胃びらん治療と原因と薬と内視鏡

胃びらん治療と

胃びらん治療の臨床整理
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まず原因をそろえる

NSAIDs・低用量アスピリン、H. pylori、ストレス、重症疾患などを同時に評価し、治療と中止判断を一直線にします。

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薬はPPI/P-CAB中心

びらんの背景に酸関連・薬剤性が疑われる場合、酸分泌抑制薬を軸に、必要なら防御因子増強薬も組み合わせます。

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内視鏡の「先」を考える

出血リスクや抗血栓薬併用、再発予防まで見据えて、フォロー内視鏡と服薬調整を設計します。

胃びらん治療の原因とリスク因子

 

胃びらんは「表在性の粘膜障害」で、臨床では消化性潰瘍粘膜筋板を超える欠損)と連続した概念として扱うのが安全です。実地では、病変の深さだけでなく「出血し得る背景」があるか(抗血栓薬NSAIDs、重症疾患、既往など)をセットで確認します。

原因の頻度としてまず外せないのが薬剤性で、NSAIDsは粘膜への直接作用と、COX阻害によるプロスタグランジン(PG)低下で粘液・重炭酸分泌や粘膜血流など防御機構を弱め、上部消化管傷害を起こします。

薬剤性の現場感として重要なのは、「症状の軽さ」と「病変の重さ」が一致しないことです。ガイドラインでもNSAIDsによる上部消化管傷害は症状に乏しいことが背景疑問として整理されており、びらんが“偶然”見つかった時点で、すでに出血高リスクの組み合わせ(高齢、既往、抗血栓薬併用など)になっていないかを振り返る必要があります。

もう一つの要点はH. pyloriの位置づけです。NSAIDsとH. pyloriは相加的に上部消化管出血リスクを高めることが示されており、両者が重なるとリスクが大きく跳ね上がる、という理解は治療優先順位(除菌か、PPI継続か)を決めるときの軸になります。

意外に見落とされやすいリスクとして、ビスホスホネート(例:アレンドロン酸)や抗癌薬レジメンなど、NSAIDs以外でも潰瘍リスクを上げ得る薬剤がガイドラインで整理されています。びらん所見のみでも「ほかに傷害を重ねる薬がないか」を棚卸しすると、再燃・出血の説明がつくことがあります。

胃びらん治療の薬(PPIとP-CABとH2RA)

治療薬の中心は酸分泌抑制薬で、消化性潰瘍の治療フローチャートでもPPIあるいはP-CABが中核として提示されています。

びらんは潰瘍より浅いとはいえ、酸関連の環境(攻撃因子)と粘膜防御低下(防御因子)のバランス破綻で起きる点は共通で、まず酸を抑えつつ、原因薬剤の中止・変更、必要なら粘膜防御の補助という順で組み立てると迷いにくいです。特に薬剤性(NSAIDs/LDA)を疑う場合は、原因介入と薬物治療を同時並行で進めないと再燃しやすいのが実感です。

NSAIDs起因の傷害では、NSAIDsを中止し抗潰瘍薬を投与するのが基本で、中止不能ならPPIあるいはPG製剤を投与する、という指針が明確に書かれています。

さらに、NSAIDs継続下での治癒率に関しては、比較試験でPPIがH2RAやPG製剤、粘膜防御因子増強薬より治癒率で勝っていた、という整理があり、現場で「まずPPIを軸に置く」根拠になります。

実務上の注意点として、H2RAは“軽症の胃部不快”では選ばれがちですが、NSAIDsや抗血栓薬併用の文脈では抑制力が足りない場面が出ます。とくに予防の話に入ると、PPI/VPZが「推奨」として前面に出るフローチャートが提示されており、びらん所見でも背景が高リスクなら、初手から強めの戦略が妥当です。

胃びらん治療とNSAIDsと低用量アスピリン

薬剤性(NSAIDs/LDA)を疑ったら、治療の成否は「薬をやめる/減らす/替える」と「胃を守る」を同時に回せるかで決まります。ガイドライン上も、NSAIDs潰瘍の治療はNSAIDs中止+抗潰瘍薬が原則で、中止不可能ならPPIまたはPG製剤投与、というシンプルな方針です。

予防の視点も重要で、NSAIDs潰瘍予防フローチャートでは、既往やLDA併用の有無により、PPI(あるいはVPZ)やCOX-2選択的阻害薬(CXB)+PPIなどが推奨/提案として整理されています。

臨床での“落とし穴”は、びらんが見つかった時点で「すでに予防適応だった」ケースです。高齢や潰瘍既往、抗血栓薬併用などは高リスク群として明記され、こうした背景では一次予防・二次予防としてPPIやPG製剤が有効とされています。

ここで意外性として強調したいのは、「坐薬なら胃に優しい」という誤解です。NSAIDsの経口投与と坐薬で潰瘍発生率に差がある、というステートメントはある一方、長期的な結果は不明で潰瘍発生率が示されていない研究もあり、坐薬だから安全と短絡しない方がよい、という含みがあります。

また、低用量アスピリン(LDA)では上部消化管出血リスクが高く、出血抑制には酸分泌抑制薬が有効で、再発抑制には除菌に加えてPPIが有効と整理されています。びらん段階でも「出血イベントを起こす患者像」に該当するなら、同じ線路上で考えるのが安全です。

胃びらん治療と内視鏡と出血

胃びらんは内視鏡で偶発的に見つかることが多い一方、抗血栓薬・NSAIDs併用など背景によっては「次が出血性病変」になり得ます。消化性潰瘍診療ガイドラインでは出血性潰瘍に対する内視鏡的止血の有用性や、止血確認のためのセカンド・ルックの考え方が整理されており、びらんでも“出血を起こした場合の導線”を意識しておくとチーム医療が速くなります。

とくに出血性潰瘍領域では、GBSなどのスコアで介入必要性の予測が議論されており、「どの患者を外来で見てよいか」「いつ緊急内視鏡に乗せるか」という設計が可能です。

びらんの段階での実務としては、①貧血・BUN/Cr比・便色など“出血の兆候”がないか、②抗血栓薬の種類と併用状況、③既往(出血性潰瘍の既往、潰瘍既往)、④重篤合併症の有無、を確認し、内視鏡所見の軽重より背景を優先してフォロー計画を立てるのが事故を減らします。

また、NSAIDs/LDA関連の予防フローチャートが存在すること自体が、「症状ベースではなくリスクベースで」PPI/VPZやCXB+PPIなどを考える枠組みを示しています。

胃びらん治療の独自視点:薬歴棚卸しと休薬設計

検索上位の一般向け記事では、胃びらんを「ストレス」「食生活」「胃酸」で説明して終わることが多いですが、医療従事者向けに価値が出るのは“薬歴の棚卸し”を診断プロセスに組み込むことです。ガイドラインでもNSAIDsの病態はPG低下を中心に整理され、さらにNSAIDs以外に潰瘍リスクを高める薬物(ビスホスホネート、抗癌薬など)も明示されており、びらんを見た瞬間に「攻撃因子を増やす薬」「防御因子を下げる薬」「出血時に困る薬」を3列で分類すると、見落としが減ります。

例えば、整形外科・循環器・精神科など複数科の処方が重なる患者では、NSAIDs単剤のつもりでも実際は“多剤NSAIDs”や、LDA+NSAIDsのような組み合わせになっていることがあり、ガイドラインでも多剤投与で潰瘍発生が増加するので避ける、というステートメントがあります。

さらに「休薬の設計」も現場の独自性が出ます。NSAIDs中止が難しい患者では、PPI(またはPG製剤)を“治療”として入れるだけでなく、再燃しやすい時期(開始直後、増量直後、併用追加直後)に合わせてフォローのタイミングを前倒しし、症状が乏しくても貧血や便色変化を拾える導線を作ると、重症化を防ぎやすいです。

もう一点、H. pylori除菌の扱いは「いつ何を優先するか」が重要です。NSAIDs開始予定例(NSAID-naïve)でH. pylori陽性なら除菌が潰瘍発生防止に有効という整理があり、逆にNSAIDs継続投与中は除菌の予防効果が期待できずPPIが有効と結論づけるメタ解析が示されており、びらん所見でも“今がどのフェーズか”を確認して介入順を決めるのが実践的です。

薬物性潰瘍(NSAIDs等)の病態・治療フローチャート・予防の推奨がまとまっている(胃びらんの治療設計にも直結)

Mindsガイドラインライブラリ「薬物性潰瘍(NSAIDs潰瘍)」

消化性潰瘍全体の治療フローチャート、NSAIDs/LDAの予防フローチャートが掲載されている(びらんを見た後の全体設計に有用)

日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」

消化管治療薬の考えかた,使いかた 改訂2版