薬剤師法施行規則と省令の調剤録再教育研修

薬剤師法施行規則と省令

薬剤師法施行規則(省令)を現場で使うための全体像
📌

まず押さえる範囲

免許(様式・添付書類)、再教育研修、試験、業務(調剤の場所・表示・処方箋・調剤録)までが一つの省令で体系化されています。

🧾

実務で事故りやすい所

調剤録の「記入事項」、居宅等でできる「調剤の業務の範囲」、処方箋・薬袋表示の「必須項目」は、監査・指導の観点でも要注意です。

🔍

条文に当たる近道

e-Govや厚労省掲載の条文(目次→該当章)を起点に、必要なら通知・解説資料で運用を補うのが安全です。

薬剤師法施行規則 省令の位置づけと読み方(免許・試験・業務)

 

薬剤師法施行規則は、薬剤師法および薬剤師法施行令などで「厚生労働省令で定める」とされた具体事項を、章立て(免許/再教育研修/試験/業務/雑則)で定める府省令です。根拠条文が同じでも、実務で見るべき箇所は「業務」だけではなく、免許関係の様式や手数料、再教育研修の運用などにも広がります。

実務者にとっての読み方のコツは、①目次で章の当たりを付け、②“○○は省令で定める”と法律側に書いてある論点を、施行規則側の該当条へ照合することです。たとえば、調剤録は「業務」章の第16条、居宅等での業務は第13条~第13条の3あたり、国家試験は第8条~第12条に集約されます。

もう一つ重要なのは「省令は条文だけで完結しないことがある」点です。施行規則は抽象度が上がりがちなので、現場で運用に迷う論点(居宅等で“どこまで”できるか、記録は何を残すか)は、通知や自治体の監査観点、研修資料が“解釈の補助線”になります。

参考(条文の原典):厚生労働省掲載の「薬剤師法施行規則」本文は目次から全条文を確認できます。

厚労省掲載(原典): 薬剤師法施行規則(昭和36年厚生省令第5号)

薬剤師法施行規則 省令の免許申請と届出(様式・添付書類の注意点)

免許の入口である申請手続は、施行規則第1条に様式と添付書類が具体的に列挙されており、「申請書(様式)+本人確認書類+医師の診断書+登録免許税」までがセットで設計されています。特に医師の診断書の要件や、住民票等の扱い(在留資格区分に応じた提出書類の違い)は、実務での差し戻し・再提出の原因になりやすいので、採用・異動担当と薬局側でチェック項目を共有すると安全です。

また、施行規則には、欠格事由に関する考慮規定(障害を補う手段等の考慮)も条文化されています。現場目線では「採用判断」ではなく、行政が免許付与の可否を判断する際の枠組みですが、合理的配慮や就業環境整備を“先に準備して説明できるか”が、結果的にスムーズな免許手続や配置にもつながります。

さらに、薬剤師には一定周期の届出(様式で提出)が規定されており、忘れると管理面での指摘リスクが増えます。行政への届出は“やらなくても医療行為は回る”類いの業務に見えがちですが、監査や更新・確認の局面で効いてくるので、店舗の法令タスクとして年次カレンダー化しておくと事故が減ります。

薬剤師法施行規則 省令の再教育研修(行政処分と研修の実務)

施行規則には「再教育研修」の章があり、研修の区分(倫理研修・技術研修)や、手数料、個別研修計画書・修了報告書、修了登録証の申請・書換・再交付など、かなり実務寄りの手続がまとまっています。特に再教育研修は、薬剤師法側で制度の骨格(処分を受けた者等に研修を命ずる、修了した旨を名簿登録、登録証交付)が定められ、詳細は省令で詰める構造です。

意外と見落とされるのが「個別研修計画書を開始30日前までに提出」など、期限が条文で固定されている点です。医療現場では、研修は“受ければ良い”と捉えられがちですが、ここでは“事前に計画を作り、協力者の署名を得て、行政に提出する”という、手続法務としての性格が強くなります。処分歴が関わるため、内部情報の取り扱い(閲覧範囲・保管)や、本人の再発防止計画と職場の支援体制をどう整合させるかが、運用上の論点になりやすいところです。

また、再教育研修は「倫理」か「知識・技能」かで手数料体系が変わる設計になっており、制度が“再発防止の狙いに応じて負担と研修内容を変える”思想で作られていることが読み取れます。現場の管理者がこの設計意図を理解していると、本人面談やOJT計画が「感情論」ではなく「制度の目的」から組み立てられ、コミュニケーションが崩れにくくなります。

参考(制度の概要資料):厚労省の「行政処分及び再教育研修制度の概要」は、条文だけでは掴みにくい全体像の理解に役立ちます。

制度の全体像(解説): 薬剤師の行政処分及び再教育研修制度の概要(厚労省資料)

薬剤師法施行規則 省令の調剤の場所(居宅等・特例・できる業務)

「調剤は薬局内で行う」という感覚は強い一方で、施行規則は“薬局以外でも調剤業務の一部を行える場面”を条文で定義しています。具体的には、調剤の場所として「居宅」や、一定の施設の居室等が列挙され、さらに医療提供施設以外の療養場所まで含む構造になっています。ここは在宅医療・施設連携が増えるほど、現場で参照頻度が上がる条文です。

ただし、居宅等で無制限に“調剤”ができるわけではありません。施行規則では、居宅等で行うことのできる調剤の業務を、処方箋の疑義確認(疑義照会)や、医師等の同意を得た数量調整などに限定して列挙しています。つまり、在宅訪問で行えることは「何でもあり」ではなく、条文に明確な線引きがあり、線を越えると法令違反リスクになります。

さらに「調剤の場所の特例」に関する“特別の事情”として、災害などで薬局で調剤できない場合や、患者の状態・処方内容により運搬が困難な場合などが例示されています。災害時対応では、平時のマニュアルに“どの要件で特例判断できるか”を落とし込むことが重要で、単にBCPを作るだけでなく、法令要件(特別の事情)に沿って記録・意思決定ログを残せるかが実務品質になります。

参考(居宅等の業務範囲の実務補助):薬局以外での調剤について整理した資料は、条文の線引きを現場で誤解しないための補助になります。

居宅等で「できること/できないこと」: 薬局以外での調剤(解説PDF)

薬剤師法施行規則 省令の調剤録 記入事項を監査で通す(独自視点)

調剤録は、施行規則第16条で「記入しなければならない事項」が列挙されており、患者情報、薬名・分量、調剤・情報提供等を行った年月日、薬剤師名、情報提供・指導内容の要点、処方箋の発行年月日、処方医等の情報などが規定されています。ここで重要なのは、単に“薬歴を書いているから大丈夫”ではなく、条文が求める項目の粒度(例:情報提供・指導の要点、調剤と情報提供等を行った年月日)を満たしているかを、監査視点で自己点検できることです。

独自視点として強調したいのは、「調剤録の要件を満たす設計」と「現場の入力動線」の整合です。たとえば電子薬歴・レセコンの画面上、情報提供・指導が“自由記載欄に散る設計”だと、監査時に「要点」が検索・抽出できず、形式上の欠落に見えてしまうことがあります。条文は“記入すべき事項”を定めるだけですが、現場では“監査で読める形に整形できる”ことが別の要求として立ち上がります。そこで、次のような運用が現実的です。

・調剤録(または調剤録として扱う記録)を監査で通すための工夫

  • 🧾「第16条項目」を店舗の監査チェックリストにそのまま落とし、月1回サンプリングで点検する。
  • 🔎「情報提供・指導の要点」を定型文だけにせず、ハイリスク薬・新規・変更時には“患者の理解度/同意/注意点”が残るよう入力ルールを作る。
  • 🗂️ “調剤した日”と“指導した日”がズレるケース(後追い電話等)が起きうるため、年月日の持ち方(同一レコードか別イントか)をシステム仕様として決め、監査で説明できる形にする。
  • ⚠️ 処方医情報(名称・所在地等)がシステム連携で自動反映される場合でも、マスタ更新漏れがあると条文上の必須項目が欠けるので、医療機関マスタの更新手順を棚卸しする。

また、施行規則第16条には「当該処方箋が調剤済みとなった場合は一部項目のみで足りる」という例外があり、ここは“楽できる規定”に見えて落とし穴にもなります。現場のリスク管理としては、例外適用で記録を薄くするより、患者安全(指導要点の記録)と監査耐性(説明可能性)を優先して、必要十分な粒度で残す方がトラブルが少ないことが多いです(省令は最低基準で、医療安全はそれ以上を求めるため)。

参考(調剤録の条文原典)。

調剤録の記入事項(条文): 薬剤師法施行規則 第16条(調剤録の記入事項)を含む本文

参考(実務の背景):厚労省の「保険調剤の理解のために」等では、調剤録に関して施行規則条文が参照され、実務理解の補助になります。

調剤録の参照(研修資料): 保険調剤の理解のために(令和7年度)

薬事法・薬剤師法関係法令集 平成7年版: 法律・施行令・施行規則3段対照収載