過多月経の症状と治療薬による対策と改善方法

過多月経の症状と治療薬

過多月経の基本情報
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定義

1周期の月経期間で140ml以上の経血量が出る状態

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主な症状

レバー状の血の塊、1時間でナプキン交換、貧血症状(めまい・動悸・息切れ)

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治療アプローチ

薬物療法、ホルモン療法、外科的治療など症状や原因に応じた選択肢あり

過多月経の定義と主な症状の特徴

過多月経とは、1周期の月経期間で140ml以上の経血量が出る状態と定義されています。実際には経血量を正確に計測することは難しいため、臨床的には以下のような特徴から判断されることが一般的です。

・レバー状の血の塊が多く出る

・日中でも夜用ナプキンが必要になる

・1時間ごとにナプキンを交換する必要がある

・月経期間が8日以上続く

過多月経の症状として最も注意すべきは貧血です。経血量が80mlを超えると約60%の女性で貧血が認められるという報告があります。貧血に伴う症状としては、以下のようなものが挙げられます。

・めまい

・動悸

・息切れ

頭痛

・血色不良

疲労感の増加

多くの場合、健康診断で貧血を指摘されたことをきっかけに婦人科を受診し、過多月経が発見されるケースも少なくありません。過多月経は放置すると重篤な貧血に進行する可能性があるため、早期の受診が推奨されます。

過多月経の原因となる子宮筋腫や子宮内膜症

過多月経には、明らかな原因疾患がある「器質性過多月経」と、特定の原因がない「機能性過多月経」の2種類があります。器質性過多月経の主な原因疾患としては以下のものが挙げられます。

子宮筋腫

子宮筋層に発生する良性腫瘍で、成人女性の20~30%に見られます。特に粘膜下筋腫は子宮内腔に突出して内膜面積を増大させるため、過多月経の原因となりやすいです。子宮筋腫の大きさや位置によって症状の程度は異なりますが、以下のような症状を引き起こすことがあります。

・過多月経

・月経痛の悪化

・骨盤内圧迫感

・頻尿

・腰痛

子宮腺筋症

子宮内膜に似た組織が子宮筋層内に侵入して増殖する疾患です。月経のたびに増殖と剥離を繰り返すことで、子宮筋層が肥大し硬くなります。主な症状は以下の通りです。

・激しい月経痛

・過多月経

・下腹部痛

・腰痛

・不妊

子宮内膜症

子宮内膜組織が子宮外(卵巣や腹膜など)に発生する疾患です。20~40代の女性に多く、約7~10%の女性に見られます。特に卵巣に発生した場合は「チョコレート嚢胞」と呼ばれ、不妊の原因にもなります。

子宮内膜ポリープ

子宮内膜から発生する良性の腫瘤で、過多月経や不正出血の原因となります。

その他、血液凝固異常や抗凝固剤の服用も過多月経の原因となることがあります。機能性過多月経の場合は、ホルモンバランスの乱れやストレスなどが関与していると考えられています。

過多月経治療薬としてのホルモン療法の種類と効果

過多月経の薬物療法の中心となるのがホルモン療法です。主な治療薬には以下のようなものがあります。

1. 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)

LEPは一般的に低用量ピルとも呼ばれ、月経困難症の治療薬として保険適用があります。過多月経に対しては保険適用外ですが、効果的な治療法として広く用いられています。

・作用機序:子宮内膜の増殖を抑制し、経血量を減少させる

・服用方法:1日1回1錠を連日服用

・特徴。

  • 排卵を抑制するためほぼ100%の避妊効果がある
  • 月経痛や月経前症候群(PMS)の改善効果もある
  • 薬剤の種類によっては連続120日服用が可能で月経回数を減らせる

ただし、以下のような方には禁忌とされています。

  • 40歳以上の方
  • 肥満の方
  • 喫煙者
  • 血栓症の既往がある方
  • 妊娠ヘルペスの既往がある方

2. 黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト錠0.5mg)

・作用機序:子宮内膜組織の増殖を抑制

・服用方法:1日2回、1錠ずつ連日服用

・特徴。

  • 月経困難症に保険適用がある
  • エストロゲンを含まないため血栓症のリスクが低い
  • 排卵抑制作用もあり、排卵痛やPMSにも効果的

服用開始初期には不正出血が長引くことがありますが、避妊目的では使用できない点に注意が必要です。

3. 子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS/ミレーナ)

・作用機序:子宮内に装置を挿入し、黄体ホルモンを直接子宮内膜に放出

・特徴。

  • 過多月経と月経困難症の両方に保険適用がある
  • 一度挿入すると5年間効果が持続する
  • 全身的な副作用が少ない
  • 高い避妊効果がある

挿入後6ヶ月間は過長月経や不正出血が見られることがありますが、1年経過すると約2割の方が無月経になるとされています。子宮筋腫で子宮内腔が変形している場合や性感染症がある場合は禁忌です。

4. GnRHアゴニスト(偽閉経療法)

・作用機序:卵巣機能を一時的に低下させ、エストロゲン分泌を抑制

・投与方法:連日の点鼻薬または月1回の皮下注射

・特徴。

  • 2~3ヶ月で月経が停止し、子宮筋腫も縮小
  • 手術前の筋腫縮小や貧血改善に効果的
  • のぼせやほてりなどの更年期症状が出現することがある
  • 骨粗鬆症のリスクがあるため、連続使用は6ヶ月までに制限

5. その他の薬物療法

トラネキサム酸(トランサミン):抗プラスミン剤で止血効果がある

NSAIDs(メフェナム酸など):月経痛の緩和と経血量減少に効果

・漢方薬(キュウ帰膠艾湯など):止血効果が期待できる

これらの治療薬は、患者の年齢、症状、原因疾患、妊娠希望の有無などを考慮して選択されます。特に妊娠希望がある場合は、一時的な治療として適切な薬剤を選ぶことが重要です。

過多月経に対する外科的治療法の選択肢と適応

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、器質的疾患が原因の場合には、外科的治療が検討されます。主な外科的治療法は以下の通りです。

1. 子宮内膜掻爬(そうは)術

・方法:子宮内に器具を挿入し、子宮内膜をかき出して止血する

・特徴。

  • 急な大量出血を処理するための一時的な治療法
  • 所要時間は約20分程度で、麻酔下で実施
  • 1~2周期で再発するため、実施後は薬物療法が必要

2. マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)

・方法:専用装置を用いてマイクロ波の熱で子宮内膜を焼灼する

・特徴。

  • 比較的新しい低侵襲治療法で保険適用がある
  • 所要時間は約30分で、麻酔下で実施
  • 術後すぐに日常生活に復帰可能
  • 将来の妊娠希望がある場合は適応外

3. 子宮筋腫核出術

・方法:子宮を温存しながら筋腫のみを摘出する手術

・特徴。

  • 子宮筋腫が原因の過多月経に有効
  • 開腹手術または腹腔鏡下手術で実施
  • 妊娠希望がある場合に選択される

4. 子宮全摘術

・方法:子宮全体を摘出する手術

・特徴。

  • 過多月経を根本的に解決する最終的な治療法
  • 開腹手術、腹腔鏡下手術、経膣的手術など様々な方法がある
  • 妊娠希望がない場合や他の治療法が無効な場合に検討

5. 子宮動脈塞栓術

・方法:カテーテルを用いて子宮筋腫に栄養を送る動脈を塞ぐ

・特徴。

  • 低侵襲的な治療法だが、保険適用外の場合が多い
  • 筋腫を縮小させることで過多月経を改善
  • 将来の妊娠に影響する可能性がある

外科的治療の選択は、患者の年齢、症状の重症度、妊娠希望の有無、基礎疾患などを総合的に考慮して決定されます。特に妊娠希望がある場合は、生殖機能を温存できる治療法を選択することが重要です。

過多月経患者の日常生活における自己管理と注意点

過多月経の治療と並行して、日常生活での自己管理も重要です。以下に過多月経患者が注意すべきポイントを紹介します。

1. 貧血対策

過多月経に伴う最も一般的な合併症は鉄欠乏性貧血です。以下の対策が推奨されます。

・鉄分を多く含む食品の摂取

  • 赤身肉(牛肉、レバーなど)
  • 魚介類(牡蠣、あさりなど)
  • 大豆製品
  • ほうれん草などの緑黄色野菜

・ビタミンCを同時に摂取し、鉄の吸収を促進

・医師の指示に従い、必要に応じて鉄剤の服用

・定期的な血液検査で貧血の状態をモニタリング

2. 生理用品の選択と使用

・吸収力の高い夜用ナプキンの使用

・月経カップの活用(経血量の把握にも役立つ)

・こまめな交換による清潔保持

・防水シーツの使用で寝具の汚れを防止

3. 痛みのコントロール

・医師の指示に基づく鎮痛剤の適切な使用

・温罨法(腹部を温める)による痛みの緩和

・ストレッチや軽い運動で血行を促進

・十分な休息と睡眠の確保

4. 生活習慣の改善

・バランスの良い食事

・適度な運動(過度な運動は避ける)

・ストレス管理(ヨガ、瞑想など)

・十分な水分摂取

・喫煙や過度の飲酒を避ける

5. 受診のタイミング

以下のような症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。

・経血量が急に増加した

・月経期間が著しく長くなった

・月経と月経の間に不正出血がある

・激しい腹痛や腰痛がある

・めまいや失神などの強い貧血症状がある

過多月経は個人差が大きく、症状の程度も様々です。自分の月経周期や経血量の変化を記録しておくことで、医師との相談時に役立ちます。また、治療薬の効果や副作用についても記録しておくと良いでしょう。

過多月経は適切な治療によって症状を改善できる疾患です。恥ずかしがらずに医療機関を受診し、専門医に相談することが重要です。特に子宮筋腫や子宮内膜症などの基礎疾患がある場合は、定期的な検診を受けて状態を把握しておくことが大切です。

過多月経治療における最新アプローチと研究動向

過多月経の治療法は近年急速に進化しており、より効果的で低侵襲な方法が開発されています。最新の治療アプローチと研究動向について紹介します。

1. 新世代の子宮内黄体ホルモン放出システム

従来のミレーナに加え、より小型で挿入時の痛みが少ない新しいタイプのIUSが開発されています。これにより、出産経験のない女性や若年層にも適用しやすくなっています。また、放出するホルモン量を調整した製品も研究されており、副作用の軽減が期待されています。

2. 選択的プロゲステロン受容体モジュレーター(SPRM)

SPRMは子宮内膜に直接作用し、月経出血を抑制する新しいタイプの薬剤です。ウリプリスタル酢酸エステルなどがこのカテゴリーに含まれ、子宮筋腫の縮小と過多月経の改善に効果を示しています。従来のホルモン療法と比較して、エストロゲン欠乏症状(ほてりなど)が少ないという利点があります。

3. 改良された子宮内膜アブレーション技術

従来のマイクロ波子宮内膜アブレーションに加え、バルーンを用いた熱アブレーションや高周波エネルギーを使用した方法など、より安全で効果的な子宮内膜アブレーション技術が開発されています。これらの技術は手術時間の短縮や合併症リスクの低減に貢献しています。

4. 子宮筋腫に対する非侵襲的治療

MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)は、体外から超音波を照射して子宮筋腫を熱凝固させる非侵襲的な治療法です。切開せずに筋腫を縮小できるため、回復が早く、合併症リスクも低いという利点があります。過多月経の原因となる子宮筋腫に対する新たな選択肢として注目されています。

5. 遺伝子・分子レベルの研究

過多月経の発症メカニズムについて、遺伝子や分子レベルでの研究が進んでいます。子宮内膜における線維素溶解系の異常や炎症性サイトカインの関与など、新たな知見が蓄積されつつあります。これらの研究は、より標的を絞った治療法の開発につながる可能性があります。

6. テレメディシンの活用

COVID-19パンデミックを契機に、婦人科領域でもテレメディシンの活用が進んでいます。過多月経患者は定期的な経過観察が必要ですが、症状が安定している場合はオンライン診療を活用することで、通院の負担を軽減できる可能性があります。

過多月経の治療は個別化が進んでおり、患者の年齢、症状、原因疾患、妊娠希望の有無などを総合的に考慮した治療計画が立てられるようになっています。最新の治療法について知識を得ることで、医師とより良いコミュニケーションを取り、自分に最適な治療法を選択することができるでしょう。

日本産科婦人科学会のガイドラインでは、過多月経の治療において段階的アプローチが推奨されており、まず薬物療法を試み、効果不十分な場合に侵襲的治療を検討するという流れが一般的です。治療法の選択に迷った場合は、セカンドオピニオンを求めることも検討すると良いでしょう。