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支持療法薬の種類と使い分け
制吐剤を3日間しか投与しないと患者が遅発性嘔吐で苦しむリスクが高まります。
支持療法薬は、がん治療における副作用を予防・軽減するために不可欠な薬剤群です。抗がん薬の投与によって起こる悪心・嘔吐、骨髄抑制、口腔粘膜炎、疼痛などの有害事象に対して、適切な支持療法薬を選択し投与することで、患者のQOLを維持しながら治療を継続することが可能になります。
日本癌治療学会のガイドラインでは、支持療法薬を症状や副作用の種類によって分類し、エビデンスに基づいた使用方法を推奨しています。医療従事者は、使用する抗がん薬の催吐性リスクや骨髄抑制の程度を把握し、それに応じた適切な支持療法薬を選択する必要があります。
医療安全の観点からも、支持療法薬の適切な管理は重要です。日本医療機能評価機構の報告によると、2016年の医療事故・ヒヤリハット事例では、支持療法の間違いが76件報告されており、投与速度間違いの86件、無投与の81件に次いで3番目に多い事例となっています。これは、支持療法薬が複数の薬剤を組み合わせて使用することが多く、投与スケジュールも複雑になりやすいためです。
本記事では、医療従事者が日常診療で必要とする支持療法薬の種類と特徴を一覧形式で整理し、催吐性リスク別の使い分け、投与タイミング、注意すべき副作用について詳しく解説します。レジメン管理や薬剤選択の際の実践的なガイドとしてご活用ください。
支持療法薬の制吐剤一覧と催吐性リスク分類
制吐療法において使用される基本的な制吐薬は、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン、オランザピンの4剤です。これらを抗がん薬の催吐性リスクに応じて適切に組み合わせることが、悪心・嘔吐のコントロールにおいて極めて重要になります。
がん診療ガイドラインでは、抗がん薬を催吐性リスクによって高度催吐性リスク(発現率90%以上)、中等度催吐性リスク(30~90%)、軽度催吐性リスク(10~30%)、最小度催吐性リスク(10%未満)の4段階に分類しています。高度催吐性リスクの代表的な薬剤には、シスプラチン、ダカルバジン、カルムスチンなどがあります。
つまり高リスク薬では標準4剤併用が基本です。
5-HT3受容体拮抗薬には、第一世代のグラニセトロン、オンダンセトロン、トロピセトロン、アザセトロンと、第二世代のパロノセトロンがあります。第二世代のパロノセトロンは半減期が約40時間と長く、遅発期の悪心・嘔吐に対しても効果を示すことが特徴です。
NK1受容体拮抗薬には、経口薬のアプレピタント(投与初日125mg、2~3日目80mg)と注射薬のホスアプレピタント(初日150mg単回投与)があります。これらは急性期・遅発期の両方に有効で、特に高度催吐性リスクの抗がん薬に対して必須の薬剤となっています。
デキサメタゾンは、制吐療法における「三種の神器」の一つとされ、1日4~8mgを2~4日間投与するのが一般的です。しかし投与日数については状況に応じて調整が可能で、高度催吐性リスクのシスプラチンレジメンでは1~4日目の4日間投与が標準とされています。ステロイドであるため、感染リスクや血糖値への影響に注意が必要です。
オランザピンは、2017年に公知申請により制吐療法への適応が追加された非定型抗精神病薬です。5~10mgを投与することで、4剤併用療法として高度催吐性リスク抗がん薬に対する効果を示します。ただし眠気やふらつきなどの副作用があるため、高齢者や運転する患者では慎重投与が求められます。
制吐療法の投与スケジュールでは、抗がん薬投与前30~60分前に制吐剤を投与し、その後も遅発性嘔吐を予防するために投与を継続します。急性期(投与後24時間以内)だけでなく、遅発期(24時間~5日目)の対策も重要で、デキサメタゾンの投与日数を適切に設定することが患者の苦痛軽減につながります。
支持療法薬のG-CSF製剤と骨髄抑制対策
骨髄抑制は抗がん薬治療における主要な有害事象の一つで、特に好中球減少による発熱性好中球減少症(FN)は生命を脅かす可能性があります。G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤は、好中球の増殖・分化を誘導し、骨髄抑制を軽減する目的で使用される支持療法薬です。
G-CSF製剤には、連日投与型のフィルグラスチム(グラン)、レノグラスチム(ノイトロジン)と、持続型のペグフィルグラスチム(ジーラスタ)があります。連日投与型は通常、好中球数が回復するまで毎日皮下注射または静脈内投与を行いますが、持続型のペグフィルグラスチムは化学療法終了後24時間以降に1回投与するだけで効果が持続します。
これが大きなメリットです。
G-CSFの使用には、一次予防的投与と二次予防的投与があります。一次予防的投与は、FN発症リスクが20%以上の高リスクレジメンに対して最初のコースから予防的にG-CSFを投与する方法です。代表的な高リスクレジメンには、FOLFIRINOXやTC療法(ドセタキセル+シクロホスファミド)などがあります。実際、FOLFIRINOXでは日本人対象の治験で22.2%にFNが認められたというデータがあります。
二次予防的投与は、前のコースでFNを発症した患者、または好中球減少により治療の延期や減量が必要となった患者に対して、次のコースから投与する方法です。化学療法の治療強度を維持することが予後改善に重要な場合、二次予防的投与が推奨されます。
ペグフィルグラスチムの特徴的な副作用として骨痛があります。これは骨髄で造血幹細胞から好中球がつくられる際に生じる痛みで、特に腰や胸の骨に痛みを感じることがあります。「抗がん薬よりツラい」と訴える患者もいるため、事前に説明し、必要に応じて鎮痛薬を併用することが重要です。
G-CSFの使用には禁忌事項もあります。骨髄中の芽球が十分減少していない骨髄性白血病、および末梢血液中に骨髄芽球が認められる患者には投与できません。
これは芽球が増加する可能性があるためです。
ただし寛解導入療法中でも、末梢血中0%、骨髄中の芽球15%未満であれば、感染症合併時に救命目的でG-CSFの使用が許可されています。
G-CSF製剤は原則として化学療法終了後24時間以降に投与を開始し、抗がん薬投与前14日以内および投与後24時間以内の投与は避けるべきとされています。これは抗がん薬の効果に影響を与える可能性があるためです。好中球数の回復を確認しながら、適切なタイミングで投与を終了することも重要です。
支持療法薬の鎮痛薬とがん疼痛管理
がん患者の疼痛管理は支持療法の中核をなす領域であり、適切な鎮痛薬の選択と使用がQOL維持に直結します。WHO(世界保健機関)の疼痛治療ガイドラインに基づき、痛みの強さに応じて非オピオイド鎮痛薬からオピオイド鎮痛薬へと段階的に使用する方法が基本となっています。
非オピオイド鎮痛薬には、アセトアミノフェンとNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)があります。アセトアミノフェンは、がん性疼痛に適応を持つ薬剤で、2,400mg/日以上の高用量投与によって良好な鎮痛効果が得られることが報告されています。肝機能障害に注意が必要ですが、腎機能や消化管への影響が少ないため、高齢者にも使いやすい薬剤です。
NSAIDsには、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブ、メロキシカムなどがあります。セレコキシブやメロキシカムは選択的COX-2阻害薬で、胃十二指腸潰瘍のリスクが少ないという特徴があります。ただしNSAIDsを使用する際は、潰瘍予防のためプロトンポンプ阻害薬の予防投与が推奨されています。
オピオイド鎮痛薬は、弱オピオイドと強オピオイドに分類されます。弱オピオイドにはトラマドール(一日量100~400mg)があり、中等度の痛みに対して使用されます。トラマドールは、μ受容体への親和性がモルヒネの約6,000分の1と弱いため、依存性が低く、第二段階の鎮痛薬として位置づけられています。
強オピオイドには、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなどがあります。これらは痛みの強さに応じて投与量を調整でき、天井効果がないため、適切に使用すれば十分な鎮痛効果が得られます。
投与経路も多様です。
モルヒネは最も基本的な強オピオイドで、経口剤、注射剤があります。経口剤には即効性製剤と徐放性製剤があり、定時投与には徐放性製剤を使用し、突出痛には即効性製剤をレスキュー薬として使用します。レスキュー薬の投与量は、定時投与の1日量の6分の1程度が目安となります。
オキシコドンは、モルヒネに比べて便秘や眠気などの副作用が少ないとされ、腎機能障害患者でも使いやすい薬剤です。フェンタニルは、経皮吸収型製剤(デュロテップMTパッチ、ワンデュロパッチ)があり、72時間または1日ごとの貼付で持続的な鎮痛効果が得られます。貼付剤は内服困難な患者や消化器症状がある患者に適しています。
ヒドロモルフォン(ナルサス錠、ナルベイン注)は、モルヒネの約5~7.5倍の鎮痛効果を持ち、腎機能障害患者でも使いやすいという特徴があります。オピオイドローテーションの選択肢として有用な薬剤です。
オピオイド鎮痛薬の副作用管理も支持療法の重要な要素です。便秘はほぼ全例に出現するため、酸化マグネシウムやセンノシドなどの下剤を予防的に投与します。悪心・嘔吐は投与開始時に約30%の患者に出現しますが、多くは数日で耐性ができます。必要に応じてメトクロプラミドやドンペリドンなどの制吐剤を併用します。眠気も初期に出現しますが、通常は数日で軽減するため経過観察で対応可能です。
支持療法薬の口腔粘膜炎対策と保護材
口腔粘膜炎は、抗がん薬や放射線治療によって引き起こされる有害事象で、患者のQOLを著しく低下させ、治療継続の妨げとなることがあります。支持療法として、予防的口腔ケアと症状出現時の対症療法が重要です。
口腔粘膜炎の発症頻度は、使用する抗がん薬によって異なります。最も口腔粘膜炎を起こしやすいのは、シスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤を含むレジメンで、発症率はおおよそ40%以上といわれています。タキサン系のドセタキセルやパクリタキセル、内服薬のS-1、分子標的薬のセツキシマブやベバシズマブも口腔粘膜炎を起こしやすい薬剤です。特にmTOR阻害薬のエベロリムスでは65~75%と高頻度で口内炎が発症します。
口腔粘膜炎の予防には、日々の口腔衛生管理が不可欠です。最低1日3回、できれば8回程度のブラッシングとうがいを行い、口腔内を清潔に保つことが推奨されます。抗がん薬投与中は口腔内が乾燥しやすくなり、粘膜炎の痛みも悪化するため、口腔内の保湿が重要です。
口腔粘膜保護材として、2018年からエピシル口腔用液が使用できるようになりました。エピシルは、口腔内の水分を吸収してゲル状の保護膜を形成し、化学療法や放射線療法による口内炎の痛みを軽減する効果があります。歯科医師の管理のもとで、創傷被覆・保護材として保険適用で使用可能です。口内炎がある部位に直接塗布することで、食事や会話時の痛みを軽減できます。
抗炎症薬の使用も検討されます。ガイドラインで唯一推奨されている抗炎症薬はbenzydamineですが、日本では未承認のため使用できません。国内で使用可能なものとしては、ステロイド軟膏(デキサメタゾン軟膏)やアズレン含嗽剤などがあり、炎症を抑える目的で使用されます。
痛みのコントロールには、局所麻酔薬を含む含嗽剤や鎮痛薬の全身投与が行われます。リドカイン粘性ゲルやアズレンスルホン酸ナトリウム・リドカイン配合含嗽剤は、局所的に痛みを和らげる効果があります。痛みが強い場合は、オピオイド鎮痛薬の使用も検討します。
口腔粘膜炎の発症時期は、抗がん薬投与後7~10日で発症し、2週間程度で改善することが多いです。
つまり回復までの期間が予測できます。
この期間、刺激物を避け、軟らかく温度の低い食事を摂取することで、痛みを軽減できます。栄養管理も重要で、経口摂取が困難な場合は経腸栄養剤や輸液による栄養補給を検討します。
支持療法薬レジメン管理と医療安全対策の実践
支持療法薬の適切な管理は、がん治療の質と安全性を確保する上で極めて重要です。レジメン管理では、抗がん薬だけでなく支持療法薬も含めた時系列的な治療計画を作成し、施設内で標準化することが求められます。
レジメン審査では、使用する抗がん薬の催吐性リスクや骨髄抑制の程度を評価し、それに応じた適切な支持療法薬が組み込まれているかを確認します。例えば、高度催吐性リスクの抗がん薬に対して3剤併用しか設定されていない場合、4剤併用への変更を検討すべきです。また、デキサメタゾンの投与日数が不十分な場合、遅発性嘔吐のリスクが高まるため、投与期間の見直しが必要です。
医療事故報告からは、支持療法薬に関する間違いのパターンが見えてきます。日本医療機能評価機構の報告では、「レジメンからの削除を忘れた」「支持療法で不要な薬剤を処方してしまった」という事例が指摘されています。これらは、前回のレジメンをコピーして使用する際に、患者の状態変化に応じた修正を怠ったことが原因です。
電子カルテシステムやレジメン管理システムを活用することで、投与量や投与速度の自動計算、警告表示による確認が可能になります。ただし、添付文書に「適宜増減」と記載されている薬剤では、通常投与量を超えても警告が出ない場合があり、注意が必要です。薬剤師による処方監査の段階で、投与量の妥当性を臨床的に判断することが重要になります。
多職種連携も医療安全において不可欠です。医師、薬剤師、看護師がそれぞれの専門性を活かし、支持療法薬の選択、調剤、投与の各段階でダブルチェックを行うことで、エラーの検出率が向上します。看護師は「支持療法薬の使い分けが難しいので、薬剤師が入ってくれて助かっています」と述べており、薬剤師の専門的な知識が現場で求められています。
患者への説明も重要な安全対策です。支持療法薬の目的、予想される効果、起こりうる副作用について事前に説明することで、患者自身が異常を早期に察知し報告できるようになります。特に、自宅で内服する制吐剤や下剤については、服用方法とタイミングを具体的に指導する必要があります。
G-CSF製剤の投与タイミングについても、確認体制の整備が必要です。化学療法終了後24時間以降に投与すべきところを誤って早期に投与してしまうと、抗がん薬の効果に影響を与える可能性があります。投与日のカレンダー表示や、電子カルテ上での自動アラート設定などの工夫が有効です。
定期的なレジメン見直しも重要です。新しいガイドラインの公表や新薬の承認に伴い、支持療法薬の推奨も更新されます。施設内のがん化学療法委員会などで定期的にレジメンを見直し、最新のエビデンスに基づいた支持療法を提供することが、患者の安全と治療効果の向上につながります。
制吐療法の最新のエビデンスと推奨が詳細に記載されており、催吐性リスク分類や推奨レジメンの確認に役立ちます。
G-CSF製剤の一次予防・二次予防の適応基準や投与方法について、エビデンスに基づいた推奨が示されています。
日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」
オピオイド鎮痛薬の選択、投与量調整、副作用管理について、臨床現場で参考になる推奨が多数掲載されています。
Please continue.
