肺気腫の症状と診断から治療まで
肺気腫の初期症状と進行段階
肺気腫の初期症状は、階段や坂道を昇る時の息切れ、軽い咳や少量の痰といった軽微なものから始まります。これらの症状は加齢による体力低下と誤解されやすく、40~50歳頃に自覚され始めることが多いんです。初期段階では透明で量の少ない痰が特徴的で、労作時の息切れが主な訴えとなります。
進行期になると、症状は明確に悪化していきます。安静時にも息苦しさを感じるようになり、呼吸数が増加する頻呼吸の状態が見られます。胸部膨満感や夜間の咳の増加も特徴的で、細菌感染を伴う増悪時には痰の量が増えるんですよ。同年代の人と同じペースで歩くのが困難になり、平坦な道でも息継ぎのために立ち止まることが増えてきます。
参考)肺気腫(COPD)
重症期では全身症状が顕著になります。体重減少は呼吸筋の消耗と代謝の亢進により生じ、食欲低下や筋力低下も伴います。指先が膨らむばち指、浮腫、皮膚や口唇の青紫色であるチアノーゼといった身体所見が出現し、右心不全を合併することもあるんです。激しい咳のために肋骨を骨折してしまうケースも報告されていますよ。
参考)COPD(慢性閉塞性肺疾患)・肺気腫|診療内容|瀬戸たかはし…
肺気腫の呼吸困難度を評価するmMRC質問票について詳しく解説
肺気腫の診断に必要な検査方法
肺気腫の確定診断には、スパイロメトリーという呼吸機能検査が必須です。この検査では、最大限の力で息を吐きだした空気の量(努力性肺活量:FVC)に対する、最初の1秒間に吐き出される空気の量(1秒量:FEV1)の比を計測します。気管支拡張薬吸入後にFEV1/FVC比が70%未満の場合、COPDと診断されるんです。
参考)COPD(肺気腫)の検査はどのようなことを行いますか? |C…
スパイロメトリーの利点は、測定結果を「肺年齢」として示せることです。肺の機能は年齢とともに衰えますが、肺年齢が実年齢より高い場合は要注意で、肺気腫の危険性があると判断できます。喫煙者では非喫煙者と比較して1秒量の経年的な減少速度が速いことが分かっているんですよ。
画像検査も診断に重要な役割を果たします。胸部X線写真では肺の過膨張、横隔膜の平低化、肺血管影の細小化などを確認できます。胸部CT検査はより詳細な評価が可能で、気腫性病変の程度や分布、気管支壁の肥厚を観察できます。ただし、画像検査だけでは確定診断できず、スパイロメトリー検査が必要なんです。
参考)肺気腫(COPD)の重症度と合併症をチェックし治療するために…
肺気腫の重症度チェックとCOPD集団スクリーニング質問票の活用法
肺気腫の原因と喫煙の関係性
肺気腫の最大の原因は喫煙であり、約90%が過度の喫煙によるものです。長期にわたって吸い込んだタバコの煙が、徐々に肺の中の肺胞を壊していくメカニズムが明らかになっています。喫煙者は非喫煙者に比べて肺気腫のリスクが2倍以上高く、中高年から高齢にかけて発症することが多いんです。
参考)https://nara.med.or.jp/for_residents/6391/
タバコの煙による肺気腫の発症メカニズムは複雑です。肺には免疫に関係する白血球が数多く存在しており、タバコの煙や化学物質により白血球が活性化されると、たんぱく質を分解する酵素を放出します。この酵素は本来細菌などを分解するために放出されますが、自分自身の肺胞壁をも溶かしてしまうんですよ。
参考)肺気腫|気を付けたい病気|ハートフルクリニック北井内科|鈴鹿…
肺には酵素に対する防御機能が備わっていますが、この防御機能には個人差が大きいんです。そのため、同じ量のタバコを吸っても肺気腫になりやすい人となりにくい人がいます。肺気腫は何十年もかかって肺胞がゆっくり破壊された結果の病気で、20歳代で喫煙を始めた方が40歳代や50歳代になって発症するイメージですよ。
参考)たばこを吸っている方は要注意!喫煙者に多い肺気腫の症状や治療…
喫煙以外にも、受動喫煙や大気汚染、化学物質への曝露、遺伝的要因も肺気腫の原因となります。職業上の特殊な環境による肺の負担も発症リスクを高めるため、包括的な予防対策が必要なんです。
参考)肺気腫
肺気腫の治療法と薬物療法の詳細
肺気腫治療の最優先事項は禁煙です。すでにCOPDを発症している方でも、禁煙することで呼吸機能低下速度や死亡率を減少させることができます。自分で禁煙ができない場合は、禁煙外来で薬を使ったサポートが効果的なんですよ。
参考)肺気腫(COPD)の治療で、知っておくべき治療法は禁煙・薬物…
薬物療法の中心は吸入薬による治療です。気管支拡張薬を使うことで、狭くなった気管支を広げて症状を軽減し、身体活動度を向上させます。吸入薬には短時間作用型(SABAやSAMA)と長時間作用型(LAMAやLABA)があり、増悪予防には長時間作用型が効果的です。吸入ステロイド薬(ICS)は気道炎症を抑える効果があるんです。
参考)薬物治療の中心は吸入療法|医療トピックス|44号|WEB版す…
重症例では追加治療が必要になります。やせが目立つ方にはサルコペニアへの対応として、栄養療法や運動療法を含めたリハビリテーションが推奨されます。労作時に低酸素血症を来たす重症の方には、在宅酸素療法の導入を検討します。呼吸リハビリテーションは筋力や呼吸機能を維持するために有効で、生活の質を保つことに貢献するんですよ。
治療法 | 内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
禁煙 | タバコを完全にやめる | 呼吸機能低下速度の減少、死亡率の低下 |
吸入薬 | 気管支拡張薬、ステロイド | 咳・痰の軽減、呼吸困難の改善 |
呼吸リハビリ | 運動療法、呼吸訓練 | 筋力維持、呼吸機能の維持 |
在宅酸素療法 | 酸素吸入機器の使用 | 低酸素血症の改善、生活の質の向上 |
肺気腫の合併症と急性増悪のリスク
肺気腫では様々な肺合併症が発生します。主なものとして肺がん、肺炎、気管支喘息が挙げられ、肺が線維化して硬くなる肺線維症や、肺がパンクして縮んでしまう気胸も起こりうるんです。風邪や肺炎などの感染症をきっかけに、急激に息切れや咳・痰の症状が悪化することを「急性増悪」と言います。
参考)COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身…
急性増悪は患者さんの生活の質を大きく低下させます。ひとたび急性増悪を起こすと呼吸不全に陥り、肺炎や心不全を併発することもあるんです。急性増悪時には咳や痰が急激に増え、色が黄色や緑色に変化し、発熱や呼吸困難の悪化、酸素飽和度の低下が見られます。定期的なインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種により、増悪のリスクを減らすことができますよ。
全身併存症も重要な問題です。動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中といった脳・心臓血管系の病気、様々な臓器のがん、骨粗鬆症、椎体骨折などが挙げられます。慢性低酸素血症は肺血管の緊張を高め、肺高血圧症と肺性心を引き起こすこともあるんです。栄養障害による異常なやせ(るいそう)、フレイル、サルコペニアも生活の質を大きく左右します。
参考)慢性閉塞性肺疾患(COPD) – 05. 肺疾患 – MSD…
心理的な影響も見逃せません。呼吸が苦しかったり体を動かすことがつらいことから、日常生活で不安が蓄積され、うつになる方もいます。消化性潰瘍や胃食道逆流症などの胃腸の病気もよく見られるため、包括的な管理が必要なんですよ。
COPDの肺合併症と全身併存症について詳しく解説