乾癬性関節炎 治療 ガイドライン
乾癬性関節炎の治療ガイドラインの位置づけと目的
乾癬性関節炎(PsA)は、診断や治療が遅れると不可逆性の関節変形・関節破壊を来し、患者のQOLを損なうため、早期の診断と治療が必要とされています。
一方で臨床像が多彩で、皮膚科・整形外科・内科(リウマチ)など領域横断の連携が不足すると見逃しや治療開始の遅れが起こり得る点が、国内ガイドラインでも課題として明示されています。
日本皮膚科学会「乾癬性関節炎診療ガイドライン2019」は、皮膚科医のみならず関節症状を診療する他科医師や医療従事者も対象に、疾患概念・診断・画像・治療までを整理し、国内事情も踏まえて推奨を示す「診療のガイダンス」として位置づけられています。
医療者が押さえるべき実務的ポイントは、次の3点です。
・「診断の遅れ」自体が予後悪化と関連し得るため、乾癬患者の関節症状を“様子見”で流さない。
・治療は薬剤名の暗記ではなく、「病変ドメイン」と「治療目標(T2T)」から逆算する。ard.bmj+1
・ガイドラインは免責事項を伴う参考枠組みであり、添付文書・禁忌・安全性情報を踏まえ、患者の価値観も含め共同意思決定で最終判断する。
乾癬性関節炎の治療で重要な評価指標とT2T(寛解・低疾患活動性)
PsAは末梢関節炎だけでなく、体軸病変、付着部炎、指趾炎、爪病変、皮膚病変など複数ドメインが絡み合うため、疾患活動性の客観評価には「複合評価指標」を使う考え方が重要です。
国内ガイドラインでは、PsAの活動性指標としてDAPSA(疼痛VAS、患者全般評価、腫脹関節数、圧痛関節数、CRP)などが紹介され、MDA/LDAを目標に定期評価し治療調整するT2T(treat to target)の重要性が述べられています。
欧州EULAR 2023 updateでも、治療は寛解または低疾患活動性を目標に、定期的な疾患活動性評価と治療調整で到達を目指すことが推奨されています。
現場で「評価がぶれる」ポイントと対策を、あえて実務寄りに整理します。
✅ ありがちな落とし穴
・CRPや血沈が上がらない患者が一定数おり、炎症反応だけで病勢判断すると見落とす。
・皮膚が軽いのに関節が進行する例、逆に皮膚が重いのに関節が軽い例があり、皮膚スコア=関節病勢ではない。
・DAS28はDIP関節や足趾などPsAで問題になりやすい部位を反映しにくい。
🛠️ 具体的な運用案(外来で回すための工夫)
・初診~導入期:腫脹/圧痛関節数(できれば66/68)、疼痛VAS、患者全般評価、CRPでDAPSAを組み立てる。
・ドメイン優位が明確な場合:付着部炎や指趾炎の所見を必ず別枠で記録し、関節数だけで“改善したつもり”にならない。
・皮膚・爪の併存:皮膚科評価(PASI/DLQIなど)を共有し、「薬剤選択の優先順位」をチームで合意する。ard.bmj+1
乾癬性関節炎の治療選択:NSAID・csDMARD・bDMARD・JAK阻害薬
EULAR 2023 updateでは、NSAID単独療法は軽症例に短期間のみ、経口グルココルチコイドは推奨されない、といった基本方針が示されています。
末梢関節炎では、従来型合成DMARD(csDMARD)を速やかに開始し、メトトレキサート(MTX)が推奨薬として位置づけられています。
csDMARDで治療目標に到達しない場合は、生物学的DMARD(bDMARD)開始が推奨され、皮膚症状が強い場合はIL-23p19、IL-23p40、IL-17A、IL-17A/Fなど皮膚への有効性も意識して選択する、という考え方が示されています。
日本の医療現場で実務上重要なのは、「薬剤クラスの序列」よりも「病変ドメイン」「併存症」「安全性(感染症など)」で分岐させる設計です。
・体軸病変や付着部炎が前景:EULARはそれぞれの優位病変に応じたアルゴリズムを提示しています(末梢関節炎一本の考えに寄せない)。
・ぶどう膜炎や炎症性腸疾患を合併:薬剤選択に影響し得る併存症として考慮し、単クローン抗体TNF阻害薬を提案する考え方が示されています。
・JAK阻害薬:主にbDMARD不応後に、リスク因子を考慮して使用する位置づけが提案されています。
意外と見落とされがちな点として、国内ガイドラインが強調する「関節外病変(指趾炎、付着部炎)を含めて病像を総合評価する」姿勢は、治療選択の前段に置くべきチェック項目です。
つまり、同じ「関節痛」でも、滑膜炎主体なのか付着部炎主体なのかで、患者の疼痛体験も反応性も変わり得るため、診察所見とドメイン整理が薬剤選択の精度を左右します。
乾癬性関節炎の治療での安全性:感染症スクリーニングと併存症管理
PsAは乾癬同様に全身性炎症として捉えられ、メタボリック症候群関連(高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病など)の併存が一定頻度でみられるため、薬剤選択と並行して循環器・代謝リスクの評価が重要です。
国内データとして、日本乾癬学会調査ではPsA患者で高血圧21.2%、高脂血症16.0%、肥満11.2%、糖尿病11.2%などが報告され、併存症の把握が実地診療で有用です。
また、ぶどう膜炎や炎症性腸疾患などの併存も一定割合でみられ、治療選択に影響し得る点が国内ガイドラインでも整理されています。
感染症については、EULAR 2023 updateが「経口グルココルチコイド非推奨」など安全性を意識した方向性を明示している一方、実務ではbDMARD/tsDMARD導入時のスクリーニングと患者教育が診療品質を分けます。
特に国内の生物学的製剤関連ガイダンス(疾患領域は異なる場合があっても運用原則は共通する部分が多い)では、活動性感染症がある場合は感染症治療を優先し、治癒確認後に投与を検討すること、潜在性結核の評価と必要時の予防内服を含めてリスク・ベネフィットで判断することが示されています。
参考)https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guide_il12-23_23_psa/
「治療が効いた後」の落とし穴として、寛解維持での減量・休薬は魅力的に見えますが、EULAR 2023 updateでは“持続寛解でのtapering”にも触れており、病勢評価の頻度を落としすぎない設計が必要です。
このセクションの実務チェックリスト(入れ子にしない簡易版)
・導入前:結核、肝炎、既往感染、ワクチン歴、歯科/皮膚の慢性感染巣を確認。
・導入後:発熱時の受診目安、自己中断の危険性、周術期対応の窓口を明確化。
・併存症:血圧、脂質、血糖、体重、喫煙、うつ・睡眠も含めて“炎症と生活習慣の交差点”として介入。
乾癬性関節炎の治療ガイドラインの独自視点:診断遅延を減らすスクリーニング質問票と院内フロー
検索上位の解説記事は薬剤各論に寄りがちですが、医療安全・予後の観点では「診断遅延をどう減らすか」がアウトカムに直結します。
国内ガイドラインでは、PEST、ToPAS、PASE、EARPといった質問票によるスクリーニングが紹介され、特に日本語版J-EARPは高い感度・特異度が報告されていることが述べられています。
また、PsAは症状出現から診断までの遅れ(例:6か月の遅延)が画像変化や機能障害の増加と関連した報告があることが示され、早期紹介ルート構築の重要性が裏づけられています。
独自視点として、院内・地域で実装しやすい「フロー設計」を提案します(医療従事者向けの運用案)。
🧩 外来フロー(皮膚科→リウマチ/整形への橋渡し)
・乾癬患者で「朝のこわばり」「夜間痛」「踵の痛み」「指全体の腫れ」を訴えたら、診察の最後にJ-EARP等を渡し、その場で回収。
・陽性または疑わしい場合は、紹介状テンプレに「爪所見」「付着部痛」「指趾炎の有無」「CASPAR要素」を定型で記載して情報欠損を減らす。
・初回紹介時は「皮膚の重症度」と「関節のドメイン優位」を分けて書き、薬剤選択の議論が噛み合うようにする。ard.bmj+1
📌 ちょっと意外だが有用な視点
・乾癬患者の関節痛の鑑別にはOAや痛風、疼痛障害なども混在し得るため、“PsA前提で突き進まない”鑑別の設計がむしろ紹介の質を上げる(結果としてPsAの見逃しも減る)。
・爪病変はPsAと関連する報告が多い一方で、感染症(白癬など)の除外も必要で、皮膚科の目が入る価値が高い。
必要に応じて引用できる関連論文(英文)
EULAR 2023 update(治療アルゴリズム、T2T、NSAID/ステロイドの位置づけ、薬剤選択に皮膚・併存症を反映):https://ard.bmj.com/content/83/6/706
権威性のある日本語の参考リンク(国内ガイドライン本文:疫学、診断、評価指標、スクリーニング質問票、併存症、治療の基本方針を通読できる)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/PsAgl2019.pdf
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/PsAgl2019.pdf
