網膜動脈塞栓症の診断と治療
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網膜動脈塞栓症の原因とリスク
網膜動脈塞栓症(臨床では網膜動脈閉塞症/網膜中心動脈閉塞症として遭遇することが多い)は、網膜へ栄養を送る動脈が塞栓・血栓で閉塞し、内網膜の虚血を起こす病態です。
塞栓源として頻度が高いのは頸動脈由来で、動脈硬化性病変に伴う血栓・塞栓が血流に乗って眼動脈—網膜動脈系へ到達する流れが典型です。
不整脈(特に心房細動など)により心腔内で血栓が形成され、塞栓として末梢へ飛ぶパターンも臨床上重要で、眼症状が全身リスク評価の入口になることがあります。
意外に見落とされやすいのが「炎症性(arteritic)病態」の鑑別で、巨細胞性動脈炎(GCA)などの大血管炎では、内膜肥厚などにより虚血性閉塞が起こり得るため、同じ“突然の視力低下”でも対応の優先順位が変わります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/3a71a05c5dbd76911046cfd3a0874841feff479e
また、網膜の血流解剖には個人差があり、黄斑を栄養する毛様網膜動脈(cilioretinal artery)が存在する場合、中心視力が温存されることがあり、症状や眼底所見の解釈に差が出ます。
網膜動脈塞栓症の症状と視力低下
症状は、突然発症・無痛性・片眼性の視力低下が典型で、視力は短時間で著しく悪化し得ます。
患者側の自覚は「急に見えない」「視野が欠けた」に集約されやすく、痛みがないため受診が遅れやすい点が、医療側の啓発ポイントになります。
網膜虚血が不可逆に進むと視力予後は厳しく、標準的治療を行っても視力が戻らない例が多い、という現実も臨床コミュニケーションで押さえる必要があります。
一方で、虚血が一過性・不完全型の場合や、前述の毛様網膜動脈が黄斑循環を支えている場合には、中心視が相対的に保たれ「見え方の訴え」と眼底所見の重症度が一致しないことがあります。
このギャップがあると「様子見」になりやすいのですが、網膜動脈の急性虚血は“目の脳卒中”として扱うべきという位置づけが示されており、全身評価を遅らせないことが重要です。
網膜動脈塞栓症の診断と検査
診断は、問診(発症時刻の特定)と眼底検査で多くが臨床的に到達でき、まずここで「急性イベント」として扱う判断が求められます。
補助検査としてOCTは、虚血の層構造変化の把握、重症度評価、経時的予後推定に有用で、診断の確度が揺れるケースでも臨床判断を支えます。
OCT angiography(OCT-A)や蛍光眼底造影(FFA)は、血流低下や灌流遅延の評価に役立ち、特に病期や鑑別の整理に寄与します。
医療従事者向けに強調したいのは「眼科的診断=ゴールではない」点で、網膜動脈閉塞は将来の心血管・脳血管イベントのリスクと結びつくため、塞栓源検索・危険因子評価を同時並行で進める必要があります。
具体的には頸動脈エコー(carotid ultrasound)や心エコー、心房細動を疑う場合のホルター心電図などが推奨検査として挙げられています。
若年例や明らかな動脈硬化リスクが乏しい例では、凝固異常(protein C/S、抗リン脂質抗体など)や血管炎関連の追加検査を検討する、という整理も実践的です。
【全身評価(塞栓源・危険因子)の組み立ての参考】
網膜動脈塞栓症の治療と緊急対応
治療は「時間がすべて」で、発症から早期(特に1~2時間が望ましい、遅くとも24時間以内を目標)に介入する必要があるとされ、初動の遅れが致命的になり得ます。
臨床現場で試みられてきた標準的対応には、眼球マッサージ、血栓溶解薬や網膜循環改善薬の投与、頚部交感神経節ブロック、眼圧下降目的の房水穿刺、高圧酸素療法などが含まれます。
ただし、発症後24時間以内に行う標準的治療、あるいは24時間以降の固定例に対する標準的治療は確立されていない、という限界も明記されています。
近年の考え方として、網膜中心動脈閉塞は“眼の脳卒中”であり、急性期は再灌流(可能なら)と同時に、脳卒中に準じた連携体制(眼科—救急—脳卒中チーム)が重要だとされます。
静注tPA(IV-tPA)など血栓溶解療法は研究・運用が進んでいる一方、CRAOに対して「公式に推奨される治療が確立していない」現状もあり、適応判断・施設体制・時間窓・合併症リスクのバランスが難しい領域です。
また高気圧酸素療法(HBOT)は、発症からの時間が短い場合に有効性が示唆される報告がある一方で、メタ解析では最終視力転帰の改善が明確でない、さらに気圧外傷などのリスクがある点も整理しておくべきです。
臨床オペレーションとしては、次のように「眼科処置」と「全身対応」を並走させると迷いが減ります。
- 🚑 トリアージ:突然の無痛性片眼視力低下は緊急(発症時刻、抗凝固薬内服、神経症状、GCAを示唆する症状の確認)。
- 👁️ 眼科初期対応:視力・対光反射、眼底、OCTで虚血の重症度を把握し、施設で可能な急性期介入を選択。semanticscholar+1
- 🧠🫀 全身評価:頸動脈・心原性塞栓の検索、危険因子(脂質、HbA1c等)評価、脳虚血合併の可能性も含めた動線を確保。
【発症後の標準的治療の全体像(眼球マッサージ・房水穿刺・高圧酸素など)の整理】
網膜中心動脈閉塞症|千葉大学医学部附属病院 cPico Tr…
網膜動脈塞栓症の独自視点:診断後フォローと説明
検索上位の解説は「原因・症状・治療」に集中しがちですが、医療従事者として差が出るのは“診断後の4か月”をどう設計するかです。
網膜中心動脈閉塞の後には、虚血に伴う眼内新生血管(neovascularisation)が起こり得て、その頻度は報告に幅があるものの一定割合で発生し、平均8.5週(2~16週)で観察されたという報告があり、定期的フォローが推奨されています。
つまり「急性期にできることが限られる」疾患であっても、サブアキュート期に合併症(新生血管・血管新生緑内障など)を拾い上げる体制は、視機能とQOLを守る実務として重要になります。
もう一つの独自視点は、患者説明の焦点を「視力が戻るか」だけに置かないことです。
網膜動脈閉塞の患者は心血管・脳血管イベントの高リスク群であり、二次予防として高血圧・脂質異常・糖尿病・喫煙などの修正、必要に応じた抗血小板療法などの検討が重要だと整理されています。
眼科外来での短時間説明でも、「この発作は全身の血管病のサインで、反対眼と脳・心臓を守る治療が必要」というメッセージを明確にし、かかりつけ・循環器・神経内科へ確実につなぐと、その後の医療安全に直結します。
実務で使える説明テンプレ(例)も用意しておくと便利です。