β遮断薬一覧とβ1選択性と禁忌

β遮断薬一覧とβ1選択性

β遮断薬一覧:まず押さえる3点
📋

分類で迷いを減らす

β1選択性、ISA(内因性交感神経刺激作用)、脂溶性/水溶性の3軸で整理すると、適応・禁忌・副作用の説明が一気に明確になります。

🫀

心不全は「使える薬が限られる」

慢性心不全で大規模試験の実績がある薬が中心となり、薬剤選択は“疾患ごとのエビデンス”に強く依存します。

⚠️

禁忌・相互作用が落とし穴

徐脈、房室ブロック、喘息/COPD、糖代謝、点眼薬でも全身作用など、一覧にしておくと安全管理がしやすくなります。

β遮断薬一覧:β1選択性とISAで分類

β遮断薬は「β1選択性」「ISA(内因性交感神経刺激作用)」「α遮断作用」「脂溶性/溶性」などの特徴で、臨床上の使い分けが起きます。たとえば同じβ遮断薬でも、β1選択性が高いと気管支への影響(β2遮断)を相対的に減らしやすい、ISAがあると安静時の心拍数低下が小さくなるなど、患者背景と整合させる視点が重要です。こうした“薬理のタグ付け”は、医師・薬剤師・看護師間で共通言語になり、処方意図の確認や副作用の早期発見にも直結します。

まず、代表的な分類を「β1選択性 × ISA」で整理します(国内で目にする頻度が高いものを中心に記載)。以下の表は、循環器領域で用いられる代表薬の特徴をまとめたもので、ISAや脂溶性/水溶性も併記されています。なお、用量は“実際に使われることの多い量”として例示されている資料に基づき、厳密な用法用量は添付文書で確認してください。

分類 一般名(商品名例) ISA 脂溶性/水溶性 臨床でのメモ
β1非選択性 プロプラノロール(インデラル) なし 脂溶性 短時間作用型として頓用や特定状況で選ばれることがある
β1非選択性 カルテオロール(ミケラン) あり 水溶性 ISAあり群の代表として整理に使える
β1選択性 ビソプロロールメインテート なし 脂溶性 心不全虚血性心疾患などで中心的に扱われやすい
β1選択性 メトプロロール(セロケン/ロプレソール) なし 脂溶性 製剤・作用時間の違いが臨床評価に影響し得る
β1選択性 アテノロール(テノーミン) なし 脂溶性 高血圧領域では位置付けの変遷があり得る
αβ遮断薬 カルベジロール(アーチスト) なし 脂溶性 α遮断作用を併せ持つ(末梢循環や代謝面の説明で話題になりやすい)
静注(例) ランジオロール(オノアクト 短時間作用・周術期やICUの頻脈性不整脈で検討されることがある

このように一覧化すると、よくある誤解(例:「β1選択性なら喘息に絶対安全」や「点眼薬なら全身副作用は無視できる」など)を避けやすくなります。β1選択性であってもβ2遮断作用が“ゼロ”ではない点や、ISAの有無が心不全の予後評価に絡む点は、患者説明・同意形成にも使える論点です。ISAに関しては、β遮断薬でありながら受容体刺激作用も持つという定義が整理の起点になります。

参考:ISA(内因性交感神経刺激作用)+のβ遮断薬例(名称の覚え方として有用)

【β遮断薬】ISA(内因性交感神経刺激作用)+-ってどういう意味
薬剤師国家試験ではよく目にした「ISA」。 薬局の現場ではあまり考慮するケースが少ないかもしれませんが、忘備録もかねて説明していきたいと思います。 薬剤師が執筆、編集、監修する薬剤師専門の情報サイト【ファーマシスタ 】全国の薬局、病院、製薬...

β遮断薬一覧:適応(高血圧・虚血性心疾患・不整脈・心不全)

β遮断薬の適応は幅広く、「不整脈」「虚血性心疾患」「高血圧」「心不全」などが中心になります。ただし“どの病態でも同じように使える”わけではなく、病態ごとにエビデンスの厚い薬が絞られてくる、というのが現場のリアルです。実臨床では、心不全や虚血性心疾患では特定薬(例:カルベジロール、ビソプロロール)を軸に運用されやすいという整理が提示されています。

高血圧に関しては、β遮断薬の位置付けは時代とともに変化しており、メタ解析での評価を背景に第一選択から外れた経緯が示されている資料もあります。重要なのは「高血圧だからβ遮断薬」ではなく、狭心症・心筋梗塞後・頻脈・心不全合併など、積極的適応(同時に“使う理由”)をセットで言語化することです。患者にとっても、降圧だけではなく心拍数・虚血・リモデリングなどの狙いがあると理解しやすくなります。

また、不整脈領域では、頓用・定期内服・静注など“使い方の設計”が薬剤選択に影響します。短時間作用型で「試しやすい/切り替えやすい」ことが利点になる場面もあれば、長時間作用型で「服薬アドヒアランスが取りやすい」ことが優位になる場面もあります。

臨床の背景がまとまっている日本語PDF(薬の特徴・副作用表まで一望できる)

https://www.medsi.co.jp/Download_files/CardiovascularDrugFile2Ep236-241.pdf

β遮断薬一覧:副作用と禁忌(喘息・徐脈・房室ブロック)

β遮断薬の副作用は「クラス共通」と「薬剤特性に依存」に分けて考えると整理しやすいです。共通としては、心機能低下、低血圧、洞機能不全、房室ブロック、消化器症状、そして中止時の離脱症候群が挙げられています。離脱症候群は、受容体のアップレギュレーションが背景と推測され、急な中断で血圧上昇や虚血症状・不整脈増悪が起こり得るため、「慢性疾患治療薬は積極的理由なく中止しない」という行動指針が示されています。

薬剤特性に依存する論点としては、脂溶性薬の中枢移行(精神症状の可能性)や、非β1選択性薬でのβ2遮断に伴う喘息・低血糖・末梢循環障害などが典型です。ここで重要なのが、“禁忌と慎重投与”が病態や時代で揺れやすいことです。資料では、COPDやASO、糖尿病について、一律に絶対禁忌とする古い考え方から、必要性と利益を見て使う方向へ変化しつつある旨が述べられています。

現場での安全確認(投与前チェック)としては、次のような項目が実務的です。

  • 心エコーで器質的心疾患と心機能を評価する
  • 気管支喘息COPDの既往・現在症状を確認する
  • 洞不全症候群房室ブロックの有無を確認する
  • 末梢動脈疾患(ASO)や末梢循環障害の程度を把握する
  • 併用薬(例:ジルチアゼム、ジギタリス)で房室ブロック等のリスクが増えないか確認する

意外と盲点になりやすいのが「点眼β遮断薬でも全身作用が起こり得る」という点です。チモロールは点眼でも一部が吸収されて血中移行し、全身性作用を示すことが知られているとされ、CYP2D6で代謝される点も相互作用説明に使えます。循環器患者が眼科点眼を併用していて、徐脈やふらつきが出たときに“内服のせい”と決めつけず、点眼も含めたβ遮断負荷として再評価するのが安全です。

点眼チモロールとCYP2D6(相互作用の視点)

チモロール含有点眼薬+CYP2D6阻害薬[ドクターのための薬物相互作用とマネジメント(9)] – 日本医事新報社
サマリー β遮断薬のチモロールは,点眼薬として緑内障,高眼圧症に用いられ,単剤(チモプトールRなど)での利用のほか,配合点眼薬での利用も増えている。しかし,点眼薬からの吸収で全身性作用を示すことがあり,チモロールの代謝を阻害するCYP2D6...

β遮断薬一覧:脂溶性と水溶性(中枢作用・個人差)

脂溶性/水溶性は、国家試験の暗記項目になりがちですが、臨床でも“説明の型”として役立ちます。脂溶性のβ遮断薬は吸収が速い一方、肝代謝の影響を受けやすく、代謝の個人差によって血中濃度のばらつきが大きい傾向があると整理されています。また、血液脳関門を通過しやすいため、うつ状態などの中枢症状の可能性が話題になります(ただし大規模検討では問題になりにくい、というニュアンスも併記されています)。

このパートは、患者説明で特に有用です。例えば「眠気や気分の落ち込み」「倦怠感」「性活動の低下」などの訴えが出た際に、疾患そのもの・加齢・他剤の影響も含めた鑑別が必要ですが、脂溶性薬の中枢移行という“可能性の説明枠”を持っていると、不要な自己中断を防げます。実際、用量依存性の症例報告に触れつつ、集団としては影響が限定的という情報も示されており、過度な不安を煽らずに説明できます。

もう1つ“地味に重要”なのは、海外文献や海外の用量感をそのまま当てはめない、という注意です。資料では、欧米テキストの投与量が多い点に触れつつ、国外用量をそのまま使う危険性が示唆されています。情報収集時に英語ソースを参照する医療者ほど、この罠に落ちやすいので、一覧記事に明記しておく価値があります。

補足:緑内障点眼薬のβブロッカーは房水産生を減らすが、全身副作用(まれに重篤例報告)にも注意が必要とされます

どのように効く?緑内障に使われる治療薬:点眼薬(目薬)、内服薬(飲み薬)を詳しく解説します。|
緑内障という病気をご存知でしょうか? 緑内障とは、眼圧(眼球を球体として維持するための圧力)によって、視神経が押し潰されることで障害を受け、結果として、視野(見える範囲)が狭くなる病気です。 そして、一度、障害を受けた視神経は、現代の医学で

β遮断薬一覧:独自視点(妊娠・周産期と禁忌の見直し)

検索上位の“β遮断薬一覧”は、適応・分類・副作用で終わりがちですが、医療者向け記事として差が付くのは「禁忌が固定ではない」具体例を出せるかどうかです。近年、妊婦禁忌として扱われてきた薬剤の見直しが進む領域があり、β遮断薬も例外ではありません。たとえばビソプロロールについて、妊婦・授乳婦の適正使用推進の枠組みの中で、添付文書上の禁忌の適正性が検討され、治療上の有益性が危険性を上回る場合に投与を可能とする方向性が示されています。

この文脈が重要なのは、「妊娠=禁忌だから終わり」ではなく、母体心疾患(慢性心不全、頻脈性心房細動など)ではβ遮断薬が母体予後に直結し得るため、リスク(胎児発育不全、新生児低血糖、徐脈など)をモニタリングで管理しながら、ベネフィットを取りに行く判断が現実に起こる、という点です。つまり一覧記事でも、禁忌・慎重投与の背景にある“医療上のニーズ”と“管理可能性”まで触れると、単なる薬剤羅列を超えた実務コンテンツになります。

さらに意外性のあるポイントとして、周産期では母体循環動態の変化により不整脈や心不全リスクが増加し得ること、QT延長症候群合併妊娠でβ遮断薬が不整脈イベントを減らした研究が引用されていることなど、β遮断薬の役割が「高血圧薬」以上であることが明確になります。こうした視点は、循環器内科だけでなく産科・救急・麻酔科との連携で効いてきます。

妊娠とビソプロロール(禁忌見直しの背景、胎児/新生児の注意点、ガイドライン記載の整理がまとまった公的PDF)

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001232819.pdf