ストレプトマイシン副作用難聴の発症機序と予防対策

ストレプトマイシン副作用難聴の発症要因

投与中止後も進行するのがストマイ難聴です。

📋 この記事の3ポイント要約
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遺伝的素因が発症の鍵

ミトコンドリア遺伝子変異保有者では少量投与でも難聴が発症し、母系遺伝で家族内に多発する特徴があります

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投与中止後も難聴が進行

薬剤中止後も聴力低下が数ヶ月にわたり進行する非可逆性の副作用で、早期発見と投与前検査が不可欠です

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定期聴力検査で早期発見

投与前と投与中の月1回聴力検査により、自覚症状のない高音域障害を早期発見し、重度難聴への進行を防止できます

ストレプトマイシン難聴の発症メカニズムと個人差

 

ストレプトマイシン(ジヒドロストレプトマイシン)による難聴は、アミノグリコシド系抗菌薬の代表的な副作用として知られています。この難聴の特徴的な点は、投与量と障害の程度が必ずしも比例しないという点です。実際の臨床データを見ると、少量投与でも高度難聴に至る症例がある一方で、大量投与でも聴力障害が発生しない症例も存在します。

日本国内の調査では、ストレプトマイシン投与患者347名中20名(約5.7%)に聴覚障害が発現したとの報告があります。投与量別に見ると、70グラム投与群で16.6%、160グラム以上投与群で11.1%と、必ずしも投与量が多いほど発症率が高いわけではありません。この発症の個人差の大きさが、長年の臨床上の謎でした。

つまり投与量だけでは予測できないということですね。

この個人差の原因として注目されたのが、内耳の遺伝的素因です。1991年にHuらが報告したように、ストレプトマイシン難聴の家系を詳細に分析すると、難聴発症者は母系にのみ出現する傾向が認められました。これはミトコンドリアDNAの母系遺伝パターンと一致します。具体的には、ミトコンドリアDNA 1555A>G変異が関与しており、この変異を持つ患者では、アミノグリコシド系抗菌薬に対する感受性が著しく高まります。

遺伝的素因を持つ患者の場合、通常では副作用が出ない少量投与でも急速に難聴が進行することが明らかになっています。しかも、この難聴は内耳の有毛細胞が直接障害されるため、非可逆的な変化となります。

ストレプトマイシンによる難聴と内耳の遺伝性素因に関する詳細な研究(日本聴覚医学会)

ストレプトマイシン難聴の臨床経過と不可逆性

ストレプトマイシン難聴の臨床経過には、他の薬剤性難聴とは異なる特徴的なパターンがあります。最も注意すべき点は、薬剤投与を中止した後も難聴が進行し続けるという点です。この現象は医療従事者にとって極めて重要な知見となります。

典型的な経過を見ると、患者はまず耳鳴りを訴えます。この時点で投与を中止しても、聴力低下は止まらず、むしろ徐々に進行していきます。ある症例では、18グラムの投与で耳鳴りが出現し直ちに中止したにもかかわらず、その後数ヶ月にわたって難聴が進行し続けました。

投与中止後も進行が続くのです。

聴力検査所見では、初期には4000〜8000Hzの高音域のみが障害され、この段階では患者自身に自覚症状がないことが多いという点が臨床上の落とし穴となります。症状が進行すると、高音域から徐々に低音域へと障害が広がり、最終的には全音域にわたる感音性難聴となります。オージオグラムのパターンは大きく3型に分類され、I型は耳鳴のみ、II型は高音域のみの障害、III型は全音域の障害を示します。

重要な点として、アミノグリコシド系抗菌薬による難聴の発症頻度は数%から10数%と報告されており、これは白金製剤(シスプラチン)の10%程度、サリチル酸剤(アスピリン)の1%程度と比較しても決して低い数値ではありません。しかも、一度発症すると回復は極めて困難です。

回復は期待できないということですね。

対照的に、サリチル酸剤やループ利尿剤による難聴は投薬中止により改善する可逆性難聴ですが、アミノグリコシド系抗菌薬とシスプラチンによる難聴は多くが非可逆的で、一旦難聴を来たすと回復は困難とされています。ステロイドなどの薬物療法が試みられることもありますが、有効性は限定的です。

薬剤性難聴に関する重篤副作用疾患別対応マニュアル(PMDA)

ストレプトマイシン難聴のミトコンドリア遺伝子変異

ストレプトマイシン難聴の遺伝的背景について、分子生物学的な解明が進んでいます。特に注目されるのがミトコンドリアDNA 1555A>G変異です。この変異は、日本国内の難聴外来患者の約3%を占めるとされ、決して稀な遺伝子異常ではありません。

ミトコンドリアDNAは母親からのみ子供に受け継がれるため、この変異を持つ家系では母系に難聴者が集中して出現します。実際の家系図分析では、難聴を発症した患者の母方の親族に、同様にアミノグリコシド系抗菌薬投与後の難聴者が認められる傾向があります。ある報告では、祖母がストレプトマイシンによる難聴患者であり、母方に難聴者が多いという家族歴が確認されています。

注意すべきは、この遺伝子変異を持つ患者の一部は、ストレプトマイシンを投与されなくても難聴を発症する可能性があるという点です。つまり、この遺伝子変異は単にアミノグリコシド系抗菌薬への感受性を高めるだけでなく、内耳そのものの脆弱性を示唆しています。

母系遺伝が鍵となります。

ミトコンドリア1555A>G変異および1494C>T変異に伴う難聴に関しては、アミノグリコシド系抗菌薬の投与を避けることにより高度難聴の予防が可能です。このため、投与前のリスク評価として、患者本人または血族にアミノグリコシド系抗菌薬による難聴の既往がないか、母系の家族歴を詳細に聴取することが極めて重要となります。

現在では遺伝子検査が比較的容易に受けられるようになっており、ストレプトマイシン難聴の家族歴や母系遺伝の難聴があるときには遺伝子検査の意義を患者に伝え、変異陽性の場合はアミノグリコシド系抗菌薬の使用を避けるという対応が推奨されています。

アミノグリコシド系抗菌薬による難聴のリスク管理(厚生労働省)

ストレプトマイシン投与前後の聴力検査プロトコル

ストレプトマイシンをはじめとするアミノグリコシド系抗菌薬を使用する際、難聴の早期発見と予防のために定期的な聴力検査が不可欠です。薬剤性難聴は初期段階では自覚症状に乏しいため、客観的な聴力評価が重要となります。

投与前の段階で、まず患者本人とその家族の聴力状態を確認します。特に母方の家族歴に難聴者がいないか、過去にアミノグリコシド系抗菌薬やストレプトマイシンによる難聴の既往がないかを詳細に問診します。患者側または投薬上のリスクがある場合は、投薬前に必ず聴力検査を実施すべきです。

投与中の聴力モニタリングとしては、月1回の定期的な聴力検査が推奨されます。検査の間隔は少なくとも7日程度は空けることが望ましいとされています。検査では特に4000〜8000Hzの高音域に注意を払い、この周波数帯域でわずかでも聴力低下が認められた場合は、直ちに投与中止を検討します。

月1回の検査が基本です。

患者から耳鳴り、難聴、めまいなどの症状の訴えがあれば、予定を待たずに直ちに聴力検査を実施します。第8脳神経障害の初期症状を見逃さないことが重要です。特に腎機能障害患者、高齢者、長期間投与患者、大量投与患者では血中濃度が上昇しやすく、より厳重な経過観察が必要となります。

投与中止後も、数ヶ月間は定期的な聴力検査を継続することが推奨されます。これは投与中止後も難聴が進行する可能性があるためです。ミトコンドリア遺伝子変異による難聴では進行例も認められることから、遺伝子検査で陽性が判明した患者には長期的な経過観察が必要です。

補聴器の装用が必要となった場合、その効果判定と調整のためにも継続的な聴力評価が重要となります。障害年金申請などの社会的支援を検討する際にも、正確な聴力データが必須となります。

ストレプトマイシン投与時の聴力検査スケジュール(神戸きしだクリニック)

ストレプトマイシン難聴と感音性難聴患者への投与禁忌

ストレプトマイシンの添付文書には、投与にあたって特に注意すべき患者群が明記されています。中でも最も重要なのが、既存の難聴患者に対する投与制限です。医療訴訟の事例からも、この点の重要性が浮き彫りになっています。

ある判例では、国立病院で15〜16歳頃から原因不明の感音性難聴があった患者に対して、硫酸ストレプトマイシンが投与され、その結果聴力障害が著しく進行したケースが問題となりました。裁判所は、硫酸ストレプトマイシンの聴覚障害発生頻度は少ないもので0.5%、多いもので10%とする医学文献を踏まえ、「硫酸ストマイが感覚障害者には、より高度の聴力障害が発生する危険があって、難聴者には禁忌とするのが本件投与当時の医学的知見であった」と判断しました。

感音性難聴患者への投与はダメです。

現在の添付文書においても、「本人又はその血族がアミノグリコシド系抗生物質による難聴又はその他の難聴のある患者」に対しては、「難聴が発現又は増悪するおそれがある」として特定の背景を有する患者に関する注意喚起がなされています。原則として、このような患者には投与しないことが基本方針となります。

ただし結核などの感染症治療において、他に有効な代替薬がなく、治療上の必要性が副作用のリスクを上回ると判断される場合には、慎重投与として例外的に使用されることもあります。その場合でも、投与前の詳細な家族歴聴取、ミトコンドリア遺伝子検査の実施、投与中の厳重な聴力モニタリング、患者と家族への十分なインフォームドコンセントが必須となります。

重症筋無力症の患者に対しても、神経筋遮断作用により症状が増悪するおそれがあるため、慎重な判断が求められます。腎機能障害患者では薬剤の排泄が遅延し、血中濃度が上昇しやすいため、投与量の調整と血中濃度モニタリングが重要です。

医療従事者は、ストレプトマイシン投与開始前に必ず患者の聴力状態を評価し、難聴のリスク因子を持つ患者には代替薬の使用を優先的に検討すべきです。やむを得ず投与する場合には、上記の予防措置を徹底し、副作用による医療事故や訴訟リスクを最小限に抑える必要があります。

ストレプトマイシン投与による聴力障害の医療訴訟事例(医療安全情報)

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