カリウム製剤一覧と臨床での適切な使い分けガイド

カリウム製剤一覧と分類

カリウム製剤の主要分類
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経口製剤

塩化カリウム、L-アスパラギン酸カリウム、グルコン酸カリウムの3種類が主流

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注射製剤

KCL注射液、アスパラギン酸カリウム注、リン酸二カリウム注が代表的

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安全管理

ハイリスク薬として特に厳重な管理と投与方法の遵守が必要

カリウム製剤経口剤の種類と特徴

低カリウム血症の治療において、経口カリウム製剤は第一選択となることが多く、その種類と特徴を理解することは臨床上極めて重要です。

塩化カリウム製剤

塩化カリウム製剤は最も一般的に使用されるカリウム補給剤で、以下の製剤が利用可能です。

  • 塩化カリウム徐放錠600mg「St」:1錠中カリウム8mEq、薬価6.1円/錠
  • K.C.L.エリキシル(10w/v%):1mL中カリウム1.34mEq、薬価1.49円/mL
  • 塩化カリウム「ヤマゼン」:1g中カリウム13.4mEq、薬価0.78円/g
  • 塩化カリウム「フソー」:1g中カリウム13.4mEq、薬価1.37円/g

従来広く使用されていたスローケー錠は2018年に製造中止となり、現在は塩化カリウム徐放錠600mg「St」が主要な代替品として使用されています。この製剤は直径11.0mm、厚さ6.4mmと大きいため、嚥下困難な高齢者には注意が必要です。

L-アスパラギン酸カリウム製剤

有機酸カリウム製剤の代表格で、以下の製剤があります。

  • アスパラカリウム錠300mg:1錠中カリウム1.8mEq、薬価6.1円/錠
  • アスパラカリウム散50%:1g中カリウム2.9mEq、薬価6.7円/g

グルコン酸カリウム製剤

  • グルコンサンK錠5mEq:薬価6.9円/錠
  • グルコンサンK錠2.5mEq:薬価6.1円/錠
  • グルコンサンK細粒4mEq/g:薬価6.7円/g

カリウム製剤注射剤の適応と注意点

カリウム製剤の注射剤は、ハイリスク薬として薬剤管理指導料の対象となっており、特に安全管理が必要な医薬品として位置づけられています。

塩化カリウム注射剤

  • KCL補正液1mEq/mL:薬価114円/管
  • KCL補正液キット20mEq:薬価151円/キット
  • KCL注10mEqキット「テルモ」:薬価155円/キット
  • KCL注20mEqキット「テルモ」:薬価225円/キット
  • K.C.L.点滴液15%:薬価424円/管

L-アスパラギン酸カリウム注射剤

  • アスパラカリウム注10mEq:薬価61円/管
  • L-アスパラギン酸K点滴静注液10mEq「NIG」:薬価61円/管
  • アスパラギン酸カリウム注10mEqキット「テルモ」:薬価181円/キット

全てのアスパラギン酸カリウム液製剤は1本あたり10mEqのカリウムを含有し、濃度は1mEq/mLと塩化カリウム注と同じです。テルモ製のキット製剤は黄色に着色されており、調製時の識別が容易になっています。

投与時の重要な注意事項

カリウム製剤の投与には以下の厳格な基準があります。

  • 希釈濃度:40mEq/L以下
  • 投与速度:20mEq/時以下
  • 1日最大投与量:100mEq以下
  • 投与方法:1分間8mLを超えない速度で点滴静脈内注射

高濃度カリウム製剤の投与は、救命救急センター、ICU、HCU、手術室に限定し、中心静脈カテーテルからの投与が推奨されています。

カリウム製剤薬価比較と処方選択

カリウム製剤の選択において、薬価は重要な考慮要素の一つです。2025年6月現在の薬価を比較すると、経済性の観点から以下のような特徴があります。

経口製剤の薬価比較(カリウム1mEqあたりのコスト)

最も経済的な選択肢は塩化カリウム「ヤマゼン」で、1g中13.4mEqを含有し薬価0.78円/gのため、1mEqあたり約0.058円となります。これに対して、徐放錠は1錠8mEqで6.1円のため、1mEqあたり約0.76円と約13倍のコストがかかります。

注射製剤の薬価比較

注射製剤では、アスパラカリウム注10mEqが61円/管で最も経済的で、1mEqあたり6.1円です。一方、KCL補正液キット20mEqは151円/キットで1mEqあたり7.55円となります。

処方選択の実践的考慮点

薬価だけでなく、以下の要因も考慮する必要があります。

  • 患者の嚥下能力:大きな徐放錠は高齢者には不適切
  • 酸塩基平衡障害の有無:アシドーシス時は塩化カリウム、アルカローシス時は有機酸カリウムを選択
  • 服薬コンプライアンス:錠数や服用回数
  • 胃腸障害のリスク:塩化カリウムは局所刺激性が強い

カリウム製剤投与時の安全管理体制

カリウム製剤は心停止等の重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、日本看護協会が「カリウム製剤投与間違い撲滅キャンペーン」を実施するなど、医療界全体で安全対策が強化されています。

インシデント事例と対策

医療機能評価機構の報告によると、平成16年10月から平成26年10月までの期間に、カリウム製剤の急速静注に関連した事例が複数報告されています。特に計算間違いによる過量投与の事例では、0歳児に対して計算ミスにより約20mEq/kg/dayの投与指示が出され、血清カリウム値が8.68mEq/Lまで上昇した深刻な例があります。

必須の安全管理項目

  • 心電図・血圧モニターの装着と継続監視
  • 投与前後の血清カリウム値測定
  • 投与速度の厳格な管理
  • ダブルチェック体制の徹底
  • 病棟での高濃度カリウム製剤保管の禁止

特殊製剤の安全機能

テルモ社のアスパラギン酸カリウム注キットは、注射用金属針を装着できない設計となっており、混合調製用プラスチック針のみが装着可能です。この設計により、誤った急速静注を物理的に防止しています。

輸液への混注時の注意点

既存の輸液にカリウムが含まれている場合、追加のカリウム製剤投与により40mEq/Lを超える濃度になる可能性があります。主要な含有輸液は以下の通りです。

  • ソルデム3A:500mLあたり10mEq
  • フルカリック、ハイカリック:1袋あたり30mEq
  • エルネオパ:1000mLあたり22mEq

カリウム製剤切り替え時の化学当量計算

カリウム製剤の切り替えにおいては、単純なmg数での比較ではなく、化学当量(mEq)を基準とした計算が必要です。これは、各製剤でカリウムの化学形態が異なるためです。

化学当量計算の基本原理

カリウムの原子量は39.1のため、カリウム1mEqは39.1mgに相当します。しかし、各製剤は以下のような分子構造を持ちます。

  • 塩化カリウム(KCl):分子量74.5、カリウム含有率52.4%
  • L-アスパラギン酸カリウム:分子量171.2、カリウム含有率22.8%
  • グルコン酸カリウム:分子量234.2、カリウム含有率16.7%

実践的な切り替え例

スローケー錠600mg(カリウム8mEq)から他製剤への切り替え例。

  • 塩化カリウム徐放錠600mg「St」:1錠(カリウム8mEq)で等価
  • アスパラカリウム錠300mg:約4.4錠(カリウム7.9mEq)で近似
  • グルコンサンK錠:1.6錠(カリウム8mEq)で等価

酸塩基平衡を考慮した選択

カリウム製剤の選択には、患者の酸塩基平衡状態も重要な要因です。

  • アシドーシス合併時:塩化カリウム(無機カリウム製剤)を選択
  • アルカローシス合併時:L-アスパラギン酸カリウムやグルコン酸カリウム(有機カリウム製剤)を選択

この使い分けは、塩化物イオンが代謝性アシドーシスを、有機酸が代謝されることでアルカローシス傾向をもたらすためです。

投与経路変更時の注意点

経口投与から静脈内投与への変更時は、バイオアベイラビリティの違いを考慮する必要があります。経口製剤は消化管での吸収率が約90-95%のため、静脈内投与では若干少ない用量から開始することが推奨されます。

日本医療機能評価機構の医療安全情報を参考に、適切な管理体制の構築が求められています。

医療機能評価機構によるカリウム製剤の安全使用に関する詳細な指針

カリウム製剤の適切な使用には、製剤特性の理解、安全管理体制の構築、そして患者個別の病態に応じた選択が不可欠です。特に高濃度製剤の取り扱いでは、継続的な教育と訓練により、医療事故の防止に努めることが重要といえるでしょう。