結膜乾燥症 ビタミンと栄養療法の考え方
結膜乾燥症 ビタミンA欠乏症と眼球乾燥症の病態
結膜乾燥症はビタミンA欠乏症の代表的な眼症状であり、眼球乾燥症(xerophthalmia)のスペクトラムの一部として位置づけられます。
ビタミンAは網膜のロドプシン構成成分であると同時に、結膜および角膜上皮の分化と機能維持に必須であり、不足すると角膜や結膜の乾燥・角化・潰瘍形成へ進展します。
血漿レチノール値の低下および肝臓を中心とした体内貯蔵の枯渇が一定以上に進行した段階で眼球乾燥症が発症するとされ、夜盲症、結膜乾燥症、角膜乾燥症、角膜軟化症へと連続的に病態が進むことがあります。
ビタミンA欠乏に伴う結膜乾燥症では、杯細胞減少によるムチン層の障害や、扁平上皮化生によるバリア機能低下が生じます。
参考)厚生労働省eJIM
その結果、涙液の質的変化や浸透圧上昇が起き、二次的に炎症性サイトカイン産生が亢進することで、ドライアイ類似の自覚症状(乾燥感、異物感、灼熱感など)が出現します。
参考)オメガ3脂肪酸サプリでドライアイが改善!?|医師向け医療ニュ…
臨床的には、角膜・結膜のビタミンA欠乏による乾燥は、単純な涙液減少型ドライアイとは異なり、上皮障害の程度が強く、進行時には角膜軟化症や瘢痕・失明リスクを伴う点が特徴です。
結膜乾燥症の患者では、眼表面症状だけでなく、皮膚乾燥や角化異常、上気道粘膜障害、易感染性などビタミンA欠乏に伴う全身症状を伴うことが少なくありません。
参考)「ビタミンAサプリを飲み続けるとどんな効果」がある?注意点も…
栄養失調や脂溶性ビタミン吸収障害(胆汁分泌低下、膵機能障害、小腸疾患など)、慢性下痢、肝疾患などが背景にある場合、眼症状は全身疾患の一断面として現れるため、眼科単独ではなく多職種連携が重要です。
結膜乾燥症を認める際には、局所所見のみでドライアイと早合点せず、ビタミンA欠乏を含む栄養障害を鑑別に挙げることが、不可逆的視機能障害の予防につながります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/s0210-3e1.html
結膜乾燥症 ビタミンA補充療法と投与量の実際
ビタミンA欠乏に伴う結膜乾燥症では、局所治療に加えて全身的なビタミンA補充が治療の柱となります。
成人では通常1日3,000〜100,000ビタミンA単位が用いられるとされ、高齢者では過剰投与による毒性リスクを考慮して減量が推奨されています。
静注・筋注と経口投与の選択は、吸収障害や嘔気・嘔吐の有無など全身状態を踏まえて決定し、重症例では早期に注射製剤を用いることで角膜軟化症への進展を防ぎます。
ビタミンA補充療法では、単に欠乏を補うだけでなく、背景にある原因疾患(肝疾患、膵外分泌不全、消化管切除術後、慢性下痢など)の診断と治療を並行して行うことが重要です。
補充開始後は、視覚症状の改善だけでなく、結膜・角膜上皮の再生、染色性の変化、角膜浮腫や潰瘍の進行停止を指標に治療効果を評価し、改善後は維持量への減量と食事指導へ切り替えます。
なお、ビタミンAは脂溶性で体内に蓄積しやすいため、長期高用量投与は肝障害、頭蓋内圧亢進、骨代謝異常、皮膚症状などの過剰症につながるリスクがあり、決められた用量と期間を厳守する必要があります。
一般に、医療用ビタミン剤(処方薬)と市販サプリメントのビタミンA含有量は桁が異なることが多く、患者が重複摂取しているケースも散見されます。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/sioriclub/pdf/kusurishiori_jirei_part09.pdf
服薬指導では、ビタミンA含有の総量を確認し、自己判断で複数のサプリメントを併用しないこと、妊娠可能年齢では催奇形性リスクにも配慮することを具体的に説明すると安全性が高まります。
また、β-カロテンをはじめとするプロビタミンAカロテノイドは、通常の食事・サプリ量では重篤な毒性を来しにくい一方、喫煙者における高用量補充で有害事象が報告されているため、漫然とした高用量投与は避けるべきです。
ビタミンA欠乏症の治療や投与量、注意点の概説
結膜乾燥症 ビタミンとオメガ3系脂肪酸サプリメントのエビデンス
ドライアイ・結膜乾燥症に関連して、オメガ3系脂肪酸サプリメント(EPA、DHA)が涙液安定性や症状改善に寄与する可能性が示唆されてきました。
小規模試験では、オキアミ油や魚油を中等量摂取することで、涙液浸透圧の低下や症状スコアの改善が観察され、炎症関連サイトカイン(例:IL-17A)の涙液中濃度低下とも関連づけられています。
これらの結果から、オメガ3系脂肪酸の抗炎症作用が、涙液層の不安定化や眼表面炎症を伴うドライアイの一部症例において補助的な役割を持つ可能性が考えられます。
一方、多施設共同二重盲検試験では、中等度〜重度ドライアイ患者に魚由来n-3脂肪酸を1日3,000mg、12カ月間投与しても、オリーブ油プラセボと比較して主観症状や角結膜染色スコアなどの主要評価項目で有意差を認めなかったと報告されています。
この結果は、オメガ3補充が「すべての」ドライアイ患者に有効とは限らず、病態や背景因子によって反応性が異なる可能性、あるいはプラセボ群もオリーブ油という生理活性のある脂質を摂取していた点など、解釈に慎重さを要することを示しています。
医療従事者向けには、「オメガ3系脂肪酸は一部の症例で補助的に有用な可能性はあるが、ドライアイ・結膜乾燥症治療の第一選択ではなく、局所治療や環境調整を補完する位置づけ」と説明するのが現時点では妥当です。
オメガ3系脂肪酸とドライアイのエビデンスレビュー
結膜乾燥症 ビタミンとB群・C・Eなど他のビタミンの位置づけ
ビタミンAが結膜乾燥症の中核ビタミンである一方、ビタミンB群、C、Eなども眼表面および微小循環、酸化ストレス制御に関わっており、総合的な栄養管理という観点で無視できません。
ビタミンEは脂溶性抗酸化ビタミンとして過酸化脂質の増加を防ぎ、末梢循環障害の改善に用いられることから、眼表面の微小循環や酸化ストレス軽減に理論的な貢献が想定されますが、結膜乾燥症への直接エビデンスは限定的です。
ビタミンB群は補酵素としてエネルギー代謝や神経機能維持に関与し、眼科領域では視神経障害や末梢神経障害関連の症状に対して処方されることがありますが、結膜乾燥症単独への介入としては位置づけが明確ではありません。
ビタミンCは水溶性抗酸化物質としてコラーゲン合成や創傷治癒を支え、角膜創傷や術後治癒における役割が知られていますが、ビタミンC単独の欠乏で結膜乾燥症が前景に立つことは稀です。
ただし、偏食や消化管疾患などで複数のビタミン欠乏が併存する場合、ビタミンA補充と並行して水溶性ビタミンを含む総合的な栄養補正を行うことで、眼表面治癒を支えることが期待されます。
医療従事者としては、「結膜乾燥症=ビタミンAのみ」と単純化せず、患者の食習慣、アルコール摂取、胃腸疾患、既存のサプリ使用状況を把握したうえで、必要に応じて管理栄養士や内科と連携することが重要です。
参考)https://www.saitama-med.ac.jp/mec/syllabus/2025/2nd/syllabus-2nd-all.pdf
ビタミンA以外のビタミンの効果と欠乏症についての整理
Medical DOC:ビタミンAと関連ビタミンの作用と欠乏症
結膜乾燥症 ビタミン評価から見える意外な背景疾患と生活要因
結膜乾燥症を契機にビタミン評価を行うと、背景に予想外の全身疾患が見つかることがあり、特に肝疾患や膵機能障害、小腸疾患など脂溶性ビタミン吸収に関わる病態が潜んでいるケースが報告されています。
慢性アルコール多飲者では、食事摂取量の低下や吸収障害、肝貯蔵能低下が重なり、ビタミンAを含む多彩なビタミン欠乏症を合併しやすく、眼科初診時には「単なるドライアイ」と自己申告されることも少なくありません。
また、減量手術後や厳格な自己流ダイエット、極端なヴィーガン食で脂質とビタミンA摂取が不十分な例など、生活背景と栄養トレンドの変化を反映した症例も増えつつあります。
医療用ビタミン剤やサプリメントの長期自己服用により、「実はビタミンAは過剰気味だが、他のビタミン・微量元素が不足している」というアンバランスな状態もあり得ます。
問診では「サプリは飲んでいますか?」にとどまらず、「製品名」「用量」「飲み始めた理由」「主治医に伝えているか」まで具体的に聞き取ることで、過剰症と欠乏症の両面から評価できます。
結膜乾燥症のような一見局所的な症状であっても、ビタミン評価を切り口に生活習慣、摂食障害、経済的困難、セルフメディケーションの問題など、患者の社会背景に光が当たることがあり、プライマリケア的視点が求められます。
医療者向けビタミンAとカロテノイドの包括的解説