抗ドパミン薬の一覧と分類・効果・副作用解説

抗ドパミン薬の分類と一覧

抗ドパミン薬の主要分類
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定型抗精神病薬

クロルプロマジン、ハロペリドールなど従来からの薬剤群

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非定型抗精神病薬

リスペリドン、オランザピンなど副作用軽減型薬剤

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消化管運動改善薬

メトクロプラミド、ドンペリドンなど制吐・胃腸症状改善薬

抗ドパミン薬の定型抗精神病薬一覧と特徴

定型抗精神病薬は、1950年代から使用されている古典的な抗ドパミン薬群です。主にドパミンD2受容体を強力に遮断することで抗精神病作用を発揮します。

フェノチアジン系薬剤

  • クロルプロマジン(コントミン):12.5mg~100mg錠、筋注10mg~50mg
  • ウインタミン細粒:10%製剤として利用可能
  • ヒルナミン:5mg~50mg錠で幅広い用量設定

ブチロフェノン系薬剤

  • ハロペリドール:強力な抗ドパミン作用を持つ代表的薬剤
  • 錐体外路症状のリスクが高く、慎重な用量調整が必要

これらの定型抗精神病薬は強力なドパミン受容体遮断作用により、統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想)に対して高い効果を示します。しかし、ドパミン遮断が過度に起こることで、パーキンソン症候群、ジストニア、アカシジアといった錐体外路症状が高頻度で発現するという課題があります。

薬価についても注目すべき点があり、コントミン糖衣錠は12.5mg~100mgまで全て9.7円/錠と統一されており、経済性の面でも使いやすい設定となっています。

抗ドパミン薬の非定型抗精神病薬分類詳解

非定型抗精神病薬は、従来の定型薬の副作用を軽減しつつ、より広範な症状に対応できるよう開発された新世代の抗ドパミン薬です。

SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)

  • リスペリドン(リスパダール):ドパミンとセロトニンの双方を遮断
  • パリペリドン(インヴェガ):リスペリドンの活性代謝物
  • ブロナンセリン(ロナセン):日本で開発されたSDA薬
  • ペロスピロン(ルーラン):5-HT2A/D2受容体拮抗作用

SDAの特徴は、陽性症状に効果的である一方、錐体外路症状や高プロラクチン血症のリスクがやや残存している点です。

MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)

  • オランザピン(ジプレキサ):様々な受容体に適度に作用
  • クエチアピン(セロクエル):鎮静作用が強い
  • アセナピン(シクレスト):舌下錠として特殊な剤形

MARTAは鎮静作用や催眠作用が強く、興奮状態の患者には有効ですが、体重増加や眠気の副作用が問題となりやすい特徴があります。

DSS(ドパミン受容体部分作動薬)・SDAM

  • アリピプラゾール(エビリファイ):DSS系の代表薬
  • ブレクスピプラゾール(レキサルティ):SDAM系の新薬

これらは革新的な作用機序を持ち、ドパミンが過剰な場合は抑制し、不足している場合は補うという「ドパミンシステムの安定化」を図ります。副作用が全体的に少ないのが特徴ですが、アカシジアが多発し、鎮静作用が弱いという特徴があります。

抗ドパミン薬の消化管運動改善薬と制吐作用

抗ドパミン薬は精神科領域以外でも広く使用されており、特に消化器科や内科での制吐薬として重要な役割を果たしています。

メトクロプラミド(プリンペラン)

  • 錠剤:5mg錠で6.7円/錠(準先発品)、後発品は5.9円/錠
  • 細粒:2%製剤で11.3円/g(準先発品)
  • 注射液:10mg/管で61円/管
  • シロップ:0.1%製剤で2.33円/mL

メトクロプラミドは血液脳関門を通過しやすく、中枢性および末梢性の両方でドパミン受容体を遮断します。消化管運動促進作用と制吐作用を併せ持ち、胃排出遅延や機能性ディスペプシアの治療に用いられます。

ドンペリドン(ナウゼリン)

  • 錠剤:5mg錠6.1円、10mg錠8.8円(先発品)
  • 坐剤:10mg(33.4円)、30mg(52.8円)、60mg(76.5円)
  • ドライシロップ:1%製剤で10円/g
  • OD錠:口腔内崩壊錠として服薬しやすい剤形

ドンペリドンの最大の特徴は、血液脳関門を通過しにくいため、中枢神経系の副作用(錐体外路症状)が起こりにくいことです。末梢のドパミン受容体を選択的に遮断することで、胃腸の運動促進と制吐効果を発揮します。

副作用としては、プロラクチン上昇による女性化乳房、乳汁分泌、月経異常などの内分泌系の問題が報告されています。また、CYP3A4阻害薬との併用でQT延長のリスクがあるため、薬物相互作用にも注意が必要です。

抗ドパミン薬の副作用メカニズムと対策

抗ドパミン薬の副作用は、その薬理作用と密接に関連しており、臨床使用時には十分な理解と対策が必要です。

錐体外路症状

  • パーキンソン症候群:振戦、筋強剛、動作緩慢
  • ジストニア:筋の異常収縮による不随意運動
  • アカシジア:静座不能症、じっとしていることができない
  • 遅発性ジスキネジア:長期使用による口周囲の異常運動

これらの症状は、基底核のドパミン受容体遮断により、アセチルコリンとドパミンのバランスが崩れることで発現します。対策として抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)の併用や、より副作用の少ない非定型抗精神病薬への変更が検討されます。

高プロラクチン血症

ドパミンは通常、下垂体前葉からのプロラクチン分泌を抑制しています。抗ドパミン薬の使用により、この抑制が解除されてプロラクチンが過剰に分泌されます。

症状。

  • 女性:月経不順、乳汁分泌、不妊
  • 男性:性機能低下、女性化乳房
  • 両性:骨密度低下のリスク

代謝系副作用

特にMARTA系薬剤では、ヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体への作用により、食欲増進と代謝低下が起こり、著明な体重増加が問題となります。糖尿病や脂質異常症の発症リスクも高まるため、定期的な代謝パラメータの監視が必要です。

心血管系副作用

QT延長は、特にドンペリドンで注意すべき副作用です。心電図モニタリングと、QT延長を起こしやすい薬剤との併用回避が重要です。

抗ドパミン薬の臨床選択指針と将来展望

抗ドパミン薬の選択は、患者の症状、年齢、併存疾患、副作用プロファイル、経済性など多面的な要素を考慮して行う必要があります。

症状別選択指針

急性期の統合失調症では、強力な抗精神病作用が必要であり、定型薬やSDA系薬剤が選択されることが多くあります。一方、維持期では副作用の少ない非定型薬、特にDSS系やSDAM系が推奨されます。

興奮や攻撃性が強い場合は、鎮静作用の強いMARTA系(オランザピン、クエチアピン)が有効ですが、体重増加のリスクを考慮する必要があります。

高齢者では、錐体外路症状や認知機能への影響を最小限に抑えるため、低用量から開始し、可能な限り非定型薬を選択することが推奨されます。

構造に基づく創薬の進展

近年の研究では、ドパミンD2受容体の立体構造解析が進み、より副作用の少ない抗精神病薬の開発が期待されています。構造に基づく創薬(Structure-based drug design)により、受容体選択性の高い薬剤の開発が可能になってきています。

個別化医療への展開

薬物代謝酵素の遺伝子多型や薬物血中濃度モニタリング(TDM)の活用により、個々の患者に最適化された抗ドパミン薬療法の実現が進んでいます。

将来的な治療戦略

ドパミン受容体以外のターゲット(グルタミン酸系、GABA系、コリン系)を組み合わせた多標的治療や、神経保護作用を併せ持つ薬剤の開発が進められており、統合失調症の根本的治療法への道筋が見えてきています。

医療従事者として、これらの最新知見を常にアップデートし、患者一人ひとりに最適な抗ドパミン薬治療を提供することが求められています。

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抗精神病薬の効果と副作用 – ココロミクリニック

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KEGG MEDICUS – ドパミン拮抗薬一覧