一包化できない薬の一覧と理由
[吸湿性]や[遮光]が必要な薬の具体的な基準とメカニズム
薬剤師や調剤補助員が日常業務で最も神経を使うのが、一包化の可否判断です。単に「添付文書に一包化不可と書いているから」という理由だけでなく、その背後にある物理化学的なメカニズムを理解しておくことは、医師への疑義照会や患者への説明において非常に重要です。
吸湿性(Hygroscopicity)と潮解の恐怖
吸湿性が高い薬剤は、空気中の水分を取り込みます。特に注意が必要なのは「潮解」という現象です。これは、固体が空気中の水分を吸って溶解し、液状になってしまう現象を指します。一包化された分包紙は完全な密閉空間ではないため、梅雨時期や夏場など湿度が高い環境下では、PTPシートから取り出された瞬間から劣化が始まります。
例えば、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)は極めて吸湿性が高く、高湿度下では数日で潮解が始まります。このような薬剤を一包化してしまうと、患者が服用する頃には「薬の形をした何か別の物質」になっている恐れがあり、治療効果が得られないばかりか、副作用のリスクさえ生じます。
遮光(Light Shielding)と光分解
光、特に紫外線は強力なエネルギーを持っており、特定の化学構造を持つ薬剤を分解します。これを光分解と呼びます。遮光が必要な薬剤には、褐色のPTPシートやアルミ箔で厳重に包装されているものが多いですが、これを一包化のために取り出すことは、薬剤を裸の状態で紫外線に晒すことを意味します。
- 外観変化: 変色が最も一般的なサインです。例えば、ニフェジピン(アダラート)は光によって速やかに分解され、ニトロソフェニルピリジン誘導体へと変化し、薬理作用を失います。
- 見えない劣化: 外観に変化がなくても、内部で分解が進んでいるケースもあります。
判断の基準としては、単に「遮光保存」と記載があるだけでなく、「インタビューフォーム(IF)」の安定性試験データを確認することが推奨されます。「無包装状態での光安定性試験」の結果、数時間で含量が低下するものは絶対的禁忌ですが、数週間安定しているものであれば、遮光機能を備えた分包紙や遮光袋の使用を条件に一包化が可能となる場合もあります。
Light-Sensitive Injectable Prescription Drugs—2022 (参考:光過敏性薬剤のデータ)
[一包化できない薬]の代表的な一覧とPTPシートの特性
ここでは、臨床現場で頻繁に遭遇する「一包化できない薬」、あるいは「注意が必要な薬」を、その理由ごとに分類して整理します。これらはPTPシート(Press Through Package)やアルミピロー包装によって守られており、その防湿・遮光機能がいかに重要であるかを再認識する必要があります。
【主な一包化注意・不可薬剤リスト】
| 薬剤名(代表例) | 分類・理由 | 備考・対策 |
|---|---|---|
| デパケン(バルプロ酸Na) | 吸湿・潮解 | 極めて吸湿しやすい。原則ヒートシールまたはPTPのまま交付。 |
| マグミット(酸化Mg) | 吸湿 | 湿気で黒変したり、ひび割れることがある。乾燥剤必須。 |
| アスパラカリウム | 吸湿 | 吸湿性が非常に高い。一包化不適。 |
| シナール配合錠 | 吸湿・変色 | ビタミンCが湿気と光で褐色に変化しやすい。 |
| アダラートCR | 遮光 | 光に極めて弱い。誤って一包化すると効果消失の危険大。 |
| メチコバール(ビタミンB12) | 遮光 | 光で成分が分解しやすい。赤色が薄くなる。 |
| ラシックス(フロセミド) | 遮光 | 光で黄色に変色する。遮光保存が必要。 |
| ニトロール(硝酸イソソルビド) | 揮発・吸着 | 成分が昇華し、分包紙やプラスチックに吸着して含量低下。 |
| リタリン/コンサータ | 吸湿・浸透圧 | 特殊な放出制御システム(OROS等)のため、吸湿で放出機構が狂う。 |
| タケキャブ | 成分移行 | 一部の他剤と接触することで変色リスクあり(後述)。 |
PTPシートの機能と誤解
「PTPシートがかさばるから一包化してほしい」という患者の要望は多いですが、PTPシートは単なる包装材ではなく、薬剤の品質保持装置の一部です。
- 防湿層: ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)などが使われ、外部からの水蒸気透過を防ぎます。
- 遮光層: アルミ箔や着色フィルムにより、特定波長の光をカットします。
- ガスバリア: 酸素による酸化を防ぐ役割もあります。
特に、OD錠(口腔内崩壊錠)は、以前は「壊れやすいから一包化不可」が常識でしたが、近年の製剤技術の向上により、PTPから出しても十分な硬度を持ち、吸湿安定性も改善された製品が増えています(例:ドネペジルOD錠の一部など)。しかし、全てのOD錠が可能になったわけではないため、必ず最新の添付文書やインタビューフォームで「無包装状態での安定性」を確認する必要があります。安易な思い込みは禁物です。
薬の一包化するための条件と必要性について (参考:一包化の条件解説)
[配合変化]を起こす危険な組み合わせと[揮発性]のリスク
一包化における最大のリスクの一つが、単独では安定でも、他の薬剤と触れ合うことで起こる配合変化です。これは化学反応の一種であり、錠剤同士が接触している点から変色が始まったり、成分が移行したりします。
【注意すべき配合変化の具体例】
- オルメテック(オルメサルタン) × メトグルコ(メトホルミン)
- 現象: 接触して一包化すると、経時的に赤色~ピンク色に変色します。
- 原因: オルメサルタンの製剤添加物と、メトホルミンの塩基性成分が反応し、メイラード反応に似た化学反応が起こると推測されています。湿度がこの反応を促進させるため、梅雨時期は特に危険です。
- 対策: 原則として同包しません。どうしても一包化が必要な場合は、別包にするか、乾燥剤を多めに入れて極めて短期間で飲み切るよう指導しますが、リスク回避のため避けるのが無難です。
- アスピリン(酸性) × テルミサルタン(塩基性など)
- 現象: 配合変化により溶出率が低下する可能性があります。
- メカニズム: 酸性薬物と塩基性薬物が接触することで、酸塩基反応が起き、塩を形成したり、吸湿性が増大したりします。
- 意外なリスク: 外観に変化がなくても、アスピリンの腸溶性コーティングがアルカリ性の薬剤(酸化マグネシウムなど)と触れることで剥がれ、胃の中で早期溶解してしまい、胃潰瘍のリスクを高める可能性があります。
揮発性と昇華性:見えない消失
揮発性や昇華性を持つ薬剤は、固体の状態から気体となって逃げていきます。
- ニトロール(硝酸イソソルビド): この薬は昇華性があり、気化した成分が分包紙の素材(ポリエチレンなど)に吸着されたり、透過して外に逃げたりします。結果として、患者が飲むときには有効成分がほとんど残っていないという事態になりかねません。
- スペロラクトン(アルダクトン): 特有の臭気があり、密閉空間で他の薬剤にその臭いや味が移る(移香)ことがあります。薬効への影響は少ないものの、患者の服薬コンプライアンス低下(「薬が変な味になった」といって飲まなくなる)につながります。
このように、一包化は単に「袋にまとめる作業」ではなく、高度な化学的知見に基づいた「製剤設計の再構築」とも言える行為なのです。
錠剤の一包化調剤時に起こる配合変化の原因物質特定 (参考:配合変化のメカニズム)
[一包化できない薬]の[疑義照会]と[加算]算定の注意点
薬剤師にとって、一包化できない薬が含まれている処方箋を受け付けた際の対応は、法的要件と医療安全の挟間で揺れ動く難しい業務です。「外来服薬支援料2(一包化加算)」の算定要件を満たしつつ、適切な処理を行う手順を確認しましょう。
疑義照会のポイント
医師から「全剤一包化」の指示があった場合でも、吸湿性や安定性の問題で一包化できない薬剤が含まれているなら、必ず疑義照会を行うか、あるいは調剤内規に基づいて処理し、事後報告をする必要があります(プロトコルがある場合)。
- NGな対応: 黙ってPTPシートのまま渡し、一包化加算を全額算定する(要件を満たさない可能性があります)。
- 推奨される対応:
- 医師に「デパケンは吸湿性が高いため、これだけPTPシートのまま別渡しにしてもよろしいでしょうか?」と確認する。
- 患者の手指機能に問題があり、どうしてもPTPから出せない場合は、「直前服用」を条件にするか、あるいは「シロップ剤」や「ドライシロップ」など、別剤形への変更を提案する。
加算算定の落とし穴
一包化加算(外来服薬支援料2)は、単に袋に入れたから取れるものではありません。「治療上の必要性」があることが大前提です。
- 一包化できない薬を除外した場合の算定:
処方された7剤のうち、デパケン1剤だけPTPで渡し、残り6剤を一包化した場合でも、要件(2剤以上の一包化など)を満たせば加算は算定可能です。ただし、患者には「なぜこれだけ別なのか」を十分に説明し、飲み忘れを防ぐ工夫(一包化の袋にマジックで『+デパケン』と書くなど)が必要です。
- 患者希望のみの場合:
単なる患者の希望(「面倒だからまとめて」)だけで、治療上の必要性(飲み間違い防止、手指の震えなど)が認められない場合は、原則として保険請求できません。この場合、薬局によっては自費徴収を行うケースも増えています。
「一包化できない」ことによるトラブル回避
患者さんの中には「全部まとめてくれると思ったのに」とクレームをつける方もいます。
「このお薬は湿気にとても弱く、袋から出すとドロドロに溶けて効果がなくなってしまうため、あえてシートのままお渡ししています。最高の状態で飲んでいただくためです」と、ポジティブな理由として説明することが重要です。
[安定性]データに基づく独自の判断基準と長期処方の対策
添付文書上では「一包化不適」とされていても、現場では「それでも一包化しないとこの患者は絶対に飲めない」という究極の選択を迫られることがあります。ここで重要になるのが、メーカーの保証する「安定性」と、臨床現場で許容される「安定性」のギャップ、そして独自の判断基準です。
加速試験と長期保存試験の読み解き方
インタビューフォームには、過酷試験(高温・高湿・強光)の結果が載っています。
- メーカーの立場: 3年間の品質保証をする必要があるため、少しでも劣化があれば「不可」とします。
- 現場の立場: 「服用するまでの14日間」もてば良い、という考え方も存在します。
例えば、ある薬剤が「湿度75%で1ヶ月後に外観変化あり」というデータだったとします。日本の夏場なら危険ですが、冬場の乾燥した時期で、かつ乾燥剤を入れた缶で保管できるなら、2週間の処方日数に限って一包化を行う、という判断も現場レベルでは行われています(もちろん、リスク説明と同意が必須です)。
ブラウンバッグ法の活用
一包化できない薬を管理するための「裏技」として知られるのが、ブラウンバッグ法(遮光・防湿袋活用法)です。
- 一包化できない薬(PTPのまま)と、一包化した薬の袋を、一つの大きな「遮光・防湿チャック袋」に入れます。
- 強力な乾燥剤(シリカゲル等)を同封します。
- これにより、PTPシートをあえて破って一包化するリスクを冒さず、かつ「1回分がまとまっている」という利便性をある程度担保できます。
PTPシートへの「輪ゴム止め」や「ホッチキス」の危険性
一包化できない薬をPTPシートのまま一包化の袋にホッチキスで留める対応を見かけますが、これは誤飲のリスク(針ごと飲む、PTPの破片を飲む)があるため、推奨されません。医療安全の観点からは、専用の「お薬カレンダー」の使用や、前述のブラウンバッグ法、あるいは粘着テープでの固定など、物理的な異物混入リスクを排除した方法を選択すべきです。
最終的には、「薬理学的安定性」と「アドヒアランス(飲み忘れ防止)」のどちらを優先するかという天秤になります。認知症が進行しており、PTPだと絶対に飲めない患者の場合、多少の力価低下(例えば95%になる)を許容しても一包化するメリットが上回る場合も稀にあります。しかし、これは薬剤師単独で判断せず、必ず医師と情報を共有し、カルテにその判断プロセス(リスクとベネフィットの比較)を残しておくことが、自身の身を守るためにも不可欠です。
Stability assessment of hygroscopic medications in one dose packaging (参考:吸湿性薬剤の安定性評価)

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