胃潰瘍薬一覧と分類別特徴
胃潰瘍薬PPI(プロトンポンプ阻害薬)一覧と作用機序
PPI(プロトンポンプ阻害薬)は胃潰瘍治療における第一選択薬として位置づけられています。胃壁細胞のプロトンポンプ(H⁺-K⁺-ATPase)を特異的に阻害し、胃酸分泌を強力かつ持続的に抑制します。
主要なPPI一覧:
- オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン):錠10mg/20mg、注射用製剤
- ランソプラゾール(タケプロン):OD錠15mg/30mg、カプセル15mg/30mg、静注用
- ラベプラゾール(パリエット):錠5mg/10mg/20mg
- エソメプラゾール(ネキシウム):懸濁用顆粒分包10mg/20mg、カプセル10mg/20mg
- ボノプラザン(タケキャブ):錠10mg/20mg
PPIの特徴的な薬理作用として、胃内pHを4以上に維持することで、ペプシンの活性化を阻害し、潰瘍治癒環境を整えます。特にボノプラザンは可逆的プロトンポンプ阻害薬として、従来のPPIとは異なる作用機序を持ち、より迅速な効果発現が期待されています。
NSAIDs潰瘍の予防や、低用量アスピリン投与時の胃潰瘍再発抑制においても、PPIは重要な役割を果たします。ただし、長期使用による骨折リスクや栄養素吸収阻害などの副作用にも注意が必要です。
胃潰瘍薬H2ブロッカー一覧と処方のポイント
H2ブロッカーは胃壁細胞のヒスタミンH2受容体を競合的に阻害し、胃酸分泌を抑制する薬剤群です。PPIほど強力ではありませんが、副作用が少なく、長期間安全に使用できる特徴があります。
主要なH2ブロッカー一覧:
- ファモチジン(ガスター):散2%/10%、錠10mg/20mg、D錠10mg/20mg、注射用
- ラニチジン(ザンタック):錠75mg/150mg、注射用
- シメチジン(タガメット、カイロック):細粒20%、錠200mg/400mg、注射用
- ロキサチジン(アルタット):細粒20%、カプセル37.5mg/75mg、静注用
- ニザチジン(アシノン):錠75mg/150mg、カプセル
- ラフチジン(プロテカジン):錠5mg/10mg、OD錠5mg/10mg
H2ブロッカーの処方における重要なポイントは、薬物相互作用の回避です。特にシメチジンは肝代謝酵素を阻害するため、ワルファリンやフェニトインとの併用時には注意が必要です。一方、ファモチジンは相互作用が少なく、高齢者にも使いやすい薬剤として評価されています。
夜間胃酸分泌抑制効果が期待できるため、就寝前投与が推奨されることが多く、特に十二指腸潰瘍では夜間の胃酸分泌が病態に関与するため、H2ブロッカーの夜間投与が有効とされています。
胃潰瘍薬胃粘膜保護薬一覧と防御因子増強作用
胃粘膜保護薬は胃粘膜の防御因子を増強し、潰瘍部位の治癒を促進する薬剤群です。胃酸分泌抑制とは異なる機序で作用するため、PPIやH2ブロッカーとの併用により相乗効果が期待できます。
主要な胃粘膜保護薬一覧:
- スクラルファート(アルサルミン):細粒90%、内用液10%(薬価:6.7円/g)
- レバミピド(ムコスタ):顆粒20%、錠100mg(薬価:10.4円/錠)
- テプレノン(セルベックス):細粒10%、カプセル50mg(薬価:9.9円/カプセル)
- エカベトナトリウム(ガストローム):顆粒66.7%
- トロキシピド(アプレース):細粒20%、錠100mg(薬価:6.4円/錠)
- ポラプレジンク(ブロマック):顆粒15%、D錠75mg
- イルソグラジン(ガスロンN):細粒0.8%、錠2mg/4mg
これらの薬剤の作用機序は多彩で、レバミピドはプロスタグランジンE2の産生促進と活性酸素の消去作用、スクラルファートは潰瘍面への選択的付着による物理的保護、テプレノンは胃粘膜血流改善作用などを有します。
特に注目すべきは、レバミピドの多面的作用です。胃粘液分泌促進、胃粘膜上皮細胞の増殖促進、炎症性サイトカインの抑制作用により、単なる症状改善にとどまらず、根本的な胃粘膜修復を促進します。
胃潰瘍薬制酸薬一覧と即効性治療効果
制酸薬は胃内で直接的に胃酸を中和する薬剤で、即効性の症状改善効果が特徴です。根治的治療というより、急性期の症状緩和や他の薬剤との併用療法において重要な役割を果たします。
主要な制酸薬一覧:
- 炭酸水素ナトリウム(重曹):原末、錠500mg
- 沈降炭酸カルシウム(炭カル):末、錠250mg/500mg
- 合成ケイ酸アルミニウム:原末
- 乾燥水酸化アルミニウムゲル:原末、細粒
- 水酸化マグネシウム(ミルマグ):錠350mg、内容懸濁液
- 酸化マグネシウム:末、細粒、錠200mg~500mg
制酸薬の選択において重要な考慮点は、副作用プロファイルです。アルミニウム系制酸薬は便秘を、マグネシウム系制酸薬は下痢を引き起こす可能性があるため、患者の既往症や併用薬を考慮した選択が必要です。
また、制酸薬は他の薬剤の吸収に影響を与える可能性があります。特にテトラサイクリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗菌薬、ビスフォスフォネート製剤などとの相互作用には注意が必要で、服用間隔を2時間以上空けることが推奨されています。
酸化マグネシウムは便秘症状のある患者において特に有用で、制酸作用と緩下作用の両方を期待できるため、胃潰瘍治療中の便秘対策としても活用されています。
胃潰瘍薬処方における薬価考慮と薬剤選択指針
医療経済の観点から、胃潰瘍薬の処方においては薬価を考慮した適切な薬剤選択が重要です。特にジェネリック医薬品の活用により、治療効果を維持しながら医療費削減が可能です。
薬価比較の具体例:
- レバミピド:先発品「ムコスタ」と後発品で同一薬価10.4円/錠
- テプレノン:先発品「セルベックス」9.9円/カプセル、後発品6.5円/カプセル
- スクラルファート:先発品「アルサルミン」6.7円/g、後発品6.5円/g
薬剤選択の指針として、以下の要因を総合的に評価する必要があります。
患者背景による選択基準:
- 高齢者:相互作用の少ないファモチジン、安全性の高いレバミピド
- 腎機能低下患者:腎排泄型薬剤の用量調整(H2ブロッカー)
- 肝機能低下患者:肝代謝の影響を受けにくい薬剤の選択
- 併用薬剤:相互作用リスクの評価
病態別の推奨薬剤:
- NSAIDs起因性潰瘍:PPI + 胃粘膜保護薬の併用
- ヘリコバクター・ピロリ関連潰瘍:除菌療法 + PPI
- ストレス性潰瘍:H2ブロッカー + 制酸薬
薬剤経済性を考慮した処方戦略:
治療初期はPPIによる強力な胃酸抑制で迅速な症状改善を図り、維持期にはH2ブロッカーへの切り替えやジェネリック医薬品の活用により、長期的な医療費抑制を実現します。
また、NSAIDs服用患者における胃潰瘍予防では、従来PPIが第一選択とされてきましたが、最近の研究でPPI併用時の下部消化管出血リスク上昇が報告されており、胃粘膜保護薬との併用や代替療法の検討も重要になっています。
処方医は患者の個別性を重視し、薬効・安全性・経済性のバランスを取った最適な薬剤選択を行うことで、質の高い胃潰瘍治療を提供できます。定期的な治療効果評価と薬剤見直しにより、患者QOLの向上と医療費適正化の両立が可能となります。
胃潰瘍治療における薬剤選択の参考情報
胃粘膜保護薬の詳細な分類と薬価情報