瞼球癒着 猫 原因と治療
瞼球癒着 猫 病態と症状の特徴
瞼球癒着は、主に幼齢の猫でまぶた(眼瞼結膜)や瞬膜と角膜・眼球結膜が線維性に癒着し、眼裂の開放や眼球運動が制限される前眼部疾患です。
典型例では「目がうまく開かない」「黒目がどこにあるか分からない」といった主訴で受診し、眼裂の一部あるいは全周にわたり結膜様組織が覆うことで視覚障害を呈します。
臨床症状としては、慢性の結膜充血、粘液膿性の眼脂、角膜表層の白濁や血管新生など、重度結膜炎と角膜障害が同時に存在する所見がしばしば認められます。
眼球自体は温存されていても、癒着によって眼球の可動性が低下し、弱視から実質的な失明まで幅広い視覚障害を生じるため、機能的な評価と構造的な評価を分けて行うことが重要です。
参考)https://jvma-vet.jp/mag/06212/i1.pdf
病態の背景には急性期炎症後の修復過程で、角膜・結膜上皮が欠損した状態同士が接触し、そのまま線維組織として「橋渡し」されることが挙げられます。
この線維性癒着が広範囲に進行すると、結膜円蓋が閉鎖し涙液や分泌物の排出経路が障害され、さらなる二次的炎症や角膜変性を助長する悪循環に陥ります。
瞼球癒着 猫 原因ウイルスとリスク因子
瞼球癒着の最大の原因は、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)による重度角結膜炎であり、新生子眼炎や慢性の「猫風邪」が長期化した症例で発症することが多いとされています。
母猫からの垂直感染や、生後8〜12週齢で母子免疫が低下したタイミングでの初感染により、急激な結膜炎と角膜潰瘍が生じると、上皮欠損部同士が癒着しやすい環境が整います。
FHV-1以外にも、クラミジア感染や細菌性重度結膜炎が関与する例があり、複数の病原体が重複感染しているケースでは炎症が長引き、癒着形成のリスクがさらに高まります。
慢性的に放置された眼脂や不適切な自己処置(市販薬のみの使用、強い機械的清拭など)も、角結膜の二次損傷を招き病態を悪化させる可能性があります。
参考)猫の瞼球癒着
臨床現場では、兄弟猫・同居猫で同様の結膜炎を繰り返している場合や、ワクチン歴が不十分な多頭飼育環境などでリスクが高くなる点を念頭に置く必要があります。
また、成猫ではヘルペス再活性化が起こっても瞼球癒着まで進行することは比較的少ないとされ、発症の多くが若齢期の重症例に集中している点も特徴です。
瞼球癒着 猫 眼科検査と診断のポイント
瞼球癒着が疑われる場合、まずは軽い鎮静や局所麻酔下で、眼瞼を優しく牽引しながら結膜嚢内を詳細に観察し、癒着の範囲・厚み・部位(眼瞼結膜同士か、結膜と角膜か、瞬膜の関与があるか)を評価します。
特に角膜表面の損傷や潰瘍を見逃さないために、フルオレセイン染色を行い、角膜上皮欠損の有無と範囲を確認することが推奨されています。
検査項目としては、一般身体検査に加えて以下が重要です。
参考)https://and-vet-ah.com/case/2025-1-15/
癒着に隠れて眼底や水晶体の評価が困難な場合には、超音波検査で眼球内構造の大まかな状態を把握し、眼球温存手術を行う価値があるかどうかの判断材料とすることも有用です。
参考)猫の眼球摘出|アリアスペットクリニック 平塚湘南・西湘秦野
全周性に近い癒着や眼球萎縮が疑われる場合、機能的視覚の回復が見込みにくく、眼球摘出や眼窩内インプラントも選択肢に含めたうえで飼い主と相談する必要があります。
瞼球癒着 猫 外科的治療と再癒着対策
軽度〜中等度の瞼球癒着では、局所点眼麻酔や鎮静下で綿棒や先端の丸いピンセットを用い、癒着組織を丁寧に剥離する外科的処置が行われますが、単純剥離だけでは高率に再癒着が起こることが知られています。
広範囲の症例では、増殖した結膜組織の部分切除や、癒着した瞬膜の切除、場合によってはコンタクトレンズ装着による角膜保護など、複合的な手技を組み合わせる必要があります。
術後管理としては、抗生物質点眼や抗ウイルス点眼・内服により原疾患の炎症を抑えつつ、頻回の点眼と眼瞼マッサージで再癒着を予防することが重要です。
日本の獣医眼科の成書や研修資料では、再発例に対してマイトマイシンC(MMC)希釈液の点眼や、術中・術後の局所塗布が線維増殖抑制に用いられることも紹介されていますが、強い細胞傷害性と刺激性があるため、症例選択とモニタリングが不可欠とされています。
再癒着リスクを下げるための工夫として、角膜・結膜表面をできるだけ滑らかに整えたうえで、結膜移植や結膜フラップ形成によって上皮化を促進し、創面同士が直接向き合わないようにするテクニックも報告されています。
それでも再発し、視覚回復が困難と判断される症例では、疼痛コントロールとQOLの観点から、眼球摘出や義眼挿入を含む根治的手術に切り替えるタイミングを見極める必要があります。
- 術後の合併症としては、出血、縫合部感染、眼窩膿瘍、縫合糸反応などがあり、術後早期のチェックが重要です。
- 瞬膜切除を行った場合、涙膜構成成分の一部が失われるため、ドライアイ様症状のリスクがあり、長期的な涙液量のフォローアップが推奨されます。
- 眼球摘出後には、ファントムペイン様の眼窩痛が報告されることもあり、NSAIDsやオピオイド、神経障害性疼痛への対応を念頭に置く必要があります。
- 飼い主の心理的負担が大きい手術であるため、術前に予後・見た目・生活への影響を画像や類似症例の説明を交えて丁寧に共有することが望まれます。
瞼球癒着 猫 予後・予防と飼い主コミュニケーション
瞼球癒着の予後は、発症時期(新生子〜幼齢期か)、癒着範囲、角膜実質のダメージ、合併するぶどう膜炎や眼圧異常の有無によって大きく左右され、部分的な癒着解除で実用的視力まで回復する例もあれば、構造的な改善にとどまる例もあります。
視覚予後が不良でも、痛みの軽減や眼脂・臭いの改善によって、猫自身の生活の質や飼い主の介護負担が大きく改善することがあり、機能的ゴールとQOLゴールを分けて説明することが重要です。
予防の観点では、FHV-1を中心としたワクチン接種の徹底、猫風邪症状が出た際の早期受診と適切な抗ウイルス・抗菌治療、眼脂の清拭方法指導(優しい拭き方と頻度)など、一次ケアの質向上が鍵となります。
参考)猫の瞬膜が出てしまう原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医…
多頭飼育や保護猫シェルターなど、感染リスクが高い環境では、隔離・環境衛生の管理とともに、慢性結膜炎を「仕方がない」と放置しないよう、獣医師側から積極的に啓発することが求められます。
飼い主説明では、瞼球癒着が「単なる目やに」や「先天異常」ではなく、可逆的な部分と不可逆的な部分が混在する後遺症であることを、写真や模式図を用いて視覚的に説明すると理解が得られやすくなります。
また、治療が長期に及び再発も多い疾患であること、完治ではなく「できる限り見える・痛くない状態を維持する」ことが治療目標になる場合があることを、初期段階から共有しておくことが信頼関係維持に寄与します。
瞼球癒着の病態と基本的な治療方針の解説(原因ウイルスや症状の整理に有用)
猫ヘルペスウイルス性眼疾患に関する詳細な説明と治療・予防(原因ウイルスとワクチン・予防の説明に参考)
瞼球癒着症例の写真と術後経過の紹介(外科的処置イメージや飼い主説明の工夫に参考)

瞼球癒着に対する外科治療と再発例への対応を含む専門的な資料(再癒着対策やMMC使用の考え方に参考)