出血性網膜炎と診断と治療
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出血性網膜炎の原因と免疫不全とCMV網膜炎
医療現場で「出血性網膜炎」という表現が出てくるとき、実際には“出血を伴う感染性の壊死性網膜炎”が混ざって語られやすく、代表がサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎です。
CMV網膜炎は、免疫不全が重要な前提になりやすく、HIV感染症ではCD4陽性Tリンパ球数が200/µL未満の時期に眼科スクリーニングが必要とされます。
CMV網膜炎は眼底所見から臨床診断が可能なことが多い一方、急性網膜壊死(ARN)、梅毒性ぶどう膜炎、眼トキソプラズマ症などとの鑑別が問題になるケースもあるため、必要時は眼局所PCRを積極的に使う、という立て付けが実務的です。
「出血」に注目すると、CMVは病型により出血の出方が変わります。semanticscholar+1
- 周辺部顆粒型:初期は出血がほとんど伴わないことがある(=“出血性”に見えにくい初期がある)。semanticscholar+1
- 後極部血管炎型:血管に沿って網膜出血と浮腫を伴う黄白色滲出斑を生じ、後極部近傍だと黄斑浮腫や視神経浸潤で急激な視力低下につながり得ます。
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- 樹氷状血管炎型:大血管を中心に白鞘化が目立つ所見があり、免疫複合体関連の炎症反応が示唆されています。
また「意外に見落としやすいポイント」として、血液中のCMV検査だけで眼病変を決め打ちしない姿勢が大切です。
エイズ治療・研究開発センターの解説では、血液中CMV抗原血症やPCRは網膜炎との関連が低いとされてきた一方で、血中CMV-DNA量が高い場合に診断的価値が高い可能性も述べられています。
つまり、全身検査の“陽性/陰性”より、眼底の壊死性病変の質と免疫状態の整合性、必要時の眼局所PCRが決め手になりやすい、という整理が安全です。
出血性網膜炎の眼底所見と壊死性網膜炎と硝子体混濁
鑑別の初動では「壊死性網膜炎+出血」の組み合わせを見たら、硝子体炎の強さ(硝子体混濁)をセットで評価すると分岐が明確になります。
CMV網膜炎は、顆粒状病巣による境界不鮮明な壊死性網膜炎で、硝子体の炎症は“ないか軽度”とされるのが特徴で、臨床像が揃う場合はPCRなしでも診断が可能という考え方も提示されています。
一方で急性網膜壊死(ARN)は、前房・硝子体の炎症細胞、網膜動脈を主体とする閉塞性血管炎、周辺部からの黄白色顆粒状病変の拡大といった像をとりやすく、病勢と炎症が強いことが多いと整理できます。
臨床で困るのは「最初に見た眼底が、出血と白色病巣で“それっぽい”」という状況です。
そのときの実用的チェック項目は以下です。semanticscholar+1
- 免疫不全が明らかか(HIV、移植、悪性腫瘍、免疫抑制療法など)。
- 前房炎症・硝子体混濁が軽いのに壊死性病変が進むならCMVを強く疑う。semanticscholar+1
- 強い炎症に閉塞性血管炎が乗るならARNの優先順位が上がる。
また、OCTが“地味に効く”場面があります。
初期CMV網膜炎とHIV網膜症の鑑別について、OCTでCMVは網膜全層の層構造脱落と陥凹、HIV網膜症は網膜内層に局在し外層が保たれる、といった差が示され、鑑別が容易になったと説明されています。
出血性網膜炎の文脈でも「出血の派手さ」ではなく、病巣が全層壊死に向かっているか、炎症の層がどこか、という“構造”で判断できると誤診が減ります。
出血性網膜炎の検査とPCRと診断基準
感染性の壊死性網膜炎を疑うとき、眼局所のPCRは鑑別の軸です。
エイズ治療・研究開発センターの記載では、CMV網膜炎は特徴的臨床像が揃う場合にPCRなしでも診断可能とされる一方、鑑別が必要なケースでは眼局所PCR(Direct Strip PCR法など)を積極的に用いるべき、とされています。
「PCRをいつ出すか」で迷いやすい場面は、出血性所見があり“とりあえずステロイド”に傾きそうな時ですが、感染性ぶどう膜炎領域では原因微生物の検索と治療を並行させる、という原則がガイドライン内で繰り返し示されています。
検査・連携で押さえておくべき実務ポイントは次です。semanticscholar+1
- 眼局所(前房水/硝子体液)のPCRでウイルスDNAを同定する設計にする(ARNはヘルペス群、CMVはCMVゲノムの証明)。
- CMV網膜炎では全身側の免疫状態(特にHIVのCD4など)を把握し、抗CMV療法と免疫能改善をセットで考える。
- ARNでは早期診断・早期抗ウイルス治療が視機能予後を左右し、経過中に網膜剥離が高率で起き得る点を前提に、眼底透見不良なら超音波なども使って手術タイミングを逃さない。
なお“診断基準”の話を上司チェックで突かれがちなため、言い回しの整理も有用です。
- CMV網膜炎は臨床所見で診断可能なことが多いが、分類基準(SUN Working Groupなど)やACTG criteriaの枠組みがあり、臨床像が揃えば確からしさは上がる。jstage.jst+1
- ARNはAmerican Uveitis Societyの診断基準や本邦の診断基準がある、とガイドライン内で触れられています。
出血性網膜炎の治療と抗ウイルス薬と硝子体手術
治療設計は「原因ウイルスの制御」と「視機能を落とす合併症の予防(網膜剥離、黄斑浮腫、視神経障害など)」を同時に走らせます。
CMV網膜炎では、抗CMV療法に加えて免疫能の改善が重要で、治療は原則として全身治療が主体とされています。
具体的には、導入療法(通常2~3週)後に維持療法を継続し、バルガンシクロビル内服などにより通院での長期維持が可能になったことがQOL面でも言及されています。
眼局所治療(硝子体内注射)は、全身投与が困難な場合などに選択肢になりますが、網膜毒性や術後合併症(眼内炎、網膜剥離)への注意が必要、という臨床的な含みも明記されています。
また、HIV症例ではART導入により寛解が得られるようになったこと、周辺部の小病変ならARTのみで改善する場合もあること、抗CMV療法中止の目安としてCD4の回復と一定期間の安定が記載されています。
一方ARNでは、抗ウイルス療法(アシクロビル等)と、抗炎症療法としてのステロイド全身投与・点眼の併用が記載され、閉塞性血管炎に対する低用量アスピリン投与が行われることもある、とされています(効果評価は定まっていない)。
ARNは高率に網膜裂孔・網膜剥離へ進み、硝子体手術が必要になることが多い点が、治療計画の最初から重要です。
ぶどう膜炎診療ガイドラインでも、急性網膜壊死やCMV網膜炎では硝子体手術が必要となることが多い、網膜剥離は後部硝子体剥離を契機に生じやすい、など手術タイミングの考え方が整理されています。
出血性網膜炎の独自視点:免疫回復ぶどう膜炎とIRU
検索上位の一般解説では「CMV網膜炎=抗ウイルスで治す」で終わりがちですが、実臨床で“治療後に再び見えにくくなる”落とし穴が免疫回復ぶどう膜炎(IRU)です。
ARTでCD4が上昇すると、活動性のないCMV網膜炎罹患眼に硝子体混濁が出現し得ることが報告され、IRUと命名された経緯が説明されています。
IRUには、前部ぶどう膜炎、後嚢下白内障、虹彩癒着、嚢胞様黄斑浮腫、網膜前膜、増殖硝子体網膜症、視神経乳頭新生血管などが含まれる、とされており、視機能予後とフォロー計画に直結します。
さらに重要なのは、「IRUの治療でステロイドを使うか」という実装の悩みが臨床で起きる点です。
重症例にステロイド療法が用いられる一方で、ステロイド眼局所投与が有効という報告と、CMV網膜炎が再燃したという報告があり意見が分かれる、と整理されています。
このため、出血性網膜炎(とくにCMV)を扱う医療者向け記事では、急性期治療だけでなく「免疫が戻るフェーズの炎症」をリスクとして先に共有しておくと、紹介元・内科との連携が一段スムーズになります。
参考:HIV患者の眼合併症(CMV網膜炎、IRU、CD4とスクリーニング、OCT鑑別などの実務的記載)
エイズ治療・研究開発センター「HIV感染症に合併する眼病変」
参考:ぶどう膜炎の診断・治療の枠組み、感染性ぶどう膜炎(急性網膜壊死、CMV網膜炎等)、ステロイド全身投与の注意点、硝子体手術の適応の整理
日本眼科学会関連「ぶどう膜炎診療ガイドライン(PDF)」

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