mao-b阻害薬の種類と特徴
セレギリン単独では覚せい剤原料指定の対象です。
mao-b阻害薬の基本作用機序
MAO-B阻害薬は、パーキンソン病治療において重要な役割を果たす薬剤群です。脳内に存在するモノアミン酸化酵素B型(MAO-B)という酵素の働きを阻害することで、ドパミンの分解を抑制します。パーキンソン病では脳内のドパミン神経細胞が減少し、ドパミンが不足することで運動症状が現れますが、MAO-B阻害薬はこの残存するドパミンを長持ちさせる効果を発揮します。
モノアミン酸化酵素にはA型とB型の2つのサブタイプが存在しますが、ヒトの脳内には主にB型が多く分布しています。A型は主に腸管壁や肝臓、末梢神経に存在し、B型は血小板や脳のグリア細胞に存在します。パーキンソン病治療では、脳内のドパミン代謝に関与するB型を選択的に阻害することで、余計な副作用を抑えながら治療効果を得ることができます。
つまりB型選択性が高いということです。
MAO-B阻害薬は単独でも運動症状改善効果を持ちますが、多くの場合レボドパ製剤と併用されます。レボドパ製剤で補充されたドパミンの分解をMAO-B阻害薬が抑えることで、レボドパの効果を増強し、効果時間を延長させることができます。この相乗効果により、レボドパの投与量を減らせる可能性もあります。
ドパミンの分解経路において、MAO-Bは重要な代謝酵素として機能しています。ドパミンがシナプス間隙に放出されると、再取り込みされるか、MAO-Bによって分解されて不活性化されます。MAO-B阻害薬はこの分解過程にブレーキをかけることで、シナプス間隙のドパミン濃度を5~10%程度上昇させると報告されています。
mao-b阻害薬の一覧と商品名
現在日本で使用可能なMAO-B阻害薬は3種類あります。それぞれ化学構造や特性が異なり、臨床現場では患者の病期や症状、薬価などを考慮して使い分けられています。
セレギリン(商品名:エフピー)
セレギリンは日本で最も長く使用されているMAO-B阻害薬で、1990年代から臨床使用されています。プロパルギルアミン構造を持ち、不可逆的にMAO-Bを阻害します。通常は1日1回2.5mgから開始し、2週間ごとに増量して最終的に1日10mgまで使用します。1日5mg以上の場合は朝食後と昼食後に分服します。
重要な注意点があります。
セレギリンは覚せい剤取締法で覚せい剤原料に指定されているため、薬局では厳重な管理が必要です。保管については施錠可能な場所での保管、帳簿への記録、2年間の保管記録の維持などが義務付けられています。この管理上の煩雑さから、処方を躊躇する医療機関もありましたが、後発品が登場したことで薬価が抑えられ、標準量での1日薬価は約300円程度となっています。
ラサギリン(商品名:アジレクト)
ラサギリンは2018年に日本で承認された比較的新しいMAO-B阻害薬です。セレギリンと同様にプロパルギルアミン構造を持ちますが、覚せい剤原料には指定されていません。用法は1日1回1mgの単純な投与方法で、患者のアドヒアランス向上が期待できます。
服用が1日1回で済みます。
MAO-B選択性はセレギリンよりも高く、ヒトでの選択性は14倍以上と報告されています。神経保護作用に関する研究も進んでおり、ADAGIO試験という大規模臨床試験では、早期投与群で病気の進行抑制効果が示唆されました。ただし、ジェネリック医薬品がないため、標準量での1日薬価は約953円とセレギリンの約3倍になります。
サフィナミド(商品名:エクフィナ)
サフィナミドは2019年に承認された最も新しいMAO-B阻害薬で、α-アミノアミド構造を持つ新規化合物です。従来の2剤とは異なる特徴として、MAO-B阻害作用に加えてナトリウムチャネル阻害作用を併せ持ちます。このナトリウムチャネル阻害作用により、グルタミン酸の過剰放出を抑制し、非ドパミン作動性の効果も発揮します。
用法は1日1回50mgから開始し、症状に応じて100mgまで増量可能です。現時点ではレボドパ含有製剤との併用が処方条件となっており、単独使用は認められていません。ウェアリングオフに対する改善効果が臨床試験で確認されており、オフ時間を1日あたり約1時間短縮する効果が報告されています。1日薬価は約930円でラサギリンとほぼ同等です。
日経メディカルのMAO-B阻害薬解説では、各薬剤の詳細な薬理作用と臨床データが掲載されています
mao-b阻害薬の効果とウェアリングオフ改善
MAO-B阻害薬の主要な臨床効果は、ウェアリングオフ現象の改善です。ウェアリングオフとは、レボドパ製剤を長期服用している患者で、薬の効果時間が徐々に短くなり、次の服用時間前に症状が再び現れる現象を指します。通常、パーキンソン病の発症から5年程度経過すると出現しやすくなります。
効果の持続時間が重要です。
セレギリンは1日2~4回の分服が必要な場合がありますが、ラサギリンとサフィナミドは1日1回の服用で24時間効果が持続します。この服薬回数の違いは、薬剤の半減期と関係しています。ラサギリンの半減期は約3時間ですが、MAO-B酵素との結合が不可逆的であるため、新しいMAO-B酵素が合成されるまで効果が持続します。サフィナミドは可逆的阻害ですが、半減期が約20~30時間と長いため、1日1回投与で十分な効果を維持できます。
臨床試験では、MAO-B阻害薬の追加によってオフ時間が有意に短縮されることが示されています。LARGO試験では、ラサギリン1mg投与群でプラセボ群と比較してオフ時間が約1.18時間短縮しました。サフィナミドを用いた日本での第III相試験では、50mg群で約0.96時間、100mg群で約1.45時間のオフ時間短縮が認められました。
早期パーキンソン病での単独使用も可能です。レボドパ製剤を使用する前の早期段階で、MAO-B阻害薬を第一選択薬として使用することで、レボドパ導入を遅らせる戦略もあります。早期からMAO-B阻害薬を使用することで、運動合併症の発生を遅らせる可能性が指摘されていますが、この効果については議論が続いています。
mao-b阻害薬の副作用と禁忌事項
MAO-B阻害薬の主な副作用として、消化器症状と精神神経系症状があります。吐き気、食欲不振、便秘などの消化器症状は比較的軽度で、対症療法で対処可能な場合が多いです。精神神経系症状としては、幻覚、妄想、不眠、めまい、眠気などが報告されています。
ジスキネジアの増悪に注意が必要です。
レボドパ製剤と併用する場合、レボドパの効果を増強するため、ジスキネジア(不随意運動)が出現または悪化する可能性があります。この場合、レボドパの用量を10~30%程度減量することで対処します。ジスキネジアは若年発症のパーキンソン病患者や、レボドパを長期使用している患者で出現しやすい傾向があります。
最も重要な禁忌は、他のMAO阻害薬や抗うつ薬との併用です。三環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などとの併用は、セロトニン症候群や高血圧クリーゼのリスクがあるため禁忌とされています。セロトニン症候群では、錯乱、発汗、振戦、高体温などの症状が出現し、重症化すると生命に危険が及びます。
他のMAO-B阻害薬との併用も禁忌です。セレギリンからラサギリンに切り替える場合など、同効薬間での切り替えを行う際は、前の薬剤を中止してから少なくとも14日間の休薬期間(ウォッシュアウト期間)を設けることが推奨されています。この期間を設けないと、MAO-B阻害が過剰になり、高血圧、失神、筋強剛などの重篤な副作用が報告されています。
稀ですが重要な副作用として悪性症候群があります。高熱、意識障害、筋強剛、自律神経症状などが特徴で、発症した場合は直ちに投与を中止し、全身管理が必要になります。また、突発性睡眠(前兆なく突然眠ってしまう)も報告されているため、自動車運転や機械操作には注意が必要です。
mao-b阻害薬使用時の食事制限
MAO-B阻害薬使用中の食事制限については、薬剤によって注意の程度が異なります。特に注意が必要なのは、チラミンを多く含む食品との相互作用です。チラミンは熟成チーズ、ビール、赤ワイン、レバー、ニシン、酵母エキス、発酵食品などに多く含まれる物質で、通常は腸管のMAO-Aによって代謝されます。
厳格な制限は不要な場合が多いです。
セレギリンやラサギリンは治療用量ではMAO-B選択性が高く保たれるため、通常の食事量であればチラミン含有食品を極端に制限する必要はありません。ただし、チラミン含有量の高い食品を大量に摂取すると、高血圧クリーゼ(急激な血圧上昇、頭痛、顔面紅潮、動悸など)のリスクがあります。添付文書では「チラミン含有量の多い食品との併用には注意すること」と記載されています。
実際の臨床現場では、患者に対して「熟成チーズやワインなどを過剰に摂取しない」という程度の指導で十分な場合がほとんどです。ラサギリンの臨床試験では、チーズ負荷試験が実施され、チーズ効果(急激な血圧上昇)がプラセボ群と有意差がないことが確認されています。
サフィナミドについても同様の注意が必要ですが、MAO-B選択性が非常に高いため、チーズ効果のリスクは低いと考えられています。それでも添付文書では、チラミンを多く含む食品との併用時には血圧モニタリングが推奨されています。
患者への説明時には、「チーズやワインを少量楽しむ程度なら問題ないが、大量に食べたり飲んだりすることは避けてください」という実用的なアドバイスが有効です。また、頭痛や動悸などの症状が出現した場合は、速やかに医療機関を受診するよう指導します。レボドパ製剤との相互作用として、タンパク質の摂取タイミングがレボドパの吸収に影響するため、MAO-B阻害薬との併用時はこの点も考慮に入れます。
日本神経学会のパーキンソン病診療ガイドラインでは、MAO-B阻害薬の使用に関する詳細な推奨事項が記載されています
mao-b阻害薬の神経保護作用の可能性
MAO-B阻害薬には、症状改善効果に加えて神経保護作用(ニューロプロテクション)の可能性が研究されています。これは薬剤がドパミン神経細胞の変性や死を遅らせ、パーキンソン病の進行そのものを抑制する効果を指します。実験室レベルでは、MAO-B阻害薬が神経細胞死を予防する効果が確認されています。
プロパルギルアミン構造が鍵です。
セレギリンとラサギリンが共通して持つプロパルギルアミン構造には、抗アポトーシス作用(細胞死を防ぐ作用)があることが明らかになっています。この構造は、Bcl-2やGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)などの神経保護因子の発現を誘導し、ミトコンドリア機能を保護することで神経細胞の生存を促進します。重要なのは、この効果がMAO-B阻害作用とは独立して発揮される点です。
ラサギリンを用いたADAGIO試験では、早期パーキンソン病患者において「Delayed Start(遅延開始)」デザインが採用されました。この試験では、早期開始群と遅延開始群を比較し、9ヶ月後に開始した群が早期開始群に追いつけなかったという結果が得られました。これは単なる症状改善効果だけでは説明できず、疾患修飾効果(病気の進行を遅らせる効果)を示唆しています。
しかし解釈には慎重さが必要です。
神経保護作用の臨床的証明は非常に困難で、現時点では「確立された効果」とは言えません。ADAGIO試験の結果についても、真の疾患修飾効果なのか、薬理学的な長期効果(wash-in/wash-out効果)なのか、議論が続いています。日本のガイドラインでも、「神経保護作用については今後の研究が待たれる」という慎重な記載にとどまっています。
サフィナミドについても、ナトリウムチャネル阻害を介したグルタミン酸放出抑制により、興奮毒性から神経細胞を保護する可能性が指摘されています。動物実験では、MPTP(パーキンソン病モデルを作る神経毒)による神経障害に対して保護作用を示しました。
近年の研究では、MAO-B阻害薬がαシヌクレインの細胞外排出を促進する作用も報告されています。αシヌクレインはパーキンソン病の原因タンパク質とされており、神経細胞内に蓄積して毒性を発揮します。2021年の大阪医科薬科大学の研究では、MAO-B阻害薬がこのタンパク質を細胞外に排出させることで、神経保護効果を発揮する可能性が示されました。
大阪医科薬科大学のプレスリリースでは、MAO-B阻害薬によるαシヌクレイン排出促進に関する研究成果が公開されています
これらの研究結果を踏まえて、一部の専門医は「早期からMAO-B阻害薬を使用することで長期的なベネフィットが得られる可能性がある」という仮説のもとに処方戦略を立てています。ただし、患者への説明時には「確実な効果ではなく研究段階」という点を明確に伝えることが重要です。
mao-b阻害薬の使い分けと選択基準
3種類のMAO-B阻害薬の使い分けは、患者の病期、症状、経済状況、管理上の問題などを総合的に判断して行われます。早期パーキンソン病では、単独使用も可能なセレギリンまたはラサギリンが選択肢となります。一方、進行期でレボドパ製剤を既に使用している患者では、3剤すべてが選択肢になります。
薬価は重要な判断材料です。
セレギリンの後発品を使用する場合、1日薬価は約300円と最も経済的です。ラサギリンとサフィナミドはともに約900円台で、セレギリンの3倍近くになります。長期服用が必要なパーキンソン病治療では、この薬価差は患者の経済的負担に大きく影響します。後期高齢者や年金生活者では、薬価を重視してセレギリンを選択するケースも多くあります。
服薬アドヒアランスの観点からは、1日1回投与のラサギリンまたはサフィナミドが有利です。セレギリンは1日10mgまで増量する場合、朝食後5mg、昼食後5mgという分服が必要になり、昼の服薬を忘れるリスクがあります。特に認知機能が低下している高齢患者では、服薬回数が少ない方が管理しやすくなります。
管理上の問題もあります。
セレギリンは覚せい剤原料指定のため、保管記録の作成、施錠管理、2年間の帳簿保存などが義務付けられています。小規模な診療所や薬局では、この管理負担を避けるためにラサギリンやサフィナミドを優先する場合があります。また、患者が海外渡航する際、セレギリンは携帯に特別な手続きが必要になる点も考慮すべきです。
薬理学的な特性からの使い分けも重要です。サフィナミドは非ドパミン作動性作用(ナトリウムチャネル阻害によるグルタミン酸抑制)を持つため、他の2剤とは異なる効果プロファイルを期待できます。ウェアリングオフに加えて、疼痛や感覚症状など非運動症状の改善効果も報告されており、これらの症状が顕著な患者ではサフィナミドが選択されることがあります。
安全性プロファイルの観点では、新しい薬剤であるラサギリンとサフィナミドの方が、高齢者でも比較的使いやすいという臨床的印象があります。セレギリンは長い使用歴があり安全性データは豊富ですが、アンフェタミン代謝物の問題(微量のアンフェタミン類似物質に代謝される)が指摘されています。
肝機能障害がある患者では注意が必要です。ラサギリンは主に肝臓で代謝されるため、Child-Pugh分類Aの軽度肝機能障害では低用量投与が推奨され、中等度以上(Child-Pugh分類B、C)では禁忌です。サフィナミドも肝臓で代謝されるため、重度肝機能障害では禁忌とされています。腎機能障害に対しては、3剤とも特別な用量調整は不要です。
実際の処方パターンとしては、「まずセレギリンの後発品で効果を確認し、管理上の問題や効果不十分がある場合にラサギリンやサフィナミドへ切り替える」という段階的アプローチが一般的です。ただし、切り替え時には必ず14日間のウォッシュアウト期間を設けることが重要で、この期間中は症状の悪化に注意しながら他の薬剤で症状管理を行います。
日本医事新報社の使い分けガイドでは、臨床現場での具体的な処方戦略が詳しく解説されています
複数のMAO-B阻害薬を試した経験から、個々の患者に最適な薬剤を見つけていくプロセスが重要です。効果だけでなく、副作用、服薬アドヒアランス、経済性のバランスを考慮した個別化医療が求められます。
Please continue.