プロクロルペラジン作用機序
プロクロルペラジン作用機序とCTZドパミン受容体
プロクロルペラジンはフェノチアジン系の抗精神病薬で、延髄の化学受容器引き金帯(chemoreceptor trigger zone:CTZ)に存在するドパミン受容体を遮断することで制吐作用を示します。
この「CTZのD2受容体遮断」が、術前・術後などの悪心・嘔吐に対して本剤が使われる薬理学的な芯であり、臨床では“原因が何であれ吐き気を落とす力が強い薬”として扱われがちです。
一方で、制吐作用は診断上のサインを覆い隠す可能性があり、添付文書でも「他の薬剤に基づく中毒、腸閉塞、脳腫瘍等による嘔吐症状を不顕性化することがある」と注意喚起されています。
医療現場でのコツとしては、単に「悪心が止まった」だけで安心せず、以下を同時にチェックすると事故が減ります。
・腹部所見(膨満、蠕動、排ガス・排便)
・神経所見(頭痛、意識、局在兆候)
・内服歴(中毒や相互作用を疑う薬剤)
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_08.pdf
プロクロルペラジン作用機序とD2遮断と悪心・嘔吐
本剤の薬理作用と臨床効果の関係として、条件反射抑制作用を含めた抗ドパミン作用が「陽性症状の改善」だけでなく「悪心・嘔吐の改善」に関連すると整理されています。
つまり「制吐=末梢で胃腸を直接動かす薬」というより、“中枢で嘔吐反射のスイッチを鈍らせる薬”として理解すると、効き方のイメージが臨床と合いやすくなります。
加えて、フェノチアジン系(クロルプロマジン、レボメプロマジン、プロクロルペラジン)はD2以外にH1、5-HT2、ムスカリンなどにも拮抗しうる点が制吐作用の幅や副作用の多彩さに関与します。
ここで実務的に重要なのは、「悪心・嘔吐」という同じ症状でも発生機序は複数あるため、D2遮断が刺さりやすい状況・刺さりにくい状況があることです。
・CTZ主導の悪心(薬剤性、代謝性など)では理屈上マッチしやすい
・一方、前庭系優位(動揺病)や消化管閉塞などでは、症状の背景評価と薬剤選択の再検討が必要になりやすい
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2011/02_05.pdf
プロクロルペラジン作用機序と副作用と錐体外路症状
D2受容体遮断は制吐作用に寄与する一方、線条体のドパミン遮断を介して錐体外路症状(パーキンソン症候群、ジストニア、アカシジア等)を起こしうることが、本剤の重要な注意点です。
小児では特に錐体外路症状、なかでもジスキネジアが起こりやすいとされ、用量設定でも「体重15kg以下では1日量が7.5mgを超えないよう注意」と具体的に記載されています。
また長期投与では遅発性ジスキネジアが起こり得て、中止後も持続する可能性があるため、漫然投与の回避(必要最小量・最短期間)という薬剤管理の基本が特に効いてきます。
副作用の“見逃しやすさ”という意味では、次の組み合わせが臨床で問題になりがちです。
・悪心が消える → 胃腸症状が軽く見える → 実は麻痺性イレウスが進行(制吐で不顕性化)
・不安・不眠が続く → 追加で鎮静系を重ねる → 過鎮静・転倒リスクが上がる(眠気、注意力低下の注意)
・脱水や低栄養がある → 悪性症候群のリスクが上がる(添付文書でも注意喚起)
プロクロルペラジン作用機序と相互作用とアドレナリン
本剤はα受容体遮断作用を持つため、アドレナリン投与中の患者ではアドレナリンの作用が逆転し、血圧低下を起こすことがあるとして併用禁忌に設定されています。
機序としては、アドレナリンはα・β受容体刺激薬であり、本剤のα遮断によりβ刺激(血管拡張)が相対的に優位になって血圧低下が増強される、という整理です。
救急(アナフィラキシー)や歯科麻酔など例外はあるものの、「フェノチアジン+アドレナリン」の組み合わせは現場で起きうるため、周術期・処置室・歯科連携の文脈でも一度は共有しておく価値があります。
併用注意として押さえたい組み合わせも、作用機序から逆算すると理解しやすくなります。
・ドンペリドン/メトクロプラミド:いずれもドパミン受容体遮断作用を持ち、内分泌異常や錐体外路症状が出やすくなる可能性
・リチウム:心電図変化、重症の錐体外路症状、悪性症候群など重い事象が報告され、観察強化が必要
・アルコール/中枢抑制剤:眠気や精神運動機能低下など中枢抑制が増強し得る
プロクロルペラジン作用機序と意外な情報
意外に盲点になりやすいのが、「薬理学的に“止める”作用が強い薬ほど、臨床のモニタリング設計が重要になる」という点です。
本剤は制吐作用により中毒・腸閉塞・脳腫瘍などの嘔吐症状を不顕性化しうると明記されており、症状が改善したからといって原因疾患のリスクが下がったとは限りません。
さらに重大な副作用として、悪性症候群、突然死(QT延長など心電図異常に続く)、無顆粒球症、麻痺性イレウス、SIADH、血栓塞栓症などが列挙されており、「吐き気止め」として軽く扱うと安全管理が破綻します。
このため、独自視点としては「制吐薬」ではなく“神経遮断薬を使っている”という前提で、観察項目をテンプレ化するのが有効です。
・神経:筋強剛、振戦、静坐不能、意識変容(悪性症候群・錐体外路症状の早期検知)
・循環:起立性低血圧、脈拍、必要時は心電図(QT変化)
・消化管:便秘、腹部膨満、腹痛(麻痺性イレウスの見逃し防止)
・電解質:低Na、けいれん、意識障害(SIADHの示唆)
作用機序を“CTZのD2遮断”の一文で終わらせず、こうした安全管理までを作用機序から接続して説明できると、医療従事者向け記事としての実装性が一段上がります。
必要に応じて、論文・総説として以下も参照すると背景整理に便利です(英語)。
制吐におけるD2拮抗薬の位置づけ(総説)。

国内の権威性ある一次情報(薬効・用法用量・注意・相互作用・副作用の確認)として、以下が実務で特に有用です。
電子添文相当(禁忌、重要な基本的注意、重大な副作用、相互作用、作用機序の原典)。