心臓病の種類と症状及び治療方法について

心臓病の種類と特徴

心臓病の基本情報
💔

死亡率

日本人の死因第2位(全死因の約14.9%)

🏥

患者数

国内約305.5万人(令和2年調査)

🔍

主な分類

虚血性心疾患、心臓弁膜症、不整脈、心筋症など

心臓病は、心臓の構造や機能に異常をきたす疾患の総称です。日本人の死因の第2位を占め、年間約21万人が心疾患で亡くなっています。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たす重要な臓器であり、その機能が低下すると様々な症状が現れます。

心臓病には多くの種類がありますが、それぞれ原因や症状、治療法が異なります。医療従事者として患者さんに適切な説明をするためには、各疾患の特徴を理解しておくことが重要です。ここでは、主な心臓病の種類とその特徴について詳しく解説します。

心臓病の種類:虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)

虚血性心疾患は、心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈の血流が悪くなることで発症する疾患です。主に動脈硬化が原因となり、冠動脈が狭くなったり閉塞したりすることで心筋への血流が不足します。

狭心症は、冠動脈の狭窄により一時的に心筋への血流が不足する状態です。典型的な症状として、胸痛や胸部圧迫感が現れます。労作性狭心症では歩行時や入浴時などの運動時に症状が出現し、安静にすると改善します。一方、冠攣縮性狭心症は冠動脈が痙攣することで発症し、就寝中や明け方の安静時に痛みが生じるのが特徴です。

心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉塞して心筋に血液が流れなくなり、心筋が壊死してしまう重篤な状態です。強い胸痛や冷や汗、吐き気などの症状が突然現れ、急性心不全を引き起こして命に関わる危険性があります。一度壊死した心筋は再生しないため、早期の治療が極めて重要です。

虚血性心疾患の治療には、薬物療法(抗血小板薬、β遮断薬硝酸薬など)、カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術、ステント留置術)、外科的治療(冠動脈バイパス手術)などがあります。また、生活習慣の改善や危険因子の管理も重要な治療の一環です。

心臓病の種類:心臓弁膜症の病態と診断

心臓弁膜症は、心臓にある4つの弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)のいずれかに異常が生じる疾患です。弁の異常には主に2つのタイプがあります。

  1. 狭窄症:弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられる状態
  2. 閉鎖不全症(逆流症):弁が完全に閉じなくなり、血液が逆流する状態

心臓弁膜症の原因としては、リウマチ熱、加齢による変性、先天性異常、感染性心内膜炎などがあります。特に高齢者では加齢に伴う弁の石灰化による大動脈弁狭窄症が増加しています。

症状としては、息切れ、動悸、胸痛、疲労感、浮腫などが現れますが、軽度の場合は無症状のこともあります。特に高齢者では症状を年齢のせいだと思い、自覚していないケースも少なくありません。

診断には、聴診による心雑音の確認、心エコー検査、心電図、胸部X線などが用いられます。特に心エコー検査は弁の形態や機能を評価する上で重要な検査です。

治療法としては、薬物療法による症状コントロール、カテーテルを用いた経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)、外科的な弁形成術や弁置換術などがあります。近年では低侵襲手術(MICS)も普及してきており、患者の負担軽減が図られています。

心臓病の種類:不整脈の分類と管理方法

不整脈は、心臓の電気的活動に異常が生じ、心拍のリズムが乱れる状態です。不整脈は大きく以下の3つに分類されます。

  1. 期外収縮:通常の心拍の間に余分な拍動が入る状態で、健康な人でもストレスや疲労、カフェインの摂取などで一時的に生じることがあります。
  2. 頻脈性不整脈:心拍数が100回/分以上に増加する状態です。代表的なものに心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、心室頻拍などがあります。特に心房細動は最も一般的な持続性不整脈で、脳梗塞のリスクを高めます。
  3. 徐脈性不整脈:心拍数が50回/分以下に低下する状態です。洞不全症候群や房室ブロックなどがあり、めまいや失神などの症状を引き起こすことがあります。

不整脈の診断には、心電図検査、ホルター心電図、イベントレコーダー、心臓電気生理学的検査などが用いられます。

治療法は不整脈の種類や重症度によって異なります。薬物療法(抗不整脈薬抗凝固薬など)、カテーテルアブレーション(異常な電気信号を発生させる部位を焼灼する治療)、ペースメーカーや植込み型除細動器の埋め込みなどがあります。

特に心房細動は血栓形成のリスクが高く、脳梗塞の原因となるため、抗凝固療法が重要です。近年では直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場により、従来のワルファリンに比べて出血リスクを低減しつつ、効果的な抗凝固療法が可能になっています。

心臓病の種類:心筋症の病態と最新治療

心筋症は、心筋(心臓の筋肉)に異常をきたす疾患群の総称です。主な種類には以下のものがあります。

  1. 肥大型心筋症:心筋が肥大(厚くなる)し、特に心室中隔が不均一に肥厚する疾患です。左心室の拡張機能が低下し、息切れ、胸痛、失神などの症状が現れます。遺伝的要因が関与しており、家族性のケースが約半数を占めます。若年者の突然死の原因となることもあります。
  2. 拡張型心筋症:心筋が薄くなり、心室が拡大して収縮力が低下する疾患です。心不全症状(呼吸困難、疲労感、浮腫など)が主な症状となります。原因は不明なことも多いですが、ウイルス感染後の炎症、アルコール多飲、薬剤性、遺伝性などが知られています。
  3. 拘束型心筋症:心筋の硬化により心室の拡張能が障害される比較的まれな疾患です。心室の大きさや収縮機能は保たれていることが多いですが、拡張機能の低下により心不全症状を呈します。
  4. 不整脈原性右室心筋症:右室心筋が脂肪や線維組織に置き換わる疾患で、不整脈や右心不全を引き起こします。遺伝性の場合が多く、若年者の突然死の原因となることがあります。

心筋症の診断には、心エコー検査、心電図、心臓MRI、心筋生検などが用いられます。

治療は症状のコントロールと合併症の予防が中心となります。薬物療法(β遮断薬、ACE阻害薬利尿薬など)、植込み型除細動器の使用、重症例では心臓移植が検討されます。特に肥大型心筋症では、近年、心室中隔の肥厚を薄くするアルコール中隔焼灼術やミエクトミー(心室中隔筋切除術)などの治療法も行われています。

最新の治療法としては、遺伝子治療や幹細胞治療の研究も進められており、将来的な治療オプションとして期待されています。

心臓病の種類:補助人工心臓と心臓移植の適応

重症心不全の患者さんに対する最終的な治療選択肢として、補助人工心臓と心臓移植があります。これらは従来の薬物療法や外科的治療では改善が見込めない場合に検討されます。

補助人工心臓(Ventricular Assist Device: VAD)は、心臓のポンプ機能を補助する機械装置です。主に左心室の機能を補助する左室補助人工心臓(LVAD)が多く用いられています。補助人工心臓には以下のような種類があります。

  1. 体外設置型:体外に設置するタイプで、短期間の使用を目的としています。
  2. 植込み型:体内に埋め込むタイプで、長期間の使用が可能です。
    • 拍動流型:自然な心臓の拍動に近い血流を作り出します。
    • 定常流型:連続的な血流を作り出すタイプで、小型化が可能です。

補助人工心臓は、心臓移植までの「橋渡し治療」として、あるいは心臓移植の適応がない患者さんの「永久使用(destination therapy)」として用いられます。

一方、心臓移植は、末期的心不全患者に対する根治的治療法です。日本では脳死ドナーからの移植が行われていますが、ドナー不足が大きな課題となっています。2010年の改正臓器移植法施行後、移植数は増加傾向にありますが、依然として待機患者数に比べて移植実施数は少ない状況です。

心臓移植の適応となる主な疾患は、拡張型心筋症、虚血性心筋症、弁膜症による心筋症などです。適応基準としては、内科的治療や外科的治療によっても改善が見込めない重症心不全で、他の臓器機能が保たれていることなどが条件となります。

補助人工心臓装着患者の管理では、デバイス関連の合併症(感染、血栓塞栓症、機器故障など)の予防と早期発見が重要です。また、抗凝固療法の適切な管理も必須となります。

心臓移植後は、拒絶反応の予防のための免疫抑制療法が生涯にわたって必要となります。また、感染症や悪性腫瘍などの合併症に注意した長期的なフォローアップが重要です。

日本心臓移植研究会:心臓移植の現状と課題についての詳細情報

心臓病の治療は日々進歩しており、重症心不全患者に対する治療選択肢も拡大しています。医療従事者として、これらの最新治療に関する知識を持ち、適切な患者さんに適切なタイミングで治療を提案できることが重要です。

心臓病の種類:先天性心疾患の成人期管理

先天性心疾患は、心臓や大血管の形成過程で生じる構造的異常です。出生児の約1%に認められ、小児期に診断・治療されることが多いですが、近年は医療の進歩により成人期まで生存する患者さんが増加しています。これにより、成人先天性心疾患(Adult Congenital Heart Disease: ACHD)の管理が重要な課題となっています。

主な先天性心疾患には以下のようなものがあります。

  1. 心房中隔欠損症(ASD):心臓の右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に穴がある状態です。左心房から右心房に血液が流れ、右心系の容量負荷が生じます。小さな欠損であれば無症状のこともありますが、大きな欠損では運動時の息切れや疲労感、不整脈などが現れることがあります。
  2. 心室中隔欠損症(VSD):右心室と左心室の間の壁(心室中隔)に穴がある状態です。左心室から右心室に血液が流れ、肺血流量が増加します。小児期に自然閉鎖することもありますが、大きな欠損では心不全や肺高血圧症を引き起こすことがあります。
  3. ファロー四徴症:心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の4つの異常を特徴とする複雑心奇形です。チアノーゼ(皮膚や粘膜の青紫色化)を伴うことが多く、小児期に外科的修復術が行われます。
  4. 大血管転位症:大動脈と肺動脈の位置が入れ替わっている状態です。生後早期に外科的治療が必要となります。

先天性心疾患の成人患者さんでは、以下のような問題が生じることがあります。

  • 遺残病変・続発症:手術後も完全に正常な心臓にはならないため、弁逆流や狭窄、不整脈などの問題が残ることがあります。
  • 心不全:長期的な血行動態の異常により心機能が低下することがあります。
  • 不整脈:手術痕や心臓の構造異常により、様々な不整脈が生じやすくなります。
  • 肺高血圧症:長期間の肺血流増加により、肺動脈圧が上昇することがあります。
  • 感染性心内膜炎:人工弁や人工パッチなどが感染のリスクとなります。

成人先天性心疾患患者の管理では、定期的な心エコー検査、心電図、運動負荷試験などによるフォローアップが重要です。また、妊娠・出産、非心臓手術、就労などのライフイベントに際しては特別な配慮が必要となることがあります。

特に女性患者さんの妊娠・出産に関しては、妊娠中の循環動態の変化が心臓に大きな負担をかけるため、妊娠前のリスク評価と適切な管理が重要です。一部の重症例では妊娠が禁忌となることもあります。

先天性心疾患の成人患者さんの管理には、小児循環器科医と成人循環器科医の連携が不可欠です。近年では、成人先天性心疾患の専門外来を設置する施設も増えてきています。

日本循環器学会:成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)

先天性心疾患は生涯にわたる管理が必要な疾患です。患者さんが適切な医療を受けながら、質の高い生活を送れるよう支援することが医療従事者の重要な役割となります。