抗IL-5受容体抗体の作用機序と適応
ベンラリズマブは好酸球300個以上でも効果出ません
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブの基本的な作用機序
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブ(商品名:ファセンラ)は、好酸球の表面に発現するIL-5受容体α鎖に直接結合する分子標的治療薬です。この薬剤の最大の特徴は、IL-5の受容体への結合を阻害するだけでなく、ADCC活性(抗体依存性細胞傷害活性)を介して好酸球を直接的に除去する点にあります。具体的には、ベンラリズマブが好酸球表面のIL-5受容体に結合すると、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)やマクロファージなどの免疫細胞が活性化され、好酸球にアポトーシス(細胞死)を誘導します。
このメカニズムは抗IL-5抗体メポリズマブとは本質的に異なります。メポリズマブはIL-5そのものに結合してIL-5受容体への結合を阻害するのに対し、ベンラリズマブは受容体に直接作用するため、好酸球除去効果がより強力です。実際の臨床試験では、ベンラリズマブ投与後に末梢血好酸球数がほぼゼロ(測定感度以下)まで低下することが確認されています。
この強力な好酸球除去能力により、重症好酸球性喘息患者さんの喘息発作頻度が有意に減少します。
つまり好酸球が主役の炎症です。
また、ベンラリズマブは糖鎖部位のフコースを除去する技術により設計されており、これによってADCC活性が増強されています。フコースの除去は一見地味な改良ですが、好酸球除去力を大幅に高める重要な工夫なんですね。この技術革新により、従来の抗IL-5抗体では到達できなかった好酸球完全除去が可能になりました。
投与後の効果発現も迅速で、初回投与後数日から1週間程度で末梢血好酸球数の顕著な減少が観察されます。この速やかな効果は、急性増悪を繰り返す重症喘息患者さんにとって大きなメリットとなるでしょう。さらに、気道組織に浸潤している好酸球も除去されるため、気道炎症の根本的な改善が期待できます。
日本内科学会雑誌の抗IL-5療法に関する総説では、ベンラリズマブのADCC活性による好酸球除去メカニズムが詳しく解説されています
抗IL-5受容体抗体の適応疾患と好酸球数基準
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブの適応疾患は、重症または難治性の気管支喘息と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の2つです。気管支喘息では、吸入ステロイドや長時間作用性β2刺激薬などの既存治療によってもコントロール不十分な患者さんが対象となります。具体的には、高用量の吸入ステロイドと他の長期管理薬を使用しても喘息発作を繰り返す、または経口ステロイド薬の継続投与が必要な重症例が該当します。
適応判断で最も重要なバイオマーカーが血中好酸球数です。日本呼吸器学会のガイドラインでは、血中好酸球数150/μL以上が投与の目安とされています。過去1年以内に300/μL以上の記録がある場合も適応検討の対象です。好酸球数が高いほど治療効果が大きい傾向があり、500/μL以上では特に高い効果が期待できます。
好酸球数150/μLというのは、通常の健康な成人の好酸球数(100~500/μL程度)と比較してやや高めの数値です。健康診断で「好酸球がやや多い」と指摘される程度、といえば分かりやすいでしょうか。この基準値を満たす患者さんでは、ベンラリズマブによって年間の喘息増悪率が約50~70%減少することが臨床試験で示されています。
EGPAは、喘息症状に加えて好酸球増多、血管炎症状(末梢神経障害、皮疹、消化管症状など)を呈する指定難病です。EGPA患者さんの多くは血中好酸球数が1500/μL以上と著しく高値を示します。ベンラリズマブはEGPA患者さんのステロイド減量を可能にし、血管炎症状の再燃を抑制する効果が確認されています。実際、メポリズマブとの比較試験では、ベンラリズマブの有効性と安全性が非劣性であることが示されました。
一方で、好酸球数が低い患者さん(150/μL未満)では効果が限定的です。こうした場合、抗IgE抗体オマリズマブや抗IL-4/13受容体抗体デュピルマブなど、別の生物学的製剤の選択が検討されます。患者さんごとに喘息の病態タイプ(好酸球性、アレルギー性、2型炎症など)を見極めることが、適切な薬剤選択の鍵となるわけです。
日本呼吸器学会の生物学的製剤適正使用ステートメントでは、ベンラリズマブの適応基準と好酸球数の目安が詳細に記載されています
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブと抗IL-5抗体の使い分け
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブと抗IL-5抗体メポリズマブは、どちらも好酸球性喘息に対して有効ですが、作用機序と投与スケジュールに明確な違いがあります。メポリズマブはIL-5サイトカインそのものを標的とし、IL-5が受容体に結合するのを阻害することで好酸球の増殖・活性化を抑制します。一方、ベンラリズマブはIL-5受容体α鎖に直接結合し、さらにADCC活性によって好酸球を直接除去するため、好酸球減少効果がより強力です。
投与間隔の違いも臨床上重要なポイントです。メポリズマブは4週間ごとの投与が必要ですが、ベンラリズマブは初回、4週後、8週後の3回投与後、以降は8週間隔での投与となります。頻回の通院が困難な患者さんにとっては、ベンラリズマブの投与間隔の長さが利便性向上につながるでしょう。年間の投与回数で比較すると、メポリズマブが13回、ベンラリズマブが7回(初年度)となり、受診負担が約半分になります。
効果の面では、両薬剤ともに喘息増悪を約50~55%減少させ、肺機能(FEV1)を改善し、生活の質を向上させることが示されています。直接比較試験は限られていますが、現時点では両者の有効性に大きな差はないと考えられています。
ということですね。
ただし、個々の患者さんでの反応性には違いがあります。メポリズマブで十分な効果が得られなかった患者さんがベンラリズマブに変更して改善したケースや、その逆のケースも報告されています。このため、一方の薬剤で効果不十分な場合、もう一方への切り替えを検討する価値があるでしょう。
適応年齢にも違いがあり、メポリズマブは6歳以上から使用可能ですが、ベンラリズマブは12歳以上(体重40kg以上)が対象です。小児の重症喘息ではメポリズマブが優先される場面が多くなります。また、メポリズマブは鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎にも適応を持ちますが、ベンラリズマブは現時点で喘息とEGPAのみが適応です。このように、患者さんの年齢や合併症によって最適な選択が変わってきます。
2026年には、さらに長時間作用型の抗IL-5抗体デペモキマブ(エキシデンサー)が承認されました。デペモキマブはIL-5に対する結合親和性が強化され、半減期が延長されているため、26週間(半年)に1回の投与で効果を維持できます。年2回の投与で済むため、患者さんの利便性が大幅に向上しました。ただし、長期的な安全性データはまだ蓄積段階です。今後、投与間隔の長さを重視するか、使用実績の豊富さを重視するか、患者さんのニーズに応じた選択が求められるでしょう。
日本アレルギー学会誌の生物学的製剤選択に関する総説では、各薬剤の特徴と使い分けの考え方が詳しく解説されています
抗IL-5受容体抗体の副作用と安全性プロファイル
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブの副作用は比較的軽微で、重篤な有害事象の頻度は低いとされています。臨床試験で最も多く報告された副作用は頭痛、注射部位反応(痛み、腫れ、発赤)、上気道感染でした。これらの副作用の発現率はプラセボ群と大きな差がなく、多くは軽度から中等度で自然に軽快します。頭痛の発現率は約3~5%程度と報告されており、一般的な鎮痛薬で対応可能です。
注射部位反応は皮下注射製剤に共通する副作用で、注射後数時間から1日程度で消失することがほとんどです。毎回同じ部位に注射すると反応が出やすくなるため、腹部、大腿部、上腕部を順番に変えることが推奨されます。
冷やすと痛みが和らぎますね。
注意すべき副作用として、好酸球が急激に減少することに伴う影響があります。好酸球は寄生虫感染に対する防御に重要な役割を果たすため、理論上は寄生虫感染のリスクが高まる可能性があります。ただし、実際の臨床試験では寄生虫感染の増加は確認されていません。それでも、海外渡航時や寄生虫感染のリスクがある環境では注意が必要でしょう。
まれに重篤な過敏症反応(アナフィラキシー)が報告されています。発現頻度は1%未満と低いものの、投与後は少なくとも数時間は医療機関内で経過観察することが重要です。蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などの症状が現れた場合は、直ちに投与を中止しアドレナリンなどの救急処置を行います。
EGPAや好酸球性疾患の患者さんでは、好酸球数が急激に減少した際に、まれにChurg-Strauss症候群様症状(発疹、肺浸潤、心筋炎、ニューロパシーなど)が悪化することがあります。これは好酸球減少に伴って他の炎症機序が顕在化する現象と考えられています。このため、投与開始後は好酸球数だけでなく、全身症状の変化にも注意深く観察する必要があります。
長期使用における安全性については、4年以上の追跡調査で特に新たな安全性の懸念は報告されていません。感染症の増加、悪性腫瘍の発生率上昇なども認められておらず、長期的な安全性プロファイルは良好です。
有害事象は初期に多いですね。
妊娠中の使用については、動物実験では胎児への悪影響は認められていませんが、ヒトでの十分なデータがないため、妊婦または妊娠している可能性のある患者さんへの投与は慎重に判断されます。授乳中の使用についても、母乳中への移行データが限られているため、治療上の有益性と授乳継続の必要性を比較検討することになります。
PMDAの審査報告書には、ベンラリズマブの臨床試験における有害事象の詳細データが記載されています
抗IL-5受容体抗体の投与方法と患者管理の実際
抗IL-5受容体抗体ベンラリズマブは、1回30mgを皮下注射する製剤で、シリンジタイプとペンタイプの2種類があります。投与スケジュールは、初回投与、4週後、8週後の計3回を導入期として行い、その後は8週間ごとの維持期投与となります。初年度は合計7回、2年目以降は年間6~7回の投与が標準的です。注射部位は腹部、大腿部、上腕部のいずれかで、毎回部位を変えることで注射部位反応を軽減できます。
気管支喘息患者さんへのベンラリズマブ投与は、基本的に医療機関で医師または看護師が行います。一方、EGPA患者さんについては、2024年より在宅自己注射が保険適用となりました。自己注射を開始する前には、必ず医療機関で注射手技のトレーニングを受け、適切に実施できると医師が判断した場合のみ自己投与が可能です。自己注射が可能になることで、通院負担が大幅に軽減されます。
投与前には必ず好酸球数を測定し、適応基準を満たしているか確認します。また、ベンラリズマブは喘息発作の急性期治療薬ではないため、発作時には従来通りの救急治療(短時間作用性β2刺激薬、ステロイド全身投与など)を行います。ベンラリズマブはあくまで発作予防のための長期管理薬です。
投与開始後のモニタリングでは、好酸球数の推移、喘息症状の改善度、増悪頻度、肺機能検査(FEV1など)、生活の質(ACQスコアなど)を定期的に評価します。通常、投与開始から4~16週間で効果が現れ始め、喘息発作の頻度減少や症状の軽減が実感されます。16週間投与しても明確な改善が認められない場合は、他の生物学的製剤への変更や治療戦略の見直しを検討します。
効果が得られている場合でも、定期的に好酸球数と症状をモニタリングし、必要に応じて吸入ステロイドや経口ステロイドの減量を試みます。実際、ベンラリズマブ投与により経口ステロイドの離脱または減量が可能になった患者さんが多数報告されています。ステロイド減量は副作用リスク低減につながりますね。
投与を中止する場合は、好酸球数が再び上昇し、喘息症状が悪化する可能性があるため、慎重に経過観察します。長期寛解が得られた場合でも、中止後の再燃リスクを患者さんと共有し、症状悪化時の対応方法を事前に確認しておくことが重要です。