麻薬性鎮痛薬一覧と特徴
麻薬性鎮痛薬の主要薬剤と分類
麻薬性鎮痛薬は、WHO方式がん疼痛治療法において重要な位置を占める薬剤群です。2018年の改訂以降、患者の状態によっては診断時や治療中でも病期にかかわらず強オピオイドが使用されるようになっています。
強オピオイド系麻薬性鎮痛薬:
- モルヒネ:MSコンチン®、オプソ®、アンペック®注など
- オキシコドン:オキシコンチン®TR、オキノーム®、オキファスト®など
- ヒドロモルフォン:ナルサス®、ナルラピド®、ナルベイン®など
- フェンタニル:デュロテップ®MT、ワンデュロ®、アブストラル®など
- メサドン:メサペイン®錠
- タペンタドール:タペンタ®錠
- ブプレノルフィン:各種製剤
弱オピオイド系麻薬性鎮痛薬:
- トラマドール:トラマール®OD、ワントラム®、トラムセット®など
各薬剤の特徴として、モルヒネは呼吸困難に効果があり、おもな副作用は悪心・嘔吐、便秘、眠気です。一方、フェンタニルは便秘や眠気が比較的少なく、腎機能障害がある場合にも使用できるという利点があります。
麻薬性鎮痛薬の投与経路別特徴
麻薬性鎮痛薬の投与経路は患者の状態や病態に応じて選択されます。基本は経口投与ですが、嚥下障害などで経口での服薬が困難な患者には他の投与経路が検討されます。
経口投与(速放性・徐放性):
- 速放性製剤:オプソ®(モルヒネ)、オキノーム®(オキシコドン)、ナルラピド®(ヒドロモルフォン)など
- 徐放性製剤:MSコンチン®(モルヒネ)、オキシコンチン®(オキシコドン)、ナルサス®(ヒドロモルフォン)など
経皮投与:
- フェンタニル72時間製剤:デュロテップ®MTパッチ(2.1mg〜16.8mg)
- フェンタニル24時間製剤:ワンデュロ®パッチ(0.84mg〜6.7mg)、フェントス®テープ(0.5mg〜8mg)
経皮製剤の薬価は、デュロテップ®MTパッチ16.8mgで9,294.8円/枚、ワンデュロ®パッチ6.7mgで3,069.1円/枚となっています。
口腔粘膜投与:
- 舌下錠:アブストラル®舌下錠(100μg〜400μg)
- バッカル錠:イーフェン®バッカル錠(50μg〜800μg)
これらの製剤は突出痛(レスキュー)として使用され、定時投与中の薬剤の1日量の1/8〜1/4を目安に投与します。
注射剤:
- 皮下・静脈内投与:各種フェンタニル注射液、モルヒネ注射液、オキシコドン注射液など
- 硬膜外・くも膜下投与:特定の注射剤で実施可能
麻薬性鎮痛薬の効力換算表と選択基準
麻薬性鎮痛薬間の変更時には、各薬剤の効力比を示した換算表が重要な目安となります。これらの換算値は、副作用で増量が困難な場合や効果が十分に得られない場合の薬剤変更時に使用されます。
主要な麻薬性鎮痛薬の効力換算(経口投与):
薬剤名 | モルヒネ換算 | 実際の投与量例 |
---|---|---|
モルヒネ | 1 | 30mg |
オキシコドン | 1.5〜2 | 15〜20mg |
ヒドロモルフォン | 5〜8 | 6mg |
トラマドール | 1/5 | 150mg |
フェンタニル(経皮) | 50〜100 | – |
薬剤選択の基準:
- 腎機能正常時:モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォンが第一選択
- 腎機能障害時:フェンタニルが推奨(代謝物質の蓄積リスクが低い)
- 経口摂取困難時:経皮フェンタニル製剤、注射剤を選択
- 突出痛対応時:速放性製剤や口腔粘膜投与製剤を選択
モルヒネを投与すると産生される有害な代謝物質(M6GおよびM3G)は、腎機能障害があると体内に蓄積し、せん妄や意識障害などを引き起こす可能性があるため、腎機能障害患者にはフェンタニルなどが安全に使用できます。
麻薬性鎮痛薬の副作用と腎機能障害時の注意点
麻薬性鎮痛薬の適切な使用には、副作用の理解と患者の状態に応じた選択が不可欠です。
共通する主要副作用:
薬剤別副作用の特徴:
モルヒネ系:
- 便秘が強く現れやすい
- 腎機能障害時は代謝物蓄積によるせん妄リスク
- 呼吸困難に対する効果は利点として活用可能
フェンタニル系:
- 便秘や眠気が比較的少ない
- 経皮製剤では皮膚症状(発疹、かゆみ)に注意
- 腎機能障害時でも安全に使用可能
オキシコドン系:
- モルヒネと同様の副作用プロファイル
- 腎機能障害時は注意が必要
トラマドール系:
- 便秘の程度はモルヒネより軽い
- セロトニン症候群のリスクあり
- 添付文書上の最高投与量は400mg/日
腎機能障害時の薬剤選択指針:
- 使用可能:フェンタニル(各種製剤)
- 注意して使用:オキシコドン、ヒドロモルフォン
- 使用しない方が望ましい:モルヒネ
厚生労働省の医療用麻薬適正使用ガイダンスでは、NSAIDsとの併用時の消化性潰瘍予防として、プロスタグランジン製剤、プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬のいずれかの併用が推奨されています。
麻薬性鎮痛薬の薬価と医療経済性
麻薬性鎮痛薬の薬価は製剤種類や規格により大きく異なり、医療経済性を考慮した適切な選択が求められます。
経皮フェンタニル製剤の薬価比較(1日あたりコスト):
72時間製剤(3日間使用):
- デュロテップ®MTパッチ16.8mg:3,098円/日(9,294.8円÷3日)
- フェンタニル3日用テープ16.8mg「ユートク」:2,468円/日(7,405円÷3日)
24時間製剤(1日間使用):
- ワンデュロ®パッチ6.7mg:3,069.1円/日
- フェントス®テープ6mg:2,520.2円/日
- フェンタニル1日用テープ6.7mg「ユートク」:1,621.7円/日
経口製剤との比較:
- メサペイン®錠10mg:347.6円/錠
- トラマール®錠25mg:約50円/錠程度(推定)
薬価効率性の考慮点:
- 後発品の活用:祐徳薬品工業のフェンタニル製剤は先発品より20-30%程度安価
- 投与頻度による総コスト:24時間製剤は日々の貼付が必要だが、72時間製剤は3日に1回
- 患者のQOL向上効果:経皮製剤は経口摂取困難時の代替手段として価値が高い
医療経済性向上のポイント:
- 患者の病態に応じた最適な製剤選択
- 後発品の積極的活用
- 適切な用量調整による薬剤費削減
- 副作用軽減による総医療費の抑制
麻薬性鎮痛薬の選択においては、単純な薬価だけでなく、患者のQOL向上、副作用軽減、介護負担軽減などの総合的な医療経済効果を考慮することが重要です。特に在宅医療では、経皮製剤の利便性が介護者の負担軽減につながり、間接的な医療経済効果をもたらします。
厚生労働省の医療用麻薬適正使用ガイダンス