自律神経作用薬一覧と薬理作用
自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の二つの系統から構成され、私たちの体の恒常性維持に重要な役割を果たしています。これらの神経系に作用する薬剤を自律神経作用薬と呼び、様々な疾患の治療に用いられています。自律神経作用薬は、その作用機序や標的となる受容体によって分類され、それぞれ特有の薬理作用を示します。
自律神経系の遠心路は交感神経系と副交感神経系から構成され、両系統とも中枢神経系から出た神経細胞が効果器に至るまでにシナプスを形成します。このシナプスは自律神経節に存在し、節前神経と節後神経の接合により形成されます。交感・副交感神経の節前神経はどちらもコリン作動性であり、その終末から遊離されるアセチルコリン(ACh)はシナプス後膜のニコチン性ACh受容体を活性化して節後線維を興奮させます。
自律神経作用薬の交感神経系に作用する薬物一覧
交感神経系に作用する薬物は、アドレナリン作動薬(交感神経刺激薬)とアドレナリン遮断薬(交感神経遮断薬)に大別されます。これらの薬物は、α受容体とβ受容体という二つの主要な受容体サブタイプに作用します。
アドレナリン作動薬(交感神経刺激薬)
- 非選択的アドレナリン作動薬
- α受容体作動薬
- β受容体作動薬
- ドブタミン:β1受容体に選択的に作用し、心収縮力を増強する
- サルブタモール(アルブテロール):β2受容体に選択的に作用し、気管支拡張作用を示す
- テルブタリン:β2受容体作動薬で、気管支喘息の治療に用いられる
アドレナリン遮断薬(交感神経遮断薬)
- α受容体遮断薬
- β受容体遮断薬
- 複合的遮断薬
交感神経系の薬物は、その作用特性から様々な臨床状況で使用されます。例えば、アナフィラキシーショックにはアドレナリン、高血圧治療にはβ遮断薬やα遮断薬、気管支喘息にはβ2作動薬が用いられます。これらの薬物の選択は、標的とする症状や疾患、また患者の併存疾患によって慎重に行われる必要があります。
自律神経作用薬の副交感神経系に作用する薬物一覧
副交感神経系に作用する薬物は、コリン作動薬(副交感神経刺激薬)とコリン遮断薬(抗コリン薬、副交感神経遮断薬)に大別されます。これらの薬物は、ムスカリン性アセチルコリン受容体(M1~M5)に主に作用します。
コリン作動薬(副交感神経刺激薬)
- 直接作用型コリン作動薬
- 間接作用型コリン作動薬(コリンエステラーゼ阻害薬)
- ネオスチグミン:重症筋無力症の治療や、麻酔後の筋弛緩薬の拮抗に用いられる
- ピリドスチグミン:重症筋無力症の治療に用いられる
- エドロホニウム:重症筋無力症の診断に用いられる
- ドネペジル:アルツハイマー型認知症の治療に用いられる
- ガランタミン:アルツハイマー型認知症の治療に用いられる
- リバスチグミン:アルツハイマー型認知症の治療に用いられる
コリン遮断薬(抗コリン薬、副交感神経遮断薬)
- 非選択的ムスカリン受容体遮断薬
- 選択的ムスカリン受容体遮断薬
副交感神経系の薬物は、その作用特性から様々な臨床状況で使用されます。例えば、緑内障治療にはコリン作動薬、過活動膀胱にはコリン遮断薬、アルツハイマー型認知症にはコリンエステラーゼ阻害薬が用いられます。これらの薬物の選択も、標的とする症状や疾患、また患者の併存疾患によって慎重に行われる必要があります。
自律神経調整薬と自律神経失調症の治療薬
自律神経調整薬は、自律神経系のバランスを整える薬剤で、自律神経失調症などの治療に用いられます。自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、様々な身体症状や精神症状を引き起こす状態です。
自律神経調整薬の種類
- トフィソパム(商品名:グランダキシン)
- その他の自律神経失調症に用いられる薬剤
- 抗うつ薬:セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、気分を改善する
- 抗不安薬:ベンゾジアゼピン系薬剤が主で、不安や緊張を和らげる
- 睡眠導入剤:不眠症状の改善に用いられる
- 漢方薬:体質や症状に合わせて処方される
市販薬として入手可能な自律神経失調症の薬
自律神経失調症の症状緩和に用いられる市販薬には、主に以下の成分を含むものがあります。
- ジフェンヒドラミン
- 抗ヒスタミン薬で、眠気を催す副作用を利用して睡眠改善薬として使用される
- 一時的な不眠症状の緩和に効果がある
- ブロモバレリル尿素
- 鎮静作用があり、イライラや緊張を和らげる
- 寝つきを良くする作用がある
- アリルイソプロピルアセチル尿素
- 鎮静作用があり、神経の興奮を抑える
- 不安や緊張を和らげる効果がある
自律神経失調症の治療において最も重要なことは、薬物療法だけでなく、生活リズムを整えてストレスを減らすことです。薬物療法は主に症状を和らげるための対症療法であり、根本的な原因に対処するためには、生活習慣の改善やストレス管理が不可欠です。
自律神経作用薬の臨床応用と使用例
自律神経作用薬は、その多様な薬理作用から、様々な疾患や症状の治療に広く用いられています。ここでは、主な臨床応用と使用例を紹介します。
循環器系疾患での応用
呼吸器系疾患での応用
消化器系疾患での応用
泌尿器系疾患での応用
眼科領域での応用
- 緑内障治療
- 散瞳剤
神経・精神疾患での応用
- 重症筋無力症治療
- コリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン、ネオスチグミンなど):神経筋接合部でのアセチルコリンの作用を増強
- アルツハイマー型認知症治療
- コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなど):脳内のアセチルコリン濃度を上昇させ、認知機能を改善
- パーキンソン病治療
- 抗コリン薬(トリヘキシフェニジルなど):線条体でのアセチルコリンとドパミンのバランスを調整
これらの臨床応用例からわかるように、自律神経作用薬は医療の様々な分野で重要な役割を果たしています。しかし、これらの薬剤は多くの場合、標的とする受容体以外にも作用し、望ましくない副作用を引き起こす可能性があります。そのため、薬剤の選択や投与量の調整は、患者の状態や併存疾患を考慮して慎重に行う必要があります。
自律神経作用薬の副作用と相互作用の理解
自律神経作用薬は、その作用機序から様々な副作用を引き起こす可能性があります。また、他の薬剤との相互作用も重要な考慮事項です。ここでは、主な自律神経作用薬の副作用と相互作用について解説します。
交感神経作用薬の副作用
- アドレナリン作動薬(交感神経刺激薬)
- アドレナリン遮断薬(交感神経遮断薬)
副交感神経作用薬の副作用
**主な