつ軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度は3級、日常生活状況等によっては2級の場合もあります。

在宅酸素療法を受けている方は、特例として在宅酸素療法を開始した日が障害認定日となります。これは、通常の障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)よりも早く障害年金の申請ができることを意味します。

呼吸器疾患の障害認定には、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等が総合的に考慮されます。

医療従事者として、患者さんの経済的負担を軽減するためにも、これらの制度について理解し、適切な情報提供や支援を行うことが重要です。

閉塞性細気管支炎(指定難病228)の詳細情報
呼吸器疾患の障害認定基準に関する詳細情報

呼吸器疾患は多岐にわたり、それぞれに特徴的な症状や診断方法、治療法があります。医療従事者として、これらの知識を深め、患者さんに適切な医療を提供することが求められています。また、難病指定や障害認定などの制度についても理解し、患者さんの生活の質の向上に貢献することが重要です。

特に、COPDや肺がんなどの呼吸器疾患は、早期発見・早期治療が予後の改善に繋がります。定期的な健康診断や、症状がある場合の早期受診を患者さんに促すことも、医療従事者の重要な役割の一つです。

さらに、喫煙は多くの呼吸器疾患のリスク因子となるため、禁煙指導や禁煙支援も積極的に行うことが望ましいでしょう。環境因子や職業性曝露による呼吸器疾患の予防にも注意を払い、総合的な呼吸器疾患の管理を心がけることが大切です。