マクロライド系抗生物質一覧
マクロライド系抗生物質の分類と基本構造
マクロライド系抗生物質は、大分子量のラクトン環(マクロライド環)に中性糖又はアミノ糖が結合した構造を持つ抗菌薬です。この薬剤群の最大の特徴は、ラクトン環の員数による分類システムにあります。
ラクトン環の員数による分類は以下の通りです。
- 14員環マクロライド:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン
- 15員環マクロライド:アジスロマイシン
- 16員環マクロライド:ジョサマイシン、ロキタマイシン、ミデカマイシン
この分類は単なる化学構造上の違いではなく、薬物動態や抗菌スペクトラム、副作用プロファイルにも大きく影響します。特に15員環のアジスロマイシンは、他のマクロライド系と比較して組織移行性が高く、半減期が長いという特徴を持っています。
各環員数の薬剤は、1つ又はそれ以上のデオキシ糖が結合しており、この糖部分の違いも薬理学的特性に影響を与えます。このような構造的多様性により、マクロライド系抗生物質は幅広い臨床応用が可能となっています。
14員環マクロライド系抗生物質の種類と薬価
14員環マクロライド系抗生物質は、マクロライド系の中でも最も古くから使用されている薬剤群です。現在の日本市場における主要な14員環マクロライド系抗生物質とその薬価は以下の通りです。
エリスロマイシン系製剤
- エリスロマイシン錠200mg「サワイ」:19.3円/錠
- エリスロシン錠100mg:6.1円/錠
- エリスロシン錠200mg:8.7円/錠
- エリスロシンドライシロップ10%:18.9円/g
- エリスロシン点滴静注用500mg:1053円/瓶
ロキシスロマイシン系製剤
- ルリッド錠150(先発品):23.4円/錠
- ロキシスロマイシン錠150mg「JG」(後発品):14.4円/錠
- ロキシスロマイシン錠150mg「サワイ」(後発品):17.7円/錠
- ロキシスロマイシン錠150mg「トーワ」(後発品):21.9円/錠
クラリスロマイシン系製剤
- クラリシッド錠200mg(先発品):24.9円/錠
- クラリス錠200(先発品):24.9円/錠
- クラリスロマイシン錠200mg「日医工」:19.2円/錠
- クラリス錠50小児用(先発品):21円/錠
- クラリスドライシロップ10%小児用(先発品):85.3円/g
14員環マクロライド系は、特にヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法において重要な役割を果たしています。クラリスロマイシンは3剤併用療法の標準的な構成薬剤として位置づけられており、プロトンポンプインヒビターとアモキシシリンとの組み合わせで使用されます。
15員環・16員環マクロライド系抗生物質の臨床応用
15員環マクロライド系抗生物質の代表格であるアジスロマイシンは、その独特な薬物動態プロファイルにより、他のマクロライド系とは異なる臨床的価値を持っています。
15員環:アジスロマイシン(ジスロマック)
- ジスロマック錠250mg(先発品):145.4円/錠
- ジスロマック錠600mg(先発品):484.7円/錠
- ジスロマックカプセル小児用100mg(先発品):95.9円/カプセル
- ジスロマック細粒小児用10%(先発品):137.8円/g
アジスロマイシンの最大の特徴は、長時間体内にとどまる性質です。この特性により、通常3日間の内服で7日間程度の抗菌効果が期待できるため、患者のアドヒアランス向上に寄与します。特にクラミジア感染症の治療では、単回投与での治療が可能な場合もあります。
16員環マクロライド系
16員環マクロライド系には、ジョサマイシン、ロキタマイシン、ミデカマイシンなどがあります。これらの薬剤は、14員環・15員環マクロライドとは異なる抗菌スペクトラムを示すことがあり、特定の菌種に対してより有効性を示す場合があります。
マクロライド系抗生物質は、ペニシリン系薬剤に対してアレルギーがある患者の感染症治療において重要な選択肢となっています。特にリケッチア、クラミジア、マイコプラズマなどの細胞内寄生菌に対しては第一選択薬として位置づけられています。
マクロライド系抗生物質の作用機序と薬理学的特性
マクロライド系抗生物質の作用機序は、細菌のタンパク質合成阻害にあります。具体的には、細菌のリボソーム50Sサブユニットの23S rRNAに結合し、ペプチド転移反応を阻害することで抗菌作用を発揮します。
この作用機序の特徴として以下の点が挙げられます。
- 細胞壁非依存性:細胞壁を持たない細菌に対しても効果を発揮
- 静菌的作用:基本的に静菌的だが、高濃度では殺菌的作用も示す
- 組織移行性:多くの組織に良好に移行し、細胞内濃度も高い
マクロライド系抗生物質は、細菌が増殖するために必要なタンパク質を作り出すのを妨げることで作用します。この作用点がリボソームであるため、細胞壁合成阻害薬であるβ-ラクタム系抗生物質が効果を示さない非定型病原体に対しても有効性を示します。
耐性機序への理解
マクロライド系抗生物質に対する耐性機序は複数存在します。
- 23S rRNAのメチル化による標的部位の変化
- 排出タンパク質(efflux protein)による薬剤の能動的排出
- マクロライド分解酵素による薬剤の不活性化
- マクロライド修飾酵素による薬剤の化学的修飾
- リボソームタンパク質の変異
これらの耐性機序の理解は、適切な薬剤選択と使用法の決定において重要です。特に近年、マクロライド系抗菌薬に耐性を示す細菌が増加しており、医療上の重要な問題となっています。
マクロライド系抗生物質の副作用プロファイルと薬物相互作用
マクロライド系抗生物質は、比較的安全性の高い抗菌薬として知られていますが、特徴的な副作用や薬物相互作用への注意が必要です。
主要な副作用
特にヘリコバクター・ピロリ除菌療法における副作用発現率は比較的高く、下痢(15.5%)、軟便(13.5%)、味覚異常などが報告されています。
重要な薬物相互作用
マクロライド系薬剤は、他の多くの薬剤と相互作用を起こします。これは主にCYP3A4の阻害によるもので、以下のような薬剤との併用時には注意が必要です。
QT延長症候群がある患者では、マクロライド系薬剤の使用により心臓突然死のリスクが高まる可能性があるため、特に慎重な監視が必要です。
小児・高齢者への配慮
マクロライド系抗生物質は、小児から高齢者まで幅広い年齢層で使用される薬剤ですが、各年齢層における特殊な考慮事項があります。小児用製剤としてドライシロップや細粒が用意されており、味覚の改良も行われています。高齢者では腎機能や肝機能の低下を考慮した用量調整が必要な場合があります。
これらの副作用プロファイルと薬物相互作用の理解は、安全で効果的なマクロライド系抗生物質の使用において不可欠です。処方時には患者の併用薬剤、既往歴、年齢などを総合的に評価し、最適な薬剤選択を行うことが重要です。