肝炎ウイルス関連関節炎とクリオグロブリン血症性血管炎の診断

肝炎ウイルス関連関節炎

肝炎ウイルス関連関節炎:医療従事者が最初に押さえる3点
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まず「C型肝炎×免疫複合体」を疑う

関節痛だけでなく、紫斑・末梢神経障害・腎障害があればクリオグロブリン血症性血管炎(CV)も視野に入れ、HCV評価と同時に全身評価を進めます。

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採血で「補体低下」を拾う

CVでは補体(特にC4など)の低下が高頻度とされ、病型推定・鑑別(ANCA関連血管炎など)に役立ちます。

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免疫抑制導入前のHBVスクリーニングは必須

リウマチ性疾患の治療ではHBV再活性化が致命的になり得るため、HBs抗原→HBc抗体/HBs抗体→必要に応じHBV-DNAの順で確認し、モニタリング計画まで組み込みます。

肝炎ウイルス関連関節炎の病態:クリオグロブリン血症

肝炎ウイルス関連関節炎は「肝臓の炎症の付随症状」というより、免疫応答が全身に波及して関節に症状が出る“肝外病変”として捉えると整理しやすくなります。特にC型肝炎ウイルス(HCV)では、免疫複合体が関与するクリオグロブリン血症性血管炎(cryoglobulinemic vasculitis: CV)を背景に、関節痛(arthralgia)や時に関節炎が問題になります。

クリオグロブリンは「低温で沈殿し、加温で再溶解する免疫グロブリン」という性質があり、I型(単クローン性)、II型(多クローンIgG+単クローンIgM)、III型(多クローンIgG+多クローンIgM)に分類されます。混合型(II・III型)が臨床で問題になりやすく、HCV同定(1989年)以降、多くの症例でHCVが関与していることが分かってきました。

臨床の“意外な落とし穴”は、関節症状が前面に出ると整形外科・リウマチ外来に流れ、肝炎の評価が後手に回る点です。CVの古典的所見として“Meltzerの3徴”があり、触知可能紫斑(purpura)、関節痛(arthralgia)、筋力低下(weakness)が知られています。皮膚・神経・腎の症状が同時に語られる患者では、関節炎単独として扱わず「血管炎としての問診・診察」に切り替えることが安全です。

また、CVは頻度の高い症状ほど非特異的です(関節痛や倦怠感など)。そのため「痛みの部位」よりも、「寒冷曝露で悪化しないか」「下肢紫斑が反復しないか」「しびれが左右非対称に進まないか」「尿所見が崩れていないか」といった“全身の組み合わせ”で疑うのが実務的です。慶應義塾大学病院の解説では、紫斑や関節痛の頻度が高い一方で、関節炎そのものは少数(6.7%)とも記載されており、「関節炎が強くない=除外」ではない点が重要です。

肝炎ウイルス関連関節炎の症状:関節痛と紫斑

肝炎ウイルス関連関節炎の症状は、患者の訴えとしては「関節が痛い」「朝こわばる」「手が腫れぼったい」など、関節リウマチ(RA)と区別しづらい形で出ることがあります。そこで医療者側は、皮疹(特に下肢の紫斑)、末梢神経障害(しびれ・灼熱痛)、腎障害(蛋白尿・血尿)をセットで拾い上げると、HCV関連CVの可能性を早期に上げられます。

CVの皮膚病変は下肢に好発し、寒冷刺激部位で網目状皮疹、紫色の斑点、潰瘍などを呈することがあるとされます。患者が「冬になると脚が荒れる」「立ち仕事のあとに点状出血みたいな斑点が出る」と語った場合、単なる湿疹・静脈うっ滞と決めつけず、触知可能か(隆起しているか)、圧迫で退色するか、疼痛やしびれを伴うかを確認します。

神経障害が絡むと、痛みの性状が「関節のズキズキ」より「しびれ」「電撃痛」に近づき、患者の表現は多彩になります。CVでは末梢神経障害の頻度が高いとされ、軽度の知覚異常を伴う感覚神経障害が多い、といった整理が臨床の見立てに役立ちます。関節痛+しびれ+紫斑という“三点セット”が揃うとき、肝機能検査だけで終えず、原因検索(HCV、膠原病、リンパ増殖性疾患など)へ進むのが合理的です。

B型肝炎(HBV)では別の形として、急性肝炎に伴う血清病様症候群で発熱・皮疹・関節痛/多関節炎が出ることがあります。黄疸が出る前後に前駆症状として関節症状が目立つケースもあり、「肝炎症状が目立たない関節痛」で受診する可能性があります。問診では薬剤歴・性感染リスク・輸血歴など一般的な感染リスクに加え、発熱や皮疹の時間関係(関節痛が先行したか)を確認すると見逃しを減らせます。

肝炎ウイルス関連関節炎の検査:補体とHBV-DNA

検査は「関節炎としての標準セット」に、肝炎ウイルス関連を上乗せする設計が実務的です。CVを疑う場合、炎症反応(CRP赤沈)に加え、補体(C3/C4/CH50)を測ることで、免疫複合体病態を支持する材料になります。慶應義塾大学病院の解説では、補体低下が高頻度で、特にC4、C1q、CH50が高度低下、C3は軽度低下が多い、とされています(ただし補体低下や沈殿程度が病勢と相関しない場合もある、とされています)。

次に重要なのが、免疫抑制療法を導入する可能性がある患者(RA疑い、血管炎疑い、腎炎合併など)でのHBVスクリーニングです。日本リウマチ学会の提言では、免疫抑制療法開始前に全例でHBs抗原を測定し、陰性ならHBs抗体・HBc抗体を測定して既往感染を拾う流れが示されています。既往感染例でも免疫抑制でHBV-DNAが検出されるようになり、de novo B型肝炎として重症化し得る点が強調されており、リウマチ領域でも「肝臓内科に任せる話」ではなく初期対応の責務になります。

提言では、HBs抗原陰性でも既往感染があればリアルタイムPCR(TaqMan PCR)でHBV-DNA定量を行い、状況に応じて核酸アナログ(例:エンテカビル)を早期投与し、肝臓専門医と連携して経過を追うことが示されています。さらに、HBV-DNAと肝機能(AST/ALT)を月1回モニタリングし、免疫抑制終了後も少なくとも12か月は継続する、といった「検査の継続」が具体的に書かれている点が現場では重要です。

ここでの意外な実務ポイントは、HBV再活性化は「ALTが上がってから気づく」では遅いことがある点です。提言内の補足では、まず血清HBV-DNAが上昇し、1か月以上経ってからALT上昇が認められることがあるため、HBV-DNAを定期測定し、検出感度以上になった時点で核酸アナログを開始すれば重篤な肝炎を予防可能と考えられる、と整理されています。つまり“肝機能だけ追う”運用はリスクが残ります。

肝炎ウイルス関連関節炎の治療:免疫抑制と連携

治療は「症状を抑える」だけでなく、「原因ウイルスや基礎疾患に介入して再燃構造を断つ」発想が必要です。CVについて慶應義塾大学病院の解説では、全身性血管炎や活動性の高い腎炎では、ステロイドやシクロホスファミドなどの免疫抑制療法、血漿交換療法等が挙げられています。一方で、C型慢性肝炎など基礎疾患がある場合は、肝臓専門医などと連携して基礎疾患に応じた治療を行う、とされています。

医療従事者向けに臨床判断を言語化すると、次のように整理できます。

・軽症(関節痛中心、臓器障害なし):疼痛コントロール+原因検索(HCV/HBV)を進め、リスクに応じて専門科へ紹介。

・中等症(紫斑が反復、神経症状あり、尿異常あり):血管炎・腎炎を念頭に入院含め検討し、膠原病内科/腎臓内科/肝臓内科の連携を早期に組む。

・重症(急速進行性腎炎、広範な皮膚潰瘍、強い全身症状):免疫抑制+血漿交換などを含めた救急対応が必要になり得る。

そして免疫抑制を使う可能性が少しでもある場合、HBVの扱いが“同時進行の安全対策”になります。日本リウマチ学会の提言は、HBVキャリアや既往感染例で免疫抑制・化学療法に伴うHBV再活性化が起こり得て、致命的な重症肝炎に至る場合があること、既往感染例の再活性化(de novo B型肝炎)にも注意が必要なことを述べています。免疫抑制を「始めるかどうか」だけでなく、「始めたあと・終えたあとにどう追うか」までが治療の一部、という発想が安全管理の核になります。

肝炎ウイルス関連関節炎の独自視点:寒冷曝露

検索上位の一般的な解説では、関節痛・紫斑・腎障害といった臓器別の説明に終始しがちですが、現場で“再現性のある生活指導”として効くのが寒冷曝露の回避です。CVの解説では生活上の注意として「寒冷曝露をさけて保温に努める」ことが明確に記載されています。これは「痛いから温める」といった一般論ではなく、クリオグロブリンが低温で沈殿するという病態そのものと結びつく指導であり、患者教育の納得感が得られやすいポイントです。

たとえば、冬場に増悪する関節痛を「気圧や冷えのせい」で片づけず、紫斑・しびれ・尿異常の有無を再確認し、CVの可能性を再評価するきっかけにできます。患者が透析室や外来の待合で冷える、職場の冷蔵環境で手足が冷える、夜間の屋外作業がある、といった情報は、病勢の“増悪因子”として問診に組み込む価値があります。

さらに、採血の実務でも温度管理が診断精度に影響し得る点が、現場では見落とされがちです(クリオグロブリンは温度で沈殿・再溶解する性質があるため、検体の取り扱いは施設手順に従って慎重に行う必要があります)。ここは個別施設の検査部門手順に依存するため一般化は避けますが、「検体の扱いが結果に影響し得る」という観点を臨床側が持つだけで、再検の判断や検査部とのコミュニケーションが改善します。

有用:クリオグロブリン血症性血管炎の概要(Meltzerの3徴、補体低下、症状頻度、治療、生活指導)

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000733/

有用:免疫抑制療法前のHBVスクリーニング手順、HBV-DNAモニタリング、de novo B型肝炎の注意点

https://www.ryumachi-jp.com/info/news120905.pdf