無排卵月経と妊娠の可能性
無排卵月経の状態では妊娠できない理由
無排卵月経とは、排卵が行われていないにもかかわらず、通常の月経と同じ時期に月経のような出血が見られる状態を指します。この出血は「破綻出血」と呼ばれ、厚くなった子宮内膜が維持できずに剥がれ落ちることで起こります。
妊娠するためには、卵子と精子が出会って受精し、それが子宮に着床する必要があります。無排卵ということは卵子が放出されないため、受精の機会がありません。見かけ上、生理のような出血があっても、排卵が伴っていなければ妊娠のチャンスはゼロです。
参考)生理はあるのに妊娠しない?無排卵月経のサイン・原因・対策まと…
生理が順調にあるのに妊娠しづらいと感じ、病院で調べたら無排卵と判明したというケースも多く見られます。「生理が来ていれば大丈夫」と思わず、妊娠を考えている方や生理に変化を感じた方は、一度婦人科で相談することが重要です。
参考)https://sophia-lc.jp/blog/anovulatory-menstruation/
無排卵月経でも治療により妊娠が可能
治療を行えば、無排卵月経の方でも妊娠は十分に可能です。無排卵月経のままでは妊娠はできませんが、排卵を促す治療を行うことで排卵が起こるようになり、妊娠の可能性が高まります。ホルモン療法や排卵誘発剤などが主な治療方法です。
妊娠希望がある場合は、排卵誘発剤を使います。内服薬や自己注射によって排卵誘発を行い、重症度に応じて、クロミフェン製剤あるいはゴナドトロピン製剤(FSH製剤、hMG製剤など)が用いられます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による無排卵が原因で妊娠できなかった方が、排卵誘発剤で妊娠に至ったケースは多く報告されています。無排卵月経は、治療によって改善が見込める症状です。妊娠を希望している方は、早めに婦人科での診断と治療を受けましょう。
無排卵月経の翌月は妊娠しやすいという噂の真実
「無排卵月経の翌月は妊娠しやすい」といわれることがあるようですが、医学的根拠はなく、そのような現象はありません。無排卵月経の周期では排卵が起こらないため、妊娠することはできません。また無排卵月経が翌月の排卵の有無に影響を及ぼすかどうかも不確実です。
無排卵月経は知らず知らずのうちに不妊の原因になっていることも多く、慢性化するとプロゲステロンの不足により骨形成や皮膚代謝、記憶力の衰退にもつながるため、早期治療が求められます。
妊娠を希望しているのに無排卵の状態が続いている場合は、積極的な治療が必要となります。排卵がない状態では自然妊娠の可能性はありませんので、知恵袋などで見られる妊娠報告は、適切な治療を受けた結果であることがほとんどです。
無排卵月経における妊娠確率への影響
無排卵月経においては、妊娠する確率が大幅に低下します。卵子が排出されないため受精の機会がなく、ホルモンバランスの乱れが影響し、妊娠しにくくなります。
無排卵月経が見られる場合、不規則な月経周期、出血量の変化、基礎体温の変動などの症状が現れることが一般的です。排卵がないため、基礎体温が安定しない特徴があります。
| 症状 | 説明 |
|---|---|
| 不規則月経 | 通常のサイクルが守られず、乱れが見られる |
| 出血量の変動 | 月経の出血量が一定せず、変動がある |
| 基礎体温の不安定性 | 排卵がないため、基礎体温に一定のパターンがない |
無排卵月経の状態が続くことで、月経があっても妊娠の期待ができないことは、妊娠を望む女性にとって非常に大きな問題です。しかし、適切な治療を受けることで、排卵を回復させ妊娠に至る可能性は十分にあります。
無排卵月経から妊娠に至るための治療ステップ
無排卵月経に気づかず放置していると、排卵が起こらないため不妊の原因になります。また卵巣機能の低下によってホルモン分泌に影響し、動脈硬化や脂質異常症、骨粗鬆症などのリスクも高まる可能性があります。
参考)無排卵性月経とは?症状や特徴・セルフチェック・治療方法を解説…
まず生活習慣を改善させることでホルモンバランスが整うことが期待できます。睡眠や食事、運動やストレスの排除などによりホルモンバランスが整い、自然に排卵が再開することもあります。特に現在、過度に体重が少なかったり、多かったりする方は、それによってホルモンバランスが乱れている可能性があるため、食事内容をはじめとする生活習慣を見直してみることをおすすめします。
医療機関での治療では、クロミフェンは脳からのLH、FSHの分泌を促進し、卵胞を発育させる薬です。月経周期の5日目から5日間内服します。排卵期に来院していただき、経腟超音波にて卵胞の発育状態を観察し、卵胞の大きさによって排卵日を推定して、性交のタイミングを指導します。あるいは、LH作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を注射して排卵を促します。
参考)不妊治療 【4】不妊症の治療|不妊について|一般の皆様へ|徳…
クロミフェンが無効の場合には、ゴナドトロピン療法(注射薬)を行い、排卵誘発を行います。多嚢胞性卵巣症候群の患者さんは排卵誘発剤のクロミフェン(経口薬)を内服すると約50%が排卵します。
参考)多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovar…
無排卵月経のセルフチェックと診断方法
基礎体温による無排卵月経の見分け方
自分の月経がきちんと排卵を伴っているかどうかは、基礎体温を測ればわかります。正常な排卵がある場合、基礎体温は月経から排卵までが低温、排卵から次の月経の始まりまでは高温を示します。そのため基礎体温のグラフは、低温期と高温期の二相性を描きます。
参考)妊娠希望なら無排卵を放置してはダメ!基礎体温でわかる無排卵月…
一方、無排卵月経の場合は高温期がなく、グラフは二相性にならないのが特徴的です。基礎体温は排卵の有無以外にも、自覚症状のない卵巣の病気に気付くきっかけにもなります。妊娠を希望しない場合でも、自分の月経リズムを把握するために基礎体温のチェックはとても重要です。
排卵があれば、生理周期の基礎体温は低温期と高温期の「二相性」になりますが、無排卵の場合では低温期の「一相性」になることがほとんどです。低温期が長く続く、あるいはガタガタしていて2相性に分かれていない場合は、きちんと卵胞が育っていなかったり、排卵ができていない可能性があります。
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無排卵月経のセルフチェック項目
自身が無排卵性月経かどうか知るための参考となるセルフチェック項目を紹介します。以下の項目に1つでも当てはまる場合は、無排卵性月経の可能性があるかもしれません。
📌 無排卵月経のセルフチェック項目
- 生理周期が24日以内と短い、もしくは39日以上と長い
- 不正出血がある
- 茶色やピンク色のおりものがある
- 基礎体温が低温期と高温期に分かれていない(一相性である)
- 避妊していないのに1年以上妊娠しない
無排卵月経は、生理のような出血に加え、月経周期は一定でないことが多く、月経日数も短かったり、長かったりする特徴があります。基礎体温を測定すると低温期と高温期の差がなく、月経周期に応じたおりものの変化が見られない場合もあります。特に避妊をしていないのに、1年以上妊娠していない場合は注意が必要です。
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病院での無排卵月経の診断方法
無排卵月経の診断は血液検査、卵巣の超音波検査にて行います。病院では採血でホルモンバランスを調べたり、超音波で卵胞が育っているか調べることができます。自然に卵胞が育っているなら性交渉の適切なタイミングのアドバイスを受けられますし、必要に応じて排卵誘発剤を使用して妊娠の可能性を上げることが可能です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準として、①月経異常(月経不順や無月経)、②多嚢胞性卵巣(超音波検査で卵巣に卵胞がたくさん連なってみえること)、③血中男性ホルモン高値またはLHが高値で、FSHが正常の3つの項目を満たせばPCOSと診断されます。
月経はきていると思っても、無排卵周期という状態があります。この場合、月経量が少なくなることもありますが、微量でも子宮内膜が厚くなって剥がれ、それほど量に変化がなく自己判断は難しいことも多いです。
無排卵月経の特徴と通常月経との違い
無排卵月経とは、月経時のような出血はあるものの排卵が起こっていない状態のことを指します。通常の月経は、排卵が起こったあと、妊娠が成立しない場合に起こります。しかし、無排卵月経の場合には、排卵していないものの、途中まで発育した卵胞(卵子の元)によって分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモンとも言われる。女性ホルモンの一種)により、子宮内膜が厚くなります。その後、厚くなった子宮内膜が維持できずに剥がれ落ちることで、無排卵月経が起こるのです。
このような特徴が現れずに正常な月経と区別ができない場合もあるため、なかには無排卵月経を自覚していないケースも多いようです。月経は排卵があってこそ起こるものですから、月経の言葉がついていても無排卵月経は実際のところ月経ではありません。たまに起きることもあれば、慢性化していることもあり、自覚症状もないためクリニックで検査することで判明します。
無排卵月経の原因とリスク要因
ストレスやダイエットが無排卵月経を引き起こす仕組み
ストレスや無理なダイエットは無排卵月経の原因の1つです。ストレスがかかった状態が続くと脳内のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が乱れることが報告されています。GnRHは卵胞の発育を促す作用があるため、ストレスによりGnRHが減少すると卵胞の発育が上手くいかず無排卵月経や無月経を起こします。
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また、無理な食事制限や運動は体内のエネルギー不足につながり、脳下垂体からの黄体化ホルモン(LH)の分泌が抑制されてしまいます。LHがないと卵胞からのエストロゲンも分泌されないため、結果として排卵障害を起こします。
無排卵月経にもさまざまな種類・原因がありますが、主な原因は脳の中枢部分もしくは卵巣機能の異常だといわれています。通常であれば月経がくるために脳から卵巣へ女性ホルモンを分泌するための信号が出されます。しかし、卵巣の機能がうまくはたらいていなかったり、脳にストレスが加わることで信号がうまく出せなかったりすると、月経不順・無排卵月経を起こしてしまいます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と無排卵月経の関係
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、卵巣で男性ホルモンがたくさん作られてしまうせいで、排卵しにくくなる疾患で、女性の20〜30人に1人の割合でみられます。排卵されない卵胞は卵巣にとどまるため、超音波検査でみると、たくさんの卵胞(嚢胞)を認めることから多嚢胞性卵巣と呼ばれます。症状として無月経や月経不順、にきび、多毛、肥満などが出現します。排卵しないため、不妊の原因になることもあります。
通常、排卵には脳にある下垂体から分泌されるLH(黄体ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)という2つのホルモンが関わっています。PCOSではこのバランスが崩れて、LHばかりが過剰分泌されることによって、排卵がうまく行われなくなります。また血糖値を下げるホルモンであるインスリンもPCOSに関連しており、インスリン抵抗性(高インスリン血症)があると、男性ホルモンが増加します。男性ホルモンは卵胞の発育を抑制し、卵巣の外側の膜(白膜)を厚くすることによって排卵を妨げます。
無排卵月経を放置するリスク
無排卵月経に気づかず放置していると、排卵が起こらないため不妊の原因になります。また卵巣機能の低下によってホルモン分泌に影響し、動脈硬化や脂質異常症、骨粗鬆症などのリスクも高まる可能性があります。
たとえ妊娠の希望がなかったとしても、無排卵月経を放置しておくと、骨粗しょう症や子宮体がんなどのリスクを高める可能性があります。そのため、3か月以上月経が来ない場合や、無排卵月経が続く場合はホルモン療法が推奨されます。
多嚢胞性卵巣症候群の患者さんは月経不順を放置していると子宮体癌のリスクが高くなることがしられています。無月経や無排卵の状態が続く場合はホルモン療法が必要となります。ホルモン療法は女性ホルモンの薬を7〜21日内服し、内服終了後数日で月経がおこります。
無排卵月経の危険因子とライフスタイル
ストレスになるものとして、過度のダイエット、体重の急激な増減、激しい運動、不規則な生活、精神的ストレス、喫煙、冷えなどが挙げられます。このほかにも服用している薬が関係している場合もありますし、多嚢胞性卵巣症候群などの病気も考えられるため、注意が必要です。
肥満を伴う患者さんは、減量により月経不順の改善を認めることが知られています。体重が過剰な場合は、食事内容等のライフスタイルの改善をおこないましょう。
生活習慣の乱れやダイエットなどが背景にある場合には、まずは生活習慣、食習慣の改善を図ります。日頃から健康的な生活習慣を送ることは、無排卵周期症の予防の上でも重要です。特に現在、過度に体重が少なかったり、多かったりする方は、それによってホルモンバランスが乱れている可能性があるため、注意が必要です。
参考)無排卵月経の治療や予防方法には何がありますか? |無排卵月経…
無排卵月経の治療方法と妊娠へのアプローチ
排卵誘発剤による治療の種類と効果
排卵誘発剤のクロミフェン(経口薬)を内服すると約50%が排卵します。クロミフェンが無効の場合には、ゴナドトロピン療法(注射薬)を行い、排卵誘発を行います。PCOSの方は卵巣にたくさんの卵胞が溜まっているため、排卵誘発剤により一度にすべての卵胞が大きくなり排卵しようとすると、卵巣が大きくはれ上がりお腹や胸に水がたまることがあります。これを卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyper stimulation syndrome)といいます。
クロミフェンは内服薬であり、通院の回数が少なく簡便に治療できる方法で、排卵率も良好です。ただし、長期に渡り使用するとかえって妊娠しなくなるので、クロミフェンの使用は6か月〜1年を上限として、ゴナドトロピン療法に移行します。
妊娠希望がある場合は、排卵誘発剤を使います。内服薬や自己注射によって排卵誘発を行い、重症度に応じて、クロミフェン製剤あるいはゴナドトロピン製剤(FSH製剤、hMG製剤など)が用いられます。
ホルモン療法による月経周期の調整
ホルムストローム療法とは、無排卵で黄体ホルモンの分泌が起こらない月経異常に対して、黄体ホルモン製剤のみを投与する治療法です。子宮内膜を厚くさせる作用のあるエストロゲンがすでに分泌されている方に、黄体ホルモン製剤を数日間投与したあと休薬すると、子宮内膜が剥がれて月経様の子宮出血をきたします。周期的に服薬と出血を数か月繰り返し、その後休薬すると、自然に排卵および月経がみられることがあります。
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カウフマン療法は、エストロゲンおよび黄体ホルモンの両者の分泌がない無月経に対して、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の両方を投与する治療法です。エストロゲン製剤で子宮内膜を厚くさせ、その後エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を加えることで、人工的に排卵後の子宮内膜状況を作ります。その後休薬すると、子宮内膜が剥がれて月経様の出血をきたします。この治療を数か月周期的に行うことで、自然に排卵および月経がくることを期待する治療法です。
多嚢胞性卵巣症候群や卵巣機能の影響で無排卵月経となっている場合は、薬物治療が中心となります。無排卵に伴い、主に黄体ホルモンの産生が低下しているため、黄体ホルモンを始めとしたホルモン剤の使用を行うことで、定期的な月経を促します。
多嚢胞性卵巣症候群に対する特別な治療法
腹腔鏡下卵巣多孔術は、腹腔鏡下に卵巣表面に多数の穴をあけることで排卵しやすくするという手術です。手術の侵襲はありますが、その効果はゴナドトロピン療法に匹敵し、OHSSや多胎のリスクが少ないというメリットがあります。この手術を行うと自然に排卵するようになったり、クロミフェンに対する反応性がよくなったりしますが、効果は半年~1年ほどで、またもとの状態に戻っていきます。
血液検査でインスリン抵抗性がある方には、糖尿病の薬であるメトフォルミン(メルビンなど)が排卵障害を改善することがわかってきています。糖尿病の薬は血糖を下げてインスリンの過剰な分泌を抑えるので、卵巣で男性ホルモンも抑えられ、卵巣内のホルモン環境が改善され、排卵しやすくなると考えられています。
注射を多く使わないと排卵できない重症の排卵障害の場合は、手術療法や体外受精をおすすめします。体外受精であれば、卵巣のはれが落ち着いてから、受精卵を1〜2個子宮内に移植することで安全に治療することができます。
生活習慣の改善が妊娠に与える影響
生活習慣を改善させることでホルモンバランスが整うことが期待できます。睡眠や食事、運動やストレスの排除などによりホルモンバランスが整い、自然に排卵が再開することもあります。特に現在、過度に体重が少なかったり、多かったりする方は、それによってホルモンバランスが乱れている可能性があるため、食事内容をはじめとする生活習慣を見直してみることをおすすめします。
肥満を伴う患者さんは、減量により月経不順の改善を認めることが知られています。体重が過剰な場合は、食事内容等のライフスタイルの改善をおこないましょう。
生活習慣の乱れやダイエットなどが背景にある場合には、まずは生活習慣、食習慣の改善を図ります。日頃から健康的な生活習慣を送ることは、無排卵周期症の予防の上でも重要です。甲状腺の機能異常や、原因となるお薬の内服など、明らかな原因がある場合はそちらの対策をします。
不妊治療としてのタイミング法と人工授精
排卵期に来院していただき、経腟超音波にて卵胞の発育状態を観察し、卵胞の大きさによって排卵日を推定して、性交のタイミングを指導します。あるいは、LH作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を注射して排卵を促します。
自然に卵胞が育っているなら性交渉の適切なタイミングのアドバイスを受けられますし、必要に応じて排卵誘発剤を使用して妊娠の可能性を上げることが可能です。
排卵誘発法を行った後、適切なタイミングで性交渉を持つことで妊娠の可能性が高まります。また、卵胞の発育状況によっては人工授精や体外受精などの高度生殖医療へステップアップすることもあります。重症化すると血栓症や腎不全などを併発することがあり、入院が必要となることがあるため、医師の指導のもと適切な治療を選択することが重要です。