予防的片頭痛治療薬の選択と適応
月10回以上トリプタンを使うと薬物乱用頭痛になる
予防的片頭痛治療薬を開始する基準
片頭痛の予防療法を開始するタイミングは、患者のQOLに直接関わる重要な判断です。日本頭痛学会のガイドラインでは、月に2回以上の片頭痛発作がある患者、または生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者が予防療法の適応とされています。発作頻度が週1〜2回を超える場合や、一度の発作で常に重積状態になる場合も予防治療の対象です。
これは単なる目安ではありません。予防療法を適切なタイミングで開始しないと、患者は頓用薬の使用頻度が増え、薬物乱用頭痛(MOH)のリスクが高まります。トリプタン製剤の場合、月に10日以上使用すると薬物乱用頭痛を発症する可能性があり、特にトリプタンは少ない服薬回数でもMOHを生じやすいとされています。
予防療法が必要かを判断する際は、頭痛ダイアリーの活用が有効です。患者に頭痛の頻度、強度、持続時間、急性期治療薬の使用回数を記録してもらうことで、客観的な評価が可能になります。急性期治療薬が月に10回を超えている場合は、予防療法への移行を強く検討すべきサインです。
さらに、片頭痛の特殊なタイプである脳底型片頭痛や片麻痺性片頭痛、遷延性前兆を伴う片頭痛の場合も、発作頻度に関わらず予防療法の適応となります。これらのケースでは、脳梗塞など重篤な合併症のリスクを考慮する必要があります。
予防的片頭痛治療薬の種類と特徴
予防的片頭痛治療薬は、従来から使用されている経口薬と、近年登場したCGRP関連薬に大別されます。従来の経口薬には、カルシウム拮抗薬のロメリジン(ミグシス)、β遮断薬のプロプラノロール(インデラル)、抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケン)、抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)などがあります。
ロメリジンは、日本で片頭痛予防薬として保険適応を持つ唯一のカルシウム拮抗薬です。副作用が少なく忍容性が高いため、第一選択薬として使用されることが多い薬剤です。ただし、動物実験で胎児への影響が報告されているため、妊婦には禁忌となっています。
抑うつ状態の出現に注意が必要です。
プロプラノロールは、欧米のガイドラインでも片頭痛予防薬の第一選択薬の一つとして推奨されています。高血圧や頻拍性不整脈を併せ持つ患者には特に有用ですが、気管支喘息や房室ブロックのある患者には使用できません。重要な注意点として、トリプタン製剤の一つであるリザトリプタン(マクサルト)と併用禁忌です。プロプラノロールがリザトリプタンの代謝を抑制し、血中濃度を上昇させるためです。
バルプロ酸ナトリウムは、もともとてんかん治療薬ですが、片頭痛予防効果のエビデンスがあり、欧米では約20年の使用実績があります。効果は高いものの、眠気、食欲増進、体重増加、吐き気などの副作用がやや多く、長期服用では高アンモニア血症や血小板減少のリスクがあります。特に妊婦への使用は、片頭痛予防の適応では禁忌とされています。胎児の催奇形性リスクが報告されているためです。
つまり従来薬の選択は併存疾患と妊娠の可能性を考慮する必要があります。
予防的片頭痛治療薬としてのCGRP関連薬の位置づけ
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連薬は、片頭痛の病態メカニズムに直接作用する画期的な予防薬です。2021年に日本で承認された抗CGRP抗体薬には、エムガルティ(ガルカネズマブ)、アジョビ(フレマネズマブ)、アイモビーグ(エレヌマブ)の3種類があります。これらはいずれも皮下注射製剤で、月1回または3ヶ月に1回の投与で効果が持続します。
エムガルティとアジョビは、分泌されたCGRP自体に結合して無力化する抗CGRP抗体です。一方、アイモビーグは世界で唯一のCGRP受容体拮抗薬で、CGRPが受容体に結合するのを阻害します。作用機序は異なりますが、いずれも片頭痛日数を50〜100%軽減する可能性があり、臨床試験では70〜80%の患者で頭痛の軽減や痛みの緩和が認められ、10〜20%では頭痛が完全消失しています。
CGRP関連薬の適応基準は厳格です。日本では、片頭痛日数が月4日以上で、かつ少なくとも1種類の従来型予防薬(ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸など)を使用しても効果が不十分な患者が対象となります。欧米に比べて日本の基準は慎重で、費用対効果を考慮した設定となっています。
2025年に承認されたナルティーク(リメゲパント)は、日本初の経口CGRP受容体拮抗薬です。最大の特徴は、片頭痛発作時の急性期治療と予防の両方に使用できる点です。発作時には頭痛が起きたときに1回75mgを服用し、予防目的では1日おき(隔日)に服用します。臨床データでは、隔日服用により月間片頭痛日数が平均約4.3日減少したと報告されています。
注射が苦手な患者や、発作時治療と予防を一つの薬剤で管理したい場合にナルティークは有用です。
予防的片頭痛治療薬の効果判定と継続期間
予防薬の効果判定は、患者の期待とのギャップを生まないためにも、適切なタイムラインを説明することが重要です。日本頭痛学会のガイドラインでは、予防療法の効果判定には少なくとも2ヶ月を要するとされています。目標用量に達してから2〜3ヶ月を目安に効果を評価し、発作頻度の減少だけでなく、発作の強さや持続時間が軽くなる形でも効果が現れることを患者に伝えるべきです。
有効性を確認できた場合、有害事象がなければ少なくとも3ヶ月、忍容性が良好であれば6〜12ヶ月は予防療法を継続します。片頭痛のコントロールが良好になれば、予防療法薬を緩徐に漸減し中止を試みることも検討します。ただし、急激な中止は片頭痛の再発を招く可能性があるため、慎重な減量が必要です。
CGRP関連薬の場合、3ヶ月で効果がなければ中止を考慮しますが、効果が認められれば6〜12ヶ月の継続が推奨されます。投与開始後3ヶ月の時点で治療継続を判断し、その後は3〜4ヶ月ごとに反応を評価します。中止や休薬のタイミングは主治医と患者が相談して決定し、自己判断での中止は避けるべきです。
効果判定には客観的な指標を使用します。頭痛ダイアリーで片頭痛日数、頭痛強度(VAS:Visual Analog Scale)、急性期治療薬の使用回数、生活への支障度(HIT-6やMIDASなどの評価スケール)を記録し、治療前後で比較します。片頭痛日数が50%以上減少すれば、予防療法は有効と判断できます。
重要なのは、予防療法を中止した後のフォローアップです。中止後数ヶ月間は片頭痛が再発しやすい時期なので、頭痛ダイアリーの継続と定期的な受診を促すべきです。再発時には早期に予防療法を再開することで、薬物乱用頭痛への進展を防げます。
結論は定期的な評価が治療成功の鍵です。
予防的片頭痛治療薬と薬物乱用頭痛の予防
薬物乱用頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)は、片頭痛患者にとって最も注意すべき合併症の一つです。もともと片頭痛や緊張型頭痛があった患者が、頭痛治療薬を過剰に使用することで、かえって頭痛の頻度が増加し、連日のように頭痛が起こるようになる状態を指します。トリプタン製剤の場合、月に10日以上の使用でMOHのリスクが高まり、NSAIDsなどの一般的な鎮痛薬でも月に15日以上使用すると同様のリスクがあります。
トリプタン乱用頭痛の特徴は、従来からある片頭痛の重症化や頻度の増加として現れることです。患者は「トリプタンが効かなくなった」と感じることが多く、服用量や頻度をさらに増やすという悪循環に陥ります。実際、コロンビアの研究では、片頭痛患者の44.6%でトリプタンの過剰処方が認められ、MOH発症率は8.2%に達していました。
MOHの治療では、まず原因となっている薬の使用を中止または減量することが基本です。多くの場合、薬をやめてから数週間〜数ヶ月で頭痛が改善していきますが、この期間は患者にとって非常につらい時期となります。だからこそ、MOHを発症させないための予防的アプローチが重要なのです。
予防療法は、急性期治療薬の使用頻度を減らし、MOHの発生リスクを低下させる効果があります。特に新しいCGRP関連薬であるatogepantを用いた研究では、予防治療により頭痛薬の使用量を減らし、薬物乱用頭痛の発生リスクを低下させることが示されています。月に10回以上トリプタンを使用している患者には、予防薬を適切に併用してトリプタンの使用を月10回以内に抑えるようコントロールすべきです。
患者教育も不可欠です。頭痛薬は月10回程度までにとどめるべきこと、それ以上の服用は薬への依存と頭痛悪化の原因になることを、初診時から繰り返し説明します。「10回を越えては一切ダメ」と神経質になる必要はありませんが、服用回数が増えている場合は専門医への受診を勧めるべきです。
予防薬の適切な使用がMOH予防の鍵となります。
予防的片頭痛治療薬の費用と医療経済的側面
予防的片頭痛治療薬の選択において、費用は無視できない要素です。従来の経口予防薬は比較的安価で、ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸いずれも3割負担で月数百円〜千円程度です。一方、CGRP関連抗体薬は高額で、3割負担の場合、エムガルティは1本あたり約13,550円(初回は2本で約27,100円)、アジョビとアイモビーグは1本あたり約12,400円となります。
年間で計算すると、エムガルティは初回を含めて約16万2,500円、アジョビとアイモビーグは約14万8,800円の自己負担となります。これは東京23区内の平均的な1ヶ月分の食費に相当する金額です。しかし、この費用を単純に「高い」と判断することはできません。片頭痛による生産性損失、欠勤、医療機関への頻繁な受診、急性期治療薬の累積費用など、間接的なコストも考慮する必要があるからです。
実際、CGRP関連薬による治療は総医療費を削減する可能性があります。ある臨床データでは、リメゲパント(ナルティーク)からエムガルティに変更した場合、月額費用は約13,150円から約12,800円とほぼ同等でしたが、総医療費は21%削減され、片頭痛関連の医療費も大幅に減少したと報告されています。これは、予防効果により急性期治療薬の使用や救急受診が減少したためと考えられます。
費用負担を軽減する制度も活用すべきです。高額療養費制度を利用すれば、自己負担額の上限が設定され、所得に応じて月額8万円程度から2万5千円程度までの範囲に収まります。医療証を持つ患者や、特定の公的医療費助成制度の対象者では、さらに負担が軽減される場合もあります。
ナルティーク(リメゲパント)は、3割負担で隔日服用した場合、月額約13,150円となり、CGRP抗体薬とほぼ同等の費用です。ただし、経口薬であるため自己管理が必要で、服薬アドヒアランスの観点からは月1回の注射製剤のほうが優れている場合もあります。費用対効果の評価には、薬剤費だけでなく、通院頻度、患者の利便性、QOL改善度を総合的に判断することが求められます。
医療経済的視点からの薬剤選択が今後ますます重要になります。
日本頭痛学会の薬剤の使用過多による頭痛の解説ページでは、薬物乱用頭痛の診断基準と対処法が詳しく説明されています。
下高井戸脳神経外科クリニックの片頭痛予防薬の選び方では、各予防薬の特徴と選択基準がエビデンスに基づいて整理されています。
橿原脳神経外科クリニックのナルティーク解説記事では、新薬ナルティークの発作時治療と予防の両方の使い方が具体的に紹介されています。

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