その他の抗菌薬と種類
ST合剤の内服量を半分に減らしただけで副作用が3割も減ります
その他の抗菌薬の定義と分類
抗菌薬というと、ペニシリン系やセフェム系といったβラクタム系が真っ先に思い浮かぶ方が多いでしょう。しかし実際の臨床現場では、これらの主要な抗菌薬だけでは対応できない感染症が数多く存在します。嫌気性菌による腹腔内感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による院内感染症、あるいは免疫不全患者におけるニューモシスチス肺炎など、特殊な病原体や臨床状況に対応するために開発されたのが「その他の抗菌薬」と総称される一群の薬剤です。
これらの抗菌薬は作用機序や抗菌スペクトラムが多様で、リンコマイシン系(クリンダマイシンなど)、グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)、ニトロイミダゾール系(メトロニダゾール)、葉酸代謝拮抗薬(ST合剤)、テトラサイクリン系の新規薬剤(チゲサイクリン)、ポリペプチド系(コリスチン)、ホスホマイシン系など、実に多彩な系統に分類されます。つまり「その他」という名称は決して重要度が低いという意味ではなく、むしろ特定の臨床場面で不可欠な選択肢となる薬剤群なのです。
これらの抗菌薬に共通する特徴として、適応が限定的であること、副作用プロファイルが独特であること、そして多くの場合で第一選択とはならないものの、耐性菌や特殊な感染症では最終手段となりうる点が挙げられます。日本化学療法学会のガイドラインでも、これらの薬剤は「他剤が無効または使用できない場合」の選択肢として位置づけられており、適正使用が強く求められています。
医療従事者としてこれらの抗菌薬を理解することは、耐性菌問題への対応、重症感染症の治療成績向上、そして抗菌薬適正使用推進において極めて重要です。それぞれの薬剤が持つユニークな特性を把握し、適切な場面で選択できる知識を身につけましょう。
その他の抗菌薬の嫌気性菌カバー薬剤
嫌気性菌による感染症は、腹腔内感染症、誤嚥性肺炎、脳膿瘍、骨盤内感染症など多岐にわたります。これらの感染症では、横隔膜を境に上下で優勢な嫌気性菌の種類が異なるため、抗菌薬の選択も変わってくるという重要な原則があります。その他の抗菌薬の中で嫌気性菌をカバーする代表的な薬剤が、クリンダマイシンとメトロニダゾールです。
クリンダマイシン(ダラシン)はリンコマイシン系抗生物質で、細菌のリボソームに結合して蛋白合成を阻害することで静菌的に作用します。グラム陽性球菌への活性が強く、特に横隔膜上の嫌気性菌(口腔内の嫌気性菌など)に対して優れた効果を発揮します。そのため誤嚥性肺炎や歯性感染症で頻用されます。さらに骨組織への移行性が良好であることから、整形外科領域の感染症でも選択されることが多い薬剤です。通常投与量は1回600mg、1日3~4回の静脈内投与で、内服薬も存在します。
ただし注意すべき点として、横隔膜下の嫌気性菌(Bacteroides fragilis群など)には耐性化が進んでおり、腹腔内感染症への使用には慎重な判断が必要です。また副作用として偽膜性腸炎(Clostridioides difficile感染症)のリスクがあり、投与中の下痢症状には十分な注意が必要となります。この副作用は抗菌薬関連下痢症の中でも重篤化しやすく、場合によっては致命的となることもあるため、発症時には速やかに投与を中止し、適切な治療を開始する必要があります。
一方、メトロニダゾール(フラジール)はニトロイミダゾール系の抗菌薬で、嫌気性菌のDNAを破壊することで殺菌的に作用します。ほぼ嫌気性菌に特化した抗菌スペクトラムを持ち、特にClostridioides difficileまでカバーできる点が大きな特徴です。中枢神経系を含む組織移行性が極めて良好であるため、脳膿瘍や腹腔内感染症においてβラクタム系抗菌薬と併用されることが多く、またC. difficile感染症の第一選択薬としても重要な位置を占めています。通常は1回500mg、1日3~4回の投与が標準的です。
メトロニダゾールの副作用には消化器症状(悪心、嘔吐、金属味)、末梢神経障害、そして長期投与時の脳症などがあり、とくに神経系の副作用は不可逆的となる可能性があるため投与期間には注意が必要です。どういうことでしょうか?嫌気性菌感染症の治療において、感染部位と起因菌の特性を理解し、クリンダマイシンとメトロニダゾールを適切に使い分けることが治療成功の鍵となります。横隔膜上ならクリンダマイシン、横隔膜下や中枢神経系ならメトロニダゾールという原則を覚えておくと臨床判断がスムーズです。
医学書院「嫌気性菌キラー,メトロニダゾール&クリンダマイシン」
こちらのリンクでは、嫌気性菌に対する抗菌薬の使い分けについて、感染症専門医による詳細な解説が掲載されており、実践的な使用場面の参考になります。
その他の抗菌薬のMRSA治療薬
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は院内感染の主要な原因菌であり、通常のβラクタム系抗菌薬が効かないため、専用の抗MRSA薬が必要となります。その他の抗菌薬の中で、グリコペプチド系抗菌薬であるバンコマイシンとテイコプラニンが最も重要な選択肢です。
バンコマイシン(VCM)は細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用し、MRSA感染症の第一選択薬として長年使用されてきました。ほとんどのグラム陽性菌に活性を持ちますが、βラクタム系に感受性がある菌に対してはβラクタム系のほうが効果が高いという点は覚えておくべきです。つまりメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対してバンコマイシンを使用することは不適切であり、セファゾリンなどの第1世代セフェム系が優先されます。
バンコマイシンの投与において最も重要なのは、TDM(治療薬物モニタリング)の実施です。有効性と安全性を両立させるため、トラフ値(次回投与直前の血中濃度)を測定し、通常の感染症では10~15μg/mL、重症感染症では15~20μg/mLを目標として投与量を調整します。トラフ値が低すぎると治療効果が得られず、高すぎると腎毒性のリスクが上昇するため、定期的なモニタリングが不可欠です。通常の開始用量は1回1g、1日2回投与(12時間ごと)ですが、腎機能に応じた用量調整が必要となります。副作用としては腎障害のほか、レッドマン症候群(急速静注時のヒスタミン遊離による紅潮)があり、最低1時間以上かけてゆっくり点滴する必要があります。
テイコプラニン(TEIC)もグリコペプチド系の抗MRSA薬で、バンコマイシンと同様の作用機序を持ちますが、いくつかの特徴的な違いがあります。組織移行性がバンコマイシンより良好で、副作用が少なく、1日1回投与が可能という利点があります。しかし血漿蛋白結合率が非常に高い(90~95%)ため、投与開始初期に血中濃度が上がりにくいという問題があります。このため投与開始時には負荷投与(初日は1回400mg、1日2~3回)を行い、その後は維持量(1回400mg、1日1回)に移行するというプロトコルが推奨されています。
TDMはトラフ値で15~30μg/mL(重症例では30~40μg/mL)を目標とします。バンコマイシンと比較して、テイコプラニンは外来治療への移行がしやすく、投与の簡便さから患者のQOL向上にも寄与します。それで大丈夫でしょうか?MRSA感染症の治療では、感染部位の重症度、患者の腎機能、そして外来治療の可能性などを総合的に判断して、バンコマイシンとテイコプラニンを使い分けることが重要です。
日本化学療法学会「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022」
このガイドラインでは、バンコマイシンとテイコプラニンのTDM実施方法と目標血中濃度について、最新のエビデンスに基づいた推奨が示されており、実臨床での投与設計の参考になります。
その他の抗菌薬のST合剤と特殊用途薬
スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤(ST合剤、バクタ)は、2つの葉酸代謝拮抗薬を組み合わせた独特な抗菌薬です。細菌の葉酸合成経路を2段階で阻害することで相乗的な殺菌効果を発揮し、MRSAを含む黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌などの腸内細菌に幅広い抗菌活性を示します。腸管吸収率が良好で、組織移行性も優れており、特に中枢神経系や前立腺への移行が良いという特徴があります。
ST合剤の最も一般的な適応は市中の単純性尿路感染症(膀胱炎)で、第一選択薬として位置づけられています。しかし本剤の真価が発揮されるのは、ニューモシスチス肺炎(PCP)の治療と予防です。HIV感染者や免疫抑制療法を受けている患者において、ニューモシスチス・イロベチイによる日和見感染症は致命的となりうる疾患ですが、ST合剤はその第一選択治療薬であり、かつ予防投与にも使用されます。治療時にはトリメトプリム換算で15~20mg/kg/日という大量投与が必要で、体重65kgの患者なら1日12錠(配合錠の場合)という計算になります。
予防投与では通常量の半分程度(1回1錠、週3回または1日1回)で十分な効果が得られます。意外ですね?実はニューモシスチス肺炎の予防においては、治療量の半分の投与でも発症抑制効果が維持されることが多くの研究で示されています。これは医療経済的にも、副作用軽減の観点からも重要な知見です。
ST合剤の副作用には薬疹(発疹、Stevens-Johnson症候群などの重症薬疹も含む)、肝障害、骨髄抑制(特に血小板減少、白血球減少)、高カリウム血症などがあり、特にHIV感染者では副作用の発現率が健常者より高いことが知られています。約50~60%の患者で何らかの副作用が出現すると報告されており、投与中は定期的な血液検査と皮疹のモニタリングが必須です。副作用が出現した場合は速やかに投与を中止し、代替薬(ペンタミジン吸入、アトバコンなど)への変更を検討します。
その他の特殊用途の抗菌薬として、チゲサイクリン(タイガシル)があります。これはテトラサイクリン系の新規薬剤で、従来のテトラサイクリン耐性機構を克服しており、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ESBL産生菌、多剤耐性アシネトバクターなど、難治性耐性菌に対する切り札として期待されています。ただし緑膿菌には無効であり、また悪心などの消化器症状が約30~40%の患者で出現するため、使用には慎重な判断が求められます。本邦では「他剤に耐性を示した菌株であり、抗菌活性を示す他剤が使用できない場合にのみ使用すること」という厳格な適応制限があり、安易な使用は避けるべきです。
さらに、ホスホマイシン(ホスミシン)は非常に低分子で組織移行性に優れ、幅広い抗菌スペクトラムを持つユニークな抗菌薬です。海外では単純性膀胱炎に対する単回経口投与(3g)が標準的な治療として確立していますが、日本で販売されている経口製剤は腸管吸収率が低いため、主に注射剤が使用されます。ESBL産生大腸菌による尿路感染症など、耐性菌による感染症でも選択肢となりうる薬剤です。
日本化学療法学会「チゲサイクリン適正使用のための手引き2014」
チゲサイクリンの適応、投与方法、副作用管理について詳細に解説されており、多剤耐性菌感染症への対応の参考となります。
その他の抗菌薬のコリスチンと最終手段
コリスチン(オルドレブ)は1950年代に日本人が開発したポリペプチド系抗菌薬で、グラム陰性桿菌に対して殺菌的に作用します。細菌の外膜に結合してその構造を破壊することで効果を発揮し、緑膿菌や多剤耐性アシネトバクターなど、カルバペネム系を含む多くの抗菌薬に耐性を示す難治性グラム陰性菌に対しても抗菌活性を保持しています。まさに「最後の切り札」として位置づけられる薬剤です。
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)などの感染症は、使用できる抗菌薬が極めて限られており、治療に難渋するケースが少なくありません。こうした状況でコリスチンは、時に唯一の治療選択肢となることがあります。通常はコリスチンメタンスルホン酸ナトリウムとして投与され、1日量として2.5~5mg/kg(コリスチン基準)を2~3回に分けて点滴静注します。カルバペネム系などの他の抗菌薬と併用することでシナジー効果が得られることが知られており、単剤よりも併用療法が推奨されています。
しかしコリスチンには重大な問題があります。
厳しいところですね。
約60%の患者で腎毒性が発現すると報告されており、これは非常に高い頻度です。腎障害は通常は可逆的で投与中止により回復するとされていますが、重症例では透析が必要となることもあります。また神経毒性(四肢のしびれ、感覚異常、めまい、構音障害など)も10~20%程度で出現し、こちらも投与継続の障壁となります。これらの深刻な副作用のため、かつて一度は臨床使用が中止された歴史があります。
現在では多剤耐性グラム陰性菌の増加という危機的状況を背景に、「他に選択肢がない場合の最終手段」として再び使用されるようになりましたが、その使用は極めて慎重に判断されるべきです。投与中は血清クレアチニン値を頻繁にモニタリングし、腎機能の悪化が見られた場合は速やかに投与を中止または減量する必要があります。日本化学療法学会が発行する「コリスチンの適正使用に関する指針」では、使用前に感染症専門医や臨床微生物の専門家にコンサルテーションすることが強く推奨されています。
コリスチンの使用が必要となる状況を避けるため、日頃からの抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship)が極めて重要です。広域抗菌薬の安易な使用や不必要な長期投与は耐性菌の選択圧となり、最終的にコリスチンさえ効かない「スーパー耐性菌」の出現につながります。カルバペネム系抗菌薬の使用が多い医療機関ほどカルバペネム耐性菌の検出率が高いという疫学データは、まさにこの問題を象徴しています。
医療従事者一人ひとりが抗菌薬を処方・投与する際に、「本当にこの抗菌薬が必要か」「もっと狭域のスペクトラムで対応できないか」「培養結果に基づいてde-escalationできないか」と自問することが、将来世代のために使える抗菌薬を守ることにつながります。
日本化学療法学会「コリスチンの適正使用に関する指針―改訂版―」
コリスチンの適応判断、投与方法、副作用モニタリングについて、国内のエキスパートによる推奨が詳細に記載されており、実臨床での使用の際に必読の資料です。
その他の抗菌薬の独自視点での臨床判断
その他の抗菌薬を実臨床で適切に使用するためには、教科書的な知識だけでなく、現場での判断力が求められます。ここでは他の医療情報源ではあまり触れられない、実践的な視点をいくつか紹介します。
まず重要なのは「培養結果を待つべきか、経験的治療を開始すべきか」という判断です。その他の抗菌薬の多くは特殊な病原体や耐性菌を標的とするため、培養・感受性試験の結果を待ってから使用することが原則です。しかし重症敗血症や敗血症性ショックなど、1時間でも早い適切な抗菌薬投与が予後を左右する状況では、患者の背景(免疫状態、最近の抗菌薬使用歴、院内感染のリスク因子など)から耐性菌の可能性を推測し、経験的にその他の抗菌薬を選択せざるを得ない場合があります。
例えば、過去3か月以内にカルバペネム系抗菌薬を使用していた患者が発熱・ショックを呈した場合、カルバペネム耐性菌の可能性を考慮してコリスチンやチゲサイクリンを初期治療に含めることも検討されます。ただしこの判断は感染症専門医の助言を得ることが望ましく、培養結果が判明しだいde-escalation(より狭域の抗菌薬への変更)を必ず検討すべきです。安易な広域抗菌薬の継続は耐性菌のさらなる選択圧となります。
次に、薬剤選択において「投与経路」の視点も重要です。経口吸収の良いST合剤やミノサイクリンは、外来治療や入院治療からの早期退院に有用です。逆に、メトロニダゾールは経口薬と注射薬でバイオアベイラビリティがほぼ同等であるため、腸管機能が保たれていれば経口投与への切り替えが容易です。このような薬剤特性を理解していると、医療経済的にも患者のQOL的にも有利な治療戦略を立てることができます。
さらに、「組織移行性」を考慮した薬剤選択も臨床判断の鍵です。例えば脳膿瘍や髄膜炎ではメトロニダゾールの優れた中枢神経系移行性が活きますし、骨髄炎や人工関節感染ではクリンダマイシンの骨組織移行性が重要になります。一方、チゲサイクリンは肺炎には効果が期待できても、尿路感染症や中枢神経感染症には不向きという限界があります。つまり「どこの感染症か」という視点なしに抗菌薬を選ぶことはできないのです。
最後に、その他の抗菌薬の使用においては「副作用モニタリングの計画」を処方時点で立てておくことが重要です。バンコマイシンやテイコプラニンならTDMの採血タイミング、ST合剤なら皮疹チェックと血算・肝機能の定期検査、コリスチンなら腎機能の頻回モニタリングといった具合に、薬剤ごとに必要なフォローアップが異なります。これを処方時にオーダーしておくことで、重篤な有害事象を早期に発見し、対応することが可能になります。
医療現場では、ガイドラインや添付文書だけでは対応しきれない複雑な状況に直面することが少なくありません。患者個々の状態、地域の耐性菌疫学、医療資源の制約などを総合的に判断し、その他の抗菌薬を適切に使いこなすことが、感染症治療の質向上につながります。
