急性眼窩うっ血 症状診断治療
急性眼窩うっ血 症状と赤旗サイン
急性眼窩うっ血は、眼窩内圧の急激な上昇によって視神経と眼窩内容物が圧迫される状態であり、実質的には眼窩コンパートメント症候群の一亜型として理解すると臨床的に整理しやすいです。 典型例では外傷や手術後数時間以内に、眼球突出、眼痛、拍動性の圧迫感、視力低下、複視が急速に進行し、数時間以内の対応が視機能予後を左右します。
急性眼窩うっ血の現場での赤旗サインとして、とくに注意すべきなのは「痛みを伴う急激な眼球突出」「視力低下あるいは視野欠損」「眼球運動障害と強い眼痛」「相対的求心性瞳孔障害(RAPD)」「眼圧上昇を示唆する強い眼圧感」の5点です。 これらがそろう場合は、細かな鑑別よりもまず眼窩コンパートメント症候群として緊急減圧を念頭に置き、CT待ちで時間を失わない判断が求められます。
参考)眼窩コンパートメント症候群と眼窩静脈瘤血栓症に関連した不可逆…
一方で、結膜下出血や白目の充血のみが目立ち、視力や眼球運動が保たれている例では、結膜下出血や前房出血など表在性病変との鑑別が必要です。 しかし結膜下出血が外傷や眼窩骨折を伴う場合、眼窩深部の血腫を覆い隠している可能性があり、眼痛の程度や眼球突出の有無を系統的に確認しないと急性眼窩うっ血を見逃すリスクがあります。
参考)白目が赤い「結膜下出血」の原因と対処法|新宿コスモ眼科
症状評価の実践的なコツとして、救急外来や当直帯では以下のようなシンプルな観察項目を短時間でチェックすることが有用です。
参考)眼窩蜂巣炎|西新宿さいとう眼科|土曜・日曜・祝祭日も診療の新…
- 片眼か両眼か(急性眼窩うっ血は多くが片眼性だが虐待や重度頭部外傷では両側例もありうる)
- 眼瞼の発赤・腫脹と硬さ(蜂巣炎由来では発赤・圧痛優位、出血・血腫優位では緊満感が目立つ)
- 眼球突出の有無と左右差(側面からの観察と簡易的なエクスオフサルモメトリーが有用)
- 視力・色覚の簡易チェック(Snellen表がなくても指数弁・色票などで変化を確認)
- 眼圧の触診あるいはトノメトリー(顕著な上昇があれば緊急減圧を強く考慮)
急性眼窩うっ血 診断と画像検査
急性眼窩うっ血の診断は、まずベッドサイドの身体所見で「眼窩コンパートメント症候群を疑うかどうか」を即座に判断し、そのうえでCTやMRIで原因検索と重症度評価を行う二段階思考が現実的です。 外傷歴、手術歴(眼窩周囲・副鼻腔・脳外科手術)、最近の感染症、抗凝固療法の有無などの背景聴取が、出血性か炎症性か腫瘍性かといった原因推定につながります。
画像検査の第一選択は造影CTで、眼窩壁骨折、眼窩内血腫、筋円錐内外の膿瘍、眼窩蜂巣炎の進展範囲、眼窩静脈瘤や血栓の有無を把握できます。 MRIは静脈血栓や軟部組織の炎症波及、視神経の浮腫評価に優れ、特に海綿静脈洞血栓症や眼窩静脈瘤血栓症が疑われる症例では有用です。 ただし、画像室への搬送や撮像時間を考慮すると、視力低下とRAPDが明らかな症例では「画像より先に眼窩減圧」を選択せざるを得ない場面も少なくありません。
興味深い点として、小児虐待(AHT: abusive head trauma)では、明らかな眼窩骨折がなくても深部の出血が眼窩コンパートメント症候群を引き起こすことがあり、外眼部に目立った損傷がないからといって急性眼窩うっ血を除外できないと報告されています。 そのため、乳幼児の「機嫌不良」「片眼の充血・腫脹」のみといった非特異的訴えでも、家族歴や状況に違和感があれば、CTで眼窩内出血や骨折ラインを確認することが重要です。
画像上の典型的所見としては、眼窩内容のびまん性浮腫、眼窩脂肪や筋群のコンパクション、視神経鞘の拡大、眼窩先端部でのボトルネック所見などがあり、いずれも眼窩内圧の上昇を反映します。 また、眼窩蜂巣炎由来の急性眼窩うっ血では、筋円錐内あるいは副鼻腔から連続する膿瘍形成が見られ、膿瘍腔の有無が外科的ドレナージの適応判断に直結します。
急性眼窩うっ血 眼窩コンパートメント症候群と外傷
急性眼窩うっ血の病態を理解するうえで中核となる概念が「眼窩コンパートメント症候群」です。眼窩は骨性壁と眼窩隔膜に囲まれた閉鎖空間であり、外傷性眼窩内血腫や術後出血、広範な蜂巣炎による浮腫などで急速に内容量が増加すると、短時間で眼窩内圧が臨界域に達します。 その結果、網膜中心動脈閉塞や視神経虚血を介して、数十分から数時間で非可逆的な視力障害へ進行しうる点が、四肢コンパートメント症候群と類似した緊急性を生み出しています。
特に外傷例では、眼窩壁骨折を伴う鈍的外傷後、初期には軽度腫脹のみで経過するものの、数時間後に遅発性眼窩内血腫が増大して急性眼窩うっ血を呈するパターンが報告されています。 この「一度落ち着いたように見えた後の急激な悪化」は、救急外来での見落とし要因となりやすく、外傷後に眼瞼腫脹と眼痛が続く症例では、帰宅指導時に視力変化や眼球突出の自己チェック方法を具体的に説明しておくことが有用です。
また、眼窩コンパートメント症候群は外傷に限らず、眼窩手術(眼窩腫瘍摘出、副鼻腔手術など)の術後出血、抗凝固療法中の自発性眼窩内出血、血液疾患に伴う出血傾向でも発生します。 特に高齢者で抗血小板薬・抗凝固薬を内服している症例では、軽微な外傷や咳嗽発作を契機に眼窩内出血をきたす報告があり、背景薬剤の確認と止血管理が急性眼窩うっ血の治療戦略に不可欠です。
興味深いことに、一部の報告では、眼窩静脈瘤血栓症が急性増悪して眼窩コンパートメント症候群を呈し、不可逆盲に至った症例が紹介されています。 静脈瘤自体は慢性的な眼球突出として経過観察されることが多いものの、咳嗽や体位変換、Valsalva負荷などを契機に急性眼窩うっ血を引き起こしうるため、既知の眼窩静脈瘤を持つ患者では、急激な眼痛・視力低下の訴えがあれば早期の眼窩減圧を検討すべきといえます。
急性眼窩うっ血 眼窩蜂巣炎・歯性感染に伴う病態
急性眼窩うっ血の背景として意外に見落とされやすいのが、眼窩蜂巣炎や歯性感染症からの波及です。眼窩蜂巣炎は、眼瞼の発赤・腫脹、眼球痛、球結膜充血や浮腫から始まり、進行すると眼球突出、眼瞼下垂、視力障害、眼球運動障害を呈する重篤な感染症です。 Chandler分類に基づき、前隔蜂巣炎から眼窩蜂巣炎、眼窩内膿瘍、海綿静脈洞血栓症まで段階的に評価することが推奨され、膿瘍形成や視力低下を伴う場合には抗生剤単独では不十分で外科的ドレナージが望ましいとされています。
特に歯性感染症に由来する眼窩蜂巣炎では、上顎臼歯部の感染が上顎洞を介して眼窩底へ波及し、眼窩内膿瘍と急性眼窩うっ血を合併する症例が報告されています。 適切な抗生剤治療と、必要に応じた膿瘍ドレナージ・眼窩減圧術を行うことで視力温存が可能であったケースもあり、「眼症状から歯科・耳鼻科疾患を逆算する」視点が重要です。
ここで重要なのは、炎症性浮腫と出血性病変が混在するケースでは、画像上で膿瘍、蜂巣炎、血腫が入り組んでおり、単なる「感染性眼窩蜂巣炎」として扱うと、眼窩コンパートメント症候群を見逃す危険がある点です。 抗菌薬投与後48時間以内に視力や眼球運動障害が改善しない場合、Chandler分類に基づく外科的介入が推奨されており、このタイミングを逃さないことが視機能予後の鍵となります。
また、小児症例では副鼻腔炎を背景とした眼窩蜂巣炎が多く、発熱、全身倦怠、頭痛など全身症状に隠れて眼所見の進行が遅れて評価されることがあります。 高熱にばかり目を奪われず、「眼瞼腫脹と眼球突出」「動眼神経障害や外転神経麻痺」「視力低下」の有無をルーチンで確認することで、急性眼窩うっ血を早期に拾い上げることができます。
急性眼窩うっ血 医療現場での初期対応と連携
急性眼窩うっ血の初期対応で最も重要なのは、「時間依存性の視神経虚血である」という認識をチーム全体で共有し、眼科・救急・脳外科・耳鼻科など多診療科が早期から連携することです。 眼窩コンパートメント症候群が疑われる場合、理想的には発症から90〜120分以内に眼窩減圧を行うことが視力温存の観点から望ましいとされ、救急外来での迅速なトリアージと連絡体制が決定的な意味を持ちます。
初期対応の実践的な手順としては、まず疼痛・嘔気に対する鎮痛・制吐、頭部挙上、酸素投与などの全身管理を行いながら、視力・対光反射・眼圧・眼球運動を簡潔に評価します。 明らかな視力低下やRAPD、触診上の高度な眼圧上昇、急激な眼球突出があれば、CT撮像と並行して側方開瞼切開(lateral canthotomy/cantholysis)などの緊急眼窩減圧術を検討し、手技経験のある眼科医・形成外科医・救急医のいずれかが対応可能か即座に確認します。
一方で、実臨床では「急性閉塞隅角緑内障」や「結膜下出血」など比較的頻度の高い疾患に診断が傾き、急性眼窩うっ血の判断が遅れるケースも少なくありません。 そのため、教育の場では「眼痛+視力低下+眼球突出」を見たらまず眼窩コンパートメント症候群を頭に浮かべる、というシンプルなメンタルモデルを若手に共有しておくことが予防策となります。
興味深い独自視点として、多職種シミュレーションの導入が急性眼窩うっ血のアウトカム改善に寄与しうる点が挙げられます。現場では、眼科医が不在の時間帯や、画像診断医との連絡が取りにくい状況も少なくないため、救急医、看護師、放射線技師を含めたチームで「疑い例のフロー」「CT依頼時の情報共有項目」「減圧術に必要な器材セット」をあらかじめ標準化しておくことが、結果的に視力温存率の向上につながると期待されます。 感染症例では耳鼻科・歯科との連携、虐待疑い例では小児科・社会福祉部門との協働も不可欠であり、急性眼窩うっ血は単なる局所疾患ではなく「多診療科・多職種連携のトリガーとなるサイン」として捉える視点が、今後の医療安全の観点からも重要になっていくでしょう。
急性眼窩うっ血・眼窩コンパートメント症候群と初期対応アルゴリズムの概説に有用。
炎症性眼窩病変(眼窩蜂巣炎・膿瘍)と視力予後、外科的介入のタイミングに関する症例報告。
眼窩蜂巣炎の症状経過と治療、膿瘍形成例での外科的治療方針の臨床的解説。