環軸椎亜脱臼と症状
環軸椎亜脱臼 症状の初期所見(後頭部痛・後頚部痛・巧緻運動障害)
環軸椎亜脱臼は、上位頸椎(C1/2)での過剰な動き・ずれにより頸髄や脳幹を障害しうる病態で、症状が軽微だったり変動したりして診断が遅れやすい領域です。特に「後頭部痛」「後頚部痛」が最も多い初期症状として挙げられ、医療従事者が最初に拾うべき訴えになります(頭痛として処理されることもあるため注意が必要です)。日本脊髄外科学会の解説では、進行例のしびれ・麻痺に至る前段階として、腕の異常感覚や手の細かな運動の障害(巧緻運動障害)から始まることが多い点が明記されています。
臨床上の落とし穴は、「痛みが主訴の段階」ほど神経学的異常所見が乏しいことです。患者は「寝違えた」「肩こりが悪化した」と表現し、頸部の可動域制限や動かしたときの後頭部〜上位頸部の誘発痛だけがヒントになることがあります。さらに、頸部前屈で症状が強くなるタイプでは、前屈時に脊髄狭窄が増悪し、肩・腕・背部に放散する痛みやしびれとして現れることがあるため、「頚椎由来の関連痛/放散痛」としての視点が重要です。
医療面接では、痛みの部位と増悪因子に加えて、手先の不器用さ(箸が使いにくい、ボタンが留めにくい、字が書きにくい)を具体例で聞き出すと、巧緻運動障害を拾いやすくなります。初期の段階で「痛み+軽い感覚異常+巧緻運動」の組み合わせが揃うと、上位頸髄障害の可能性が上がります。診察では握力だけでなく、つまみ動作、回内外の連続動作、指鼻試験など、短時間で実施できる手技をルーチン化しておくと見逃しが減ります。
環軸椎亜脱臼 症状が進行した頸髄圧迫(しびれ・麻痺・排尿障害・呼吸障害)
病状が進むと、頸髄圧迫により手足のしびれや麻痺が出現し、上位頸椎病変に矛盾しない神経学的所見が揃ってきます。日本脊髄外科学会の説明でも、進行によりしびれ・麻痺を生じ、初期には腕の異常感覚や巧緻運動障害から始まることがあるとされています。
また、大学病院の整形外科系ページでは、後頭部痛・しびれに加え、手足のしびれ、運動麻痺、排尿障害が症状として整理され、最悪の場合に呼吸不全が起こり生命の危険がある点にも触れられています。
ここで重要なのは、「四肢の症状=下位頸椎疾患」と短絡しないことです。上位頸髄の障害でも、long tract sign(痙性、歩行障害、膀胱直腸障害)として下肢優位に出ることがあり、整形外科・神経内科・救急のどの入り口でも鑑別に上がる必要があります。総合南東北病院の解説では、脊髄圧迫症状として運動麻痺・感覚麻痺・呼吸障害・膀胱直腸障害が挙げられ、病態が上位頸髄にあることを前提に症状が整理されています。
参考)302 Found
重症化サインとして、以下は「至急の評価・固定・専門紹介」を要します(外来で様子見しない)。
✅ 緊急度が高い症状(例)
- 進行する歩行障害、階段が苦手、転びやすい(痙性歩行を含む)
- 手指巧緻運動の急激な悪化(箸、ボタン、書字)
- 排尿障害(尿閉、頻尿の増悪、失禁)
- 呼吸が浅い、息切れ、睡眠時無呼吸の悪化、嚥下障害
- 意識は清明でも四肢麻痺や急速な筋力低下
特に呼吸障害や嚥下障害は、脳幹圧迫・高位頸髄障害と結びつく危険信号です。環軸椎亜脱臼は「首の病気」ですが、臓器症状のように見える形で出ることがあり、夜間の症状(睡眠時無呼吸など)まで含めた病歴聴取が臨床上の分かれ道になります。大西脳神経外科病院の疾患説明でも、進行すると小脳・脳幹部障害や四肢障害、呼吸障害(睡眠時無呼吸)などが出現しうるとされています。
環軸椎亜脱臼 症状と診断(レントゲン・CT・MRI・ADI)
症状だけで確定はできないため、画像で「C1/2のずれ」と「脊髄圧迫の有無」をセットで確認します。日本脊髄外科学会は、レントゲン、CT、MRIなどで第1・第2頚椎部の脊髄圧迫を確認し、その部位の圧迫に矛盾しない症状・身体所見があることを確認すると説明しています。
また、別の大学病院ページでは、頸椎レントゲン側面像を屈曲位・伸展位で撮影し、環椎—軸椎の位置関係を観察することで比較的簡単に診断できる旨が示されています。
臨床で頻用される指標がADI(環椎歯突起間距離, atlantodental interval)です。古典的な国内文献(PDF)でも、側面像でADIが3mmを超える場合に亜脱臼と診断するのが一般的、という扱いが示されています(ただし症状とADIの程度は必ずしも一致しない点も同資料に記載)。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/40/2/40_2_623/_pdf
加えて、慢性関節リウマチ患者の頸椎X線変化を扱った国内PDFでも、屈伸時の計測でADI 3mm以上を異常所見とした記載が確認できます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/23/3/23_3_340/_pdf
一方、外科治療や運動療法系の記事などでは「成人3mm以上(小児4mm以上)で疑う」「5mm以上で観血的治療適応を考える」といった実務的な整理も流通しており、現場では“疑う閾値”と“治療方針の閾値”が混在しやすい点が注意点です。
参考)環軸椎脱臼の基礎知識
ここであまり強調されない、しかし実務上かなり大事なポイントがあります。ADIが小さくても、軟部組織(例:炎症性滑膜、偽腫瘍様病変)や動態での圧迫で症状が出ることがあり、「ADIが大きくない=安全」とは限りません。実際、環軸椎亜脱臼の手術成績を解析した論文でも、患者背景として関節リウマチなどが原因になりうること、そして病態が脊髄・脳幹圧迫による不可逆的神経障害や呼吸機能障害、死亡にまで至りうることが述べられ、早期診断・治療の重要性が強調されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/98cb7537e3f99d6ff0ffdc0c61d92482eab9ffcd
画像モダリティの使い分け(臨床の型)
- X線(側面+動態):C1/2の不安定性(前屈で増悪するズレの確認)
参考)https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/orthopedic/spine/AAD.html
- CT:骨性構造(歯突起、環椎前弓、骨侵食、術前プラン)
- MRI:脊髄圧迫、髄内変化、軟部組織(炎症性変化)
参考)環軸椎亜脱臼
特に関節リウマチ背景では、パンヌス形成に続発してADIが拡大し、歯突起の侵食など典型所見を呈することがあると、MSDマニュアルの画像解説で説明されています。
頸部痛だけが前景に立つ時期ほどMRIに至らないことが多いので、「神経症状が軽くても、上位頸髄が疑わしければMRIを躊躇しない」という判断基準をチームで共有しておくと安全です。
環軸椎亜脱臼 症状の背景(関節リウマチ・ダウン症)
環軸椎亜脱臼は原因が多彩で、背景疾患が症状の出方や発見経路を左右します。手術成績解析の論文では、関節リウマチがAASの主要原因の一つであり、炎症過程に加えて先天性、外傷性、腫瘍性の過程でも亜脱臼・不安定性が生じうると整理されています。
つまり「首の痛み+しびれ」だけでなく、既往歴(RA、先天性疾患、外傷歴)を踏まえて疑う順番が変わるということです。
関節リウマチ(RA)の場合、上位頸椎病変が進行しやすい一方で、末梢関節痛や全身症状に隠れて頸椎症状の訴えが遅れることがあります。MSDマニュアルの画像解説では、RAでみられるパンヌス形成に続発してADIが著明に拡大し、歯突起の侵食が起きることが説明され、RAに特徴的な病態が可視化されています。
外来では「RAで頸部痛が続く」「上肢のしびれが出てきた」「手先が不器用になった」の組み合わせは、早期に頸椎評価へ進める合図になります。
一方、小児・ダウン症では、神経症状の訴えが言語化されにくいことがあり、運動機能の変化から拾うのが現実的です。神奈川県立こども医療センターの解説では、ダウン症に頻度が高いことが知られ、症状として階段が苦手、びっこ、すぐ座る、コップやスプーンを落とす、など生活場面の変化として書かれています。
参考)環軸椎亜脱臼(不安定症)
さらに、同センターはダウン症の患者で環軸椎不安定性が10〜30%にあるとされる点に触れており、「症状が出てから」ではなく「疑って観察する」姿勢が必要です。
ダウン症に関しては、米国小児科学会(AAP)の健康管理ガイドライン日本語資料として、3〜5歳で環軸椎の不安定さ・亜脱臼がないかをレントゲンで調べ、就学前に一度行う、といった記載もあり、スクリーニングの議論があることまで含めて紹介されています。
参考)https://www.pref.aichi.jp/addc/eachfacility/tyuuou/library/pdf/1_02_downsyndorome_aap.pdf
現場では、学校体育やスポーツ参加時の評価、麻酔・鎮静前のリスク評価など、「症状がないが首に負荷がかかる状況」で問題化しやすい点が、成人RAとは異なる注意点です。
環軸椎亜脱臼 症状の独自視点(椎骨動脈・めまい・脳梗塞)
検索上位では「痛み」「しびれ」「麻痺」に焦点が当たりやすい一方で、医療者が知っておくと一段安全になるのが、椎骨動脈(VA)関連の症状です。環軸椎亜脱臼の外科論文でも、椎骨動脈が環軸関節の近傍を走行するため、体位や一過性のVA閉塞に関連した血栓塞栓性脳卒中が起こりうる、と記載されています。
つまり、頸部の回旋・前屈など特定の頭位で「めまい」「ふらつき」「一過性の神経症状」が出る場合、単なる前庭疾患だけでなく、頸椎由来の血行動態も鑑別に上がります。
国内の医療機関サイトでも、椎骨動脈の圧迫症状として強いめまいがあり、坐位をとれないなどが起こりうる、と具体的に述べられています。
また、RAの環軸椎亜脱臼に伴う椎骨動脈の頭位性閉塞により多発脳梗塞を呈した症例報告が存在することが、国内文献データベース(CiNii)や抄録サイトで確認できます。cir.nii+1
この領域は「頻度は高くないが、起きたときのインパクトが大きい」ため、救急・総合診療のトリアージにも役立ちます。
椎骨動脈関連を疑うヒント(診療のメモ)
- 頭位で誘発されるめまい、失神前症状、視覚異常、構音障害など後方循環を示唆する症状
- 頸部痛や上肢しびれと同時に起きる/頸部運動で再現される
- RAなど背景疾患がある、または上位頸椎手術歴がある
もちろん、めまいの多くは耳鼻科・神経内科領域の一般的原因で説明できますが、「頸部運動がトリガー」「上位頸椎の疼痛がベースにある」場合は、環軸椎亜脱臼を含む頭蓋頸椎移行部疾患を一度は思い出す価値があります。
【論文リンク(椎骨動脈・脳梗塞の注意点に関連)】
【日本語の権威性リンク(初期症状・検査の基本)】
初期症状(後頭部痛・後頚部痛、巧緻運動障害)と、レントゲン/CT/MRIで脊髄圧迫を確認する流れ。