乾癬性関節炎 治療 ガイドライン
乾癬性関節炎の治療でガイドラインが重視するTreat to Targetと評価指標
乾癬性関節炎(PsA)は末梢関節炎だけでなく、体軸病変、付着部炎、指趾炎、皮膚・爪病変など複数ドメインが絡み、放置すると不可逆的な関節破壊やQOL低下につながるため、早期診断と早期治療が強調されます。
このためガイドラインは、寛解または低疾患活動性を明確な治療目標に置き、定期的に活動性を評価して薬剤調整するTreat to Target(T2T)の考え方を診療の中心に据えます。
評価には、末梢関節炎中心の指標としてDAPSA(疼痛VAS、患者全般評価、腫脹66/圧痛68関節、CRPで算定)が紹介され、さらに皮膚や付着部炎などを含む複合評価指標(CPDAI、PASDASなど)も提示されています。
医療現場で見落としやすいのは、「患者の主訴が痛み中心で、腫脹が乏しい」「炎症反応が上がらない」ケースです。
PsAではCRPなど急性期反応蛋白がRAほど上がらない患者も多く、炎症マーカー“陰性”だけで活動性を否定しない姿勢が必要です。
また、DIP関節病変、指趾炎、付着部炎、爪病変などの“PsAらしさ”を拾い、どのドメインが患者の障害を作っているかを言語化して治療標的を設定すると、薬剤選択の精度が上がります。
乾癬性関節炎の治療ガイドラインに沿ったNSAIDs・csDMARDs(MTX等)開始の考え方
EULAR 2023 updateでは、NSAIDsは「軽症のPsAに短期間の単独療法としてのみ」位置づけられ、漫然と長期化しないことが明確に述べられています。
同推奨では、末梢関節炎ではcsDMARDsを迅速に開始し、特にメトトレキサート(MTX)が推奨されます。
日本の「乾癬性関節炎診療ガイドライン2019」でも、治療の遅れが関節破壊や機能障害に結びつく点を背景として、早期の診断・治療、専門領域間の連携(皮膚科・リウマチ科・整形外科など)の必要性が繰り返し述べられています。
実務上は「皮膚は落ち着いているが関節が進む」「関節は軽いが皮膚が重い」「指趾炎/付着部炎が主体」など、いわゆる“ドメインのズレ”が薬剤選択を難しくします。ard.bmj+1
この段階で重要なのは、①疼痛対症(NSAIDs)だけでなく、②炎症の病態修飾(csDMARDs)、③関節破壊予防の観点で治療の主戦場を切り替える判断です。ard.bmj+1
「炎症が続くほど骨びらんや変形のリスクが上がる」という臨床的メッセージは古典的ですが、PsAでは“診断から6か月遅れるだけでも画像変化や機能障害が増える”とする報告がガイドライン内で紹介されており、紹介・連携の遅れがそのまま予後に響きます。
乾癬性関節炎の治療でガイドラインが示す生物学的製剤・分子標的薬の選択(IL-17/IL-23等)
EULAR 2023 updateでは、csDMARDsで治療目標に到達しない場合、bDMARD(生物学的製剤)の開始を推奨し、作用機序に特定の優先順位は置かない一方で、皮膚乾癬が強い場合はIL-23p19/IL-23p40、IL-17A、IL-17A/Fなど皮膚に強い標的を“薬剤選択の方向づけ”として提示しています。
また、併存症が薬剤選択を左右する点も強調され、ぶどう膜炎や炎症性腸疾患がある場合には(特に)単クローン抗体型TNF阻害薬が選択肢として挙げられています。
JCR/日本脊椎関節炎学会の「IL-17阻害薬使用の手引き(2025)」では、国内で使用可能なIL-17阻害薬としてセクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ、ビメキズマブが列挙され、PsA/AS/nr-axSpAに対して安全かつ効果的に投与するための目安がまとめられています。
この“ドメインと併存症で方向づける”という発想は、単なる薬剤カタログより実用性が高いです。
例えば、皮膚優位の患者では皮膚に強い機序を優先しやすい一方、IBD既往や消化器症状が強い患者ではIL-17阻害がIBDの悪化・新規発症として報告されている点に注意が必要で、投与前の問診(家族歴・消化器症状)と投与後の観察が推奨されています。
参考)間質性肺疾患の評価と体力
逆に、付着部炎や体軸症状が強い患者では、EULARが軸性/付着部優位のアルゴリズムを提案しており、末梢関節炎中心の発想だけで治療を組み立てないことがポイントになります。
※論文としてはEULAR推奨自体が一次資料であり、院内カンファレンス資料に引用しやすいです。
乾癬性関節炎の治療ガイドラインで必須の感染症スクリーニングと有害事象対策(結核・真菌・HBV)
JCR/日本脊椎関節炎学会のIL-17阻害薬使用の手引き(2025)では、重篤感染症や活動性結核は投与禁忌として明記され、感染が疑われる場合は感染症治療を優先し軽快確認後に投与する方針が示されています。
同手引きは、投与前スクリーニングとして問診に加え、インターフェロンγ遊離試験(クオンティフェロン/T-SPOT)またはツベルクリン、胸部X線/CT、β-D-グルカン、HBV/HCV関連検査などを必須として総合判定することを挙げています。
さらに、IL-17経路が粘膜皮膚バリアの免疫監視に関与する点から、真菌症(特にカンジダ)に注意し、施設要件(胸部画像が即日可能、専門医読影、日和見感染症治療が可能な体制)に言及しているのが実務的に重要です。
“意外に盲点”になりやすいのは、感染症リスクの層別化を治療開始のたびにやり直すことです。
高齢、肺疾患、ステロイド併用などを感染リスク因子として評価し、必要に応じてST合剤によるニューモシスチス肺炎予防投与も検討する、といった踏み込んだ記載があります。
また、HBVに関しては、IL-17阻害薬の添付文書に明記がなくても他の生物学的製剤同様に日本リウマチ学会の提言や日本肝臓学会ガイドラインを参考に対応する、という“運用の指針”が示されており、薬剤ごとの記載差を埋める役割を果たします。
参考:投与前スクリーニング、潜在性結核対応、真菌症・IBD・うつ/自殺念慮など注意事項がまとまっています。
(nr-axSpA)に対するIL-17阻害薬使用の手引き(2025.6.8)
乾癬性関節炎の治療ガイドラインにない独自視点:術前・ワクチン・メンタルを同時に設計する
ガイドライン本文は薬剤選択の枠組みを示しますが、実臨床では「いつ止めるか」「いつ再開するか」「何を先に整えるか」が患者アウトカムを左右します。
IL-17阻害薬使用の手引き(2025)では、周術期の休薬に関してエビデンスが十分でないこと、休薬が長いと再燃リスクがあること、投与間隔や半減期を踏まえて個別判断すること、術後は創治癒と感染なしを確認できれば再投与可能であることが述べられています。
また、生物学的製剤投与中は生ワクチン接種が禁忌であり、中止後も3〜6か月あけるのが望ましいという記載があり、治療開始前にワクチン歴を確認して“先に打てるものを打つ”段取りが非常に効率的です。
もう一つ臨床的に効くのが、メンタル面の並走です。
同手引きは、乾癬/PsA/脊椎関節炎がうつ病発症リスクと関連し得ること、さらに臨床試験でうつ状態や自殺念慮/企図の報告があるため既往がある患者では慎重な観察が必要であることを述べています。
疼痛・睡眠・抑うつは相互に増幅し、疾患活動性評価(患者VASなど)にも影響するため、リウマチ・皮膚だけでなく、睡眠障害、抑うつ、職業負荷まで含めて治療計画を“設計”すると、同じ薬剤でも結果が変わることがあります。jstage.jst+1
参考:国内PsA診療の背景、疾患概念、評価指標(DAPSA等)、早期診断の重要性、併存症などが体系的に読めます。
日本皮膚科学会 乾癬性関節炎診療ガイドライン2019(PDF)

患者さんのための 脊椎関節炎Q&A〜病気・治療・生活の疑問に答えます