保険外併用療養費と選定療養費の違い
保険外併用療養費の基本概念
保険外併用療養費は、日本の医療保険制度において原則禁止されている混合診療を例外的に認める制度です。通常、保険が適用されない療養を受けると、保険が適用される部分も含めて医療費の全額が自己負担となりますが、厚生労働大臣が定める特定の療養については、保険診療との併用が認められています。
参考)https://www.kyoshujo-kenpo.or.jp/member/seido/hokengaiheiyo.html
この制度は、「評価療養」「患者申出療養」「選定療養」の3つのカテゴリーで構成されており、これらの療養を受ける際には、通常の治療と共通する基礎的部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用について保険給付が行われます。保険適用外の診療部分は全額自己負担となりますが、保険診療部分については通常の自己負担割合(3割など)で済むため、患者の経済的負担が軽減されます。
参考)保険外併用療養費制度の対象となる保険適用外の療養は?評価療養…
混合診療が原則禁止されている理由は、安全性や有効性が確認されていない医療の実施を防ぎ、患者負担の不当な拡大を抑制するためです。
参考)治験における保険外併用療養費制度|シミックヘルスケア・インス…
選定療養費の特徴と具体例
選定療養費は、保険外併用療養費の3つのカテゴリーのうちの1つであり、患者が自ら希望して選択する特別な療養環境やサービスにかかる費用を指します。最も重要な特徴は、保険導入を前提としない療養である点です。
参考)保険適用外の療養と保険適用の療養の併用が認められるとき
具体的な選定療養の種類には以下のようなものがあります。差額ベッド(特別療養環境室料)は、個室など普通より条件の良い病室を希望する場合に発生する室料差額です。200床以上の大病院における紹介状なしの初診では7,700円、他の医療機関への紹介後も再度受診した場合は3,300円の選定療養費が発生します。
参考)保険外の医療を受けるとき
その他、歯科治療における金合金等の使用、金属床総義歯、予約診療、時間外診療、180日以上の長期入院、水晶体再建に使用する多焦点眼内レンズなども選定療養に含まれます。2024年10月からは、後発医薬品(ジェネリック)がある先発医薬品(長期収載品)を希望する場合、薬価差額の1/4相当が自己負担に加算される制度も開始されました。
参考)選定療養費について
厚生労働省「先進医療の概要について」では、評価療養と選定療養の制度全体について詳しく解説されています
評価療養と患者申出療養の位置づけ
評価療養は、医学的な価値がまだ確定していない新しい治療法や医薬品など、将来的に保険導入するか評価される療養を指します。選定療養と決定的に異なるのは、将来の保険適用を目指している点です。
評価療養の代表例は先進医療です。先進医療は、安全性や有効性等について一定の条件を満たすと認められた医療技術で、厚生労働省が定めた基準を満たした医療機関でのみ実施できます。先進医療の技術料は全額自己負担となりますが、診察や検査など一般の治療と共通する部分は健康保険の給付対象となります。
参考)保険外併用療養費制度とは?|先進医療について【千葉大学病院 …
その他の評価療養には、医薬品・医療機器・再生医療等製品の治験に係る診療、医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医薬品・医療機器の使用、薬価基準収載医薬品の適応外使用などがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0618-4b.pdf
患者申出療養は、患者からの申し出を起点として、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用等を、迅速に保険外併用療養として使用できる制度です。患者がかかりつけ医等と相談の上、臨床研究中核病院または特定機能病院に申出を行い、国が安全性や有効性等を審査します。審査期間は原則6週間(前例がある医療については原則2週間)と、先進医療の3~6ヶ月と比べて大幅に短縮されています。
参考)『患者申出療養』とはなんでしょうか。いわゆる『先進医療』とは…
dヘルスケア「患者申出療養とはなんでしょうか」では、患者申出療養の実施までの流れが詳しく説明されています
保険外併用療養費における費用負担の仕組み
保険外併用療養費制度を利用する場合、医療費の負担は明確に区分されます。保険が適用される療養部分については、通常の自己負担割合(3割など、年齢や所得により異なる)で済み、残りの7割相当が「保険外併用療養費」として健康保険から給付されます。
一方、評価療養・患者申出療養・選定療養に該当する保険適用外の診療部分については、全額が患者の自己負担となります。例えば、先進医療を受ける場合、先進医療の技術料は全額自己負担ですが、診察料・検査料・投薬料・入院料などの基礎的部分は保険給付の対象となるため、経済的負担が大幅に軽減されます。
この仕組みにより、患者は最先端の医療技術や快適な療養環境を選択する自由を持ちながらも、保険診療部分については通常の保険給付を受けられるため、全額自己負担となる自由診療と比べて経済的な負担が抑えられます。
保険外併用療養費制度が必要とされる背景
日本の医療保険制度では、混合診療が原則禁止されている理由として、患者負担の不当な拡大を防ぐことと、安全性や有効性が確認されていない医療の実施を抑制することが挙げられます。しかし、医療技術の進歩や患者のニーズの多様化に対応するためには、一定のルールのもとで例外を認める必要があります。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-4313-5.pdf
保険外併用療養費制度は、この例外措置を法律で規定したものです。評価療養は将来の保険適用を目指す新しい医療技術の評価を可能にし、患者申出療養は患者の治療選択の幅を広げ、選定療養は患者の多様なニーズに応える役割を果たしています。
特に先進医療においては、最先端の医療技術を保険診療と併用できることで、患者は経済的負担を抑えながら高度な治療を受けられるようになります。また、選定療養における大病院の初診時選定療養費は、「初期の治療は地域の診療所やかかりつけ医で、高度・専門医療は200床以上の病院で行う」という医療機関の機能分担を推進する目的があります。
参考)https://saga.hosp.go.jp/files/000192011.pdf
実際、200床以上の地域医療支援病院や特定機能病院では、紹介状なしで初診を受ける場合に選定療養費の徴収が義務化されており、医療資源の適正配分と医療機関の役割分担を促進しています。
保険外併用療養費選定療養費を理解する際の注意点
保険外併用療養費と選定療養費の関係を正しく理解するには、保険外併用療養費が「制度全体の名称」であり、選定療養費はその中の「一部のカテゴリー」であることを認識することが重要です。つまり、両者は対立する概念ではなく、包含関係にあります。
選定療養費を支払う場合でも、保険診療部分については「保険外併用療養費」として給付が行われるため、制度上は保険外併用療養費制度を利用していることになります。被扶養者の場合、この給付は「家族療養費」として行われます。
また、選定療養費には免除される場合があります。救急車で搬送された場合、特定疾患等の公費負担受給対象者、生活保護による医療扶助の対象者、災害により被害を受けた方、他の診療科を受診中の方などは、紹介状がなくても選定療養費が免除されます。
治療を選択する際には、事前に医療機関に治療方法や費用について確認することが推奨されます。特に先進医療は実施できる医療機関が限定されているため、受診前に厚生労働省のホームページ等で確認する必要があります。
| 項目 | 保険外併用療養費 | 選定療養費 | 評価療養 | 
|---|---|---|---|
| 定義 | 混合診療を例外的に認める制度全体 | 患者が選択する特別な療養の費用 | 将来の保険適用を評価する療養 | 
| 保険適用の前提 | - | 保険導入を前提としない | 将来の保険適用を目指す | 
| 具体例 | 評価療養、患者申出療養、選定療養の3つ | 差額ベッド、大病院初診(7,700円)、長期収載品 | 先進医療、治験、承認前医薬品使用 | 
| 費用負担 | 保険診療部分は通常の自己負担割合 | 選定療養部分は全額自己負担 | 評価療養部分は全額自己負担 | 
| 実施機関 | 保険医療機関 | 条件を満たす医療機関 | 厚生労働省が定めた基準を満たす医療機関 | 
医療費の負担を適切に理解し、自分に合った医療サービスを選択するためには、保険外併用療養費制度の仕組みと、その中での選定療養費の位置づけを正確に把握することが不可欠です💡。
