ウロキナーゼ一覧と薬価
ウロキナーゼは線維素溶解酵素製剤として広く臨床で使用されている医薬品です。血栓を溶解する作用を持ち、様々な血栓性疾患の治療に用いられています。本記事では、現在日本で使用されているウロキナーゼ製剤の一覧と、その特徴、薬価、製造販売元などについて詳しく解説します。
医療現場で適切な薬剤選択を行うためには、各製剤の特性を理解することが重要です。ウロキナーゼ製剤は単位数や投与経路によって複数の種類があり、それぞれ適応症や使用方法が異なります。2025年4月現在の最新情報に基づいて、医療従事者の方々に役立つ情報をまとめました。
ウロキナーゼの主要製品と薬価一覧
ウロキナーゼ製剤の主要製品と薬価について、最新の情報をまとめました。2025年2月19日時点の情報によると、以下の製品が市場に流通しています。
商品名 | 規格 | 薬価 | 製造販売元 |
---|---|---|---|
ウロナーゼ静注用6万単位 | 60,000単位/瓶 | 4,700円/瓶 | 持田製薬株式会社 |
ウロナーゼ冠動注用12万単位 | 120,000単位/瓶 | 7,810円/瓶 | 持田製薬株式会社 |
これらの製品はいずれも先発品であり、現在のところ後発品(ジェネリック医薬品)は市場に出ていません。過去には他の単位数の製品や他社製品も存在していましたが、現在は上記の2製品が主に使用されています。
ウロナーゼ静注用6万単位は白色の注射用凍結乾燥製剤で、1バイアル中に日局ウロキナーゼ60,000単位を含有しています。10バイアル入りの包装で提供されており、線維素溶解酵素剤として分類されています。
一方、ウロナーゼ冠動注用12万単位は、その名の通り冠動脈内投与を目的とした製剤で、120,000単位/瓶の規格となっています。急性心筋梗塞などの冠動脈血栓症に対して使用されることが多い製品です。
ウロキナーゼの薬効分類と作用機序
ウロキナーゼは薬効分類上、「血液製剤・血液作用薬」の中の「抗血栓薬」に分類される「血栓溶解薬」です。さらに詳細には「線維素溶解酵素製剤」として分類されています。
ウロキナーゼの作用機序は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換することで線維素(フィブリン)を分解し、血栓を溶解するというものです。この作用により、血栓によって閉塞した血管を再開通させる効果があります。
具体的には以下のような作用機序を持っています。
- プラスミノーゲン活性化:ウロキナーゼはプラスミノーゲンを活性型のプラスミンに変換します
- フィブリン分解:活性化されたプラスミンがフィブリン(血栓の主成分)を分解します
- 血栓溶解:フィブリンの分解により血栓が溶解し、血流が再開します
この作用機序により、ウロキナーゼは以下のような疾患の治療に用いられます。
- 急性心筋梗塞
- 肺塞栓症
- 深部静脈血栓症
- 末梢動脈閉塞症
- 脳血栓症(発症後5時間以内)
- 眼底出血(網膜中心静脈閉塞症に伴うものなど)
- 腎糸球体毛細血管血栓症
また、ウロキナーゼは血管内カテーテルの閉塞防止や、胸腔内・腹腔内の線維素性癒着の防止・治療にも用いられることがあります。
ウロキナーゼ製剤の製造販売元と特徴
現在、日本国内でウロキナーゼ製剤を製造販売している主要な企業は持田製薬株式会社です。持田製薬は「ウロナーゼ」というブランド名でウロキナーゼ製剤を提供しています。
持田製薬のウロナーゼ製剤には以下のような特徴があります。
- 品質管理:厳格な品質管理のもとで製造されており、安定した効果が期待できます
- 長期の使用実績:長年にわたり臨床で使用されてきた実績があります
- 複数の規格:用途に応じて選択できる複数の規格(6万単位、12万単位)が用意されています
- 投与経路の多様性:静脈内投与用と冠動脈内投与用の製剤があります
過去には他の製薬会社からもウロキナーゼ製剤が販売されていました。例えば、わかもと製薬株式会社からは60,000単位製剤(1,030円/瓶)や240,000単位製剤(3,859円/瓶)が販売されていたという記録がありますが、現在の流通状況は確認できていません。
持田製薬の製品情報によると、ウロナーゼ静注用6万単位の包装形態は10バイアル入りで、以下のような各種コードが付与されています。
- 統一商品コード:224010632
- JANコード:4987224010632
- 調剤包装単位コード:(01)04987224702001
- 薬価基準収載医薬品コード(厚労省コード):3954400D4080
- 個別医薬品コード(YJコード):3954400D4080
- レセプト電算処理システムコード:620006203
これらのコードは医療機関や薬局での在庫管理、処方、調剤、レセプト請求などの場面で活用されています。
ウロキナーゼと他の血栓溶解薬との比較
ウロキナーゼは血栓溶解薬の一種ですが、同じカテゴリーには他にもいくつかの薬剤が存在します。それぞれの特徴を比較することで、臨床での適切な薬剤選択の参考になります。
主な血栓溶解薬の比較は以下の通りです。
一般名 | 商品名 | 特徴 | 薬価(代表的な規格) |
---|---|---|---|
ウロキナーゼ | ウロナーゼ | 古典的な血栓溶解薬。比較的安価で広範囲の適応症を持つ | 4,700円/6万単位 |
アルテプラーゼ (遺伝子組換え) |
アクチバシン グルトパ |
組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)。フィブリン特異性が高い | 34,066円/600万国際単位 |
モンテプラーゼ (遺伝子組換え) |
クリアクター | 変異型t-PA。長い半減期と高いフィブリン特異性を持つ | 37,625円/40万国際単位 |
ウロキナーゼと比較して、アルテプラーゼやモンテプラーゼなどの遺伝子組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)は、より高いフィブリン特異性を持ち、全身の出血リスクが理論的には低いとされています。一方で、これらの薬剤は価格が高く、ウロキナーゼの約7~8倍の薬価となっています。
適応症についても若干の違いがあり、例えば急性心筋梗塞に対しては現在ではt-PA製剤が第一選択となることが多いですが、カテーテル閉塞の解除や胸腔内・腹腔内の線維素性癒着の防止・治療などではウロキナーゼが選択されることがあります。
また、半減期の違いも臨床使用上重要な点です。ウロキナーゼの半減期は比較的短く、急速な効果発現と短時間での効果消失という特徴があります。一方、モンテプラーゼなどは半減期が長く、持続的な効果が期待できます。
ウロキナーゼの臨床使用上の注意点と最新動向
ウロキナーゼを臨床で使用する際には、いくつかの重要な注意点があります。また、近年の研究や臨床現場での使用状況にも変化が見られます。
臨床使用上の主な注意点:
- 出血リスク:ウロキナーゼは血栓を溶解する作用があるため、出血傾向のある患者や出血リスクの高い状態(最近の手術、外傷、消化性潰瘍など)では慎重に使用する必要があります。
- アレルギー反応:ウロキナーゼはヒト尿由来のタンパク質製剤であるため、アレルギー反応が生じる可能性があります。特に初回投与時には注意が必要です。
- 投与速度:急速投与による血圧低下などの副作用を避けるため、適切な投与速度を守ることが重要です。
- 併用薬への注意:抗凝固薬や抗血小板薬との併用では出血リスクが増大するため、慎重な経過観察が必要です。
最新の動向:
近年、血栓溶解療法の分野では、カテーテルを用いた機械的血栓除去術の発展により、薬物療法単独よりも機械的血栓除去と薬物療法の併用が増えています。特に脳梗塞や肺塞栓症などの領域では、この傾向が顕著です。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例では血栓形成が問題となることが知られており、一部の症例では血栓溶解療法の有用性が報告されています。ただし、ウロキナーゼを含む血栓溶解薬のCOVID-19関連血栓症への使用については、まだ確立された治療法ではなく、研究段階にあります。
さらに、ウロキナーゼの新たな応用として、がん治療への応用研究も進んでいます。ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)とその受容体(uPAR)の系は、がんの浸潤や転移に関与していることが知られており、この系を標的とした治療法の開発が進められています。
日本血栓止血学会誌に掲載された血栓溶解療法の最新動向に関する総説
医療経済的な観点からも、高価なt-PA製剤と比較的安価なウロキナーゼの使い分けについて議論があります。特に保険診療の枠組みの中で、費用対効果を考慮した薬剤選択が求められる場面も増えています。
製剤の安定供給に関する課題:
ウロキナーゼはヒト尿から抽出・精製される製剤であるため、原料の確保や製造工程の複雑さから、安定供給に課題を抱えることがあります。過去には一時的な供給不足が生じたこともあり、医療機関では代替薬の確保や使用の優先順位付けなどの対応が求められることがあります。
このような背景から、遺伝子組換え技術を用いた代替製剤の開発や、より特異性の高い新規血栓溶解薬の研究が進められています。しかし、長年の臨床使用実績と比較的安価な価格帯から、ウロキナーゼは今後も重要な血栓溶解薬の一つとして位置づけられると考えられます。
医療従事者は、これらの最新動向や注意点を踏まえつつ、個々の患者の状態や治療目的に応じて、最適な血栓溶解療法を選択することが求められます。
ウロキナーゼの保険適応と経済性評価
ウロキナーゼの保険適応は、その幅広い臨床効果を反映して多岐にわたります。日本の健康保険制度下での適応症と、経済性の観点からの評価について解説します。
保険適応となる主な疾患・状態:
- 急性心筋梗塞(発症後6時間以内)
- 不安定狭心症
- 脳血栓症(発症後5時間以内)
- 肺塞栓症
- 末梢動脈閉塞症
- 深部静脈血栓症
- 眼底出血(網膜中心静脈閉塞症に伴うものなど)
- 腎糸球体毛細血管血栓症
- 血管カテーテルによる閉塞
- 胸腔内・腹腔内の線維素性癒着の防止・治療
これらの適応症に対して、保険診療の枠組みでウロキナーゼを使用することができます。ただし、適応症によって投与量や投与方法、投与期間などが異なるため、添付文書や診療ガイドラインに従った適切な使用が求められます。
経済性評価:
ウロキナーゼの経済性を評価する上で重要なのは、薬価だけでなく、治療効果や安全性、入院期間への影響なども含めた総合的な視点です。
ウロナーゼ静注用6万単位の薬価は4,700円/瓶、ウロナーゼ冠動注用12万単位は7,810円/瓶と設定されています。これは同じ血栓溶解薬であるアルテプラーゼ(アクチバシン、グルトパ)の600万国際単位が34,066円、モンテプラーゼ(クリアクター)の40万国際単位が37,625円であることと比較すると、かなり安価であることがわかります。
例えば、急性心筋梗塞に対する治療では、ウロキナーゼを選択した場合とt-PA製剤を選択した場合で、薬剤費に大きな差が生じます。ただし、再開通率や合併症発生率、入院期間などを考慮した場合、必ずしも薬価の安いウロキナーゼが総合的に経済的とは限りません。
医療経済学的な研究では、特定の状況下では高価なt-PA製剤の方が、入院期間の短縮や合併症の減少によって総医療費の削減につながる可能性も指摘されています。一方で、カテーテル閉塞の解除や線維素性癒着の防止・治療などの用途では、比較的安価なウロキナーゼが費用対効果に優れる場合が多いとされています。
診療報酬上の位置づけ:
ウロキナーゼを含む血栓溶解療法は、疾患によって異なる診療報酬点数が設定されています。例えば、急性心筋梗塞に対する冠動脈内血栓溶解療法は、診療報酬上の評価が高く設定されています。
また、DPC(診断群分類包括評価)制度を導入している医療機関では、入院医療費が包括されるため、薬剤選択が医療機関の収支に直接影響することがあります。このような背景から、医療機関によってはウロキナーゼとt-PA製剤の使い分けに関する院内プロトコルを設定している場合もあります。
医療従事者は、患者の臨床状態を最優先としつつも、医療資源の有効活用という観点からも、適切な薬剤選択を行うことが求められています。特に限られた医療資源の中で最大の医療効果を得るためには、薬剤の特性と経済性のバランスを考慮した選択が重要です。