交差反応アレルギーと一覧から学ぶ診断治療

交差反応アレルギーの一覧と診断

交差反応アレルギーの主要パターン
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花粉-食物アレルギー症候群

花粉症患者が特定の果物・野菜でアレルギー症状を発症

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薬剤間交差反応

β-ラクタム系抗菌薬間での構造類似による交差アレルギー

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特殊な交差反応

クラゲ-納豆、ラテックス-果物間での予期しない反応

交差反応アレルギーの基本的理解と一覧

交差反応とは、本来のアレルゲンとは異なる物質であっても、分子構造が類似している場合に同じアレルギー反応が起こる現象です 。この反応は、IgE抗体が抗原分子表面の限られた構造部分を認識し、本来のアレルゲンと区別できずに反応してしまうことで発生します 。交差反応の理解は、アレルギー診療において患者の安全管理と治療選択において極めて重要な役割を果たしています 。

参考)交差反応と食物アレルギー|サプリメントのヘルシーパスブログ

医療現場では、交差抗原性交差反応性を区別して理解することが必要です 。交差抗原性は共通の構造をしたエピトープが異なるタンパク質に存在し、特異的IgE抗体が両者に結合することを指します 。一方、交差反応性は交差抗原性に起因して実際に症状が誘発されることを意味し、両者とも症状が出る場合もあれば、どちらか一方にのみ症状が出現する場合もあります 。

参考)その他の特殊な病態|食物アレルギー研究会

主要な交差反応パターンとしては、花粉-食物間、薬剤間、ラテックス-果物間、さらには海洋生物-食品間など多岐にわたります 。これらの交差反応を理解することで、適切な診断と治療選択、そして患者指導が可能となります 。

参考)アレルギー検査方法の実際|一般社団法人日本アレルギー学会

交差反応における花粉症と食物アレルギーの一覧

花粉-食物アレルギー症候群(PFAS:Pollen Food Allergy Syndrome)は、花粉症患者が特定の果物や野菜を摂取した際に口腔粘膜で起こるアレルギー症状です 。この症候群は花粉アレルゲンと植物性食品に含まれるタンパク質の交差反応により発症し、口腔アレルギー症候群の一型として位置づけられています 。

参考)PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)、食物依存性運動誘発ア…

カバノキ科花粉(シラカンバ・ハンノキ)との交差反応では、Bet v 1ホモログというタンパク質が関与しています 。これらの花粉に感作された患者では、バラ科果物(リンゴ、モモ、サクランボ、イチゴ、ナシ、ウメ、ビワ、アーモンド)、マタタビ科(キウイ)、セリ科(セロリ、ニンジン)、ナス科(トマト、ジャガイモ)、クルミ科(クルミ)への交差反応が報告されています 。特に豆乳については、アナフィラキシー症状まで引き起こす可能性があり注意が必要です 。

参考)https://www.do-yukai.com/medical/images/2112/chart01.pdf

イネ科花粉(カモガヤ、オオアワガエリ)では、ウリ科(メロン、スイカ)、ナス科(トマト、ジャガイモ)との交差反応性が知られています 。キク科花粉(ブタクサ)では、プロフィリンというタンパク質が関与し、ウリ科果物(メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ)やバナナとの交差反応が報告されています 。ヨモギ花粉では、セリ科野菜(セロリ、ニンジン)との交差反応が多く見られます 。
スギ花粉においては、ポリガラクツロナーゼ(Polygalacturonase)が関与するタンパク質により、ナス科のトマトとの交差反応が特に知られています 。この反応により、スギ花粉症患者がトマトを摂取すると口腔内の腫脹や掻痒感を生じることがあります 。

参考)花粉と食物アレルギーの関係性は知っていますか?知らないと怖い…

交差反応における薬剤アレルギーの一覧と管理

薬剤間の交差反応は、特にβ-ラクタム系抗菌薬において臨床上重要な問題となっています 。β-ラクタム系抗菌薬は最もアレルゲン性が高い医薬品群であり、その化学構造の類似性から薬剤間での交差反応が抗菌薬治療に大きな制約をもたらしています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/12/1/12_1_9/_pdf

ペニシリン系抗菌薬における交差反応は、主に6位側鎖構造に依存します 。6位に類似構造を持つペニシリン系抗菌薬間では76%という高い交差性が報告されており 、アモキシシリンとアンピシリンのような構造類似薬物間では特に注意が必要です 。一方、構造が異なるアンピシリンとピペラシリンでは、同じペニシリン系でも交差性は低いとされています 。

参考)http://hospital.tokuyamaishikai.com/wp-content/uploads/2021/02/a231ea6f818cc5a93f6c215f21ed2adc.pdf

ペニシリン系セフェム系の交差反応については、従来10%程度とされていましたが 、現在では実際の交差反応率は2-3%程度と考えられています 。交差反応が生じる場合は、ペニシリン系の6位側鎖とセフェム系の7位側鎖の構造類似性に依存します 。具体的には、アンピシリン・アモキシシリンとセファクロル・セファレキシン・セファドロキシル・セファトリジンとの間で構造類似性が認められ、交差反応のリスクが高いとされています 。

参考)3-4. 薬剤アレルギー(薬剤過敏症) – 昭和医科大学医学…

セフェム系同士の交差反応は、7位側鎖だけでなく3位側鎖の構造類似性も関与します 。特に第3世代セフェム系(セフタジジム、セフトリアキソン、セフォタキシム)と第4世代セフェム系(セフェピム、セフォプラゾン)では7位側鎖が同一もしくは類似構造であるため、第3世代でアレルギーが生じた場合の第4世代への変更は避けるべきとされています 。

参考)ペニシリンアレルギー、セフェムアレルギーではすべてのβ-ラク…

カルバペネム系アズトレオナム(モノバクタム系)では、ペニシリン系・セフェム系との交差反応性は比較的低いとされていますが 、完全に安全とは言えず、患者の重症度や基礎疾患を考慮した慎重な選択が求められます 。

参考)https://jin-aikai.com/wp-content/uploads/2021/08/316940d15b00f893f36a5f42985fb2f5.pdf

交差反応における特殊なアレルギーパターンの一覧

ラテックス-フルーツ症候群は、天然ゴム(ラテックス)アレルギー患者の30-50%に発症する交差反応性疾患です 。医療従事者に多いラテックスアレルギーでは、ヘベイン(Hev b 6)というタンパク質が主要な原因アレルゲンとなり、このタンパク質と類似構造を持つ果物に交差反応を示します 。

参考)ラテックスアレルギーとラテックス・フルーツ症候群とは?|サプ…

特に高リスクな食品として、アボカド、クリ、バナナ、キウイフルーツがあげられ、これらの摂取時には十分な注意が必要です 。その他にも、ポテト、トマト、クルミ、パッションフルーツ、西洋ナシ、グレープフルーツ、マッシュルーム、ピーマン、マンゴー、パイナップル、セロリ、マスクメロンなど多数の植物性食品で交差反応が報告されています 。ラテックスアレルギー患者がこれらの食品を摂取すると、蕁麻疹やアナフィラキシーを引き起こす可能性があるため、医療行為においてもゴム製品を使用した器具への注意が必要です 。

参考)食品別・食物アレルギーのマメ知識

クラゲ-納豆間の交差反応は、近年注目されている特殊なアレルギーパターンです 。クラゲが刺す際に産生するポリガンマグルタミン酸(PGA)という成分が体内に侵入すると抗体が形成され、後に納豆のネバネバ成分に含まれる同じPGAと交差反応を起こします 。この反応は遅発性アナフィラキシーとして知られ、納豆摂取から5-14時間後に症状が出現するのが特徴です 。PGAは腸内での消化に時間がかかるため症状発現が遅れると考えられており、特にサーファーなど海洋スポーツ愛好者での発症例が多く報告されています 。

参考)クラゲに刺されて納豆アレルギー

動物由来の交差反応では、イヌ・ネコのマダニ咬傷による感作後の牛肉・豚肉アレルギー(pork-cat症候群、α-Gal症候群)があります 。原因アレルゲンはgalactose-α-1,3-galactoseで、マダニ咬傷による経皮感作後に哺乳類の肉に交差反応を示します 。また、鳥類関連では、羽毛・鳥のフンによる経気道感作後に鶏肉・鶏卵(特に卵黄)に交差反応を示すBird-egg症候群も報告されています 。
さらに、食品添加物間の交差反応として、コチニール(赤色着色料)とアイシャドウや口紅に含まれるカルミンとの交差反応による食物アレルギーも知られており、女性に多く、まぶたの腫脹やアナフィラキシーが主要症状となります 。

交差反応アレルギーの診断における検査法一覧

交差反応アレルギーの診断では、詳細な問診、皮膚試験、特異的IgE抗体検査を組み合わせ、必要に応じて食物経口負荷試験で確定診断を行います 。プリックテストは、患者が症状を訴えた食材や薬剤を用いて実施し、臨床症状がありプリックテストが陽性の場合を確実例と判断します 。この検査は全年齢で実施可能で、乳幼児にも適用できる利点があります 。

参考)食物アレルギーの発症と予知と予防 : 食物アレルギー診療ガイ…

特異的IgE抗体検査では、交差反応性抗原の試薬も市販されており、口腔アレルギー症候群やラテックス-フルーツ症候群の診断に有用です 。花粉症患者における食物アレルギーの診断では、花粉特異的IgE抗体と食物特異的IgE抗体の両方を測定し、交差反応性を評価します。シラカバ・ハンノキ花粉症患者の約40%、スギ花粉症患者の約10%で口腔アレルギー症候群の併発が報告されています 。

参考)口腔アレルギー症候群のご相談は神戸市東灘区の「谷尻医院」へ

薬剤アレルギーの診断においては、リンパ球刺激試験(LMT)が交差反応性の評価に用いられます 。β-ラクタム系抗菌薬アレルギー患者では、ペニシリン系抗菌薬に52%、セフェム系抗菌薬に8%の交差陽性率が報告されており、特に6位に類似構造を持つペニシリン系抗菌薬では76%と高い交差性を示します 。
好塩基球活性化試験(BAT)は、魚類間の交差反応性やヒノキ科花粉アレルゲンの交差反応性評価に使用されています 。この検査法では、患者血液を用いて好塩基球の活性化程度を測定し、交差反応の有無を客観的に評価できます。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e65cbbba7320927f1954c7bff017cdfefdff555d

診断時には、患者への生活指導も重要な要素となります 。原因抗原とともに交差反応性抗原を考慮した包括的な指導を行い、患者が検査結果を目で見て理解できることで、その後の治療への積極的な参加を促進できます 。検査結果の解釈においては、交差抗原性の存在と実際の臨床的交差反応性が必ずしも一致しないことを理解し、個々の患者の症状と検査結果を総合的に評価することが重要です 。

参考)食物アレルギーの基礎知識|食物アレルギー研究会